将来のEU・英国関係の枠組みに関する指針を採択

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本年3月23日、英国を除くEU27加盟国の首脳が欧州理事会を開催し、英国がEUを脱退した後の「EU・英国関係の枠組み」に関する交渉指針を採択。また、移行期間の取り決めを含む脱退協定についても、進展があったことを確認した。これらは、市民や企業にとっても将来を見通せるという点で、重要なステップとなった。

脱退協定について

欧州理事会は、2月28日に欧州委員会が公表した「脱退協定案」の中で明示された、市民の権利、未払い分担金の清算、またその他の脱退(報道等では離脱)関連事項や移行期間などに関する部分について、交渉が合意に達したことを歓迎した。その一方で、他の事項においては合意に至っていないこと、そしてこれまでに約束した全てのコミットメントが引き続き尊重されない限り、交渉は進展し得ないことを喚起した。

その意味で、特にアイルランド/北アイルランド関係において、「欧州連合(EU)加盟国のアイルランドと英国領北アイルランドの間の厳格な国境管理を避ける」という昨年12月8日の約束について、英国のテリーザ・メイ首相が文書で保証したことを歓迎した。欧州理事会はまた、脱退協定の地理的適用範囲に関わる問題と同様に、脱退に関する残りの事項についても、さらに注力していくことを呼び掛けた。

英国を除く27加盟国の首脳は、脱退協定案において部分的に進展があったことを確認した一方、今後はアイルランドと英国領北アイルランドの国境管理などについても解決を目指すことで一致した(2018年3月23日、ブリュッセル)
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脱退協定案で示されたように、移行期間は2020年12月31日をもって終了する。ミシェル・バルニエEU首席交渉官は、英国との間で行われた直近の交渉会合終了後に開いた3月19日の共同記者会見において、「2019年3月30日をもって英国はEU加盟国ではなくなるため、その後の移行期間中は、英国がEUの意思決定のプロセスに参加することはない。それでもなお、単一市場、関税同盟、またEU政策から得られるあらゆる利点と便益を維持するためには、その間も英国は加盟国のようにEUの全ての法規を順守しなければならない」と述べた。

この移行期間は、EUと英国の将来的な関係を最終決定するための期間でもあり、バルニエ首席交渉官はさらに、「移行期間の時間は限られているので、交渉をできるだけ早く進めたい。欧州理事会から交渉指針を与えられ次第、すぐに、将来的な関係を巡る全ての議題について、他の交渉と並行し、英国との予備的な話し合いを始めるつもりだ」と交渉にかける意気込みを示した(前述の記者会見より)。

将来的な関係の枠組みについて

欧州理事会は、将来的に英国とできる限り緊密なパートナーシップを持ちたいとあらためて意思表示した。このようなパートナーシップは、貿易や経済的協力だけでなく、その他の分野、特にテロや国際犯罪との戦い、安全保障、防衛、外交政策などにも及ぶべきである、との立場だ。その一方で、英国が繰り返し主張してきた、そうした将来的な深い協力関係を制限する同国の立場を考慮しなければならない。

欧州理事会はまた、英国が関税同盟や単一市場から外れることで、現在の円滑な貿易関係を失うことは避けられないと予想される、とした。対外関税や域内・国内規定の相違に加え、共通の機関や法制度がないことにより、EUの単一市場と英国市場の整合性を維持するための検査や管理が当然必要となってくる。残念ながらこのことは、特に英国経済にとってマイナスの影響をもたらす、と見られている。

EU・英国間の将来的な協力関係について説明するビデオ
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「将来的なEU・英国関係の枠組みに関する総体的理解」を巡る交渉を開始するための、欧州理事会が示した指針には、以上のような背景が考慮されている。とりわけ、英国とのいかなる合意も、権利と義務とのバランスの上に成り立ち、公平な条件を保証するものでなければならないし、またEU加盟国と同じ義務を負わない非加盟国が、加盟国と同等の権利や便益を享受することはできない、との立場を鮮明にしている。

欧州理事会は、人、物、資本、サービスの移動に関する「4つの自由」は切り離されてはならず、部門ごとに単一市場に参加するというような「いいとこ取り」は、単一市場の一体性や適正な機能を損ないかねないため、あり得ないとした。さらに、域外国となる英国はEUの諸機関への参加や、EUの団体、事務所、専門機関での意思決定プロセスから除外される。EU司法裁判所の役割は、完全に尊重されるべきだとしている。

英国との新たな自由貿易協定について

両者の経済関係の核となる部分について、欧州理事会は、公平な条件を十分に保証する限り、バランスの取れた、野心的で広範囲にわたる英国との自由貿易協定(FTA)に向けた作業を開始する用意があることを確認した。この協定は、英国がEU加盟国ではなくなってから初めて最終決定され、締結されることになる。しかしこのような協定は、加盟時と同等の便益を与えるものではないし、たとえ部分的であっても、単一市場に参加していることと同じであってはならない。

この協定には、以下のような内容が含まれる:

  1. 物品貿易:全ての産業部門を網羅、また無関税および量的無制限を維持して、原産地保護に関する適切な付属規則を有することを目指す。FTA全般では、現状の漁業水域・資源への相互アクセスの維持。
  2. 適切な関税協力:規制上および法管轄上、各関係者の自立性と、EU関税同盟の一体性の維持。
  3. 貿易に関する技術的障害と衛生植物検疫措置における規律。
  4. 自主規制協力のための枠組み。
  5. サービス貿易:英国が域外国となり、EUと英国がもはや同じ規制・監督・執行・法的枠組みを共有しなくなる事実と整合する範囲で、サービス提供者の居住権に関するルールを含め、受け入れ国のルールの下、市場でサービスを提供できるようにすることを目指す。
  6. 公共調達市場へのアクセス、投資、知的財産の保護。これは地理的表示、またEUにとって利害が絡むその他の分野を含む。

6月に進捗状況を評価

ドナルド・トゥスク欧州理事会議長は、今回の欧州理事会について、閉会後に「非常に集中的で生産性の高い会合となった」と述べた上で、「英国のEU脱退を巡る交渉では、この前向きな勢いを生かして、アイルランド/北アイルランド間の厳格な国境管理を回避する方策といった未解決の問題に決着をつけたい。それに並行して、将来のEU・英国関係について初の話し合いを始める。加盟国の首脳たちは6月に、アイルランド島問題が解決に向かっているかどうか、また将来を巡る共通の宣言にどのように取り組んでいくかを評価することになるだろう」と語った。

欧州理事会の後、トゥスク議長は英国のEU脱退を巡る交渉について所見を述べ、アイルランド島問題などの残された問題を積極的に解決していく意向を示した(2018年3月23日、ブリュッセル)
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欧州理事会は今後も、EU理事会の支援を受けながら、英国のEU脱退を巡る交渉を全ての側面から注視し続けていく。6月に開かれる次回会合では、特に脱退に関わる残りの問題とEU・英国の将来的な関係の枠組みについて、再び話し合う予定である。その間にも、欧州委員会、EU外務・安全保障政策上級代表、また各加盟国に対し、英国の脱退によって起こり得るあらゆる可能性を想定し、万端の備えをする努力を続けるよう求めた。

 

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