死刑を存廃両面から考えるシンポジウム開催

2017/01/11

この記事をプリントする

駐日欧州連合(EU)代表部は2016年11月17日、同代表部(東京都港区)でシンポジウム「死刑について議論しよう」を開催した。死刑廃止派、存置派の弁護士それぞれが自らの主張を展開するとともに、日本人を対象とした死刑制度に関する審議型意識調査を追ったドキュメンタリー映画も上映され、幅広い観点から死刑制度を考える機会となった。

専門家や一般市民100名が参加

シンポジウムで開会挨拶を行うイスティチョアイア=ブドゥラEU大使(2016年11月17日、駐日EU代表部)

本シンポジウムには、刑法の専門家や弁護士、法律を学ぶ学生や一般市民ら約100名が参加。折しも10月8日に日本弁護士連合会が採択した、国内の刑罰制度全体の改革を求める宣言の中で、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことが示され、シンポジウムは時宜を得た開催となった。

冒頭のあいさつでヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ駐日EU大使は、いかなる場合においても死刑執行に反対し、死刑は人の生きる権利を侵害する制度であるとするEUの立場を述べた上で「死刑制度の問題は複雑であり、まずは情報に基づく理解と十分な議論が必要。日本には特有の歴史的あるいは精神的な背景状況があり、この議論が十分になされていない。本シンポジウムが日本での議論に貢献することを望む」と、今回のシンポジウム開催の意義を強調した。

 

2人の弁護士が廃止、存置それぞれの主張を展開

シンポジウムでは、死刑廃止派の小川原優之弁護士(日本弁護士連合会死刑廃止検討委員会事務局長)※1、死刑存置派の髙橋正人弁護士(犯罪被害者支援弁護士フォーラム[VSフォーラム]事務局長)※2が、それぞれの主張を展開した。

小川原優之弁護士(死刑廃止派)の講演内容 

© Toru Shiomi

2014年の国連総会で「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が117カ国の賛成により採択され、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では日本だけが国家として死刑執行を行っていることなど、死刑廃止に向けた世界全体の動きを紹介。

国内で実際に起こった誤判やえん罪の事例を示し、死刑は一度執行してしまえば取り返しがつかない点や、虚偽の自白を引き出す恐れのある点などを日本の刑事司法制度の問題点として挙げた。犯罪被害者・遺族のための施策を充実させる一方、死刑を廃止して代替刑を検討し犯罪者の人権尊重も基本として更正プログラムを備えるなど、いずれの側についても、まず社会全体の責務として捉えることの必要性を訴えた。

髙橋正人弁護士(死刑存置派)の講演内容

© Toru Shiomi

犯罪被害者の立場となった時に、被害者に伝えられる情報が極めて少ない現状を説明し、刑事訴訟において被害者側の弁護士や被害者自身が参加できる被害者参加制度について紹介。

被害者側の応報感情を個人的な「あだ討ち」という形ではなく、国家が代行することに死刑制度を含めた刑法の意味があるのだと訴えた。また死刑制度が廃止された各国でも犯罪者に対して現場射殺などが適用される事例が多いこと、それに対して日本では犯罪者であっても生存した状態での逮捕を徹底していることなどを事例として挙げ、日本における死刑制度がむしろ厳密な手続きによって執り行われていると主張した。

日本の刑事司法制度にまで及んだ質疑応答

死刑廃止、存置双方の主張が終了した時点で行われた質疑応答では、参加者から「被害者遺族の応報感情は、被害者、その遺族の人権を擁護するためだというが、その人権を擁護するために加害者の生きる権利を奪ってもいいのか」といった加害者の人権擁護面から死刑への疑問が提起され、これに対して髙橋弁護士は「まずは加害者が被害者の命を奪っている。そこに対する思考が欠落している。加害者がどんな残忍な方法で被害者の命を奪っているのか。被害者遺族は加害者に対して死刑を求める人権、権利があると思っている」との考えを示した。

一方、死刑存置を主張する参加者からは「人を殺しておいて、『自分は反省している』、『死刑にしないでください』というのはおかしいではないか」との意見が出され、小川原弁護士から「われわれ社会のあり方として、加害者の命を奪う形ではなくて、死刑に代わりうるものがあるのではないか。応報感情をある程度満たす、死刑に代わる刑罰を考えていくべきだ」との考え方が示されるなど、白熱したやり取りが行われた。

質疑応答に続いて長塚洋監督のドキュメンタリー映画『望むのは死刑ですか 考え悩む世論』」※3が上映された。同作品は英国レディング大学講師の佐藤舞博士と早稲田大学教授のポール・ベーコン博士が行った2日間の審議型意識調査※4に参加する一般市民の様子を密着取材したもので、犯罪被害者の遺族や刑事司法の専門家からの意見、そして初めて知る具体的な情報に触れるうちに、死刑制度に対する参加者の意見や姿勢が変化し「考え悩む」様子を伝え、世論を形成する人々の実情を映し出している。

シンポジウムではドキュメンタリー映画『望むのは死刑ですか 考え悩む世論』が上映された  © Toru Shiomi

議論を経て多くの参加者は「考え方が変わった」と回答

シンポジウム終了後のアンケートでは、「死刑に対する考え方に変化があったか?」との問いに対して、各専門家の提言や今まで知らなかった現状や事実に触れたことで大多数の参加者が「変化があった」、「死刑制度に対する理解が深まった」と回答した。

死刑存廃に対する意見は分かれているものの、死刑に関する議論の必要性は参加者のほぼ全員が賛同する結果となった。ドキュメンタリー映画の中で行われたアンケートでも、参加者全体でみた死刑賛成派と反対派の割合自体は変化しないものの、参加者一人ひとりの意見や考え方は調査が進むにつれて大きく変化している。いずれの結果からも、まず議論を始め、死刑制度に関する理解を深めることの重要性があらためて確認された。

なお、日本国内における死刑制度に関するオープンな議論を促そうと、EUとその加盟国(在日大使館のない2カ国を除く)、およびノルウェー、スイス、アイスランドの計30人の代表は、10月10日の世界死刑廃止デー・欧州死刑廃止デーの翌10月11日、日本の金田勝年法務大臣に宛てた共同書簡を提出している。

 

関連情報

「死刑制度のない世界」を目指すEUの取り組み(EU MAG  2014年9月 特集)

※1^ 小川原 優之(おがわら ゆうじ)弁護士
オウム真理教教祖の1審弁護士であり、日弁連死刑廃止検討委員会事務局長。2016年10月、日弁連人権擁護大会で採択された「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」の取りまとめに関わった中心メンバー。

※2^ 高橋 正人(たかはし まさと)弁護士
犯罪被害者問題のエキスパートとして、犯罪被害者の権利確立に取り組み、刑事司法手続きへの参加のための施策を推進。全国犯罪被害者の会[あすの会]設立当初から入会、同会副代表幹事。現在は、弁護士による団体である犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)を立ち上げ、もっぱら同フォーラムの事務局長として活動・講演。

※3^2017年以降も全国各地で上映会が予定されている。詳細は映画の公式HPにて確認できる。
※4^討議を繰り返し、その前後の意識の変化を見る調査手法。

2017/01/11

この記事をプリントする