2013.3.19
EU-JAPAN
3月8日は、1977年に国連総会により定められた国際女性デー。1904年3月8日、ニューヨークの女性労働者が、婦人参政権を求めてデモを起こしたことに由来します。
欧州連合(EU)は、男女平等を最も基本的な価値のひとつとしてとらえ、世界においてもジェンダー平等と女性の社会進出を推進してきました。記念日を迎える今月は、駐日EU代表部のメイヴ・コリンズ(Maeve COLLINS)公使・副代表に、女性とキャリアの問題について、ご自身の経験を踏まえながら話してもらいましょう。
コリンズ公使・副代表は、アイルランド出身。アイルランドは、世界経済フォーラム(WEF)の「世界男女格差年次報告書(Global Gender Gap Report)2012」で、調査対象国135カ国中総合評価で5位(日本は101位)につけるジェンダー平等の先進国です。
―外交官を職業として意識されたのは、いつですか?また現在、駐日EU代表部では、どんなお仕事をされているのですか?
メイヴ・コリンズ(以下MC) 外交官をキャリアとして意識したのは、大学1年生の時で、私は法律を勉強していました。いとこが外務省に入省したという友人が同じクラスにいて、外交官について話すのを聞いて興味を持ったのです。
現在の私の肩書は、公使・副代表(Minister, Deputy Head of the Delegation)といい、代表部次席として、EU大使を補佐する役割を果たしています。大使の不在時は私がEUを代表し、日本政府との交渉や連絡・調整にあたります。その他さまざまな管理業務や、広報文化活動にも従事します。
―日本にはいつおいでになりましたか?また、なぜ、どのような経緯で日本にいらしたのですか?
MC 日本に着任したのは、2011年10月です。その前は、アイルランドの駐ベトナム大使を務めていました。
EUの在外代表部は、「EUの外務省」とも称される欧州対外行動庁(EEAS)の下にあり、スタッフは、欧州委員会や欧州理事会の対外関係部門、加盟国の外務当局職員などにより構成されます。私は、アイルランド外務当局(外務省)からの職員に相当します。
母国アイルランドではなく、EUの枠組みの中で外交に携わること、また特に、EUと日本の間に立つことを望んだのは、私自身です。
2011年3月11日の東日本大震災が、私の日本に対する関心を高める契機となったことは、間違いありません。甚大な被害を受けながらも、協力し合い、粛々(しゅくしゅく)と事態に対処する日本人の様子に感銘を覚えました。また、震災の発生を通じて、アジアにおける日本の役割や、日本がアジアや世界に与える社会経済的な影響を再認識したことも、私にとっては非常に重要でした。東アジアを理解するためには、日本を理解しなければならないと思ったのです。
―着任されて、日本はどのような国だと思われましたか?日本での生活はいかがですか?
MC 赴任するまでは日本に来たことがありませんでしたが、評判どおり、高度に発展・洗練された国であると思いました。日本の生活は楽しく快適で、特に、建築やファッション、電子機器や日用品に至るまで、デザイン性が高く、細部に至るまで高い技術と趣向が凝らされていることに驚かされます。
他方、日本にも美しい景色や自然がありますが、東京で生活していると、故郷アイルランドの田舎の風景を懐かしく思うこともあります。私は、山歩きやバードウォッチングが大好きです。
―日本人に対しては、どのような印象をお持ちですか?
MC 細やかな気配りのできる日本人は、とても魅力的です。日々の仕事の上でも、特別な問題や障害を感じたことはありません。ただ、日本の政治はややこしくて、なかなか理解しがたいところもありますね(笑)。政治に限らず、意思決定や、物事が実行に移されるまでの過程など、日本に特有な部分を感じることはあります。
日本人の欧州に対する関心の高さや、知識の豊富さにも驚かされます。私自身、自分の知らない欧州の事柄について、日本人に学ぶことがあるくらいです。欧州も日本の事をもっと知らなければならないし、その価値は大いにあると思います。
私は、考え方や歴史、文化など、社会的背景の異なる者同士が長い時間をかけて学び合い、尊重し合うことの重要性を、特に北アイルランド問題に関する仕事を通じて学びました。欧州と日本、または欧州とアジアの関係構築についても、同じことが言えるかもしれません。
―日本人の女性については、どのようにご覧になっていますか?
MC 教育の機会や良好な生活環境、経済的状況に恵まれた日本の女性は、長期間にわたって社会や経済に大きく貢献することができる有望な存在です。日本は、女性の高い潜在的可能性をもっと活用すべきであると思います。日本のような経済大国が、女性の力を引き出すことにより、さらなる発展をどのように遂げていくか、欧州からも高い関心が寄せられています。
―他方、アイルランドの女性の置かれている状況はいかがですか?
MC かつてのアイルランドでは、女性の社会進出にはさまざまな困難が伴いましたが、この20年ほどの間に状況は大きく改善されました。90年代に入って、メアリー・ロビンソン(1990-1997)、メアリー・マッカリース(1997-2011)と、女性の大統領が二代続けて選出されたことが最も象徴的であると言えますが、女性の大学進学率が上昇し、政界のみならず、公的部門や民間企業でも、幹部職に就く女性が増えています。中長期的な視野に立ち、政策的な取り組みが積み重ねられてきた結果です。アイルランドは、女性の地位向上と社会進出について、世界に通用する有益なモデルを提供していると思います。
―そのような社会の変化は、何をきかっけに進んだのでしょうか?
MC ひとつには、政治的なコミットメントにより、しかるべき法制度の整備がなされたことが挙げられます。
アイルランドにとって、EUの存在は非常に大きいものでした。1973年に加盟するにあたり、「同一価値の労働には同一の賃金を」といった規定を有するEUに合わせて国内法の整備を図り、価値観を大きく変えていったのです。民間部門も歩調を合わせて制度改革を行い、女性の社会的な役割や地位に変化を起こしてきたのです。
その結果として、女性のみならず、国民全体に利益がもたらされていることも大きいと思います。
かつてアイルランドには、既婚女性公務員は退職しなければならないという法律がありましたが、EU加盟とともに廃止されました。性別を問わず、有能なスタッフを長期間雇用することの便益は、今や誰にとっても明らかですが、変化が起こるまでには数十年かかりました。以前は、労働時間が長くなるのを嫌って昇進を望まない女性も多かったのですが、ワークシェアの制度が導入されたことにより、能力の高いスタッフをより柔軟に配置することができるようになりました。
職場における女性の活躍が歓迎される一方で、育児における男性の役割の重要性についても理解が進み、男性も楽しみながら子育てに関わっています。
―日本の置かれている状況は、アイルランドとは異なると思いますが、日本の女性には何ができるでしょうか?
MC 社会や職場に変革をもたらしていくためには、まずは、自分がよくわかっている分野から着手することが大切です。自分がよく知っていることであれば、どのような変化が必要とされているか明確にわかるからです。あとはひたすら努力して、一つひとつの課題に取り組んでいくのみです。
日本の女性の潜在的可能性が高いことは明らかであり、欧州も、日本の女性の活躍を期待の目で見ています。また、既に日本では、雇用や社会参画における男女平等が法律で定められています。つまり、スタート地点は、かつてのアイルランドよりもずいぶん先を行っているのです。成功事例もたくさんあるので、それらを参考にするのもよいでしょう。
国際女性デー記念セミナー「キャリア成功の秘訣-各界で活躍する女性に学ぶ」 |
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2013年3月8日の国際女性デーにあたり、コリンズ副代表は、女性のキャリアについて考えるためのセミナーを、ニンケ・トローステル駐日オランダ公使と共に企画した(共催:駐日EU代表部・駐日オランダ大使館)。
「キャリア成功の秘訣-各界で活躍する女性に学ぶ」と題したセミナーでは、約110人の一般聴衆を前に、日本の女性の社会進出の現状や、多種多様な分野で期待される日本の女性の活躍について、情報の共有と意見交換が行われた。特に、日本で興味深いキャリアを積んできたパネリストたちの経験談は、多くの聴衆の関心や共感を呼び、キャリアの形成から家族との関係のあり方に至るまで、多様な話題について活発な質疑応答が繰り広げられた。 女性に限らず、個人がそれぞれの個性や能力を発揮し、さまざまに社会に貢献する状況を作っていくことは、少子高齢化時代を迎えた日本にとって大きな課題である。本セミナーは、個々人の努力のみならず、社会全体の問題としてこれらの課題をとらえ、どのように取り組んでいくかを考察する良い機会を提供したと言えよう。
セミナーの参加者は以下のとおり。 基調講演者 佐村知子内閣府男女共同参画局長/マルセル・ウィーガス・ランスタッド株式会社代表取締役兼CEO(写真左から2人目) |
プロフィール
メイヴ・コリンズ Maeve COLLINS
駐日欧州連合(EU)代表部公使・副代表
生年月日:1968年4月20日
使用言語:英語、ドイツ語、フランス語、アイルランド語
学歴
1988年 ユニバーシティ・カレッジ・コーク、法学士
1990年 キングス・イン(ダブリン)、法廷弁護士(バリスタ-)
2000年 オタワ大学(カナダ)、法学修士(LLM)
2002年 行政研究所(ダブリン)、経済学学位
職歴
1990年 アイルランド外務省入省。英国・アイルランド関係および北アイルランド担当部、経済部、開発協力部、アイルランド財務省、英国・アイルランド政府間事務局、アイルランド国際基金共同事務局、在スイス大使館、在カナダ大使館、在ベトナム大使館(大使)などを経て、2011年10月から現職。
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