欧州の安定と平和を強化するEUの拡大

Ⓒ European Union, 2019 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Georges Boulougouris

ロシアのいわれのない不当な侵略を受けたウクライナがEUへの加盟を申請したことで、EUの加盟プロセスがあらためて注目されている。1952年にEUの原点である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立されて70年。EUの拡大の歴史と加盟手続きなどを説明する。

EU拡大の歴史

欧州連合(EU)の母体である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)は、第二次世界大戦後の荒廃した欧州を復興させ、二度と紛争が起きないようにするために、各国の戦争を可能にする資源を共同管理して経済の相互依存を進めるべきという発想に基づいて1952年に創設された。原加盟国となったベルギー、ドイツ(当時の西ドイツ)、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダの6カ国は、その後欧州経済共同体(EEC)を創設、EECは欧州経済共同体(EC)へと進化した。この欧州統合の試みは大いに成功を収め、時と共に多くの国がEUへの加盟を希望するようになった。 EC時代に6カ国が加盟、1993年のEU創設以降は、中欧・東欧諸国が続々と加盟を申請し、2013年には28カ国にまで拡大(その後2020年に英国の脱退により27カ国へ)。EUは、その拡大に比例して、欧州の民主主義と安全保障の強化・安定に貢献し、その貿易と経済成長の可能性を高めてきた。

2022年3月現在、アルバニア、北マケドニア、モンテネグロ、セルビア、トルコの5カ国が加盟候補国(candidate countries)、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボの2カ国が潜在的加盟候補国※1(potential candidate countries)となっている。さらに、同年2月24日のロシアの侵攻を受けたウクライナおよび、同国周辺のジョージアとモルドバが立て続けに加盟を申請した。

EUの拡大政策は、欧州の安定と平和への戦略的な投資という意味を持つ。EUに加盟するには、全ての加盟条件を満たすための徹底したプロセスが求められ、加盟までには、さまざまな作業が必要となる。

各国の申請・交渉・加盟の時期は文末に記載

EUに加盟する条件

欧州連合条約は、自由、民主主義、人権および基本的自由の尊重、加盟国共通の法の支配の原則を尊重するいかなる欧州の国も加盟を申請できると定めている。以下が関連する条項である。

欧州連合条約(抜粋)

2条

連合は、人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配の尊重およびマイノリティに属する人々の権利を含む人権の尊重という価値に基礎を置く。これらの価値は、多元主義、非差別、寛容、公正、連帯および男女平等が普及している社会にある加盟国に共通する。

49条

第2条に掲げる価値を尊重し、その促進に努める欧州の国はいずれも、連合への加盟を申請することができる。欧州議会および加盟国議会は、その申請について通知を受ける。

加盟申請国は、自らの申請をEU理事会に対して行う。EU理事会は、欧州委員会に諮問し、かつ総議員の過半数をもって決定する欧州議会の同意を得た後、全会一致をもって議決する。欧州理事会によって合意された加盟条件は考慮される。…

EUに加盟するために申請国が満たすべき主要条件は、1993年にデンマークのコペンハーゲンで開催された欧州理事会が定めた「コペンハーゲン基準」である。EUへの加盟を希望する国は、次の3つの基準を満たしていなければならない。

  • 政治的基準:民主主義、法の支配、人権、マイノリティの尊重と保護を保証する安定した諸制度
  • 経済的基準:正常に機能する市場経済およびEU域内の競争や市場の力に対応できる能力
  • 法的基準(EU法の総体「アキ・コミュノテール、略してアキ」の受容):政治・経済・通貨統合の目的の遵守など、加盟国としての義務を担い、効果的に実施する能力

なお、西バルカン諸国(アルバニア、北マケドニア、モンテネグロ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ)については、地域内の協力や良好な隣国との関係に関わる「安定化・連合プロセス」で定められた追加条件を満たすことが必要になる。

EU加盟までのプロセス

加盟候補国は、コペンハーゲン基準を満たし、EU法の総体「アキ」を履行できるように、国内の政治面、経済面、法律面において、それぞれに必要な制度改革を進めなければならない。加盟予定国(後述)は、加盟後にEUの一員としてその目的や責任を果たすために、アキを履行する体制が必要だからだ。

加盟プロセスは、大きく分けて、①加盟候補国に認定、②加盟交渉、③交渉完了、の3段階に分かれている。

① 加盟候補国に認定

加盟申請を受けて、欧州委員会が当該国の準備が整っているかに関する「意見書(Opinion)」を作成。それを基に準備ができていると全EU加盟国が判断すれば、EU理事会は全会一致の決議で、正式な加盟候補国と認定する。

② 加盟交渉

EUは加盟候補国とアキの35の政策分野(章=Chapter) ごとに交渉を行い、加盟候補国はアキを適切に適用・履行するための国内法の改正や、加盟基準(accession criteria)を満たすために必要な司法・行政・経済の改革を実施する。交渉を開始する際は、EUの執行機関である欧州委員会が審査 (screening)※2を行い、EUと加盟候補国双方の交渉ポジション(negotiation position)※3を明らかにする。なお、交渉開始には全EU加盟国が加盟候補国との交渉の枠組みや権限について合意することが必要。

交渉のペースは、加盟候補国における改革やEU法との整合化のスピードによって左右される。交渉期間はさまざまだ。交渉期間を通じて欧州委員会は、加盟候補国がEU法の適用や基準の要件などその他の約束事項をどの程度達成しているかを監視する。同時に、加盟候補国に対する経済的・技術的な支援を行う。

③交渉の完了

35章の交渉は、欧州委員会の分析に基づいて、全てのEU加盟国政府が当該の政策分野における加盟候補国の改革の進捗に満足するまで続けられる。全35章の交渉が終了してようやく、交渉プロセスが完了する。

交渉が終結し、加盟がEU全体から承認されると、既加盟国それぞれの代表と加盟候補国との間で加盟条約を締結する。条約には、加盟に関する詳細な条件、経過措置に関する全ての取り決めや期限のほか、財政措置の詳細やセーフガード(緊急制限)条項が定められている。

加盟条約が締結されると、加盟候補国は加盟予定国(acceding country)となる。その後、加盟条約が加盟予定国および全てのEU加盟国で批准されれば、条約の規定に則った日付をもって正式なEU加盟国となる。

加盟予定国は、正式な加盟国となるまでの間、EU法、コミュニケーション(政策文書)、勧告、イニシアティブなどの原案について意見を述べることができ、またEU諸機関において「アクティブオブザーバー」(発言権はあるが、投票権は持たない)の地位を得るなど、特別な取り決めの恩恵を受けることができる。

EU加盟へのプロセスを説明したインフォグラフィクス。クリックで全体表示 © European Union, 2021

新たにEUに加盟申請した3カ国

2022年2月28日、ウクライナは、EUへの加盟を正式に申請した。続いて、3月3日には、ジョージアとモルドバが同様に申請。申請を受けたEU理事会は、欧州委員会に対して3カ国の申請に関する「意見書」を提出することを求めた。欧州委員会は、EU理事会と緊密に連携してこの作業を迅速に進める予定だ。

EU加盟申請に関する「意見書」の作成は、徹底的かつ包括的な作業が必要となる。例えば、加盟申請国の憲法や法体系、またアキとの整合の度合いについて詳しい情報を収集するため、申請国に対して数千の質問から成る長大な質問書を送ることなどが含まれる。

欧州委員会は、こうした作業を経て完成させた「意見書」をEU理事会に提出し、政治的な決定を諮る。加盟交渉の開始や加盟候補国としての地位の付与には、EU理事会の全会一致による決定が必要となる。

ウクライナは、EUの「東方パートナーシップ」や「欧州近隣政策」における優先的なパートナーであり、2014年には「深化した包括的な自由貿易圏」を設立することなどに関して、EUは同国と「連合協定(Association Agreement)」を締結している。EU首脳が3月11日にフランス・ヴェルサイユで開催された非公式会合で「ウクライナは欧州の家族の一員」であると強調したように、EUは、欧州への合流の道を追求するウクライナを支援するため、関係を強化し、連携を深めている。EUは、モルドバやジョージアとの連携も強化していく。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、フランス・ヴェルサイユで行われたEU首脳会議後の記者会見で「ウクライナは欧州の家族の一員」と述べた(2022年3月11日)Ⓒ European Union, 2022 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Dati Bendo

 

EU加盟国・加盟候補国・潜在的加盟候補国・加盟申請中の国一覧

国名 加盟申請年月 交渉開始年月 加盟年月
原加盟国 ベルギー 1952年7月

(ECSC発足)

ドイツ(当時西ドイツ)
フランス
イタリア
ルクセンブルク
オランダ
加盟国 デンマーク 1961年8月/1967年5月 1970年6月 1973年1月
アイルランド 1961年8月/1967年5月 1970年6月
ギリシャ 1975年6月 1976年12月 1981年1月
スペイン 1977年7月 1979年2月 1986年1月
ポルトガル 1977年3月 1978年10月
オーストリア 1989年7月 1993年2月 1995年1月
フィンランド 1992年3月 1993年2月
スウェーデン 1991年7月 1993年2月
チェコ 1996年1月 1998年3月 2004年5月
エストニア 1995年11月 1998年3月
キプロス 1990年7月 1998年3月
ラトビア 1995年10月 2000年2月
リトアニア 1995年12月 2000年2月
ハンガリー 1994年3月 1998年3月
マルタ 1990年7月 2000年2月
ポーランド 1994年4月 1998年3月
スロヴェニア 1996年6月 1998年3月
スロヴァキア 1995年6月 2000年2月
ブルガリア 1995年12月 2000年2月 2007年1月
ルーマニア 1995年6月 2000年2月
クロアチア 2003年2月 2005年10月 2013年7月
加盟候補国 トルコ 1987年4月 2005年10月
北マケドニア 2004年3月 2020年3月(交渉開始が決定)
モンテネグロ 2008年12月 2012年6月
アルバニア 2009年4月 2020年3月(交渉開始が決定)
セルビア 2009年12月 2014年1月
潜在的加盟候補国 ボスニア・ヘルツェゴビナ 2016年2月
コソボ 未申請
加盟申請中 ウクライナ 2022年2月
モルドバ 2022年3月
ジョージア 2022年3月
* 1967年~1993年は欧州共同体(EC)
* デンマークとアイルランドは1961年8月に最初の加盟申請をしたが交渉は中断
*英国はデンマークおよびアイルランドと同様に1961年8月と1967年5月の申請の後、1973年に加盟。2021年に脱退(離脱)

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※1^潜在的加盟候補国:準備が整ったときにはEUに加盟するという可能性を約束されている国
※2^審査 (screening):欧州委員会は、加盟候補国と共に各政策分野(章=chapter)を詳細に検討し、加盟候補国の準備の度合いを判断する。章ごとの指摘事項は、欧州委員会が審査報告書として加盟各国に説明する。報告書の結論に基づき、欧州委員会は、直接交渉を開始するか、特定の条件(開始基準=opening benchmarks )を充足する必要があるのかについて勧告する。
※3^交渉ポジション(negotiation position):交渉開始前に、加盟候補国は自らのポジションを提出せねばならず、EUは共通のポジションを採択しなければならない。EUは、大半の章について交渉ポジションの中で加盟候補国が満たす必要のある交渉完了基準を定める。