EU大使、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、継続的な国際協調の必要性を強調

3月3日、パトリシア・フロア駐日欧州連合(EU)大使は、日本外国特派員協会(Foreign Correspondents Club of Japan = FCCJ)で記者会見を行った。会見では、ロシアのウクライナ侵攻に対するEUの対応について説明するとともに、この前例のない侵略行為に対して国際社会が断固として立ち向かう必要があることを強調した。

ロシアを非難する国連決議の採択

フロア大使は会見の冒頭で、平和で独立した主権国家である隣国ウクライナに対するロシアのいわれのない不当な軍事的侵略について、最も強い言葉で非難した。さらに、ロシア政府は国際法を著しく侵害し、欧州や世界の安全保障と安定を脅かしていると警告した。

「私たちはロシアに対し、直ちに敵対行為を停止してウクライナ全土から軍を撤退させ、ウクライナの領土の一体性、主権および独立を完全に尊重することを求めています。このような武力や威圧の使用は、21世紀ではありえません」

ロシアのウクライナ侵略に関して記者会見するフロアEU大使(2022年3月3日)写真提供:日本外国特派員協会

また、フロア大使は、自国を防衛するだけでなく、自由のたいまつを掲げて普遍的価値やルールに基づく秩序のために国際社会を代表して戦っているウクライナ国民を称賛し、敬意を表した。

この記者会見に先立ち、国連総会の緊急特別会合において、ウクライナのほかEU加盟27カ国を含む日本など96カ国が共同提案した「ウクライナに対する侵略」に関する決議案が141カ国の賛成による圧倒的多数で採択された。決議案は、ロシアによる侵略を「最も強い言葉で非難」し、ウクライナの主権や独立、統一、領土の一体性に対する国際社会のコミットメントを再確認した。また、ロシアに対し、軍隊の即時撤退と国際法の遵守を要求し、人道支援活動に対する安全の確保を求めている。一方、決議案に反対したのはロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリアの5カ国に留まり、他のロシアに近い国々は、反対票を投じなかった。フロア大使は会見でこの結果に触れ、日本をはじめとする共同提案国や賛成した国々に感謝した。

ロシアに対する制裁とウクライナへの支援

フロア大使はまた、ウクライナを支援するためにEUがこれまでに実施した措置について説明した。

  • 殺傷兵器やその他の装備品を購入し、ウクライナ軍に供与するため、「欧州平和ファシリティ」※1から5億ユーロ を拠出
  • 借款の形での12億ユーロの緊急マクロ財政支援
  • ウクライナ国内やモルドバにおいて、戦争の被害を受けた民間人に対して食料、水、避難所など必需品の提供による支援を行う緊急支援プログラムに9,000万ユーロを追加拠出
  • ウクライナ国内の、また難民への人道的な影響に対処するために、 EU予算から5億ユーロ以上を拠出

EUはこれまで攻撃を受けている第三国に対して兵器を提供したことは一度もなく、「欧州平和ファシリティー」によるウクライナ軍支援の決定は歴史的な決断であり、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長も「重大な転機」と表現した。今回のEUの対応は、ロシア政府の行動がいかに深刻なものであるかを際立たせている。

これとは別に、ウクライナ政府の要請を受けて、EUは大規模災害などの発生時に迅速な援助を提供する「EU市民保護メカニズム」を発動した。3月9日現在、27のEU加盟国およびノルウェーとトルコから医療物資、救急用具、消防器具、送水ポンプ、発電機など非常に多くの物的支援を提供している。

フロア大使は、ロシアの侵略によりウクライナから膨大な数の難民がEU域内に流入していることにも触れ、EU加盟各国、とりわけチェコ、ハンガリー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロヴァキアが、ウクライナ国民を直ちに保護する態勢を整えたことに感謝の意を表した。また、岸田文雄総理大臣が、日本もウクライナや欧州と連帯して、ウクライナ難民を積極的に受け入れると表明したことを歓迎した。

国境を越えてポーランドに避難するウクライナの人々 Ⓒ European Union, 2022 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Bartosz Siedlik

こうしたウクライナへの支援と合わせて、EUは、パートナー国と共に、ロシアとその侵攻に手を貸しているベラルーシに対して、ウラジミール・プーチン大統領の戦費調達力を弱め、ロシア政府に責任を取らせることを目的とした広範囲に及ぶ制限措置(制裁)を迅速に実行した。

フロア大使は、制裁は、主に次の5つの分野を対象としていることを説明した。

  • 金融:ロシアの主要銀行を国際決済制度のSWIFT(国際銀行間通信協会) から除外し、ロシアの中央銀行の取引を停止
  • エネルギー:精製技術の輸出を禁止
  • 運輸:ロシアの航空機に対するEU空域の閉鎖
  • 技術:軍民両用品、ドローン、半導体の利用を制限
  • 査証(ビザ)政策

またEUは、ロシア国営メディアの「ロシア・トゥディ(RT)」および「スプートニク」と関連企業のEU域内での免許を停止した。今後は、両社がプーチン大統領の戦争を正当化し、欧州の分断を煽るための虚偽情報を拡散することができなくなる。

今回のEUによる制裁の規模には前例がない。対象には862人の個人と53の組織が含まれている(3月9日現在)。フロア大使は、米国、英国、カナダ、ノルウェー、韓国、日本、オーストラリアなどパートナー国や同盟国と緊密に連携した措置であると強調した。一方で、制裁には代償を伴うこと、また欧州と欧州市民も無傷ではいられないことを認めた。

自由と平和の実現に向けて

こうした状況の中、欧州が特に懸念する分野の一つがエネルギー安全保障だ。EUは、あからさまな脅迫を仕掛けてくる供給国は信頼できないと判断し、エネルギーの供給元の変更を進めている。フロア大使は、欧州が必要とするエネルギーが増えた場合には、日本が契約済みの液化天然ガス(LNG)を融通する姿勢を示したことに感謝を表明した。またEU は、新しいLNG基地の建設やガスパイプラインの整備を進めている。将来的にはEUのエネルギー安全保障の安定は、グリーン移行と再生可能エネルギーの普及が答えとなるだろう。

ウクライナがEUへの加盟を希望していることについては、フロア大使は「いずれはウクライナの人々はEUに属し、欧州の家族の一員になるでしょう」と述べた一方、「おそらく長い道のりとなるでしょう。また、(ウクライナの加盟について)今後の進め方を決めるのはEU加盟国です」と付け加えた。

3月2日、国連総会緊急特別会合は、ウクライナ侵略に関する決議を圧倒的多数で採択。これを受けてフロア大使も「国際社会は、何十年にもわたって平和と安定をもたらしてきた安全保障体制の破壊を許してはならない」と訴えた © UN Photo/Loey Felipe

フロア大使は、「欧州の人々は、この残酷な侵略に対して立ち向かわなければならないことを大変良く理解しています。自由を守ることには代償(price)が伴いますが、私たちは、喜んでその代償を払います。なぜなら、自由はかけがえのないもの(priceless)だからです」と述べ、ロシアの侵略に対抗する姿勢を強調した。

さらに、プーチン大統領はあからさまに国際システムのルールを書き換えようとしていると指摘し、「国際社会は、何十年にもわたって欧州と世界に平和と安定をもたらしてきた安全保障体制が破壊されることを許してはなりません」と述べた。

「国連総会の決議に対して圧倒的な支持が集まったことは、大半の国々は、ルールに基づく秩序が露骨な侵略行為の世界に取って代わられてはならないと考えていることを示しています。プーチン大統領は、欧州で再び戦争を起こすことを選びました。ロシア政府は、私たちを分断しようと手を尽くしていますが、それは完全に失敗し、その正反対の結果となっています。私たちは、かつてないほど団結し、決意を固めています」と締めくくった。

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【更新情報】
2022/03/17 市民保護メカニズムを通じてウクライナへの支援を申し出た国々に関する情報を3月9日付に更新
2022/03/24 欧州平和ファシリティからの支援の増額を脚注に追記

※1^EUの安全保障と防衛力を強化し、世界の平和を維持するための基金。2021年に創設され、2021年~2027年に最大約57億ユーロの予算を有す。ウクライナへの支援はその後2022年3月20日に10億ユーロに倍増された。