2024.7.17
FEATURE
パリ2024オリンピック競技大会が7月26日~8月11日まで、パラリンピック競技大会が8月28日~9月8日まで、フランス・パリを中心に開催される。同市でオリンピックが開催されるのは、1900年、1924年に続き3回目。環境および社会のサステナビリティ(持続可能性)にこれまでにないほど配慮した大会について、在日フランス大使館のロマン・リドー(Romain RIDEAU)政務参事官に聞いた。
オリンピックのあるべき姿(オリンピズム)とは近代五輪の父、ピエール・ド・クーベルタン男爵が提唱した「スポーツを通してこころとからだを健全にし、さらには文化・国籍といったさまざまな違いを超え、友情や連帯感、フェアプレーの精神をもって互いを理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」という考え方です。その後、1世紀以上にわたりこの考え方はオリンピックのプロジェクトの中心にあり、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの価値を「卓越性(Excellence)」、「友愛(Friendship)」、「敬意(Respect)」という3つのキーワードにまとめました 。
こうした価値は、フランスが大切に守ってきたものであり、欧州連合(EU)においても共有されている普遍的なものです。そして、オリンピックの参加国全てに広がるべき価値だといえます。
パリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、パリ2024)は、これらに加えて、「インクルージョン(包摂)」の価値観を重視しています。その一例として、パリ2024では、オリンピックとパラリンピックを一体化させるという目標を掲げ、宣伝活動においても、それぞれの大会エンブレムやマスコット、聖火リレーのトーチをペアとして扱っています。また、インクルージョンという視点では、ジェンダー平等も大切なテーマです。パリ2024は史上最多の女性選手が参加する予定です。
このようにオリンピックは社会的なプロジェクトでもあります。パリ2024の組織委員会がパリ市長、フランス国内の労働組合、経済団体とともに、大会で経済・社会・環境の各側面での責任を果たすための指針となる「パリ2024社会憲章」に署名したのは史上初のことだと思います。
パリ2024にとって、環境保護も忘れてはならない価値です。大会で使用する施設のほとんどが既存の建築物です。コンコルド広場(スケートボード、ブレイキンなど)、トロカデロ広場(トライアスロン、マラソン、競歩)、エッフェル塔(ビーチバレー)、グラン・パレ(テコンドー、フェンシング)といった歴史的建造物が競技会場になります。私たちは、古いものを使って、新しいことをやりたかったのです。そして、開会式はセーヌ川で行われます。こうした場所で競技を行うことで、フランスの文化も伝えることができるでしょう。
一方、大会のために新しく建設した最大のものはアクアティクス・センター(アーティスティックスイミング、飛び込み、水球)ですが、大会終了後もセーヌ・サン・ドニ県の住民が活用することが設計段階から考慮されています。オリンピックの「レガシー」とは、こうした競技施設などの有形資産にとどまらず、環境保護という社会への貢献を伴う無形資産があると考えます。社会に貢献できるレガシーとしては、スポーツを通じた教育や、人権尊重への取り組みも挙げられます。
また、サーフィンが行われるフランス領ポリネシア(タヒチ)、サッカーの一部の試合が行われるマルセイユなど、パリ以外にも競技会場は広がっています。パリ2024は、フランス全体における大会であり、私たちは世界から訪れる人々を歓迎すると同時に、フランスの文化を周知したいと考えています。
世界各国のフランス大使館は、パリ2024の啓発、各国におけるスポーツ交流の支援などを目的に「テール・ド・ジュー2024」というプロジェクトを推進しています。実は、最初に参加を表明したのは、この東京の大使館です。大使館の外交活動の優先事項の一つとして、スポーツを取り上げることになりました。「外交」と「スポーツ」はすぐに結びつかないかもしれませんが、「テール・ド・ジュー2024」はまさに新しい取り組みでした。
これまで、日仏の高校のスポーツ交流、両国で盛んな柔道の大会を通じての交流などを企画してきました。また、今年3月には日本で合宿中だった女子柔道のフランスチームと日本チームの交流会を企画しました。子育てとハイレベル・スポーツの両立などについて興味深い意見交換が行われました。
パラリンピックに関しても、車いすラグビーの日本代表チームの練習に参加させてもらったことがあります。競技の難しさを実感し、ますますパラリンピック各競技にスポットライトを当てようと考えるようになりました。
実は、私は柔道家です。5歳から15年間稽古に励み、柔道における日本とフランスのライバル関係はよく知っています。今大会でも、やはり柔道が気になります。フランス代表男子100キロ超級のテディ・リネール選手(ロンドン、リオデジャネイロで二連覇)に注目していますが、日本の大スター阿部兄妹(男子66キロ級の阿部一二三と女子52キロ級の阿部詩)もフォローします。日本代表チームのコーチをフランス人が務めているフェンシングも注目競技です。
オリンピック(およびパラリンピック)での楽しみの一つは、普段は見られないスポーツが見られることです。マイナー競技の選手は、オリンピック本来の姿である「アマチュア」であることが少なくありません。彼ら・彼女らは仕事を休み、オリンピック(およびパラリンピック)出場という生涯に一度の冒険に出かけます。その活躍を私は楽しみにしています。
EUの行政執行機関である欧州委員会は、「スポーツは欧州のアイデンティティの不可欠な部分で、EUの政策は人々、地域社会および経済のためのスポーツの役割を促進する」と明言している。欧州委員会は2007年にスポーツ白書を刊行し、スポーツを社会的、文化的に重要なものと位置づけた。そして、2009年12月発効のリスボン条約165条第1項において、「スポーツには特殊性があり、自発的活動で、社会的・教育的機能を有する」とその価値を高く評価し、スポーツ政策をEU加盟国と周辺国も巻き込みながら展開してきた。
インクルージョン(包摂)は、欧州おけるスポーツ政策の最重要理念の一つであり、欧州委員会においては、教育・青少年・スポーツ・文化総局の下にスポーツ課(Sport Unit)が置かれている。スポーツ課は現在、「欧州スポーツ週間」、「EUスポーツフォーラム」、「#BeInclusive EUスポーツ賞」、「Healthy Lifestyle 4 Allイニシアティブ」などを展開している。また、2014年から始動した、教育・職業訓練・青少年・スポーツを対象とする統合的な資金助成プログラム「エラスムス・プラス(Erasmus+)」の中にスポーツ事業が含まれている。「Erasmus+」は、EUの政策課題である成長、雇用、公平性および社会的インクルージョンを促進することを目的にしている。スポーツ課は、2014年から毎年EU加盟国において、「EUスポーツ・フォーラム」を開催し、政策担当官や研究者, 専門家を招き、 欧州でスポーツが直面する課題の解決について議論している。
「Erasmus+」スポーツの助成対象プロジェクトは、タイプによって申請条件が異なるが、 共通しているのは「協働パートナー」と呼ばれる協力団体の参画が必要なことである。これは、 スポーツ政策の理念である地域・地方・全国的なスポーツ・身体活動の推進を図るために、 シナジー効果を強化する狙いがある。
「欧州スポーツ週間」において助成した事業の中から、 スポーツ参加に効果を上げた事業に「職場賞」(従業員の啓発)、「地域ヒーロー賞」(地域コミュニティの啓発)、「教育賞」(生徒・学生の啓発)が贈られている。欧州スポーツ週間は2015年にスタートし、 毎年9月23日~30日に欧州全土において多様なスポーツ・身体活動の参加型イベントを展開している。2023年には、EU周辺国を含め計40カ国で、約3万7,000回のイベントが開催され、約1,100万人が参加した。
<プロフィール>
山口泰雄(やまぐち・やすお)神戸大学名誉教授、笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所上級特別研究員
カナダ・ウォータールー大学大学院博士課程修了。生涯スポーツ振興の国際組織である「国際スポーツ・フォー・オール協議会(TAFISA)」で、日本人として二人目の理事を務める。中央教育審議会スポーツ・青少年分科会副会長、独立行政法人日本スポーツ振興センター・スポーツ振興助成審査委員長、日本生涯スポーツ学会会長などを歴任。
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