2020.2.25
Q & A
EUは、加盟国間で締結する国際条約を法的根拠に欧州統合を進めている。本稿では現行の主たる条約を説明するとともに、これまでの主要な変遷をたどり、最新の改正でもたらされた大きな変化を示すことで、EUの仕組みや域内外での立ち位置などに関する理解の一助となることを目指す。
平和と繁栄と安定のために共に取り組むことを誓った、欧州の民主的主権国家の集まりである欧州連合(EU)は、超国家機関でも、単なる国際協力機関でもありません。加盟国が主権の一部を共同の機関に移譲して、欧州レベルで民主的な決定と行動ができるようにしています。
その法的根拠となっているのが、全加盟国が合意して締結した、EUの複数の条約「Treaties of the European Union(またはThe EU Treaties)」です。条約群は、EUの目的と権限を明らかにし、目的遂行に必要な諸機関・諸制度の仕組みをはじめ、EUのあらゆる行動の根拠を規定しています。条約は全加盟国に対して法的拘束力を有し、加盟国は条約を順守する義務を負います。
条約は、EUの法体系の中で「一次法」に相当し、これはEU市民の日常生活やEU企業の行動に直接影響する規則や指令といった「二次法(派生法)」の基礎にもなっています。
一方で、日本語のEU専門書などでよく見かける「基本条約(Basic Treaties)」という言葉は、実はEUの現行の法律用語ではありません。例えば、Treaties of the European Union を日本語で言い表す場合、単数・複数の区別がなく、複数の条約を合わせて一言で表現できる「EU基本条約」という呼び方が便宜上、定着しているとの解釈があります(※1) 。「EU基本条約」という呼称には、欧州連合条約(Treaty on European Union)と混同することを避けられるという利点もあります。
ただし、日本のEU研究者の中でも、いずれの条約を基本条約に含めるのかについては、それぞれ定義が分かれています。
EU法令の公式ポータルサイト「EUR-Lex」の「Treaties currently in force(現在効力がある条約)」のページには、以下の4条約が掲載されています。
A. 欧州連合条約(Treaty on European Union)
B. 欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union)
C. 欧州原子力共同体設立条約(Treaty establishing the European Atomic Energy Community)
D. 欧州連合基本権憲章(Charter of Fundamental Rights of the European Union)
AとBは同等の法的地位を持ち、どちらかが他方に従属しているわけではありません。この2条約を指して「基本条約」と呼んでいるケースがあります。
Cについては、条約の主体である「欧州原子力共同体(EURATOM=ユーラトム)」がEUとは別個の単一の法人格を持っています。例えば、英国のEU脱退協定のタイトルには「欧州連合と欧州原子力共同体からの脱退」と書かれています。
Dは、厳密には条約ではないものの、2009年発効のリスボン条約(後述)以降、条約と同等の法的価値を有しています。
A、Bに加え、CとDを含めて「基本条約」と呼んでいるEU研究者もいます。さらに、加盟国が増えるたびに新規加盟国と既加盟国の間で締結される「加盟条約」も含めて、基本条約と定義している研究者もいるようです。
EUの条約には「設立条約(Founding treaties)」や「改正条約(Amending treaties)」、「加盟条約(Accession treaties)」、「議定書(Protocol、Act)」などがあります。
EUは、以下の3つの共同体設立条約を土台に、統合を深化させて現在の形になりました。
統合深化には条約の改正が必要で、そのたびに改正条約が締結されます。なお、改正条約は既存の条約の一部を修正するもので、改正された元の条約自体は法的効力を持ち続け、特に規定のない限り、名称も存続します。
設立条約にはまた、EUを創設した、1993年発効の「欧州連合条約(Treaty on European Union、通称マーストリヒト条約」があります。この条約は、同時にEEC設立条約を「欧州共同体設立条約」に改称・改正しました。
ECSC設立条約は、条約の規定に従い、発効50年目の2002年7月に失効し、ECSCの全権限と責務は、当時の欧州共同体(EC、EUの前身)に引き継がれました。
マーストリヒト条約以降の改正条約には、「アムステルダム条約」「ニース条約」「リスボン条約」があります。
EUの条約の変遷
まず、1967年のブリュッセル条約により、3共同体それぞれの行政執行機関と意思決定機関が単一の委員会と理事会に統合され、3共同体は総称して「欧州共同体(European Communities=EC)と呼ばれるようになりました。1987年の「単一欧州議定書 (Single European Act)」により、人・物・サービス・資本が自由に移動する域内市場(=単一市場)を1993年までに完成させることとなりました。
1993年には、上述の欧州連合条約(マーストリヒト条約)が発効し、欧州統合に正式に政治的側面が追加されました。同条約は、欧州3共同体を“第一の柱”に、共通外務・安全保障政策を“第二の柱”に、さらに司法・内務協力を“第三の柱”に据え、これらの政策分野を三本柱として欧州統合の推進を目標としました。同時に、3共同体のうちEECは、経済分野以外でも権限を有するようになったため、「欧州共同体=European Community」と名称を変えながら、同時にその設立条約も「欧州共同体設立条約」に変更されました。単一通貨ユーロの導入のために「経済通貨同盟(Economic and Monetary Union=EMU)」を実現する手順も、この条約で規定されました。
その後、1999年発効のアムステルダム条約は、欧州連合条約および欧州共同体設立条約を改正し、EUの権限をさらに増大させて、欧州議会の権限を強化し、加盟国間で協力の緊密化を打ち出しました。また、「域内国境の検問廃止協定(通称シェンゲン協定)」も規定しました。続くニース条約(2003年発効)では、中・東欧諸国の加盟によりEUが拡大したことを受け、EUの意思決定手続きの効率化を目的に、諸機関の改革を行いました。具体的には、EU理事会での票決方式を見直し、欧州議会の議席数を増やしました。
21世紀に入って、EUはそれまで改正を繰り返して複雑になっていた条約群を整理するとともに、統合を大きく進めることを目指した「欧州憲法条約」を検討しましたが、フランスとオランダが国民投票で批准を否決したため、同条約は実現しませんでした。リスボン条約(公称:欧州連合条約および欧州共同体設立条約を改正するリスボン条約)は、この憲法条約を修正かつ簡素化する形で、EUの機構制度改革を目指し、2009年12月に発効。2019年12月には、発効10周年を迎えました。
リスボン条約は、EUに単一の法人格を与え、マーストリヒト条約で規定された「三本柱」構造を解消しました。また、「欧州共同体設立条約」を「欧州連合の機能に関する条約」に改め、EUがECに取って代わることになりました。一方、ユーラトムは設立条約に大きな変更が加えられることはなく、リスボン条約発効後もEUの枠外で存在し続けています。リスボン条約はまた、「欧州基本権憲章」に条約と同等の法的価値を与えました。
リスボン条約により、EU理事会(閣僚理事会)の決定方式が、ほぼ全ての議案について全会一致から特定多数決方式(※2)へと移行し、また欧州議会の権限がさらに強化されたことで、EUの意思決定がより効率的・民主的に行われるようになりました。また、欧州理事会の常任議長と外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長という2つの職位が創設され、EUが世界に対して1つの声で発信できるようになり、EUに「顔」を与えました。
さらに、加盟国がEU脱退を望む場合の手続きについて、欧州連合条約第50条に初めて規定を盛り込みました。
リスボン条約ではEUの外務・安全保障政策上級代表を補佐する外交機関、欧州対外行動庁(EEAS)も新設され、EUの外交政策をより一貫した効率的なものとし、国際舞台でのEUの影響力を高めることとなりました。
※1 出典:益田実・山本健編著『欧州統合史 二つの世界大戦からブレグジットまで』(ミネルヴァ書房、2019年)「EU基本条約」
※2 各加盟国に割り振られた加重票(票数はおおまかに各加盟国の人口を反映)を用いた票決方式。議案の採択には加盟国数の55%(15カ国)以上とEU人口の65%以上の二重の要件を満たす必要がある。
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.12.5
FEATURE
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.11.15
WHAT IS THE EU?
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.5
FEATURE