2021.9.28

EU-JAPAN

日本にいながらヨーロッパを楽しむ! 欧州テーマパークの世界

日本にいながらヨーロッパを楽しむ! 欧州テーマパークの世界

日本にはヨーロッパの国々の美しい街並みや庭園、建物、また物語の世界観などを再現したテーマパークが複数存在し、各地でヨーロッパ旅行を疑似体験できる。日本で人気の西洋絵画をモチーフにした庭園をはじめ、姉妹都市・文学・工芸品などをきっかけに誕生したテーマパークの一例を紹介しよう。

フランス☓高知県北川村
北川村「モネの庭」マルモッタン

高知県の南東の中山間地に位置する北川村は人口約1,200人の小さな村。「北川村『モネの庭』マルモッタン」は“印象派の巨匠”と呼ばれる画家クロード・モネの代表作である連作の『睡蓮』をはじめ数々の名画を生んだフランスの「モネの庭」を再現したテーマパークだ。モネが自ら庭造りにいそしんだ睡蓮の池や太鼓橋と藤棚など、彼が終生愛した美しい景色を、高知県の小さな村で眺めることができる。

園内の随所にモネの作品の複製画が展示され、目の前に広がる景色と比較できるようになっている

園内には、モネの愛した睡蓮が咲く池を中心とした「水の庭」、バラのアーチや色とりどりの華やかな植物があふれる「花の庭」、そして北川村「モネの庭」マルモッタンのオリジナルの庭園として、モネが旅した北イタリアの地中海の世界をテーマにした「ボルディゲラの庭」の3つの庭がある。「水の庭」には、本家から株分けされた赤系や白色の睡蓮のほか、モネが咲かせたいと願い続けた青色の睡蓮も見事に花をつけている。

また、料理好きのモネが遺したレシピを基に高知県の食材を使ったメニューを提供するカフェも併設しており、園内に一歩足を踏み入れれば、まるでモネの作品やモネの夢の中に入り込んでしまったかのような感覚に包まれることだろう。

モネが憧れた青い睡蓮。気候の関係でフランスでは咲かせることができなかったが、北川村では見ることができる

ここまで忠実にモネの世界観を再現できたのは、北川村のスタッフたちがモネの作品とノルマンディー地方のジヴェルニー村にある本家「モネの庭」への惜しみないリスペクトを注いだからだ。同公園を運営する株式会社きたがわジャルダンの和田昌敏代表取締役は「モネとフランスのモネの庭の名を汚すことのないよう、職員全員が常に意識して働いている」と話す。

「フランスのジヴェルニーと日本の高知県とでは、気候も生態系もまったく違い、ジヴェルニーで栽培されている植物で構成することはできませんでした。本家の庭園管理責任者であるジルベール・ヴァエ氏(当時)にアドバイスを求めると『同じ植物が使えなくても、モネの精神性や画の世界観を別の花で表現してください』と言われました。そこで私たちはジヴェルニーのモネの庭を単純にコピーするのではなく、北川村オリジナルの庭造りでモネの世界を再現することに取り組みました」。

冬期の休園期間(12月~2月)以外は、季節ごとに美しい花々が楽しめる。和田氏は「特に5月はバラの花が咲き、睡蓮も咲き始めて、庭が明るい絵の具の色で描いたように活気を帯びます。秋も名残の睡蓮が咲きつつ、秋らしい花々が咲き誇ります。ただ台風や長雨があると草花に影響が出るので、裏方の作業はとても大変です。ノルマンディーは落ち着いた気候なので、日本のような苦労はあまりないかもしれませんね」と笑う。

本家の現庭園管理責任者ジャン=マリー・アヴィサール氏(左端)、ヴァエ氏(左から4人目)らフランス側スタッフが定期的に来園し、 “再現度”をチェック。長年の交流でヴァエ氏の日本側スタッフへの信頼は厚いという

しかしなぜ、そんな気候も違う場所で、モネの庭を再現しようとしたのか。聞けば、元々は北川村とモネとは縁もゆかりもなかったのだという。「北川村は柚子の名産地で、柚子ワインの事業計画を進めていたのですが、バブルが崩壊して計画は頓挫。造成も終わった工場の建設予定地で何をすべきかと頭を抱えていた時、ジヴェルニーのモネの庭を知った人から、これを造るのはどうだろうかという提案があったのです。北川村の人たちは柚子の栽培に長けており、植物を育てることには自信があったので、庭造りならできるだろうと。何の伝手もないままプロジェクトチームを立ち上げてフランスのモネの庭を訪ねました」。

案の定、初めての訪問ではまったく相手にされなかった。しかし、関係者にアタックを続ける中で知り合ったクロード・モネ財団理事長だったジェラルド・ヴァン・デル・ケンプ氏が「小さな村の頑張りに協力しましょう」と決断、開園への第一歩を踏み出すことができた。和田氏は「日本を愛し、浮世絵に大きな影響を受けた天国のモネが、私たちを支持してくれたのではないかと思うくらい奇跡的なことでした」と振り返る。

庭造りは、ヴァエ氏が北川村に来訪して直接指導、完成した庭は本家も認める出来栄えとなった。開園に際しては、モネの作品を多数収蔵するパリのマルモッタン美術館(現・マルモッタン・モネ美術館)から“マルモッタン”の名を授与され、「北川村『モネの庭』マルモッタン」という正式名称となった。

北川村「モネの庭」マルモッタンは、2020年の開園20周年を機に「光の庭」と称していた庭を大幅リニューアルし「ボルディゲラの庭」と改名した。「『光の庭』はモネが約30作品を描いた北イタリアのリゾート地・ボルディゲラをイメージして2008年にオープンしましたが、12年を経てかなりダメージを受けており、ヴァエさんにも相談して徹底的に手を入れました。1,000トンの石を運び、ヤシの木やオリーブの木も植えました。高台にある小屋から見下ろす土佐湾は、まるで地中海のように感じられるはずです」。

モネがルノワールと旅行した北イタリアのリゾート地を再現した「ボルディゲラ」の庭

クロード・モネ財団ウッグ・ガル理事長の「北川村を応援したい」という厚意により、2012年から北川村「モネの庭」マルモッタン入園券の半券は、ジヴェルニーのモネの庭の入園券として使えるようになっている(使用期間は2027年の開園期間まで)。まずは北川村「モネの庭」マルモッタンで日本版のモネの庭を満喫し、海外旅行を気兼ねなくできるようになった暁には、共通チケット片手に真っ先にジヴェルニーの「モネの庭」を訪れてみてはいかがだろうか。

北川村「モネの庭」マルモッタン https://www.kjmonet.jp/

デンマーク☓千葉県船橋市
ふなばしアンデルセン公園

デンマーク第3の都市オーデンセは童話作家H.C.アンデルセンの生誕の地。オーデンセ市と姉妹都市として結ばれている千葉県船橋市が市制施行50周年を迎えたことを記念して整備したのが「ふなばしアンデルセン公園」だ。

アンデルセンが活躍した1800年代のデンマークの風景をメルヘンの丘ゾーンに再現。風車、噴水、農家、童話館、コミュニティセンターなどの建物は、オーデンセ市のフュン野外博物館に保存展示されている小学校や管理棟を模した造りになっている。特に高さ16mを越える風車は、現地の職人が手がけたデンマーク式粉ひき風車で、当時の建築技術を伺い知ることができる。また、同国内外で初めて複製が許可されたアンデルセンの立像をはじめ、園内には記念の造形物が点在。童話館には、アンデルセンの部屋を再現したギャラリーや、彼の童話を紹介するシアターもあり、その人物像に触れることもできる。

園内には、春は桜、夏はヒマワリ、秋はコスモス、冬はアイスチューリップと四季折々の花が咲き誇る。季節ごとに異なる花が広がる景色に、訪れるたび新鮮な気持ちになれる憩いの公園となっている。

風車(左)と童話館のギャラリー

ふなばしアンデルセン公園 https://www.park-funabashi.or.jp/and/

フィンランド☓埼玉県飯能市
メッツァ

森と湖の国と呼ばれるフィンランドは、森林が国土の約7割を占める。同様に市の面積の約7割が森林という埼玉県飯能市も、森林文化都市を宣言して自然と都市機能が調和したまちづくりが行われている。こうした共通点を活かし、飯能市にフィンランドをモチーフにしたテーマパーク「メッツァ」が誕生した。園内は、フィンランド出身の作家トーベ・ヤンソン作の児童文学の主人公ムーミンの物語の世界観を再現した「ムーミンバレーパーク」と北欧の暮らしを体感できる「メッツァビレッジ」の2つのエリアに分かれている。

ムーミンバレーパークには、ムーミン一家の暮らすムーミン屋敷や物語の中に登場する水浴び小屋、灯台などが再現され、物語の世界に浸ることができる。また画家でもあったヤンソンの絵や彼女の姪ソフィアからのウエルカムムービーなども展示され、これらを通じて作家自身についても知ることができる。

「メッツァビレッジ」は森と湖に囲まれた、一日をのんびりと過ごせる場所だ。カヌーや暮らしのワークショップなどの体験を通じて、北欧のライフスタイルに触れることができる。

運営会社のマーケティング企画部の森田和裕マネージャーは「北欧は幸福度が高いことで知られていますが、それは“余白”の時間が生活にあるからだと私たちは考えています。またムーミンの物語の世界からは個性豊かな登場人物たちによって互いの違いを受け入れる寛容性が提示されています。メッツァでの体験を通じて、みなさんに”life”について考えるきっかけとなるような場所を目指しています」と話す。

ムーミン屋敷(左)とメッツァビレッジの森と湖

メッツァ https://metsa-hanno.com/

オランダ☓長崎県佐世保市
ハウステンボス

運河で知られるオランダの景観を模して、園内に全長6キロの運河が巡るハウステンボスは、オランダから輸入したレンガで造られた建物や石畳の街並みが印象的だ。オランダ政府や王室の協力を得て現地の建物を忠実に再現しており、例えば園内にあるホテルアムステルダムは、建物の一部がわずかながら前に倒れかかっている。オランダでは建物の間口の広さで課税されていたことから、入り口を狭くし、荷物の搬入をする際には滑車をとりつけロープで上げ降ろしをしていたからだという。このようなオランダ人の小さな生活の知恵を目にすることができるのも見どころの一つだ。

3月に見ごろを迎えるチューリップをはじめ、5月には100万本のバラに包まれ、四季折々の花が園内を彩る。夜には世界最大級のイルミネーションがきらめき、園内ホテルに宿泊すれば、開園前の贅沢な空間で早朝の散策も楽しめる。

2022年3月には開園30周年を迎える。シンボルタワーのドムトールンはオランダのユトレヒト市に実在する時計塔を再現したものだが、2021年に本国ではドム塔700周年を迎え、50年に一度の修復作業が行われている。そのドム塔のオーナメントをハウステンボスが譲り受けることが決定。ハウステンボスでは、開園記念日の来年3月25日にオーナメントを公開する予定だ。

現地の建物を忠実に再現した宮殿(左)と園内に広がる運河 ©ハウステンボス/J-19912

ハウステンボス https://www.huistenbosch.co.jp/

ドイツ☓佐賀県有田町
有田ポーセリンパーク

ヨーロッパの王候貴族を魅了し、世界の陶磁器に影響を与えた有田焼。世界に名だたるマイセン磁器も有田焼の、特に柿右衛門様式に大いに触発されたことが知られている。東洋磁器に憧れてマイセンで磁器製造を始めたのが、領主だった18世紀のザクセン選帝侯・アウグスト強王だ。彼がドレスデンに建設したツヴィンガー宮殿には、膨大な数の東洋磁器や東洋に関する文献が集められたと言われていた。1970年になって、ツヴィンガー宮殿などから古伊万里をはじめとする有田焼が発見され、その後、有田町でこれらの磁器の「古伊万里里帰り展」が開催された。それを機に、有田町とマイセン市が姉妹都市協定を締結。マイセン市から、2つの都市を結びつけるきっかけとなったツヴィンガー宮殿の設計図が贈られ、これを参考に有田ポーセリンパークのツヴィンガー宮殿が建てられた。

ツヴィンガー宮殿は、ポーセリンパークのシンボルともいえる建物。宮殿の入り口を抜けた先に広がるバロック様式の庭は、対称性の美しさを追求した開放的な空間。最近は“映え”スポットとして、多くの若者たちが撮影に訪れている。

ドイツ・バロック建築の華と言われたツヴィンガー宮殿を模した建物(左)とバロック庭園

有田ポーセリンパーク https://www.arita-touki.com/

人気記事ランキング

POPULAR TAGS