EUが導入予定の出入域システムについて教えてください

© European Union, 1995-2018

EUの対外国境管理を増強する新しい「出入域システム」が、2020年から導入される。これにより、テロや犯罪への対策が強化されるほか、日本人を含むEU域外国の国民が、シェンゲン圏へよりスムーズに出入りできるようになることが期待されている。

Q1. 出入域システムとはどのような仕組みですか?

「出入域システム(Entry-Exit System=EES)」とは、シェンゲン圏※1に出入りする短期滞在者の旅券等に記載されている文字・数字・記号で表された身元確認情報、および4つの指紋と顔写真による生体情報を収集し、出入国の日時や場所、入国拒否履歴などの情報を記録する仕組みのことです。査証(ビザ)の要不要にかかわらず、日本を含む全ての欧州連合(EU)域外国の国民が対象となります。

出入域システムに保存された情報には、シェンゲン圏の加盟各国の国境警備当局や法執行当局、欧州警察機関(ユーロポール)などがアクセスでき、出入国審査や不法滞在者の発見、テロ対策などに利用されます。出入域システムの導入によって、入域審査が正確かつ迅速になるとともに、より厳格になります。

出入域システムによってEUの対外国境警備を強化
© European Union, 2018

Q2. 出入域システムが導入されるまでの経緯や背景を教えてください。

1985年に調印されたシェンゲン協定により、シェンゲン圏内で人々の移動の自由が生まれました。しかし、それと同時にテロリストや犯罪者もシェンゲン圏内を自由に移動できるようになり、EU域外から入ってくるテロや犯罪の脅威からEU全体を防護するためにも、安全対策が求められるようになりました。EU加盟国の増加やシェンゲン圏の拡大に伴い、2013年2月に欧州委員会は出入域システムの導入を盛り込んだ法案を提出。その後、実証実験の実施などを経て、2016年4月6日に修正案を再提出し、2017年11月にEU理事会と欧州議会の承認をもって出入域システムを創設する規則(Regulation)が成立しました。

出入域システムに関する法案の準備が進められる中で、パリ同時多発テロ(2015年11月13日)やブリュッセル連続爆破テロ(2016年3月22日)など、EU域内でテロ事件が相次ぎました。これらを受けて、欧州委員会のジャン=クロード・ユンカー委員長はEUの「安全同盟」を提唱し、欧州委員会の重要な政策課題に加えました。安全同盟は、テロ手段の根絶のためにEU加盟国間で情報を共有することなどを目的としており、中でも出入域システムは、対外国境の防護を強化する重要な対策の一つと位置付けられています。出入域システムは、シェンゲン協定を完全に実施している加盟国の対外国境において、2020年までに運用が開始される予定です。その他のEU加盟国も、出入域システムに参加することが望まれています。

Q3. 出入域システムに蓄積された情報は、誰がどのように利用するのですか?

出入域システムで収集・記録された情報は全て中央データベースに蓄積され、各国の国境管理・警備当局やビザ発給業務を行う領事館など、EU加盟各国の当局が、その業務のために出入域システムで得られた情報を利用します。

このほか、加盟各国の法執行当局やユーロポールも、出入域システムのデータベースにアクセスすることができ、主に犯罪者の特定や犯罪情報の分析に利用する見通しです。出入域システムのデータ保管期間は通常3年で、不法滞在者に関する情報については5年に設定される予定です。

Q4. 出入域システムの導入によって期待される、具体的な効果は何ですか?

旅券等に記載されている身元確認情報および生体情報、そして出入国の記録がデータベースとして利用できるようになるため、テロリストや犯罪者を特定し、テロ対策や犯罪抑止に効果を発揮します。また不法滞在者についても、機械的かつ迅速に発見することが可能になります。

EUの対外国境の防護という観点以外でも、出入域システムの導入にはさまざまなメリットがあります。一つは、近年増え続けているEUに短期滞在する渡航者に対して必要な、各国の国境管理・警備にかかる人件費を削減できることです。出入域システムは、渡航者自身が端末を操作して手続きを行うため、たとえその数が増えても国境警備員を増員する必要がありません。パスポートの出入国スタンプも省略され、手続き自体の効率化によって、よりスムーズな出入国手続きが実現する見通しです。また、渡航者自身にとっても、シェンゲン圏内での最長滞在可能期間がデータベースに基づいた正確な情報として把握できるようになるというメリットがあります。なお、シェンゲン圏への域外国からの渡航者は、あらゆる180日のうち最大90日まで滞在できます。

出入域システムの導入によって、日本を含む域外国からの渡航者は滞在可能な期間を把握できるようになる
© European Union, 2018 – EP

Q5. 出入域の管理に関して、他にも制度があれば教えてください。

EUが対外国境防護のために行っている施策はさまざまですが、出入域システムと並行して準備が進められているものとして、2016年11月に欧州委員会が提案した「欧州渡航情報認証制度(European Travel Information and Authorisation System=ETIAS)」があります。ETIASとは、シェンゲン圏に短期滞在する、ビザを免除された日本人を含む域外国の渡航者がインターネットで事前に入国審査の申請を行い、認証を得るものです。シェンゲン圏に到着する72時間前までの申請が求められ、問題が無ければ数分で認証が下りることになっています。この申請には、手続きのために所定の費用(提案では5ユーロ)が必要で、同様のシステムはすでに米国、カナダ、オーストラリアなどで導入されています。出入域システムと同様、2020年までにETIASの運用が開始できるように、現在も法案の審議が進められています。

 

関連記事
EU域内の「移動の自由」とは?  (EU MAG 2012年4月号 質問コーナー)
EU内の自由移動と査証について教えてください (EU MAG 2014年6月号 質問コーナー)

関連情報
Stronger and Smarter Borders for the European Union: The Entry-Exit System(英語)

※1 EUの28加盟国のうち、22カ国(ブルガリア、クロアチア、キプロス、アイルランド、ルーマニア、英国を除く)と非EUの4カ国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)からなる域内国境が無い領域