2020.1.31

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英国、EUから脱退

英国、EUから脱退

英国がEU離脱を表明し、EU条約第50条(脱退条項)を発動させてから2年10カ月。たび重なる脱退期限の延期と脱退協定の合意・批准までの紆余曲折を経て、2020年1月31日深夜にいよいよ同協定が発効する。

脱退協定発効までの道のり

英国が欧州連合(EU)から脱退するのは、英国時間の2020年1月31日午後11時。これは中央ヨーロッパ時間を採用している”EUの首都”ブリュッセルの同日夜12時(日本時間2月1日午前8時)である。この時点をもって、英国は正式にEUから脱退して第三国となり、速やかにEUと英国は「脱退協定」に基づく移行期間に入る。

英国は2016年6月の国民投票の結果を受けて、翌2017年3月にEUからの脱退を正式に通告した。通告の後、EUと英国はEU条約の脱退条項にのっとり、同国の脱退に伴うさまざまな取り決めを定めるとともに、EU法が同国に適用されなくなってからの法的確実性を図るため、同年6月から入念な交渉を開始した。その過程は、欧州議会や残る27加盟国の議会を巻き込み、さまざまなEU諮問機関やステークホルダーも交え、交渉文書や関連資料をウェブサイトで公開しながら、EU側では高い透明性をもって実行されてきた。

交渉の結果、2018年11月に双方は合意に達し、その内容は脱退協定の正式名称である「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国のEUおよび欧州原子力共同体からの脱退に関する合意書」にまとめられた。その後、紆余曲折を経て、いったんは“合意なき脱退”となることも懸念されたが、本年に入り1月に英国内の手続きが完了。それを受けてEUでは、1月24日にシャルル・ミシェル欧州理事会議長とウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が協定に調印し、同月29日には欧州議会がそれを承認。翌30日には、EU理事会が協定締結を採択したことで、全ての批准手続きが完了した。脱退協定は、双方が批准を終えた翌月の1日に発効するという協定の規定により、2月1日に発効し、英国はEUから脱退する。

脱退協定に調印するフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(左)とミシェル欧州理事会議長。後ろはバルニエ首席交渉官(2020年1月24日、ブリュッセル)
© European Union, 2020 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Etienne Ansotte

2月1日に何が変わるのか

英国脱退後は、速やかに脱退協定が定める「移行期間(transition period)」に入る。この移行期間は期限付きで、2020年12月31日までと定められているが、同年7月1日までにEU・英国双方が延長に合意すれば、1回のみ1年か2年延ばすことができる。移行期間中は、EU法が英国に適用され続けるため、EUや英国内の一般市民や消費者、企業、投資家、学生、研究者などにとっては、これまでと変わりはない。一方で英国は、EUの意思決定には参加せず、主要機関をはじめ専門機関・庁、事務所などに代表を送らなくなる。

例えば欧州議会では、英国選出議員の73議席が空席となり、そのうちの27議席は人口比補正のために14カ国に振り分けられ※1 、欧州議会の総議席数は705に削減される。残りの46議席は、将来の拡大に備えて留保しておく。

脱退協定案を可決した欧州議会の本会議で、一斉に起立してスコットランド民謡『Auld Lang Syne(蛍の光)』を合唱する議員たち(2020年1月29日、ブリュッセル)
© European Union 2020 – Source: EP / Photographer: DAINA LE LARDIC
この様子を映したビデオはこちら(欧州議会のツィッターより)

EUと英国は移行期間中に、通商関係を含む双方の将来関係について詳細を定めなければならない。EU側では、脱退交渉の首席交渉官であったミシェル・バルニエ氏が率いる交渉団(Task Force for Relations with the United Kingdom=UKTF)が、フォン・デア・ライエン委員長の直接指揮の下、欧州議会やEU理事会と調整しながら、その準備や交渉に当たる。

移行期間中の英国の立場・権利・義務

本年2月1日以降、英国はEU域外の第三国や国際機関と国際的な取り決めを結ぶために交渉したり、合意を取り付けたりできるようになる。EUが排他的権限を持つ分野でも可能だ。しかしその取り決めの適用は、EUから明確な許諾を得ない限り、移行期間の終了まで待つ必要がある。

これは、EU法で定められた法的権限が、英国に対し、また英国内の人々や法人に対しても、移行期間の終了まで効力を持ち続けるからだ。EU司法裁判所は移行期間終了まで、脱退協定の解釈や施行も含めて、その司法権を英国に対しても保持することになる。

繰り返しになるが、脱退協定の規定によれば、英国に適用除外と規定されているものを除く全てのEU法は、移行期間が終了するまで同国に適用され続ける。中でも、次の4つの義務は重要だ。

  • 関税同盟および人・物・資本・サービスの移動の自由(4つの自由)を約束する単一市場内にとどまること
  • EUの司法・内務政策が適用され続けること
  • 例えばEU法違反手続きなど、EUの法執行メカニズムに従うこと
  • EUが結んでいる全ての国際条約を尊重すること(EUが排他的権限を持つ分野においては、明確にEUから許諾を得ない限り、新たな合意を適用できない)

また脱退協定は、英国がEU加盟国として誓約した分担金を支払うことと定めている。これは現行の多年次財政枠組み(2014年~2020年)への拠出をはじめ、欧州投資銀行、欧州中央銀行、トルコのための難民ファシリティー、EU信託基金および欧州開発基金にも該当する。現行のプログラム終了のタイミングによっては、移行期間終了後に発生する支払いも含む。

EUと英国の将来的な関係

脱退協定は、EUと英国の将来的なパートナーシップの枠組みを定める「政治宣言」を伴っている。

英国を訪れたフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(左)は、ジョンソン英首相と将来のEU・英関係について意見を交わした(2020年1月8日、ロンドン) © European Union, 2020 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Etienne Ansotte

包括的でバランスの取れた自由貿易協定を中核とした野心的で広範、かつ深くて柔軟な貿易・経済協力、法執行・刑事司法、外交政策、安全保障・防衛政策など、同宣言に含まれる範囲は実に幅広い。同時に、対等な関係を約束することによって、オープンで公正な競争に基づいた将来の関係が確実なものになるとしている。

なお、脱退協定にもあるとおり、英国は欧州原子力共同体(Euratom、ユーラトム)からも脱退し、これまでユーラトムが保障してきた原子力の安全の枠組みから抜け、これらの維持について自身が責任を負うことになる。英国内にある施設や装置の所有権は同国に移され、ユーラトムが締結している国際条約は英国には適用されなくなる。

欧州理事会とEU理事会が入るヨーロッパ・ビルに立っている加盟国の国旗群から英国国旗がはずされる様子(2020年1月31日、ブリュッセル)© European Union, 2020

※1 フランスとスペインが5議席増、イタリアとオランダが3議席増、アイルランドが2議席増、デンマーク、クロアチア、ルーマニア、エストニア、フィンランド、オーストリア、スウェーデン、スロヴァキアおよびポーランドが1議席増

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