2012.10.12
FEATURE
古来、人類は、海洋とのかかわりを通じて、資源や運輸・交通手段、生態系の維持、娯楽・レジャー等のさまざまな価値を見出してきた。現在の、欧州連合(EU)市民の生活も、漁業やエネルギー(油田、ガス田)、交通、物流、観光などの産業を大きく海洋に依存している。欧州全域の海岸線は延べ7万キロメートルあり、また、EUの人口の約4割が居住する沿岸地域からは、EUの国内総生産(GDP)の約40%が産み出されている。EUの漁業は、年間640万トンの魚を水揚げする世界で4番目の規模を擁し、魚介類の加工産業と合わせて35万人を超える雇用を創出している。
海洋の持続的な利用は、EUにとって重要な地域的課題であり、水産物やエネルギー等の海洋資源の過剰開発の防止を目的に、さまざまな取り組みが積極的に行われてきている。共通農業政策(Common Agricultural Policy=CAP)と同様、EU統合の歩みの中で進化してきた共通漁業政策(Common Fisheries Policy=CFP)においても、持続性の確保はその中核に据えられている。
EUの漁業に関する共通規則は、当初、共通農業政策(CAP)の中で扱われていた。しかし、漁業に関する最初の共通措置がとられた1970年以降、農業とは異なる要素や、漁業に固有の問題を別に扱う必要から、次第にCAPからの分離・独立が図られ、1983年、共通漁業政策(CFP)として確立されるに至った。その後、二度の見直しを経て、現行のCFPは 2003年から施行されている。
EUが最も重要視しているのは、今日の漁業により将来の海洋資源を枯渇させないことである。そこで、海洋資源の管理と保護は、CFPの中でも、特に重要な政策分野として位置づけられている。
EUの漁業政策の中でも特徴的なのは、EU加盟国が、漁獲可能量(Total Allowable Catch=TAC)や、操業に関する規制をEUレベルで定めることに合意し、その権限をEUに委譲していることである。加盟各国の排他的経済水域(Exclusive Economic Zones=EEZ)は、EUの共通海域とされ、EU全体の枠組みとしてTACを定めることにより、適切な漁業資源管理を施すべく取り組んでいる。
EUのTACは、国際海洋調査評議会(International Council for the Exploration of the Sea=ICES)の勧告に基づき、欧州委員会が年ごとに提案を行い、その提案を基にEU漁業理事会が決定する。欧州委員会の担当局は漁業・海事総局で、ギリシャ出身のマリア・ダナマキ漁業・海事担当委員(2010年~2014年)が管轄している。現行のCFPにおいては、TACの設定は、欧州議会との共同決定事項ではなく、加盟各国の担当閣僚により構成されるEU漁業理事会の専決事項となっている。TACの決定後、EU各加盟国には、各国の漁業実績などに基づく割り当て基準に従って、魚種別の漁獲割り当て(quota)が配分される。
EU加盟各国には、EUにより、自国の漁獲能力(fishing capacity)の上限を定めること、資源回復計画などに基づき漁獲能力を最適レベルまで削減することなどが義務付けられている。また、自国漁船による違法操業の監視や取り締まりなどは、各加盟国の権限とされているが、EUは、このような各加盟国の監視取り締まり状況をモニタリング・評価し、場合によっては制裁を科す権限を有している。
欧州海域の水産資源(欧州環境機関(EEA):2008年)
※ 欧州の各海域の漁獲高(円グラフ)のうち、過剰漁獲されている量(赤)と生物学的に維持可能な量(緑)を示している。円グラフ内の数字はその海域の魚類資源の種類の数を表す。
国別・魚種別の漁獲割当量(欧州委員会漁業・海事総局(DGMARE):2012年)
※ ポインターをあててクリックすると欧州の各国・各海域ごとの漁獲割当量が表示される。
海洋資源の保護と利用のバランスが模索される一方で、漁業の活性化と競争力強化を図る必要から、EUは、加盟国に対する財政支援措置を実施している。漁業指導財政措置(Financial Instrument for Fisheries Guidance=FIFG、2000年-2006年、総額37億ユーロ)と、欧州漁業基金(European Fisheries Fund=EFF、2007年-2013年、総額43億ユーロ)が具体例として挙げられるが、これらは共に、EUが各国に対して行う財政支援の仕組みであり、持続可能な漁業を実現することを目的とした漁業の構造政策を推進するために設置された。
EUにおける漁業の構造政策は、かつては近代化や生産性の向上が主軸とされていたが、漁業自体の持続性を高めるねらいから、特に2003年に現行のCFPが施行されて以降、資源の保護・管理に重点が置かれるようになっている。財政支援措置についても同様で、2007年から始まったEFEの支援対象には、漁船の解体など漁獲能力削減にかかる費用、資源回復計画に伴う休漁や減船に対する補償費用、選択漁具(不必要な生物の混獲防止等を目的とし開発された底曳網など)の導入費用、環境に配慮した養殖業に対する支援、漁村振興などが含まれている一方で、漁船関係の支援については、漁獲能力を増大させる可能性のない労働環境や安全・衛生の改善のための設備投資に厳しく限定されている。
CFPは、1983年に策定されて以降、10年ごとに見直しが行われてきている(1992年および2002年)。現行のCFPについても、2012年で適用を終了することから、現在、2013年からの施行に向けて、新しいCFPが策定されている状況にある。
新しいCFPの策定の過程においては、特に、現行のCFPが過剰な漁獲を防止するのには不十分であったとの反省から、漁獲能力に関連する問題への対処が検討されている。具体的には、漁船の過剰な漁獲能力の抑制、政策目的を明確化し意思決定や政策の実施に向けた指示の徹底を図ること、長期的視野に基づく意思決定システムの構築、漁業部門の関係機関・関係者間で責任の所在を明確化させること、法令遵守(コンプライアンス)に対する意識向上を図ることなどについて、さまざまに検討が進められているという。
CFPと同時に、EUレベルで行われている財政支援措置の見直しも進められており、2014年からは、EFEに代わって、欧州海洋漁業基金(European Maritime and Fisheries Fund=EMFF)が始動することになっている。
EUは、各加盟国から権限の委譲を受けて、加盟国の漁船がEU域外の沿岸国の管轄水域で操業するための権利獲得のため、第三国と交渉し、入漁協定を締結する権限を有している。
これまで、EUは、さまざまな国・地域との間で漁業協力協定を締結することにより、EUの漁業従事者に遠洋漁業のアクセス権を確保するのみならず、持続的な海洋資源の利用に向けて、過剰な漁獲や違法な漁業の禁止を国際的なレベルで推進させてきた。また、漁業に関するEUの対外関係は、非EU加盟国の漁業に対する協力を通じてその育成を支援するとともに、EU市場や消費者に水産物を安定供給することにも役立っている。
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