2018.2.14

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第二段階へと準備が整う、英国のEU脱退交渉

第二段階へと準備が整う、英国のEU脱退交渉

昨年12月に英国を除くEUは、同国脱退を巡る交渉の第一段階で「十分な進展があった」と結論付け、次段階へ進むための指針を採択。また本年1月末には、脱退に向けた「移行期間に関する交渉指令」を採択するなどの進展が見られた。これらの動きの中で、EU諸機関が進めてきたそれぞれの取り決めについて解説する。

交渉の行き詰まりを打開する英国政府との合意

2017年12月8日、欧州連合(EU)脱退を巡る英国との交渉窓口である欧州委員会は、交渉の第一段階で十分な進展があったと結論付けるよう、欧州理事会(第50条下=EU条約第50条が定めるところの、英国を除く27カ国の首脳で構成)に勧告することを決定した。

この決定は、ミシェル・バルニエEU首席交渉官と、英国のデービッド・デービスEU離脱担当大臣との間で合意された「共同報告書(Joint Report)」を評価したものである。正式には、共同報告書は法的拘束力を持たず、まだ第50条に基づく脱退協定ではない。しかし、共同報告書は両者間の取り決めであり、欧州委員会のジャン=クロード・ユンカー委員長は、12月8日に英国のテリーザ・メイ首相と会談し、英国政府がこの取り決めを全面的に支持し承認していることを確認した。

交渉を第二段階に進めるよう勧告するとの欧州委員会の決定を受け、共同記者会見に臨んだメイ英首相(左)とユンカー委員長(2017年12月8日、ブリュッセル)
© European Union, 2018 / Photo: Etienne Ansotte

欧州委員会の評価は、2017年4月29日に欧州理事会(第50条下)が採択した「交渉指針(negotiation guidelines)」で提示された、市民の権利、アイルランド/北アイルランド関係、および未払い分担金清算という3つの優先的な交渉分野において、それぞれ十分な進展を得られたというものである。

バルニエ首席交渉官は、英国に在住するEU市民の居住や雇用などに関する権利と、EU27加盟国に住む英国国民の権利が、英国のEU脱退後も変わらないとした。欧州委員会はまた、英国在住のEU市民にとって、いかなる行政手続きも必ず安く簡素であるように求めた。未払い分担金清算に関して、2020年までのEU財政枠組みの中で28加盟国がすでに同意していた分については、英国を含む全加盟国がそのまま支払うことで合意した。アイルランド島を巡る問題では、英国はアイルランドが置かれた特殊な状況を認め、英国領北アイルランドとの間の厳格な国境管理を避けるという有意義な約束をした。

欧州委員会の評価を詳細に明記した文書「欧州理事会に宛てた英国との交渉の進捗状況に関するコミュニケーション」はこちら

第二段階に移行するための、EU諸機関の取り決め

勧告決定後、ユンカー委員長は「難しい交渉だが、私たちはついに最初の突破口を開いた。英国と公正な取り決めができたことに満足している。私たちの評価に27の加盟国が同意してくれれば、欧州委員会とバルニエ首席交渉官は、すぐに交渉の次の段階に進む準備ができている。最終的な脱退協定は、欧州議会によって批准される必要があり、欧州議会が交渉プロセスに密接に関わり続けられるように取り計らうつもりだ」と述べた。

その後、2017年12月15日に開かれた欧州理事会において、英国を除くEU27加盟国の首脳は、市民の権利、アイルランド/北アイルランド関係、および未払い分担金清算について十分な進展が見られたことを確認し、交渉の第二段階のための指針を採択した。これは、十分な進展が見られたと認めた12月13日の欧州議会による決議に沿ったものでもある。

欧州理事会では、英国を除く27加盟国の首脳らが3つの優先課題について十分な進展が見られたことを確認し、交渉の第二段階のための指針を採択した(2017年12月15日、ブリュッセル)
© European Union, 2018

欧州委員会は12月20日、この欧州理事会の交渉指針に従って、「秩序ある脱退」を可能にするために次の交渉段階に進むことを決定するよう、加盟国閣僚からなるEU理事会に勧告した。これによって、EUと英国の両交渉官は、「共同報告書」およびこれに含まれないその他の脱退関連事項に関する交渉結果をベースに、EU条約第50条に基づく脱退協定の起草に取り掛かる。また欧州委員会は、即座に移行期間の取り決めづくりに着手するとともに、将来のEU・英国関係を巡る予備的協議を開始する。

なお、2017年4月29日の欧州理事会(第50条下)の交渉指針と、2017年5月22日のEU理事会の交渉指令で定められた「交渉遂行に関する一般原則および手続きの取り決め」は、全面的に第二段階の交渉にも適用される 。

英国脱退後の移行期間に関する取り決め

欧州委員会は早速、第二段階の交渉を遂行していくための法的根拠となる、補足的な交渉指令の草案を作成し、EU理事会に送付(2017年12月20日)。この補足的な指令には、移行期間の措置に関して、EUの方針として以下のような事項が含まれている。

  • 「いいとこ取り」はなし:英国は引き続き、関税同盟と単一市場(人、モノ、資本、サービスの「4つの自由」全てを含む)に参加する。EUの「アキ※1」にすでに取り込まれている部分は、英国が加盟している時と同様に適用され続けるほか、交渉期間中に「アキ」に加えられた変更も自動的に適用される
  • EU司法裁判所の権限もまた、現存する全ての規制、予算、監督、司法および執行に関わる手段も適用となる
  • 英国は2019年3月30日をもって、EUにとっての第三国となる。その結果、この日以降は、英国がEUの機関、専門機関、団体、事務所などに代表を送ることはない
  • 移行期間は明確に定義され、期限は厳格に守られなければならない。欧州委員会は、この期間が2020年12月31日を超えるべきではないとしている

EU理事会は2018年1月29日の会合で、英国脱退後の移行期間に関する交渉を行う権限を欧州委員会に与えた
© European Union, 2018

この補足的指令はまた、「共同報告書」などでも説明されているように、交渉の第一段階の結果を法制化する必要があるとしている。脱退協定の全体的なガバナンスや、脱退期限前にEU市場に上市された英国製品をどのように扱うかといった実際的な課題など、交渉の第一段階ではまだ協議されていない事案を含め、脱退に関連する全ての懸案事項を網羅する必要があることをはっきりと示している。

この補足的交渉指令は、2018年1月29日のEU理事会の一般理事会会合(第50条下)で採択された。

将来のEU・英国関係を協議するための準備

将来のEU・英国間の協力関係を巡る交渉は、英国が正式にEUを脱退して第三国となる時点、すなわち2019年3月30日になって、初めて正式に開始されることになる。これらの交渉は、貿易のみならず、研究開発、安全保障、開発援助も含まれる。それまでは、望ましい協力関係の主要な側面の原則に関する政治的声明を巡って交渉することになる。このような声明は、欧州委員会委員の会合と欧州理事会(第50条下)を経て、政治的に承認されなければならない。

公正な脱退協定を結ぶために交渉担当部署が進めている作業と並行して、期日までに合意に達するか否かにかかわらず、英国がEU加盟国ではなくなる日に備えるための作業も進んでいる。例えば、欧州委員から27加盟国への書簡の送付、欧州銀行監督機構(European Banking Authority)および欧州医薬品機関(European Medicines Agency)の2つの在英EU機関の移転、ステークホルダーへの通達などである。欧州委員会による努力の一環として行われるこれらの通知は、英国のEU脱退により生じると想定されている、EU27カ国の産業分野に及ぶ影響を社会全体に向かって知らしめ、移行期間の取り決めや将来的なEU・英国関係を損なうことなく、利害関係者がそのような事態に備えられるようにするものである。

 

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EU理事会、英国脱退に向けた移行期間に関する交渉指令を採択

※1 正式には「アキ・コミュノテール(Acquis communautaire、共同体アキ)」。EUの基本条約(第一次法)から規則、指令、決定(第二次法)、欧州司法裁判所判例法、EUが締結した国際協定等の全てが蓄積された法体系の総称。

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