調印60周年を迎えるローマ条約――回顧と未来

2017/03/14

この記事をプリントする

PART 3

駐日EU大使インタビュー

ローマ条約調印60周年を迎えたEU。内外に抱える課題への対応の一方で、過去60年の間にEUが達成してきた成果が今、欧州の新たな未来に引き継がれようとしている。EUの業績、日・EUの今後などをヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ駐日EU大使に聞いた。

欧州人はEUの成果を誇りに思う勇気を持つべき

― これまでのEUの業績をどのように捉えていらっしゃいますか。

欧州統合プロジェクトは歴史的に前例のないところから始まりました。それは、第二次世界大戦後の欧州の国々が直面していた試練と窮状、そして困難への一つの答えでした。歴史を振り返れば、欧州の人々は大変厳しく困難な時に解決を導き出す「力」と「想像力」と「創造の精神」を持っているということが分かります。この60年は、さまざまな地域的また世界的な変化における要請に、欧州がその力と精神をもって一歩一歩対応してきたことの証明なのです。

60年にわたる欧州大陸の平和と繁栄の出発点となったローマ条約調印式(1957年3月25日)の様子 Video: The European Parliament / Source: Facebook

そして、この60年の価値は、原加盟6カ国から現在の28カ国に至るまで仲間を増やしながら共に歩んできたという点にあると思います。EUの創造と建設とは、協働の努力であり、連帯、結束そして集団的対応を必要とするさまざまな段階で出してきた答えなのです。最近の例では、国民投票の結果、英国のEU離脱(ブレグジット)が決まったことを受け、昨年9月に英国を除く27の加盟国とEU諸機関の首脳が、議長国スロヴァキアのブラスチラヴァでさっそく会合を持ち、この問題に最適な答えを出そうと協議しました。また、本年3月1日には、ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が、EUが今後取りうる5つのシナリオを描いた「欧州の将来に関する白書」を欧州議会に提出しています。

過去は常に良い「鏡」です。のぞき込めば、前進する勇気をくれます。そして鏡を見れば、EUの発展モデルは、この60年間にわたって欧州が経済、社会、その他の政策分野で高度に発展するための対応の結果であり、欧州が世界で最も進んだ場所の一つとなるために必要だったということがわかります。

私たち欧州人は、過去60年の間にEUが達成してきたことを誇りに思うべきです。もしこのインタビューにタイトルを付けるとすれば、私は「EUの成果を誇りに思う勇気」と名付けたいと思います。

― そのほかに特筆すべきことはありますか。

この60年間、欧州経済共同体(EEC)に始まったEUは、欧州大陸の平和と安定を保ってきました。しかし、それだけではなく、欧州大陸の再統一を成し遂げました。ベルリンの壁崩壊を利用して、2つの敵対的な陣営の分断を乗り越えるという素晴らしい変化を起こすことができたのです。東欧諸国は民主主義陣営に戻り、新しい繁栄と新しい政治システムを作ることができる民主主義国家の共同体と歩調を合わせることになりました。EUは国際社会全体の平和と発展のために、歴史的に価値のある貢献をしたのです。

さらに言えば、2015年12月にパリで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会合(COP21)で起きたことを思い出していただきたい。共通の目的に合意することを目指しEUが主導権を取り、この取り組みに参加するよう多くの途上国を説得したことを。このことは、統一した共通の方針でEUがグローバルな課題に貢献できることを証明しました。経済的効果、社会的統合、環境保護を実際に調和させるEUの発展モデルの正当性と価値は誇りであるし、広めるべきなのです。

もちろん、ここに至る道では、ある国もしくは複数の国のグループが、その政治的・経済的理由から、他の国々よりも大きな貢献をしてきました。例えばドイツとフランスが統合の推進力となってきたように、統合を次の段階に進めるため特定の国々がリードを取ったり、より多くの政治的知恵、影響力、資源を注ぎ込んだりしてきました。

「前例のない局面で答えを出す」という精神が今も重要

― 現在、EUはさまざまな危機や課題に直面しています。それについてはどうですか。

周囲には多くの課題があります。欧州の海岸には大量の難民が殺到しています。経済面では、再び成長を取り戻し、より多くの雇用を生み出すことが求められています。特に昨今の世界的な経済金融危機の影響を最もひどく受けている若年層への経済的措置が必要です。

中には、自身固有の問題に直面しているがために、共同で合意した政策を実行に移すことに重圧や難しさを感じている国々もあります、海岸に押し寄せる何十万人もの難民を収容し、助けるための膨大な努力を払っている国があるのです。国によって対峙する現実に違いがあることは認めなければなりません。ユーロ圏で何年か続いている経済的問題もあります。何よりもまずユーロ参加国どうしで助け合うための共通の制度と措置をもって、対応しなければなりません。

国家群が力を合わせて、困難な時に、喫緊の課題、しかも非常に多くの問題に答えを出していくという、このような状況の前例はありません。まさに、前例のない局面で答えを出していくという精神を、保持していなければならないのです。

― 対外的にはどうでしょうか。

EUは内外の課題に対応しようとしています。中でも安全保障面で、EUは変革と構築を進めていかなければなりません。北大西洋条約機構(NATO)との関係強化は、「内外の課題と要請に対応するために、政治的関心を高め、足並みを揃え、一層の資源を投入することが必要」と、十分理解されていることを証明するものです。

EUは、世界最大の開発・人道援助の提供者です。昨年、欧州委員会は「欧州対外投資計画」を提案し、大きな試練や暴力に見舞われている地域の経済開発や雇用創出への投資を促進することとしました。同様に昨年提示された「グローバル戦略」によって、安全保障・軍事的側面からだけではなく、経済的、外交的そして気候やエネルギー問題も含む統合的なアプローチで、地球規模の課題への対応を試みています。

― 英国が国民投票の結果、EU離脱を決めたことについてはどうでしょうか。

日本の指導者たちも、英国離脱にEUがどのように対処するのか、大いに興味があることでしょう。ご存知のとおり、EU条約第50条に離脱に関する特別な手続きが規定されており、EUは英国政府がこの条項の規定を起動し離脱交渉を開始するのを待っています。交渉プロセスは、まず条約が定める秩序ある離脱のためと、次に英国とEUとの間の新たな関係を築くための2段階あります。

国民投票の結果は非常に残念ですが、EUは英国のこの民主的なプロセスを尊重し、双方の利益を考慮した離脱を協議する所存です。もちろん英国との将来の関係を現段階で定義するのは難しいですが、英国が長年の重要なパートナーであり、EUの機構制度と政策の発展に重要な貢献をしてきたことを生かして築かれるはずです。また、地理的にも、また人権や協力と平和を世界で促進するといった民主的原則を尊重する点でも、英国はEUのパートナーであり続けるでしょう。EUは、英国との新しい関係を築くプロセスは世界中の全てのEUのパートナーたちに、分かりやすく理解してもらえるものにするつもりです。

EUは信頼に足る日本のパートナーであり続ける

― 今後の日本との関係はどのようにお考えでしょうか。

ローマ条約調印60周年は、日本の友人たちが抱いているであろう、おそらくたくさんの疑問に答える良い機会です。

G7サミットで訪日したドナルド・トゥスク欧州理事会議長(左)を迎える安倍晋三総理大臣(右) (2016年5月26日 三重県・伊勢志摩)  © European Union, 2017

日本とEUは、戦略的パートナーとしての二者間関係をさらに高めることを目指し、2013年4月に2つの大きな協定「戦略的パートナーシップ協定(Strategic Partnership Agreement=SPA)」と「自由貿易協定(FTA、日本では経済連携協定:EPA)」の締結交渉を開始しました。EUは、この協定を可能な限り速やかに締結することを期待しています。協定は今後何十年にもわたる、より成熟しより実際的な二者間関係の骨組みとなるもので、世界の2つの大きな経済国・圏の潜在力を最大限活用するのみではなく、二者間関係を超える可能性を引き出し国際社会における日本とEUの役割をより一層発展させるものとなります。

その関連で、日本が昨年の主要国首脳会議(G7サミット)および関連閣僚会議を主催する中で、自然な形で世界の主要経済国間の協調強化に貢献したことは、日・EU関係にもプラスに働きました。今後数年で関係や発展の拡充が期待できるエネルギー、農業、環境、研究と革新、防衛・安全保障などの分野、および地域の安定や国連のような国際機関や地域機関における協力まで、数々の非常に有望な分野において、弾みを生み出したのです。

日本の友人たちには、例えば、中東において反乱から改革へ、終戦から復興へと、新しい段階に移行する国々を支援しているといった、EUの取り組みを知っていただきたい。EUが平和創生と国家再建における信頼に足るパートナーであること、われわれの経済的モデルや原則に基づいた価値が、世界中で受け入れられることを示す良い例です。

同じ考えを持つパートナーとして、日本とEUは中東だけではなく、中央アジアや東アジア、そしてもちろん世界の他の地域でも、この新しいアプローチを広めていけると思います。

EUとは、忍耐と見識を要す壮大なプロジェクト

― 最後に何かひと言ございますか。

EU MAGの読者の皆さんに、EUで今起こっていることをより良く理解していただくために、こんな話をしたいと思います。

ある建設現場を通りかかった人が「何を建てているんだい?」と聞いたところ、「レンガと石を積み重ねているだけで、大したものじゃない。重いし、つらいけど、とにかくやらなきゃならないんだ」という答えが返ってきました。しかし別の作業員が「確かにつらいし、時間もかかるけど、ここには、多くの人が平和で安寧で安全な生活を送れる、壮大な建物が作られるんだ」と答えました。

EUの建設とは、人々にとってこういうものなのです。つらいし、面倒だし、そしてお金も時間もかかり、差し当たっての意義はわからない。が、その先にあるものを見なければならない。それは安全で平和で大きなものであり、忍耐と見識のある人には理解できる――。EUは、欧州の人々とパートナーにとっての恩恵となるような、前例のない壮大な場所を作ろうとしているのです。

 

2017/03/14

この記事をプリントする