連帯して域内外の新型コロナ危機に対応するEU

© European Union, 1995-2020

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、全てのEU加盟国が規模の差異はあるものの、社会・経済面で大きな打撃を受けているのみならず、EUのパートナー諸国をはじめ、世界中の国や地域もまた、多大な影響に苦しんでいる。EUは、その創設の精神とも言える「連帯」を合言葉に、域内の危機対応のみならず国際的な支援にも積極的に臨んでいる。本稿ではその概略を紹介する。

加盟国レベルの緊急対応行動

欧州連合(EU)の基本条約によれば、新型コロナウイルス感染症への対応に関連して、医療システムや、国外に取り残された自国民の本国帰還、あるいは外出禁止令(ロックダウン)など国民生活の制限については、各加盟国が責任を負うこととなっている。新型コロナ感染拡大が欧州で深刻化する中、27加盟国はこういった自国での対応を進める一方、初動ではまごついたものの、EU域内外で深刻な自然災害やテロなどが起きた際に迅速な援助を提供することを目的として2001年に創設された「EU市民保護メカニズム(EU Civil Protection Mechanism)」などを通し、他の加盟国に助けの手を差し伸べてきた。

医療従事者の派遣

ドイツ、ポーランド、ルーマニアは医療団を最も感染被害の大きいイタリアの病院に派遣し、オーストリア、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルクは、オランダ、フランス、イタリアからの重症患者を自国の集中治療室に受け入れた。また、ルクセンブルクとドイツはイタリア、フランス、オランダに医療従事者らを乗せた救急医療用輸送機を飛ばし、患者の救命に当たらせた。

イタリアに到着したルーマニアの医療団 © European Union, 2020

医療用品の共同備蓄と配布

EUの行政執行機関である欧州委員会は、本年4月から5月にかけてスペイン、イタリア、クロアチアにマスク33万枚を配布。加えて5月7日には、緊急購入した1,000万枚のマスクの一部を、17加盟国と英国の医療従事者のために送り始めた。その後、毎週150万枚が必要とする加盟国に送り届けられている。EU市民保護メカニズムの傘下で、災害対応能力強化のため2019年に始動した「rescEU」により共同備蓄されたこれらの物資は、ルーマニアとドイツにある戦略的配送センターから各国へと送られた。

加盟国レベルで各国が取った行動の一例としては、オーストリアがイタリアに150万枚のマスクを、デンマークがイタリアの地方病院に人工呼吸器と野外病院用設備を、チェコが2万枚の防護服をイタリアとスペインに送った。また、チェコのプラハ技術大学は、他の加盟国に3Dプリンターの呼吸器制作用データおよび使用法を提供。さらにギリシャでは、EUが共同出資した500台の移動診療車が市民の自宅に出向き、感染検査を実施できるようになる。

EUの市民保護メカニズムの「rescEU」により、イタリアへ送られた医療物資
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域外からのEU市民の帰還に協力

加盟各国は、航空便の運休や国境封鎖の影響で域外に足止めされていた多くのEU市民の帰還に関しても、EUの欧州対外行動庁や世界各国にあるEU代表部と協力して事態打開に動いた。その数は、4月半ばで65万人以上に上り、EU市民保護メカニズムの核である緊急対応調整センターが、援助要請の窓口と調整の役割を担った。EUが共同出資して市民の帰還を援助した一例として、2月初旬から新型コロナ集団感染のために横浜に着岸していた大型客船「ダイアモンド・プリンセス号」に乗船していた6加盟国のEU市民を帰還させるべく、イタリアから医療団を乗せた飛行機が提供された。また、フランスとドイツは共同で飛行機を運行し、中国・武漢市から400人以上のEU市民の本国帰還を支援した。帰還に使用されたフライト手配にかかる費用の75%が、EU予算から共同出資されている。

2020年5月16日、ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は「これまでに新型コロナ感染拡大による渡航制限で海外に取り残されていた59万人近くのEU市民の帰還が実現した。EUは引き続き加盟各国政府と協力し、まだ取り残されている約1万人の帰還に取り組む」と述べた。

EUの援助を得た加盟国政府の尽力により、65万人以上のEU市民が本国へ帰還することができた
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また、加盟国が駐在公館を置いていない第三国において足止めになっていたEU市民は、EU基本条約の一つである「欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union)」第20条で定められているように、他のEU加盟国の国民と同一の条件で領事上の保護を受けることができた。

「コロナウイルス対策投資イニシアチブ(CRII+)」の導入

「コロナウイルス対策投資イニシアチブ法案(Coronavirus Response Investment Initiative Plus=CRII+)」とは、EU域内の格差是正を目的とした「結束政策」の資金を提供する「欧州構造投資基金」の使用に関する修正案である。CRII+の導入で、一時的ではあるものの、同基金の使用に関する加盟各国別の適用分野や、優先プログラムを決定する規則、また援助を受けるための条件などが保留される。それにより、各国政府は援助を必要としている地方へ、さらに資金注入できるようになる。

通常、同基金から供給された資金のうち、未使用分は返還しなければならないが、今年は新型コロナ危機を考慮し、CRII+によってその返還が要請されなくなる。新型コロナ感染拡大で被った社会的・経済的な打撃を軽減させるため、加盟各国は2020年の構造基金予算の残額の全額約80億ユーロを、中小企業の立て直しや、労働者の部分的失業手当支給、医療セクター援助などに最大限に活用できる。

欧州中央銀行(ECB)のユーロ圏金融支援策

ECBは新型コロナ感染拡大による非常事態を受け、ユーロ圏を守るために以下の6つの対策を講じている。

1.    新型コロナ危機の打撃を吸収する金融支援計画

2020年3月に発表された「パンデミック緊急購入計画(Pandemic Emergency Purchase Programme=PEPP)」は当初7,500億ユーロ規模を想定していたが、6月4日に約6,000億ユーロの追加を決定。計1兆3,500憶ユーロを投じて、公的・民間部門の債権を購入し、消費や投資を刺激する。

「パンデミック緊急購入計画(PEPP)」の開始を発表するラガルドECB総裁(右)(2020年3月12日、フランクフルト)
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2.    借り入れしやすい低金利

史上最低レベルの政策金利を維持することで、企業や個人の借り入れコストを低く抑える。

3.    企業や世帯向け融資条件の緩和

資産担保条件や評価基準を緩和し、中小企業などが融資を受けやすくする。

4.    即時借り入れオプションの提供

銀行が短期的なニーズ対応のための資金を円滑に確保できるよう、有利な金利で即時の借り入れオプションを提供する。それにより、銀行は引き続き困窮する企業や個人への融資が可能となる。

5.    銀行の融資能力を拡大

資本金の基準を一時的に緩和し、監査のためのタイムラインや期限、手続きなどに柔軟に対応する。

6.    国際協力による金融の安定維持

ECBと、日本を含む世界各国の中央銀行が、異なる通貨間の「通貨スワップ枠」を再活性化し、金融市場を安定させる。

世界でも新型コロナ対応支援を行うEU

EUは、多国間主義と協調を尊重する世界的リーダーとして、新型コロナウイルス感染症と闘う諸外国への支援も忘れない。それはまた、国連や国際開発金融機関(MDBs)、および主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)などの枠組みと連携しながら、世界レベルで協調的な対策を推進し、国際的援助に貢献していることにも表れている。

パートナー諸国を支援する「チーム・ヨーロッパ(Team Europe)」

2020年4月8日、パートナー諸国が新型コロナ感染拡大に対応するために必要な援助を迅速に提供すべく、EUは156億ユーロを充当すると発表した。「チーム・ヨーロッパ(Team Europe)」と名付けられた、このEUおよび加盟国ならびに欧州投資銀行や欧州復興開発銀行などの金融機関のリソースを統合する取り組みの下、その後360億ユーロに拡大した(6月8日現在※1 )この資金は、以下の3分野の支援に用いられる。

  1. 差し迫った健康危機や人道的ニーズ
  2. 研究・保健・水道システム
  3. より長期的な社会経済的影響の緩和

チーム・ヨーロッパによる援助は、西バルカン諸国をはじめ、EU東部と接するパートナー諸国やアフリカなど世界中に及ぶ。まさに「誰一人取り残さない(no one is left behind)」というEUのグローバル対応に沿った行動である。

「チーム・ヨーロッパ」の役割を紹介するビデオ © European Union, 1995-2020

人道的航空輸送体制

欧州委員会は、パンデミックの影響を受けて、世界で最も過酷な状況に置かれている地域に対し、人道援助従事者や緊急物資を運搬する「人道的航空輸送体制(人道的エアブリッジ、EU Humanitarian Air Bridge)」を敷いた。

優先されたのは、すでにさまざまな人道上の問題を抱えており、危機的な状況にあるアフリカ諸国。2020年5月8日、フランスと共同で運行された中央アフリカ共和国バンギ行きの第1便には、ヤネス・レナルチッチ危機管理担当欧州委員と共に、複数のNGOから派遣された約60人の人道援助従事者が搭乗し、援助物資13トン分も運ばれた。その後、同国へ2便、またサントメ・プリンシぺ民主共和国へ1便が飛んだほか、6月7日にはコンゴ民主共和国へ初フライトが向かった。同国へは計3便が飛び、その他の地域にも必要に応じてフライトが計画される。

なお、人道的航空輸送体制も前述の「チーム・ヨーロッパ」の取り組みの一環である。

「新型コロナウイルス・グローバル対応」誓約会合を主催

2020年5月4日、EUはコロナ危機への世界レベルの連帯の証とも言える、オンライン形式の「新型コロナウイルス・グローバル対応」誓約会合を主催し、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が議長を務めた。これは、新型コロナウイルス感染症の診断薬、治療薬およびワクチンの開発、生産、普及のための資金を集める目的で、EU、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア(次期G20議長国)、日本、サウジアラビア(本年のG20議長国)、ノルウェー、スペインおよび英国が共同で招集した首脳級の会合であった。安倍晋三総理大臣をはじめ約30カ国の首脳や、約10カ国の閣僚、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長のほか、世界経済フォーラム、ビル&メリンダ・ゲイツ財団といった市民社会や企業の代表がリモート参加、あるいはメッセージを寄せた。

安倍総理はビデオメッセージで、日本でも治療薬・ワクチンの開発を推進していること、またそれらへの公平なアクセスが重要であること、医療体制が脆弱な途上国に対して保健システム強化のための支援を拡充していることなどを強調し、日本はこれらの分野で応分に貢献すると表明した。

この誓約会合を皮切りに、当初の目標であった75億ユーロを優に超える、約98億ユーロがすでに世界中から集まり(2020年6月11日時点)、日本も約7.6億ユーロの拠出を誓約した。5月4日に始まったこの誓約マラソン(pledge marathon)は、6月27日の誓約会合サミットをゴールとしている。

※1 その後、2020年11月9日に、385億ユーロに増額

【更新情報】
2020/11/25 チーム・ヨーロッパの資金増額について脚注に追記