欧州映画を世界に発信するEUの振興策

© Films du losagne / Denis Manin
PART 2

新たなMEDIA賞が次なる傑作を生む

MEDIAプログラムのハイライトともいえるのが、2000年に創設された「EU MEDIA(メディア)賞」で、毎年カンヌ映画祭開催中に授賞式が執り行われる。MEDIAの支援を受けた映画のうち、欧州内の最も多くの国々で上映された作品に与えられてきたこのMEDIA賞が、2012年から様変わりし、最も興業的成功が期待できる映画製作プロジェクトに授与されることとなった。

新たなMEDIA賞を最初に受賞したのは、昨年日本でも公開されて話題となった『別離』という作品で、同年のアカデミー賞外国語映画賞をはじめとして主要な国際映画賞8冠に輝いたイラン人監督アスガー・ファルハディ(脚本)とフランス人プロデューサーのアレクサンダー・マレット=ガイ(製作)のプロジェクトだ。脚本の段階で、しかも題名も正式には決まっていない状態で作品を選び、製作費用の一部を助成するこの新たなMEDIA賞は、EUを挙げて欧州映画の傑作を生もうとする意気込みの表われと言えよう。

昨年のカンヌ映画祭期間中に行われた新MEDIA賞の授賞式。左からアンドゥルラ・バシリウ教育・文化・多言語主義・青少年担当委員、アスガー・ファルハディ監督、プロデューサーのアレクサンダー・マレット=ガイ ©European Union, 2013

「政治家の中には、文化の多様性が生む虹のような美しさを壊して、対立をあおるような人たちもいる。そんな時代だからこそ、私の次の作品にMEDIA賞が授与されることに、勇気づけられる」と、ファルハディ監督は、昨年のMEDIA賞授賞式で語った。「MEDIAプログラムには心から感謝の念と、その明晰(めいせき)でオープンな文化交流へのビジョンに対する称賛の念を送りたい」

カンヌ国際映画祭のポスター

MEDIA賞はアニメーション、ドキュメンタリーを含む映画作品のシナリオ作成、主要俳優のキャスティング、製作スタッフ集めから、資金計画、初期マーケティング、パイロット版制作などが助成対象になる。審査にあたるのは、映画産業の専門家、欧州委員会と教育・オーディオビジュアル・文化執行機関(EACEA)だ。

ファルハディとマレット=ガイによる2012年MEDIA賞受賞作品は、同年秋からフランスで撮影されたLe PasséThe Past)だ。イラン人の夫とフランス人の妻の間の軋轢(あつれき)を描いた作品で、『アーティスト』の主演女優ベレニス・ベジョが妻役を演じている。本年のカンヌ映画祭のコンペティション部門に選出されている。

2013年のMEDIA賞に決定したのは、デンマークのトマス・ヴィンターベア監督の次回作だ。監督は、日本でも近年、『セレブレーション』(The Celebration)、『光のほうへ』(Submarino)などの作品が公開されて注目されている。 日本で現在上映中の『偽りなき者』(The Hunt)は、小さな町で暮らす中年男が、ある作り話のせいで人生が一変するほどの壮絶な運命をたどっていく様を描く。主演はデンマークを代表する国際派俳優で、昨年のカンヌで主演男優賞を受賞したマッツ・ミケルセンだ。

ヴィンターベア、そして彼と脚本を共同執筆したトビアス・リンホルム、プロデューサーのシセ・グラム・ヨルゲンセンによる受賞作The Communeは、MEDIAの助成を受けて2014年に製作が開始される。

「企画を具体的に形にしていく過程は、映画製作において、多大な創造的エネルギーを要する、極めて重要な作業だ」受賞が決まった際、ヴィンターベア監督はこう語っている。「EUのMEDIAプログラムのような枠組みが、そのことを十分理解して、この最も難しい段階を支援してくれるのは、とてもありがたい」

なお、本年のカンヌ映画祭では、MEDIAの支援を受けた映画13本が上映されている。また同映画祭のフィルムマーケット(Marché du Film)では、MEDIAブースが設けられ、欧州の映画プロデューサー、配給会社、セールスエージェント、さまざまな映画祭の主催者、そして映画ファンたちの交流の場を提供している。

ファルハディ監督のLe Passé、そして, ヴィンターベア監督の次回作が日本で公開される日を、楽しみに待ちたい。