2014.2.21
FEATURE
2013年11月28日、29日の両日、EU理事会議長国(当時)リトアニアの首都ヴィリニュスで、第3回東方パートナーシップ首脳会議(サミット)が開催された。近隣国の民主化と経済の自由化を支援し関係強化に努める欧州連合(EU)と、その東方の隣国6カ国の首脳が一堂に会した同サミットでは、パートナー国ごとにさまざまな具体的政策や協定に合意がなされ、さらなる民主化と経済の自由化に向け、新たな一歩を踏み出すこととなった。
「東方パートナーシップ(Eastern Partnership)」は、EUの「近隣政策」のうち、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、グルジア、モルドバ、ウクライナの東欧6カ国を対象とした取り組みである。2004年のEUの大規模な拡大に伴い、域内と域外の間に新たな断絶が生まれないよう近隣諸国とのより安定的な関係強化を進める重要性が高まったため、EUは同年これら近隣諸国との外交政策の枠組みとして「欧州近隣政策(ENP=European Neighborhood Policy)」をスタートさせた。ENPは北アフリカ、中東、東欧、コーカサスという地中海沿岸諸国および旧ソビエト連邦諸国を合わせた16カ国、2億6,000万人を対象としており、EUはこの政策によりEUと各国との関係の緊密化、各国の民主化の推進、社会改革、経済改革を目指す。これは、EUの進める、国境を越えた平和と安定の実現に欠かせない。
しかし、欧州近隣政策の対象国は地域的に広範囲にわたっており、多様な価値観や文化、歴史的な事情を持つ国々が多く含まれることになる。そこで2008年より、ひとつの政策を全体に適用するのではなく、地域ごとの事情を考慮した上で、各国の状況に一層適応した個別の政策と全体的な政策を同時並行で進めていくことにより、さらにきめ細かい協力関係を築いていく方針へ転換することとした。地中海沿岸や北方向けの地域別取り組みが進む中で、2009年5月にプラハで第1回サミットが開催され、前述の6カ国を対象とする新たな取り組み「東方パートナーシップ」が立ち上がった。2011年9月にはワルシャワで第2回サミットが開催され、東方パートナー諸国のEUとの緊密な関係構築への強い願望と継続的な真の民主化への意志が確認された。
ジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長とヘルマン・ヴァンロンプイ欧州理事会議長のEU両首脳に加え、キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表、EU加盟28カ国と東方パートナーシップ6カ国の首脳が一堂に会した今回の第3回サミットは、「協議」の段階からいよいよ「実施」の段階へと進んだという点で特徴的だ。パートナー諸国と具体的な施策のための合意が個別に交わされ、その中でも、特筆すべきは、東方パートナー諸国のうち、グルジアとモルドバが連合協定の仮調印に至ったことだ。いずれも2010年から協定締結交渉を行っていた。連合協定締結は、両国にとってはEU加盟に向けた第一歩となる。連合協定の締結にあたり、相手国はEUの求める政治経済、通商、人権について一定の基準を満たすべく、国の政策を進めなければならない。つまり、今回の仮調印は、将来のEU加盟を前提とし、東方パートナーシップの目標である、民主化と自由主義経済の推進に真摯に取り組むという両国の姿勢の表明なのだ。
一方、今回のサミットに向けて進められていたウクライナとEUの間での包括的自由貿易協定および連合協定の調印に向けた作業は、サミットの直前にウクライナ側の要請により中止された。EUは、同国の指導者が政治的意思をもって野党や市民との対話を行い、現在の緊張状態を解決した段階で、協定に調印する考えだ。(※1)
以下は、EUと各パートナー国との関係と第3回サミットでの成果のまとめ。
パートナー国名 | 第3回サミットまでのEUとの関係 | 第3回サミットの成果 |
---|---|---|
アルメニア | 1999年にパートナーシップ・協力協定※1を締結。2013年7月、連合協定を締結。 |
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アゼルバイジャン | 1996年にパートナーシップ・協力協定を締結。連合協定の締結に向けて継続的な交渉が行われている。 | |
ベラルーシ | ベラルーシの政治的理由により、1997年以降、パートナーシップ・協力協定批准は凍結中。現在は、多国間協議にのみ参加。 | |
グルジア | 1999年にパートナーシップ・協力協定が発効。2013年7月、連合協定に向けた交渉が終了。 |
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モルドバ | 1998年にパートナーシップ・協力協定が発効。2008年、ビザ円滑化協定が発効。 |
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ウクライナ | 1998年にパートナーシップ・協力協定が発効。2007年より連合協定締結に向けた交渉が開始。本サミットでの正式調印が予定されていたが、直前にウクライナが中止を決定。 |
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「ヴィリニュスでのサミットは欧州近隣政策の開始から10年目、東方パートナーシップの4年目にあたる。EUと各パートナー国はこれからも協力し、法の支配、民主的で安定した国家の実現という目的に向けて共に取り組んでいく」とヴァンロンプイ議長は熱意を見せる。議長は、「今後も連合協定および包括的自由貿易協定締結への取り組みを続け、EUと近隣国との経済的な交流や人々の自由な行き来を可能にしていきたい」とも語っている。
またバローゾ委員長はこう指摘する。「ここ数年、多くの東欧諸国にとって、EUは最大の貿易相手国にして投資先であり、政治的にも信頼性の高いパートナーとなっている。東方パートナーシップにより、欧州の境界に大きな変革がもたらされるだろう」。
東方パートナーシップでは民主化と開かれた市場経済が2本の柱となる。そのためにはまず、EUが課題として出した政治的経済的改革をパートナー諸国が断行し、EUの掲げる民主化や人権尊重などに関わる理念を共有しうる一定の基準を満たす必要がある。この課題をクリアすれば、連合協定や包括的自由貿易協定締結などにより、EUとより緊密な関係を築くことが可能となり、さらに民主化と市場経済実現のための便宜が、図られやすくなる。
東欧諸国への経済支援において、EUは「持続可能な発展や環境保護を重視する」としている。これまで、発展、成長の際に軽視されがちだった持続性や環境に配慮することは、EUの掲げる経済成長戦略と合致した方針である。
(※1) ^ その後、協定は2014年3月21日に調印、2017年9月1日に発効。
ロシアによるウクライナ侵略へのEUの対応をまとめたEU MAGの記事はこちら。
2022年3月22日 更新(関連記事追記)
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