2022.3.23
Q & A
ロシアのウクライナへの侵略は、欧州にとって安全保障上の脅威であるだけでなく、国際秩序や世界平和を脅かしている。EUは、ロシアとその侵攻に加担しているベラルーシに対して史上最大規模の包括的な制限措置(制裁)を実施している。EUによる制裁の仕組みや、実施中の制裁の内容について説明する。
欧州連合(EU)にとって制限措置(制裁)は、EUの共通外交・安全保障政策(CFSP =Common Foreign and Security Policy)を推進する上で欠かせない手段です。EUは、紛争の防止や新規・既存の危機への対応が必要な場合に、そうした問題に責任を負うべきEU域外の団体・組織や個人を対象として、制裁を実施することができます。「制裁」と呼ばれていますが、EUの制限措置は、懲罰的なものではなく、紛争や危機の要因となった政策や行動の是正を目的としています。
EUは、国連安全保障理事会決議を履行するため、またはCFSPの以下の目的を推進するために制裁を科しています。
EUは現在、40以上の制裁体制(sanctions regime)を敷いています。まず、ロシア、イラン、シリア、北朝鮮などの特定の国による不当な軍事行動や核拡散の危機に対する、国連安保理決議を履行するための制裁およびEU独自の制裁があります。これに加えて、EUではテロやサイバー攻撃、核拡散、化学兵器使用などの問題に対応するための水平的な制裁体制も整備しています。
EUは、域外国の政府機関の関係者および、企業・団体・組織や個人を対象に、次のような制裁を実施することができます。
EUは、制裁によって意図しない影響が及ぶことを回避するため、制裁対象を指定する際は、是正が必要な政策や行動の責任者を慎重に決定し、達成すべき目標に応じて制裁内容を設定しています。
EUの制裁の採択、更新、解除については、EU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長(EU上級代表)が提出する立法提案に基づいて、EU理事会が全会一致で決定します。EU加盟国間の政治的な合意が得られた後、EU上級代表と欧州委員会が、必要な法令である「EU理事会決定(Council Decision)」(以下、決定)、やそれに付随する「EU理事会規則(Council Regulation)」(以下、規則)を準備し、EU理事会に提出します。
EU理事会は、「決定」および「規則」に規定された指定基準に基づいて、特定の制裁対象を指定します。
制裁を発動する場合は、EU加盟国が一義的に責任を負い、各国にはそれぞれの法的管轄区域で制裁を実施する義務があります。
EU理事会の「決定」は、EU加盟国に対する直接の拘束力を持ちます。また、「規則」は、一般に適用される法令であり、EUの法的管轄内のあらゆる人や組織に対して拘束力を持ちます。
EUの制裁は、外交政策の手段であり、本来はEU域外の国に影響を与えるものですが、経済的な措置などの制裁が適用されるのはEUの管轄内に限定されます。つまり、EU加盟国の国籍を持つ人や、EU域内に居住して事業を行う人や組織が、制裁内容を実行する義務を負っています。
制裁違反の疑いに関する調査は、EU加盟国および各国の管轄当局の責任で実施されます。EU加盟国は、制裁違反に対して適切で制止力を持つ実効的な罰則を整備している必要があり、実際に制裁違反が起きた際には罰則を執行する義務があります。
欧州委員会は、EU条約の番人として、EU法の一律適用を確保し、EU加盟国による法の執行を監視しています。
EUの制裁は、是正が必要と判断された政策の責任者を対象にしています。そのため、制裁対象は「規則」の附属書に記載された個人や組織に限定されます。また、EUは原則として、制裁は対象外の人々に対する人道的悪影響や意図しない結果を最小限に抑える形で実施されるべきだと考えています。
制裁体制の定期的な見直しや例外制度(指定を受けた人物に対する基本的なニーズや医療の提供、人道支援や関連物資の提供などの目的での制裁の不適用)を通じて、比例性(proportionality、制裁目的と内容のバランス)を担保しています。
EUの制裁の実施状況については、以下のウェブサイトで最新の情報を提供しています(全て英語)。
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