2024.2.22
FEATURE
2022年2月24日のロシアによるいわれのないウクライナへの全面的な侵攻開始後、「ルールに基づく国際秩序」へのコミットメントは冷戦期以来かつてなかったほどに高まった。欧州連合(EU)や日本など、世界の多くのグローバル・アクター(国際政治の行為主体)は結束してウクライナを支援してきた。こうした主体間の最大の共通点は、平和へのコミットメントである。例えば、日本には第9条で戦争放棄を定めた憲法が、EUには2012年のノーベル平和賞受賞で国際的に認められた、その創設の理念を定めた条約がある。また、EUは以前より防衛分野における統合に発展の余地があったが、他国からの要請に応えるべく、そうした展望の重要性はここ数年一層高まっている。このように共通の世界観が国家間で共有されていることが、ロシアの侵略戦争への対応を特徴づけている。われわれは、内部の分断ではなく、ルールに基づく国際秩序が持つ力強さと可能性を目の当たりにしている。
EUは、欧州における民主的価値の主要な推進者としてウクライナの支援に乗り出し、潜在的な敵対者だけでなく同盟国に対しても、世界の平和と安定を守るためにどこまで行動する用意があるのかを示してきた。また、さまざまな機会において、「われわれ(EU)は、必要な限りこれまでも、現在も、これからもあなた(ウクライナ)と共にある」という明確なメッセージを繰り返し発してきた。こうした支援は、2023年に総額180億ユーロ(約2.7兆円)の財政支援を月ごとに分割して提供するという前例のない資金提供など、880億ユーロ(約12.8兆円)に上る財政・軍事・人道・難民支援として具体化してきた。ウクライナ支援のために複数のメカニズムが活用されているが、その一例が、紛争予防や平和維持能力の向上を目指すEUの基金「欧州平和ファシリティ」だ。ウクライナに対し殺傷兵器やその他装備品の供与を通じた支援提供するに向け、同基金から初めて、戦争状態にある国のために資金が拠出された。ジョゼップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は、この「欧州平和ファシリティ」の下、欧州の防衛装備品の製造やウクライナ国軍への訓練や装備提供に資金を拠出する「ウクライナ支援基金」を設置することも提案している。
最近では、欧州理事会が今年2月に500億ユーロ(約7.9兆円)の「ウクライナ・ファシリティ」と銘打った支援パッケージを承認したことで、EUは同国への最大の支援提供者となり、2023年末にかけてメディアなどで広まり出した「ウクライナ支援疲れ」の論調に終止符を打った。2024年~2027年の4年間にわたって提供される同支援は、ウクライナ経済を再建し、EU加盟に必要な7項目における進展を促すことにより、改革と投資を通じて同国の近代化を進めることを目的としている。
EUのウクライナ支援の取り組みにおいて重要な柱となってきたのは、制裁である。ロシアとベラルーシの団体を対象とする制裁の実施や、第三国を介した制裁回避を阻止する新たな制裁手段も迅速に導入された。EUは単なる「平時の積極的な法整備のための優秀な機構」だというのが大方の評価だったが、2年前、EUはロシアの本格侵攻に対抗するために大規模な制裁を導入し、迅速に対応した。プーチンは戦略的に欧州の冬を選んで戦争を始めた。そのため、冬の到来を前に欧州最大規模のエネルギー供給国であるロシアに制裁が科され、多くの欧州市民は厳しい経済的影響を被った。一方、複数の国が一連の制裁措置を実施したことで、ロシアは世界の大部分から孤立し、切り離された。
EUが特に注力してきた具体的な支援分野の一つが、ウクライナが直面する国内避難民の危機への対応だ。戦争が続くウクライナでは、530万人が国内避難民となり、約1,760万人が人道援助を必要としているとされる。EUは2022年に4億8,500万ユーロ(約773億円)、2023年に3億ユーロ(約478億円)の資金を拠出したが、欧州の世論調査では89%の市民が、戦争の影響を受けたウクライナの人々への人道援助提供に賛成している。必要とされている支援を提供するため、欧州委員会は「EU市民保護メカニズム」を通じた活動を史上最大規模で展開し、医薬品からエネルギー設備までさまざまな物的支援を提供している。スロヴァキア、ルーマニア(ニコラエ=ヨネル・チウカ上院議長はウクライナを2回訪問)およびポーランド(アンジェイ・ドゥダ大統領とドナルド・トゥスク首相のウクライナ訪問は12回に上る)に設けられた物流拠点を通じて、これまでに9万6,000トン以上の支援物資が届けられた。
これに関連して、現在EU域内に暮らす400万人以上のウクライナ難民が将来に向けて確かな見通しを持てるよう、欧州理事会は、ロシアの侵略戦争から逃れてきた人々の一時的保護制度の期限を2024年3月から2025年3月まで延長することに合意した。一時的保護の仕組みは、ロシア軍による本格侵攻から間もない2022年3月4日に発動され、それ以来毎年延長されてきた。同制度は、ウクライナ避難民をEUの社会保障制度や教育制度、労働市場に直ちに組み込むことで、実質的に一時的なEU市民として加盟各国で家族とともに暮らせるようにするものだ。
また、EUは2022年9月、ポーランド南東部ジェシュフに医療救助拠点「EU Medevac Hub」を開設し、同拠点を通じてウクライナから到着した患者に治療を提供してきた。これは、戦争の影響を受けた市民を支援する人道援助、メンタルヘルスや心理・社会的支援の提供により人々を支援するプログラムに割り当てられた9億2,600万ユーロ(約1,477億円)の資金によって賄われている。また、欧州委員会はEUにおける健康の改善・増進、国境横断的な公衆衛生危機からの市民保護および保健システムの強靱性強化などを目的とした「EU4Health(保健のためのEU)」プログラムから2,840万ユーロ(約48億円)以上を拠出し、ウクライナから逃れた人々の心的外傷の治療を支援するため、そのほぼ全額を国際赤十字連盟に寄付している。
こうした莫大な財政・人道支援に加え、EUは要人の公式訪問を通じてウクライナとの連帯を示してきた。これまでに、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は6回、シャルル・ミシェル欧州理事会議長は5回同国を訪問している。また、ボレル上級代表(計6回のうち4回は本格侵攻後)はじめ、その他の欧州委員も何度も同国を訪問してきた。さらに、EU加盟24カ国の政府首脳や閣僚による訪問は60回を超えている。
現在、ウクライナの国家予算の半分は国防に充てられているため、対外支援への依存度が極めて高い。欧州委員会は2022年11月、「マクロ財政支援プラス(MFA +)」パッケージを通じて、同国に対し2023年に最大180億ユーロを融資する支援策を提案、同枠組みは翌月に設置された。こうしたEUとしての施策に加え、リトアニア、ポーランド、デンマークをはじめ多くのEU加盟国がウクライナを支援するために複数年にまたがる資金提供を行っている。例えば、リトアニアはウクライナに対し、2024年~2026年に2億ユーロ(約319億円)の長期支援を行うことを決定したほか、総額10億ユーロ(約1,595億円)に上る発電機や弾薬、電波探知装置などを供給している。ポーランドは何百万人ものウクライナ難民を受け入れており、2023年12月に発足したトゥスク新政権はウクライナと弾薬や兵器を共同生産する計画について最終協議を行っている。また、デンマークによる支援は、これまでに軍事支援が43億ユーロ(約6,857億円)、民間の資金提供が4億800万ユーロ(約631億円)に上る。
「ウクライナの人々はヨーロッパ人になることを学ぶ必要はない。なぜなら、あなたたちは既にヨーロッパ人だからだ」。フォン・デア・ライエン委員長はウクライナ訪問時にこう述べた。この思いは、長期的な安全保障の確保と経済的見通しの向上という2つの主な理由から、EU加盟を目指すウクライナでも共有されている。フォン・デア・ライエン委員長とウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、同国のEU加盟に向けて必要な7項目の要件を満たすために緊密に協力してきた。ウクライナに「加盟候補国」の地位を与えるというEUの決定と、域外国のEU加盟に向けた取り組みを加速させることについては、双方の一般市民の間に幅広い支持がある。
多国間レベルでEUは、国際的パートナー、特に日本が昨年議長を務めた主要7カ国(G7)の枠組みとの緊密な連携を図っている。議長国として日本は柔軟性と用意周到さを発揮して国際協調体制を支えたが、それは苦境に立つ主権国家への支援という大義名分だけなく、ロシアの勝利が何を意味するかを考えれば正当なことであった。国外からの支援はロシアの本格侵攻に対するウクライナの2年にわたる抵抗にとって極めて重要であり、EUと日本は共にウクライナへの継続的な支援においてそれぞれ役割を果たしてきた。
EUと日本は共に、一地域の安全保障上の課題はもはや他地域と切り離して考えられないことを認識している。また、意思決定者だけでなく市民社会も、今日、外交政策がもはや個別の地理的ブロックの中で完結するものではないことを理解している。こうした新たな地政学的状況の中で、日本は遠く離れた紛争に苦しむ国にかつてない支援を提供し、EUとの関係の更なる深化に向けて動き出している。両者は共通の価値に基づき、効果的な多国間主義へのコミットメントに根ざした、これまで以上に緊密な戦略的パートナーシップを構築している。2022年2月以来、EUと日本は、ウクライナへの支援とロシアによる野蛮でいわれのない違法な侵略戦争に反対する立場を断固として堅持している。
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