2019.8.29

Q & A

EUの新しい著作権指令について教えてください

EUの新しい著作権指令について教えてください

EUはグローバル化とデジタル化が進む時代に対応するため、旧来の著作権ルールを見直し、2019年4月に新しい指令を採択した。これにより、オンライン市場で作家やアーティストの著作権を保護するとともに、EU全域で著作権が保護されたコンテンツの公正な利用を促し、広く共有できるようになる。本稿では、市民生活にどのような影響があるのかを中心に解説する。

Q1. EUの著作権指令とは何ですか? また、なぜ指令が改正されたのですか?

著作権指令とは、欧州連合(EU)の著作権に関するルールを包括的に定めた法令です。このたび、既存のEU著作権法制を改正し、「デジタル単一市場における著作権や関連する権利についての2019 年4月17日の欧州議会・理事会指令〈Directive (EU) 2019/790〉」が新しく採択されました。この新指令は、インターネットユーザーをはじめ、アーティスト、ジャーナリスト・報道関係者、映像・音楽プロデューサー、オンラインサービスプロバイダー、ならびに図書館、研究機関、美術館、大学など、デジタル環境で活動する幅広い分野の人たちに有益となる枠組みの構築を目的としています。

EUの旧来の著作権に関する枠組みの基幹部分は、2001年に作られました。デジタル環境が今ほど普及していなかった当時と、各個人がコンピュータやスマートフォンを持つ現在では、状況が大きく様変わりしたため、既存の指令はその変化に適合することを目的に見直され、改正されました。2016年9月に欧州委員会が提案し、2019年3月に欧州議会で承認された新指令は、翌月15日にEU理事会で採択されました。加盟各国は新指令に応じて、2021年6月7日までに国内法を整備し施行させなければなりません。

2019年3月26日、ストラスブールの欧州議会本会議で新しい著作権指令が承認された
© European Union 2019 – Source: EP / Photo: Mathieu CUGNOT

新指令は、次のような事項を実現することになります。

  • 著作権市場がより良く機能する公平なルールを整備する
    • Google、Yahoo!、AOLなどのオンラインサービスプロバイダーが新聞や雑誌の記事を使用する際、記事の発行元が報酬を受けられる新しい権利。例えば、「Googleニュース」で記事が使われた場合、発行元はその記事使用料を要求できる
    • 音楽や映像の制作者、著作権管理団体といった権利保有者の立場を強化。例えば、ユーザーがアップロードしたコンテンツについて、権利保有者は不当利用だとしてその内容を載せたコンテンツプラットフォーム側と交渉したり、報酬を要求したりできる
    • 作家やジャーナリスト、音楽家、俳優など、個々のクリエーターに対して公正な報酬を保障する
  • ビデオオンデマンドで利用できる音響・映像作品を増やし、著作権で保護された作品を国境を越えてネット上で入手できる、より多くの機会を市民に提供
  • 教育や研究、文化遺産保存のために、著作権で保護された作品をより幅広く使用できる機会を提供
  • テキストマイニングやデータマイニング(蓄積した大量のデジタルデータを自動的に解析し、パターンや傾向、相関関係などを探り出す技術)に関する新たなルールを設け、研究およびデータ分析とAI(人工知能)の開発を促進。それによりデータ経済を推進

Q2. 新指令によりオンラインでの自由が制限されるのですか?

表現の自由は、知的財産権の保護と同様にEUが認める基本的権利の一つであり、新指令はネット上の自由を制限するものでも、ユーザーのネット上の行動を標的にしたものでもありません。

例えば、報道記事の利用に関する新しいルールは、ニュースアグリゲータ(ネット上にある報道各社のサイトから、読者に関心があると思われるニュースを自動選別し、まとめて表示するサービス)などの営利事業者にのみ適用され、ユーザーには適用されません。つまりユーザーは、今後もソーシャルメディアなどでコンテンツを共有し、リンクさせることができます。

さらに、音楽やビデオ、その他の著作権で保護されたコンテンツの使用に関し、GoogleやFacebook、YouTubeなどに代表される特定のオンラインプラットフォーム事業者が権利保有者とライセンスを締結することが容易になります。ライセンスが締結されていない場合、これらのプラットフォーム事業者は、権利保有者が許可していないコンテンツが自らのサイト上で入手できないよう、最大限の努力をする必要がありますが、新指令は、加盟国はプラットフォームに対する一般的な監視義務を課してはならないとしています。

Q3. インターネットのユーザーにとって、どんなメリットがありますか?

ユーザーは、著作権を保護されたコンテンツをアップロードする表現の自由を持ち、コンテンツの不当削除についても抗議しやすくなります。

また新指令により、引用や批評、風刺画、パロディー、パスティーシュ(既存のオリジナル作品から様式やモチーフなどを模倣・借用・混成した作品)などユーザーが作成したコンテンツをオンラインで自由にアップロードし、共有できる権利と利益が保障されるよう、加盟各国は法整備をしなければなりません。これは表現の自由を守るための重要な一歩となります。これまでは、全ての加盟国でその権利が保障されていたわけではありませんが、指令の改正により、EU全域で保障されるようになるのです。

なお、非営利で運営されているWikipediaなどのオンライン百科事典や教育・科学目的のオンラインリポジトリーなどは、本指令の対象とはなりません。

© Pixabay

Q4. クリエーターの権利はどのように保護されますか?

俳優、音楽家、ジャーナリスト、作家などのクリエーターから権利を譲渡された映画・音楽プロデューサーや出版社は、クリエーターに対し、作品の収益などに関する情報を提供しなければなりません。例えば、予想以上に映画がヒットした場合、脚本家や俳優などは興行収益の情報を得て、報酬の見直しを請求できるようになります。また、インターネット上で発表された作品の制作者や著者は、収益の一部を得られる権利を持ちます。

なお、個人や組織が、著作権で保護されたコンテンツを権利保有者からの許可なく使用できる例外が認められています。この著作権例外義務は、Q1でも前述したように、コンテンツを教育や研究、文化遺産保存など、特定の目的に活用するためで、具体的には次の5分野で導入されます。

  • 研究目的のためのテキストおよびデータマイニング(TDM)
  • 研究分野からのTDMの例外
  • 教育目的
  • 文化遺産の保護
  • ライセンスを付与する組織がないために使用ライセンスが締結できず、絶版(デジタル時代においてはOut of Commerce)となっている作品の使用

Q5. 「パブリックドメイン」のコンテンツに関して、何が変わりますか?

© Pixabay

著作権で保護される期間が過ぎた芸術作品などは、「パブリックドメイン(保護期間の満了、継承者不在、あるいは権利放棄により公共の財産となった著作物)」となりますが、これまで一部の加盟国では、それらの作品の著作権も保護していました。

今回の指令により、全てのユーザーがパブリックドメインの作品を自由にコピーし、使用、共有し、オンラインで広められるようになります。例えば、写真や古い絵画、彫像などの芸術作品がこれに該当し、Wikipediaなどで非営利目的に使用されることはもちろん、商業目的でも使用可能になります。

※本稿は新指令の一部を大まかに紹介したものであり、法的に正しく解釈するにあたっては指令の原文をご参照ください。

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