2013.5.21
FEATURE
現在、フランス南部の保養地カンヌで、世界三大映画祭のひとつ、カンヌ国際映画祭が開催されている(5月15日から26日まで)。毎年5月中旬から下旬にかけて開かれる同映画祭だが、本年は日本から是枝裕和、三池崇史の2監督がコンペティションに参加しているほか、河瀬直美監督が審査員を務めるなど、日本の映画ファンも一層大きな関心を寄せている。なんといっても、世界の映画フアンの注目はパルムドール〈最高賞〉の行方だろう。
2012年のカンヌでパルムドールを受賞したのは、オーストリア人監督ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(Amour/フランス・オーストリア・ドイツ合作=タイトル背景写真)だった。強い信頼で結ばれた老夫婦の最後の日々を、2人の名優ジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァが見事に演じたこの作品は、本年2月の米国アカデミー賞で外国語映画賞の栄誉にも輝いた。『愛、アムール』は欧州連合(EU)の映画産業支援プログラム「MEDIA」(メディア)の助成を受けた作品のひとつだ。
映画発祥の地という自負を持ち、2月のベルリン、5月のカンヌ、9月のヴェネチアという世界の三大映画祭の開催地を擁すEUは、MEDIAを通じて映画産業の振興支援に力を注いでいる。本年のアカデミー賞では、このMEDIAの支援を受けた欧州映画6作品が、さまざまな賞にノミネートされていた。その中のひとつ、天才シンガーソングライター、シクスト・ロドリゲスの稀有な人生を追った『シュガーマン 奇跡に愛された男』(Searching for Sugar Man/スウェーデン・英国合作)は、長編ドキュメンタリー賞を獲得した。ノミネートに挙がった6本の作品には、MEDIAから計約200万ユーロの資金が投入されている。『愛、アムール』、『シュガーマン』以外の4本は以下の通りだ。
『英国王のスピーチ』(上)は、2011年のアカデミー賞で、コリン・ファースの主演男優賞を含む4冠を獲得している。また、サイレント映画のスタイルが印象的な『アーティスト』(下)は2012年のアカデミー賞で5冠に輝いた
このように、ハリウッド映画の祭典、アカデミー賞で欧州映画は大きな存在感を発揮している。2012年には白黒・サイレント映画の『アーティスト』(The Artist)が5部門で栄冠に輝き、フランス映画として初めて最優秀作品賞を受賞した。さらにその前年には、『英国王のスピーチ』(The King’s Speech/英国)が主要4部門で最優秀賞を受賞した。この2作も、国際配給でMEDIAの支援を受けている。
この他にも、昨年日本で公開されて、これまでのフランス映画の国内観客動員数・興行収入記録を塗り替えた『最強のふたり』(Intouchables)も、MEDIAの支援作品だ。事故で首から下が麻痺した大富豪と、彼を介護するスラムの黒人青年の友情を描いたこの作品は、コリン・ファース主演でハリウッドのリメイクも決定しているとのことだ。
MEDIAとはフランス語のMesures pour encourager le développement de l’industrie audiovisuelleの頭文字を取ったもので、映画を中心とするオーディオビジュアル産業の振興を目的とする資金助成プログラムだ。同プログラムは1991年、巨額の資金を投入して製作されるハリウッドの超大作の陰で、欧州映画が市場シェアを失いつつあった時期に立ち上げられ、多年次プログラムとして更新されてきた。現在は2007年から2013年末までを対象期間とする予算規模7億5,500万ユーロの「MEDIA 2007」が実施されている。
MEDIA 2007は、先行プログラムと同様、オーディオビジュアルメディアの普及促進に焦点をあて、作品製作活動全般を支援することを目指している。予算総額の約65パーセントが国際配給とプロモーションに充当されるとしており、欧州映画の市場競争力を高めるための支援プログラムであることは間違いない。
また、現行MEDIAでは特に、デジタル技術の向上とデジタル作品のための新たな配給ルートの開発といったデジタル環境への対応が重視されている。また、EU域内のオーディオビジュアル産業の大多数を占める中小の独立系プロダクションの資金確保の支援策に力を入れる方針だ。
MEDIA に参加しているのは、EUの27加盟国およびクロアチア、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウエー、スイスを加えた32カ国だ。参加各国には「メディア・デスク」が設けられ、MEDIAの支援を希望している映画製作者たちへのアドバイスや手助けを提供している。長編映画、ドキュメンタリー、アニメーション、テレビドラマも含めて、毎年何千もの作品がMEDIAの支援を受けている。
MEDIAの具体的な施策として、専門家育成、映像コンテンツ製作事業の支援、配給・プロモーション支援などが挙げられる。
例えば専門家育成支援では、映画・映像メディアの専門学校や大学の提携促進・資金助成、脚本や企画、マーケティングや配給などの専門スキルを高めるための60超のトレーニングコースに対する資金助成などを行っている。MEDIAの創設以来、毎年1,500人以上の専門家たちがこうしたコースを通して、新たな技術を習得し、ネットワークを広げている。
製作支援に関しては、中小企業の独立系プロダクション(ドラマ、アニメーション、ドキュメンタリー)に対する支援が中心だ。インターネット、パソコン、携帯用機器などのマルチプラットフォーム上で視聴されるインタラクティブ作品の製作も支援対象となる。また、独立系プロダクションと複数のMEDIA参加国のテレビ局との提携製作の支援も行う。
一方で、毎年ほぼ100に及ぶ欧州のフィルムフェスティバルを支援、欧州各地で毎年約50の見本市を開催してきた。こうした場を通じて、映画製作者たちに、国際的な市場への参入機会と、また製作の各過程に必要な専門家との出会いの場を提供している。
2011年に始まった「MEDIA Mundus (メディア・ムンドゥス)」は、映画産業での第三国との文化的・商業的関係を強化するための広範な協力を支援するプログラムで、2011年~13年にかけて、各年500万ユーロの助成金枠が設けられている。
MEDIA Mundusは、欧州および第三国のオーディオビジュアル専門家のスキル向上のためのトレーニング、共同製作・配給への助力、および国際市場への参入を後押しするため販売、宣伝、流通などへの支援に重きを置いている。
2012年に実施されたプロジェクトは35件あった。例えば脚本家・シナリオ編集者の国際的なトレーニングコース「Script & Pitch International」、欧州とアラブの12の映画プロジェクトで、脚本家、監督、プロデューサーが実際の製作現場でスキルを磨くためのトレーニング「Interchange」、欧州とインドの独立系プロデューサーの協同プロジェクトを推進するプログラム「Primexchange Europe」など多岐にわたっている。
また、昨年秋に東京で3回目が開かれた日欧のプロデューサーたちのための共同製作に関するACE Co-Production Labs(ACL)のワークショップも、MEDIA Mundusの支援を受けている。このワークショップは、欧州の独立系プロデューサーのネットワーク組織であるACE (Atelier du Cinema Européen)が、日本の映画を海外に普及させる活動などを行い、東京国際映画祭の主催団体でもある公益財団法人ユニジャパンと提携して開催したものだ。ACEは香港にも提携組織を持ち、同地でもワークショップを開いている。
来年、EUのすべての文化関連支援策を統合した「クリエイティブ・ヨーロッパ」というプログラムが始動する予定だ。2014年~2020年を対象に文化・クリエイティブ産業の振興を図るクリエイティブ・ヨーロッパには、文化助成プログラムとしては世界最大規模の、18億ユーロの予算が充てられ、これにより、およそ30万人のアーティストが助成を受けられるという。MEDIAのこれまでの業績を基に映画産業振興には9億ユーロ以上が充てられる。劇場公開からデジタル配信なども含め、1,000本以上の欧州映画の国際配給・配信を支援する。これまで以上に、オーディオビジュアル分野の専門家たちが国際マーケットに参入して活躍する機会を得やすくし、国際的に配給できそうな作品の製作を支援する。
今後、クリエイティブ・ヨーロッパの支援を受けて、欧州および第三国の才能が集結し、多様な文化を映し出す優れた映画作品がさらに多く生まれ、日本でも映画フアンを楽しませてくれるだろう。
多彩なヨーロッパ映画を見に行こう! EUフィルムデーズ2013 |
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11回目を迎える本年も、アニメーションからドキュメンタリーまで、さまざまなテーマの29作品(長編22・短編7)が上映される。そのうち長編10、短編5の計15作品は日本初公開。7月1日にEU加盟予定のクロアチアを含む22カ国の文化的多様性、そして映画製作者の幅広い才能を実感できる良い機会だ。ぜひ足を運んでほしい。東京のほか、高松、金沢、岡山、佐賀の各地にも巡回する。
EUフィルムデーズのウェブサイト:http://www.eufilmdays.jp/
【東京会場】 日時: 5月31日(金)~6月26日(水)(休映日あり。詳細はウェブサイトを参照) |
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