2024.5.7

Q & A

2024年欧州議会選挙について教えてください

2024年欧州議会選挙について教えてください

欧州連合(EU)にとって2024年は、6月上旬の欧州議会選挙に始まり、秋の各EU主要機関のトップ人事および新欧州委員会の発足を控え、大きな節目の年となっている。中でも欧州議会選挙の結果は、EUの将来のみならず世界の他の地域の政治経済にも大きく影響を与えることになる。注目を集める同選挙の仕組みや欧州議会の権限、今年の選挙の注目点、虚偽情報対策などを慶應義塾大学の田中俊郎名誉教授に解説してもらった。

Q1. 欧州議会選挙のプロセスについて教えてください。

1979年にEU市民による直接選挙が導入されて以来、欧州議会選挙は5年に一度行われ、10回目となる今回の選挙は、2024年6月6日~9日のいずれかの日程で実施されます。選挙は木曜日とするオランダの6月6日を皮切りに、多くの加盟国が6月9日に選挙を行う予定です(図1参照)。

欧州議会の総議席数と国別議席配分の原則は、2009年12月に発効した改正EU条約(リスボン条約0の第14条第2項で、議員数を750人に議長1人を加えて総議席数を751と定め、その国別配分を最少6議席、最大96議席としています。

前回の2019年欧州議会選挙をめぐっては、2016年6月の国民投票で英国民がEUからの脱退(離脱)、いわゆる「ブレグジット」を選択したことを受け、欧州理事会は2018年6月、総議席数を705議席に削減し、英国に配分されていた73議席のうち27議席を人口比補正のために再配分、46議席を将来の拡大のために残しておくことを決定。しかし、2019年5月下旬の選挙日までに英国は正式脱退せず、同国を含めて総議席数751で選挙を行うことを余儀なくされました。2021年1月末に英国がEUを脱退し、英国選挙区で選出されていたブレグジット党(Brexit Party)のナイジェル・ファラージ党首を含め73人の議員が失職し、補正・再配分により当選した27人の議員が新たに登院しました。

今年の欧州議会選挙をめぐっては、欧州理事会は欧州議会と意見を調整し、2023年9月、総議席数を15増やして720議席とし、国別配分も再度見直すことを決定。最多はドイツの96議席、最少はキプロス、ルクセンブルク、マルタの各6議席で、2019年の議会発足時との比較では、フランスが7議席増の81議席、スペインが7議席増の61議席、オランダが5議席増の31議席、イタリアが3議席増の76議席になり、他の多くの国は1~2議席増えました(国別議席数と投票制度は図2参照)。

選挙日が異なることに表れているように、欧州議会選挙法は、選挙の原則(普通、自由、秘密投票、比例代表制など)の大枠のみを規定し、加盟国がそれぞれ個別の選挙細則を定めて自ら選挙を行っています。

選挙権年齢(ベルギー、ドイツ、マルタ、オーストリアは16歳以上、ギリシャは17歳以上、他の国々は18歳以上)や被選挙権年齢(15カ国が18歳以上、9カ国が21歳以上、ルーマニアは23歳以上、アイルランドとイタリアは25歳以上)も異なります。投票が法的義務の国(ベルギー、ブルガリア、ギリシャ、ルクセンブルク)もありますが、大部分の加盟国においては義務ではありません。在外投票を認めない国(チェコ、アイルランド、マルタ、スロヴァキア)もあれば、EU加盟国在住者に限定する国(ブルガリア、イタリア)、あるいはEU域外からでも認める国も多くあります。事前投票が認められ、投票方法も、郵送、在外自国大使館・総領事館・領事館での投票、電子投票(エストニア)、代理人による投票まで認める国(ベルギー、フランス、オランダ)もあります。いずれの方法をとっても、投票は1回しか認められません。二重投票を阻止するため、各国は違反者に対する罰則規定を用意しています。また、小党分立を防止するため、最低得票率(足切り)を設けている国(フランスをはじめ9カ国が5%、イタリア、オーストリア、スウェーデンが4%、アイルランドが3%、キプロスが1.8%)もありますが、ドイツをはじめ13カ国は設けていません。

欧州議会では、議員は国別ではなく、政治会派(political group、政党グループともいう)別に着席し、行動します。各政治会派は、加盟国数の4分の1(7カ国)以上、25人以上の議員で構成されます。2014年選挙から、政治会派の多くは、次期欧州委員会委員長の候補を指名して選挙運動を行い、その選挙結果を欧州理事会が考慮、適切な協議を行った後、特定多数決(採択には加盟国数の55%以上とEU総人口の65%以上の二重の要件を満たす必要がある)で委員長候補を欧州議会に提案することになりました。この非公式の「筆頭候補(ドイツ語でSpitzenkandidat、英語で lead candidate)制度」は、2014年には機能し、最大政治会派となった「欧州人民党(EPP)」のジャン=クロード・ユンカー氏(ルクセンブルク)が欧州理事会で欧州委員会委員長候補に指名され、欧州議会で選出されました。しかし、2019年には機能せず、欧州理事会は、最大会派を維持したEPPの筆頭候補に推薦されていたマンフレート・ウェーバー氏(ドイツ)ではなく、ウルズラ・フォン・デア・ライエン国防相(同)を委員長候補として指名。同氏は、欧州議会で総議員の過半数(絶対多数、376票)を上回る賛成383票を得て、欧州委員会委員長に選出されました。

欧州議会で新委員長として選出されたフォン・デア・ライエン氏(2019年7月16日、フランス・ストラスブール)© European Union, 2019

今年は、2019年~24年議会会期の最終本会議が4月22日~25日に開催されましたが、その後6月の初頭にかけて、広報や選挙運動が展開され、大部分の政治会派の筆頭候補による討論会も行われる予定です。

選挙結果の公表は、最後の選挙、今回は6月9日の選挙が終わった翌日に行われます。当選した議員候補は、院内における政治会派を結成するための交渉を行います。その上で、新欧州議会(2024年~2029年議会会期)は、7月16日~19日に第1回本会議が召集され、議長や副議長などの役職者を選出、任期5年の活動を開始します。

その間の6月17日にEU加盟各国の首脳たちは非公式に会合し、最終的には欧州理事会の特定多数決で欧州委員会委員長候補を正式に指名し、その案を欧州議会に送付することになっています。現職のフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が、EPPの筆頭候補として推薦されており、再選されてさらに5年務めることが有力視されていますが、あくまで欧州理事会と新欧州議会の判断次第です。

Q2. なぜ欧州議会選挙が大事なのですか?EU域外にはどのような影響がありますか?

欧州議会は元々、EUの立法手続きにおいて諮問的な役割を担っていました。しかし、EUの深化とともに、特にマーストリヒト条約(1993年11月発効)からリスボン条約(2009年12月発効)に至るまでの度重なる基本条約の改正によって立法機関としての権限が強化され、多くの政策領域で、加盟国の閣僚レベルの代表で構成されるEU理事会と共同で立法権を有するようになりました。欧州議会は、特に人権擁護、環境規制、消費者保護など、欧州市民の利益の増進に努めています。予算の最終承認権を盾に欧州委員会が提案する政策を修正したことや、新しい欧州委員会委員長と欧州委員会委員候補リストを「一体として」同意する権限を使って、新委員候補の一部を交替させたことも過去にはありました。

さらに、欧州議会は、条約などの国際協定の同意権限を有するようになったため、日本などのEU域外の国にとっても、ますます重要になってきています。2019年2月1日に発効した日・EU経済連携協定(EPA)も、欧州議会の同意と理事会の決定を経てEU内の手続きを完了しました。

欧州議会がEUの政策決定において重要な機関となってきたため、EU域外の国や企業も、欧州議会の立法動向を調査し、ロビイング活動を行うようになっています。最近の具体的な事例として、EUが2024年3月4日に大筋合意した「食品などの包装に関する新規則」で見てみましょう。一部報道などによると、当初の原案では、米国やイタリアの働き掛けによりウィスキーなどの蒸留酒やワインは対象外となる方針がまとまりつつありました。しかし、ワインなどと瓶の形状が異なり、EU域内での再利用や詰め替えが難しい日本酒については、新規制の対象となり、非関税障壁による禁輸となる可能性がありました。それに気が付いた日本政府側では、欧州委員会やイタリアなどの加盟国に加え、欧州議会議員に対しても手分けして説明・説得し、結果的に適用除外を得ることに成功したとされています。

ただ、EUの安全保障・防衛分野の対外活動については、加盟国が権限を維持しているために「特別立法手続き」が適用され、欧州議会は意見を決議するものの、法的拘束力はありません。それでも、欧州議会は、ウクライナへのロシアの軍事侵略に対しては、度重なるロシア非難決議を採択してきました。例えば、開戦から2年を迎えた2024年2月29日には、賛成451、反対46、棄権49で決議を採択、ウクライナがロシアに勝利するためにEUはウクライナに対し揺るぎない支援を行うべきだと強く求めました。

Q3. 今回の選挙の注目点はどこですか?

一つは投票率です。1979年に第1回直接選挙(9カ国)が導入された時の投票率は61.99%でしたが、以降、投票率は毎回下がり続け、2014年(28カ国)には42.61%と最低を記録しました。しかし、前回の2019年(28カ国)の投票率は50.66%と、1994年(12カ国)の56.67%以来25年ぶりに50%を超えました。

EUが立脚する基本原則の一つが民主主義であり、「民主主義の赤字」と批判されるEUにとって、欧州議会選挙は重要です。欧州の将来を決めるのは市民であり、市民の意見を反映させる手段が欧州議会選挙なのです。2019年の投票率は、難民危機やブレグジットなどを受け、EU市民にとってEUがより重要となり、高い関心の対象になったことを表していたと考えられます。今回の2024年選挙では、投票率がどうなるのかも関心を集めています。

しかし、最も注目すべきは、選挙結果です。1979年以来、中道右派でキリスト教民主系のEPPと中道左派の「欧州社会民主進歩同盟(S&D)」が2大会派を形成し、議長などの職務を2年半ずつ交替で務めてきました。両会派とも基本的に親EUで、欧州統合を前進させる勢力でした。2014年選挙でも、EPPが221議席、S&Dが191議席と、2009年選挙より獲得議席は減らしたものの、過半数を上回る412議席を獲得しました。

前回の2019年選挙では、選挙前から2大会派をあわせても、過半数に届かないのではないかと懸念されていました。事実、選挙結果は、EPPが182議席、S&Dが154議席で、両会派合わせても336議席と、初めて過半数(376議席)を割りました。しかし、同じ親EU勢力の中道リベラル「欧州刷新(RE)」の108議席と「緑の党・欧州自由連盟(Green/EFA)」の74議席と合わせると計518議席となり、3分2(500議席)以上の議席を確保。2大会派制から多党化したとはいえ、依然として親EU勢力が議会の圧倒的多数を占め、勝利したといえます。

他方、多くの加盟国では、総選挙や大統領選挙などで大衆迎合主義的なポピュリスト政党が躍進、連立内閣の一角を占め、反財政緊縮、反外国人、反移民・難民、反イスラムなどを訴えるEU懐疑主義的な議員も増えていました。そのため、2019年の欧州議会選挙において、右派では、フランスの「国民連合(RN)」、イタリアの「同盟(Lega)」、「ドイツのための選択肢(AfD)」、オランダの「自由党(PVV)」、オーストリアの「自由党(FPÖ)」など、左派では、ギリシャの「急進左派連合(SYRIZA)」、スペインの「ポデモス」、イタリアの「五つ星運動」などのポピュリスト政党の大躍進が予測されていました。しかし、結果として、「アイデンティティーと民主主義(ID)」が73議席、「欧州保守改革(ECR)」が62議席を獲得しましたが、「欧州統一左派連合/北方緑の左派(GUE/NGL-左翼)」は41議席と改選前の52議席から11減、無所属(NI)は57人となりました。全体として、選挙前に予測されていたようなポピュリスト政党の大躍進は起きず、前回並みでした。

現行の欧州議会705議席の内訳は、2024年4月現在、親EU勢力では、EPPが177議席、S&Dが140議席、REが102議席、Green/EFAが72議席、EU懐疑派では、ECRが68議席、IDが59議席、GUE/NGL-左翼が37議席で、無所属が50人となっています。

720議席を争う2024年欧州議会選挙については、いろいろな世論調査が事前に行われていますが、政治専門サイト「ポリティコ・ヨーロッパ」のPoll of Polls(選挙世論調査の調査)では2024年4月19日現在、以下のように予測されています。親EU勢力では、 EPPが174議席(改選前より3減)、S&Dが140議席(増減0)、REが82議席(20減)、Green/EFAが47議席(25減)となり、前回選挙で親EU勢力の支えとなったリベラルのREと環境保護派のGreen/EFAが議席数を大きく減らし、親EU勢力は大幅に後退しますが、計443議席で過半数(361)は維持するとされています。一方、EU懐疑派のIDが87議席(28増)、ECRが78議席(10増)と大幅に議席を増やし、GUE/NGL-左翼が33議席(4減)、無所属43議席(7減)、新無所属39議席(39増)と予想。特に、IDが第6会派から第3会派に大躍進する可能性が注目されますが、無所属と新無所属を含め、選挙後に政治会派が再編成されることも考えられます。

その背景には、コロナ禍での移動の制限、失業者の増加、物価の高騰、特に2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略によるエネルギー価格の暴騰、難民や移民の再増加、2023年10月に始まったハマスとイスラエルの武力衝突をはじめとする中東の混乱など、EUを取り巻く国際環境の変化に、EUも加盟各国政府も適切に対応できていないとの強い不満が市民にあるからです。さらに、2050年までに欧州を世界初の気候中立な大陸にすることを目指すEUの看板戦略「欧州グリーンディール」を受け、各種の規制(2030年までに肥料使用量を20%、化学農薬使用量を50%削減など)やコスト負担に対して農家が不満を募らせ、各地で抗議デモが頻発しています。

ポピュリスト政党の躍進や再活性化の傾向は、すでに各国の国内選挙に表れてきています。イタリアで2022年9月に行われた総選挙では、第1党になった右派「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首が首相に就任し、「同盟」と「フォルツァ・イタリア」が加わり反移民・反EUの連立内閣が誕生。スロヴァキアでも、2023年9月の総選挙で、ロシア寄りの主張を掲げて戦った左派「スメル(Smer-SD)」が第1党になり、ロベルト・フィツォ党首が連立内閣の首相に就任、2024年4月の大統領選挙でもフィツォ氏に近いペレグリニ元首相が勝利しました。オランダの2023年11月の総選挙では、反移民・反EUの立場を取るヘルト・ウィルダース党首率いる「自由党(PVV)」が初めて第1党になり、ポルトガルでは、2024年3月の総選挙で、新興の極右ポピュリスト政党「シェーガ(もうたくさん)」が議席を4倍に増やして第3党に躍進しました。

親EU派にとって唯一の朗報は、ポーランドの政権交代です。2023年10月の総選挙で、ドナルド・トゥスク前欧州理事会議長(元ポーランド首相)率いる野党勢力が過半数を確保し、同氏が首相に返り咲き、保守系与党「法と正義(PiS)」の統治から8年ぶりに政権交代が起きました。

Q4. 選挙に向けたEUの虚偽情報対策について教えください。

昔から選挙では、誇大公約、偽情報の流布、買収や脅迫など、内外から情報操作や選挙干渉などが行われてきました。しかし、情報技術の飛躍的発展に伴い、ディスインフォメーション(虚偽情報)への対策が強く求められています。

既に前回の2019年欧州議会選挙前から、ロシアのウクライナなどに対するサイバー攻撃をはじめ、外国政府による選挙への介入・干渉が問題視されていました。そのため、当時の欧州委員会とフェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は2018年12月、共同政策文書「ディスインフォメーションに対する行動計画」を発表しました。

同計画は具体的には以下の柱で構成されています。

(1)ディスインフォメーションの探知、分析、摘発する能力の向上:EU諸機関や加盟国でデジタル機器やデータ分析技術、専門職員への投資を行うなど

(2)ディスインフォメーションに対する協調的および共同での対応の強化:緊急警報システム(Rapid Alert System: RAS)の創設、関連情報交換のための加盟国の窓口の指定など

(3)ディスインフォメーションに対処するための民間部門の動員:ディスインフォメーション対策に関するEU全域の行動規範の制定と実施、主要なオンラインプラットフォーム企業と協定を締結し、虚偽と判断された投稿や情報を削除、これらの企業の対策・取り組みの実施に関する定期報告および対応が不備な場合の規制措置など

(4)意識向上と社会的回復力の改善:EUや近隣諸国で一般市民対象の啓発活動やメディア・世論形成者を対象とした研修の実施、ディスインフォメーションを探知・摘発するためファクトチェッカーや研究者で構成するチームの創設支援など

主要オンラインプラットフォーム企業などが 2018 年 10月 に合意した自主規範「2018年ディスインフォメーションに関する行動規範」は、2019年欧州議会選挙での経験を踏まえて強化され、「2022年ディスインフォメーションに関する行動規範」として2022年6月、改訂プロセスに参加した34者によって署名され、発表されました。さらに、ディスインフォメーションを含めたEU域外からの情報操作や干渉への対応は、EUの安全保障・防衛政策の強化を目指して2022年3月に採択された「戦略的コンパス」にも明記され、欧州対外行動庁(EEAS)の任務として再確認されています。

さらに、オンラインプラットフォーム企業に利用者の保護や違法コンテンツへの対応を義務づける「デジタルサービス法(Digital Service Act: DSA)」が2022年11月に発効し、大規模事業者には順次適用され、2024年2月からEU域内で全面適用が始まりました。 2024年欧州議会選挙に向けて、ロシアや中国などによるディスインフォメーション拡散を用いた選挙干渉が強く懸念されることから、欧州委員会は2024年3月、DSAに基づき、超大規模オンラインプラットフォームおよび検索エンジンに対し、選挙をめぐるディスインフォメーション対策の強化を求める指針を発出しました。

また、欧州議会は2024年3月、人口知能(AI)の開発・運用に関する包括的な規則を定めた「AI法」を採択しました。今後、EU理事会での承認を受けて順次施行される見通しで、全面適用は2026年中を目指しています。同法では、AIが基本的人権や民主主義に及ぼし得るリスクの高さに応じて4段階に分類し、最もリスクが高いものは使用禁止にします。企業が禁止を遵守しなかった場合やリスク緩和の義務を履行しなかった場合には高額の制裁金が課されることになります。社会的影響の大きい「Chat GPT」などの生成AIについても規制し、開発する事業者がどのようなデータを学習させたかなどについて情報の開示・表示義務とその履行監督の方法についても定めています。現時点では、まだ法的拘束力はありませんが、主要オンラインプラットフォームや検察エンジンは協力を求められています。

伝統的な選挙干渉への対応も見られます。欧州議会は2024年2月、ラトビア選出の欧州議会議員がロシア連邦保安局(FSB)のためのスパイ活動をしていたという報道をめぐり、決議を採択し、「欧州の民主主義を弱体化させようとするロシアによる継続的な取り組みに対し大きな憤りと深刻な懸念」を表明。2024年前期のEU理事会議長国であるベルギーのアレクサンダー・ドゥ=クロー首相も2024年4月、ブリュッセルでの記者会見で、新ロシア派のネットワークが欧州議会議員に金銭を支払ったと発表、同国の検察当局が捜査を開始したことも明らかにしました。6月の欧州議会選挙に向け、ロシアは親ロ派の議員を増やそうとしていると指摘しました。

欧州理事会は、今回の欧州議会選挙まで2カ月を切った4月17日~18日に開催された特別会合で、選挙プロセスに対する域外からの情報操作や干渉とともに、AIによるものを含むディスインフォメーションに起因するリスクを厳格に監視し、封じ込めるというEUと加盟各国の決意を強調しました。RASなどを使いながら、ネット時代における公正な欧州議会選挙の実施を目指し、EU諸機関と加盟国当局が協力することを強く求めたのです。

執筆=田中俊郎(慶應義塾大学名誉教授、ジャン・モネ・チェア・アド・ペルソナム)

※本稿は執筆者による解説であり、必ずしもEUや加盟国の見解を代表するものではありません。

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