2020.11.12
Q & A
欧州連合(EU)は、人権、民主主義および法の支配の尊重という価値を基盤としており、それは、EUの対外行動の指針となっている。EUにとって日本は、価値や考え方を共有する戦略的なパートナーであり、「世界人権宣言」や批准した全ての重要な国際人権条約を尊重し、人権に関する多国間の枠組みの推進において連携を強化している。12月10日の「国際人権デー」を前に、EUの世界的な人権推進活動について説明する。
1945年12月に国連総会で採択された「世界人権宣言」では、「全ての人間は、生まれながらにして自由であり、尊厳と権利において平等である」とされています。人権は、欧州だけの権利ではありません。また、人権の保護と尊重は、一国の政府が政治的に選択することでもありませんし、人権問題は国の専決事項でもありません。それは、全ての国際協定や法的拘束力のある条約に定められた地球上の全ての人が守るべき法的な義務です。
EUは、平和と安定を促進し、人権、民主主義および法の支配の尊重を重視した世界を構築するという共通の決意の上に成り立っています。人権の尊重は、EU加盟の前提条件であると同時に、EUの行動の正当性を裏付ける条件であり、かつ対外関係を進める上での中心的な要素となっています。また、2009年のリスボン条約(改正EU条約)は、人権および基本的自由の普遍性と不可分性を支持し、人間の尊厳や平等と連帯の原則を尊重し、国連憲章や国際法の原則を擁護することを求めています(第21条)。さらに、2016年の「外交・安全保障政策のためのグローバル戦略」では、人権はEUのあらゆる外交政策・対外行動の主要要素であると明記されています。
「世界の人権と民主主義に関する2019年EU年次報告書」によれば、世界の人権と民主主義には大きな進展が見られた一方、人権の抑圧や民主主義の後退が生じている地域もあり、状況は複雑です。新しい技術や気候変動など地球規模の環境問題も人権に影響を及ぼしています。こうした変化する状況においても、EUは、自身の価値や利益を守り、国際的な規範や原則を擁護することに加えて、新しい変化によって生じた機会を最大限に活かすことを目指しています。また、その実現に向けて信頼される存在であり続けたいと考えています。
EUは、二者間や多国間の協議の場において、積極的にパートナー諸国と協力しています。域外国やEU域内の人権の状況について討議するため、世界各国の政府と二者間対話や協議を実施しています。そこでは、人権侵害の防止や是正に関して当該国の責任を追及することや、人権擁護家を支援することなどが話し合われます。またEUは、人権活動に対する世界最大の資金提供者でもあります。
国連はルールに基づく国際秩序の礎であり、多国間の取り組みにおいてEUはそうした強い国連を支持しています。人権の促進と保護は、国連の活動の中心的な柱です。またEUは、国連人権理事会の効率的な運営を支持しています。
EUは、死刑や拷問への反対、説明責任の確保・推進、国際人道法、基本的自由、非差別、子どもの権利、世界中の人権活動家への支援など、人権に関するテーマ別の優先課題を設けています。また、女性や子どもへの暴力やLGBTI※1 の問題もEUの人権政策の重要な要素です。
2020年3月に欧州委員会とEU外務・安全保障政策上級代表が提出した「人権と民主主義に関する2020~2024年EU行動計画」案は、同年末までにEU理事会において承認される見通しです。新しい行動計画は、環境、デジタル技術、市民・政治空間の縮小に関するものなど、人権をめぐる環境の変化で新たに生じた幅広い課題に取り組み、人権活動家への支援を一層強化するものとなっています。
行動計画案では、今後5年間にEUが対外行動において優先して取り組む5つのテーマを掲げています:
この行動方針は、EUが人権、民主主義および法の支配を促進するために使用することができる幅広い政策や手段によって、国、地域、多国間のレベルで実施する政策の基本となります。
一方、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは世界を激変させ、社会の基盤を揺るがしています。EUは、国、地域、世界などあらゆるレベルにおけるパンデミックとの闘いの中で、連帯と人権の尊重が軽視されることを危惧しています。パンデミックによる社会・経済への影響は、女性や子ども、高齢者および難民や移民など弱者の集団により大きく表れ、既存の格差が拡大することが懸念されています。
ルールに基づく国際秩序を断固として支持する日本は、国連の取り組みなど国際社会において、EUと共に重要な役割を担っています。死刑の使用など意見の相違がある分野もありますが、多国間の数多くの課題において、日本がEUのパートナーであることは間違いありません。
多国間の議場で、日本とEUは意見交換を行い、協力しています。国連で数多くの課題に関して緊密に協議し、必要に応じてそれぞれの立場を調整しています。日本は、シリアの人権状況に関する決議案をはじめ、EUが主導した国連決議を支持してきました。日本人や韓国人の拉致問題など北朝鮮の人権状況に関するEUの決議案に関して日本は共同提案者でもあります。また、日本とEUは、少数民族ウイグル族やチベット族に対する中国の深刻な人権侵害や国家安全法の香港への適用を非難してきました。一方、ミャンマーの人権状況に関してEUが主導した決議案など、見解が異なる場合もあります。子どもの人権や女性の権利など、国連総会や国連人権理事会の議題となるテーマ別の課題については、日本とEUは、お互いの取り組みを支持し、緊密に連携しています。2020年は「北京行動綱領」※2の25周年に当たることから、両者は、ジェンダーに関するさまざまな国連の計画に建設的に取り組んでいます。
一般的に世界で人権への配慮が弱まる傾向が見られ、多国間主義が衰退している現状において、日本とEUが、国連をはじめとする国際的な議論の場で法の支配を擁護し、人権を尊重するために引き続き連帯することがかつてなく重要になっています。
※1 LGBTI:レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャル(B)、トランスジェンダー(T)、インターセックス(I)の頭文字をとった単語で、性的指向および性自認におけるマイノリティを指す
※2 北京行動綱領:1995年に中国・北京で開催された第4回世界女性会議において採択。貧困、教育、保健、女性への暴力、女児など12分野を重要領域とし、それぞれの課題の解決に向けた戦略目標と行動指針を示している
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