2018.6.25
FEATURE
今年は、1948年の第3回国連総会で「世界人権宣言」が採択されてから70周年となる節目の年。欧州連合(EU)はこの数十年の間、国連との協力関係を深めながら、内外で積極的に人権政策を推し進め、この分野で国際社会をリードしてきた。本稿では、EUが人権推進・擁護に関わってきた長い軌跡を振り返る。
第二次世界大戦終結後の1945年10月、二度と大戦の残虐行為を繰り返さないという国際社会の誓いの下、国際連合(以下、国連)が創設された。その後、1948年12月10日の第3回国連総会は、全58加盟国のうち48カ国の賛成票を得て(棄権8、欠席2)、「世界における自由、正義および平和の基礎である基本的人権を確保するため、全ての人民と全ての国が達成すべき共通の基準」として、「世界人権宣言」を採択した。同宣言は、異なる文化・宗教・経済・政治体制を持つ世界18カ国(オーストラリア、ベルギー、白ロシア、チリ、中華民国、エジプト、フランス、インド、イラン、レバノン、パナマ、フィリピン、英国、米国、ソビエト連邦、ウクライナ、ウルグアイ、ユーゴスラビア。国名はいずれも当時)の代表からなる人権委員会が、全ての加盟国に受け入れられることを目指して作成した、人権史上最も記念すべき画期的な文書の一つである。
1950年の第5回国連総会は12月10日を「世界人権デー(Human Rights Day)」と定め、以来、世界中でこの日を祝賀し、人権活動を推進するための諸行事が毎年行われている。
世界人権宣言は前文と全30条から成り、全ての国の全ての人々が、市民的、文化的、経済的、政治的、および社会的レベルで享受すべき基本的な権利を規定している。前文では、「人類社会の構成員全員の尊厳と平等の権利は、世界における自由・正義・平和の基礎となる」と明記されている。第1条と第2条では、「全ての人間は生まれながらにして尊厳と権利について平等である」と述べ、第3条から第21条では、「全ての人間が享有する市民的・政治的な権利」が規定され、続いて第22条から第27条では、「全ての人間が享有する経済的・社会的・文化的な権利」が定められている。世界人権宣言の全文はこちら。
国連はまた、女性や子ども、障がい者、少数者(マイノリティー)、移住労働者など、社会的に脆弱な立場にあり、長らく多くの社会で差別を被ってきた人々が自分自身を守る権利を持てるようにと、特定の人権基準も設けている。
1949年にフランス・ストラスブールに設立された汎欧州の人権機関「欧州評議会(Council of Europe=CoE)」はその翌年、欧州人権条約(European Convention on Human Rights、1953年発効)を制定した。同条約は、世界人権宣言に基づいて人権と基本的自由の保護を定めた、世界初の条約と位置付けられている。
EUはこの条約を受けて、人権、民主主義、法の支配という基本的価値を有しており、EU条約(EUの基本条約の一つで通称マーストリヒト条約、1993年発効)の前文は、「自由、民主主義、人権と基本権の尊重、および法の支配の原則への結び付きを確認する」と明確にうたっている。
2000年12月には、フランスのニースで開かれた欧州理事会(EU首脳会議)で「EU基本権憲章(Charter of Fundamental Rights of the European Union)」が、欧州議会、EU理事会、欧州委員会の長により調印された。全7編54条で構成された憲章は、尊厳、自由、平等、連帯、市民権、司法の6つの分野で守られるべきEU市民の権利を定めている。この憲章は、2009年12月に発効したリスボン条約(改正EU条約)によって基本条約と同等の地位を有するとして、法的拘束力を与えられた。人権は、ここにようやく法的に裏打ちされたEUの基本理念として確立したわけである。
人権を含む基本権の保護は、EUの全ての行動分野に関わる横断的な問題で、EUは諸機関を挙げて取り組んでいる。例えばEU理事会は、2011年にEU基本権憲章が効果的に履行されることを担保するため、次の3つを含む同理事会の役割を採択した。
また、EU理事会の司法・内務理事会(Justice and Home Affairs Council)の管轄下にある「基本権、市民権および移動の自由についての作業部会(Working Party on Fundamental Rights, Citizens’ Rights and Free Movement of Persons)」が、EU基本権憲章に関連した問題を扱っている。そのほか、法的解釈を巡る問題のためにまだ実現していないEUとしての欧州人権条約への加盟についても、同部会が交渉に当たっている。
リスボン条約第21条は、EUの発展と拡大や、より広い国際舞台へ進出するための原則として、民主主義・法の支配・人権と基本的自由の普遍性と不可分性・人間の尊厳の尊重・平等と団結・国連憲章と国際法の尊重といった指針を規定している。これらの指針に従って、EUが国際社会でどのような行動を取っているかを、以下で概説する。
例えば、EUへの加盟を希望する国は、EU条約第49条(加盟条項)にあるとおり、「人の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配の尊重、および少数者に属する人々の権利を含む人権の尊重という価値」を尊重し、促進することを約束しなければならない。
EUの対外関係でも、人権を含む基本権を推進するために、EU理事会は次の4つの役割を担っている。
EUはまた、2001年にEU理事会で採択された「EU人権対話指針(EU Guidelines on Human Rights Dialogues)」(2008年に改定)に基づき、域外の40以上の国々と、当該国の人権や民主化を巡る定期的な対話を続けている。対話の目的は相手国によって異なるが、国連などの舞台で人権に関する協力を強化することや、当該国における特定の人権問題にEUが抱く懸念を取り上げることもある。
これらの対外関係で進められるEUの取り組みと成果は年に一度、「世界の人権と民主主義に関する年次報告書(EU Annual Report on Human Rights and Democracy in the World)」に詳細にまとめられ、EU理事会によって採択される。2015年には、同報告書を基に「人権と民主主義に関するEUの行動計画(2015年~2019年)」が採択され、EUの対外行動で人権を保護し、民主主義を推進するための重要なツールとなった。この行動計画は、世界各国で地域の機関や枠組み、市民社会の権限などを強め、人権擁護活動家を積極的に支援していくことを目指している。
人権擁護に取り組んでいるNGO(非政府組織)の支援については、2017年12月5日に欧州対外行動庁(EEAS)と欧州委員会が「脅威に曝される人権:世界の困難な状況に対する新しいアプローチを探る」をテーマに、第19回EU・NGO人権フォーラムを主催した。フェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は、当フォーラムで行った演説の中でこう述べている。「たとえ一人でも人権が侵害されれば、それは私たち全員にとっても、安全な世界ではないということである。人権が保障されていない社会は、より脆弱で、回復が遅く、過激派の標的となりやすい」。
EU理事会は毎年、「国連の各種人権関連会合でのEUの優先事項」に関する結論を採択し、国連のさまざまな人権会合でのEUの主な行動綱領を明確にしている。世界人権宣言の採択から70周年の節目に当たる2018年の優先事項は、人権侵害や乱用に対処するなど、紛争の根本原因に取り組むことによって、持続可能な平和を優先することを求めるほか、人権の重要性を高めるべきだと表明したアントニオ・グテーレス国連事務総長の誓約を強く支持する内容となっている。
「優先事項」は全部で25項目あるが、そのうち、特に重点的に取り組む6項目の要点を以下に紹介する。
EUは、人権について同じような考えを持つパートナーとして、日本と共に国連の人権理事会や総会でも、重要な役割を果たしてきた。ここ十数年もの間、EUは日本と共同で、日本人拉致問題を含めた北朝鮮における人権侵害を非難し、核兵器やミサイルの開発に懸念を示す決議案を、国連人権理事会や国連総会へ提出している。
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