EUの難民対策とシリア難民への対応とは?

© J. Kohler, UNHCR

Q1. 世界の難民の現状はどうなっていますか?

「難民(refugee)」とは、人種、宗教、国籍、政治的信条などのために、生命や生活、自由や権利を脅かされる危険が迫り、自らの居住国を離れざるを得ない人々です。さらに、最近増加しているのは、国内にはとどまるが居住地を離れざるを得ない「国内避難民(Internally Displaced Persons=IDPs)」(以下、避難民)です。難民、避難民ともに国際的保護の対象になります。

シリア北部のドホーク県を超えてイラクへ流入するシリア人 © UNHCR / G. Gubaeva

難民申請は、1990年代初頭に急増した後減少していましたが、2005年を境に再び増加傾向にあります。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、UNHCRが考慮の対象とした人々は、世界中で2014年6月現在4,630万人(2013年末では4,290万人)に達しています。そのうち1,300万人(前年同期比210万人増)が難民として認定され、UNHCRが保護もしくは支援した避難民も、2,600万人(同280万人増)に達しました。難民の出身国は、過去30年以上、アフガニスタンが最大でしたが、最近シリアが300万人を越え最大となりました。世界全体では、国際的保護を求めて庇護申請し、その審査決定を待っている人々は130万人に達しようしています(※1)

Q2.このような状況に対してEUはどのように対応しているのでしょうか?

欧州連合(EU)は、難民発生の根源を断つため、外務・安全保障政策上級代表の下、欧州対外行動庁(EEAS)が紛争解決に向けて努力するとともに、欧州委員会の国際協力・開発総局を中心に、貧困救済のため開発援助を推進してきています。さらに人道援助市民保護総局(ECHO)を通じて、紛争国の周辺国に対して技術支援を行うともに、緊急支援調整プログラム(Emergency Response Coordination Centre=ERCC)による物資・要員の調達・運搬、輸送機の調整なども行っています。

近年、国際的保護を求めて多くの人々が、空路、陸路、海路などから合法的・非合法的にEU加盟国の領土に入り、庇護を求めています。EUは、このような庇護申請者にとって最も魅力的な目的地になっています。EUの統計(※2)では、2013年にEU 28カ国に国際的保護を求めて庇護申請した人々は、43万5,760人で、前年と比較して30%増加しました。庇護申請は、28カ国のうち上位10カ国で90%以上を受領しており、国別ではドイツ(12万6,705人)が圧倒的に多く、2位フランス(6万6,265人)以下、スウェーデン、英国、イタリアの順になっています。

加盟国の人口一人当たりに対して申請者の割合が最も高いのはスウェーデンです。庇護申請者には、加盟国は収容施設を用意し、食事・医療などの生活を保障し、就労を認め、必要とあれば職業訓練、就学児童には教育を提供しています。

EUは、欧州委員会の国際協力・開発総局を中心に、貧困救済のため開発援助を推進しているほか、ECHOを通じて緊急支援調整プログラムによる物資・要員の調達・運搬、輸送機の調整なども行っている © EU/ECHO

庇護申請者の増加に伴い、2013年末では35万人以上が審査未決定で待機を余儀なくされ、前年同期と比べて33%増加しました。それでも14%増の32万8,525人が第一次審査で何らかの判定を受けています。そのうち庇護申請が受諾されたのは11万2,905人で、受け入れ認定率は34.4%。内訳は、難民の地位が認定された者が4万9,710人、補完的保護の地位(subsidiary protection status)が認められた者(難民の地位は認定されないが、帰国させると死刑など人権迫害が想定される者)4万5,535人、人道保護が1万7,665人でした。出身国別に容認率を見てみると、高い順に、シリア、エリトリア、無国籍者となっています。

認定率は加盟国によって大きく異なっており、88%を認めたブルガリア、84%を認めたマルタから、ギリシャ4%、ハンガリー8%、エストニア9%のように1桁の国もあります。また、第一次審査で認められなかった人々のうち、上訴や再評価を求めて第二次審査が行われたのは、推定で約13万人でした。それでも庇護を受けられない人々(大部分は政治的迫害ではなく経済的理由で入国したと判断される)には、ノン・ルフールマン(強制送還禁止)原則を認めているEU加盟国は、自発的な帰国を推進し、そのためのEU帰還基金も用意されています。

Q3. 増加中のシリア難民に対するEUの対応はどのようになっていますか?

シリア北西部の都市であるコバニからトルコに渡るシリアのクルド難民 © UNHCR / I. Prickett

シリアの人道的状況は、内戦の激化や「イスラム国」の出現などにより、第二次世界大戦後の世界において最大の危機であるといわれています。2014年12月11日現在で、シリア国内で人道的な支援を必要とする人々の推計は、1,220万人。そのうち500万人は子どもで、避難民は760万人と推定されています。国外にいる難民認定・認定待機者は332万2,487人で(381万1,595人との統計もあり)で、国別では、トルコ(116万5,279人)、レバノン(114万7,244人)、ヨルダン(62万441人)、イラク(22万8,484人)、エジプト・北アフリカ(16万1,614人)にいます。

EUはシリア危機への対応において最大の援助提供者で、人道支援額は2012年1月以来6億6,500万ユーロ、EUと加盟国を合わせ31億ユーロがシリアの人道・経済・安定化支援に計上されています。シリア内外の難民・避難民に対して、シェルターの提供、児童保護、医療・健康維持支援、飲料水の確保、衛生管理、食料支援とそのための資金提供などが行われています(※3)

出所:http://ec.europa.eu/echo/files/infographics/infographic_syriancrisis_en.pdf#view=fit

シリアからEU加盟国への庇護申請(※4)は、新規の申請が2010年3,775人、2011年6,455人であったのが、2012年には20,805人、2013年には46,960人に急増しています。第一次審査で、難民の地位を認定されたシリア市民は2010年980人、2011年1,360人でしたが、2012年には5,690人で出身国別では第1位になり、2013年には9,920人にまで増えています。補完的保護を認定された者も2013年には2万2,610人となっています。シリアは、第一次審査、さらに第二次審査でも、庇護申請を拒否された者の出身国別リストの15位内に入っていないことから、優先的に認定されたことがわかります。

このように、EUおよび加盟国は、シリアの内戦が終了することに力を傾注するとともに、避難民、周辺諸国に庇護を求めた難民を経済的に支援するとともに、EU28カ国に庇護を申請してきたシリア市民を優先的に庇護しています。しかし、シリアの状況はますます悪化し、EUおよび加盟国はさらなる努力が求められています。

Q4. 加盟国とEUとの権限関係はどのようになっていますか?

庇護を付与するか否か、国境の管理とそれに伴う難民や移民の定住を認めるか否かは基本的に加盟国の主権の下にあります。しかし、1993年に発効したEU条約(マーストリヒト条約)では域内での人の自由移動を達成するために、庇護や入国管理を含めた難民問題について加盟国が協力推進することが規定されました。難民や庇護の「共同体化」は、例えば庇護手続きの最低保障(1995年6月)や「難民」の定義の統一的な適用(1996年3月)など、徐々に進んでいきましたが、大きく飛躍するのは、1999年に発効したアムステルダム条約の下でした。域外国境管理、庇護、移住、民事司法協力などについて一連の措置を採択することを規定した同条約に基づき、1999年のタンペレ・プログラム、2004年のハーグ・プログラムなどによって共通欧州庇護制度(CEAS)が具体化されていきました。

2000年には欧州難民基金が創設され、2008年~2013年では6億2,800万ユーロが充当されました。2003年には庇護申請を繰り返す「asylum-shopping」 を防止するための手段として指紋照合を可能にするコンピュータシステム「EURODAC」が運用を開始し、2004年には、加盟国の国境管理当局間協力を強化することを目的とした域外国境管理庁(FRONTEX)をワルシャワに設置。ここから緊急国境監視チームが、ギリシャ、南イタリア、マルタなどに派遣され、不法移民の取り締まりにあたっています。

2009年に発効したリスボン条約では、EUが庇護、補完的保護および一時的保護に関して共通政策を発展させることが規定され、共通欧州庇護制度をさらに発展させる措置を採択することになりました。2010年には、欧州庇護支援事務所(EASO)がマルタのバレッタに設置され、情報交換や訓練などを通して、庇護に関する加盟国間の実務的協力を促進しようとしています。


欧州庇護支援事務所(EASO)では、加盟国が首尾一貫した、公平な庇護政策を施行できるよう支援している。EU内の庇護に関する状年次報告書の作成もその活動のひとつ。報告書はこちら

2013年には、庇護に関する「第二世代」の法律が採択され、加盟国の庇護処理過程を一層調和させることになりました。その結果として、安全で、公平で、効率的で、乱用を阻止する制度を構築するため、とくに保護と受け入れ基準の調和を目指しています。2012年10月3日の「ランペドゥーサの悲劇」(不法移民を乗せた船が沈没し、300人以上が命を落とした)は、EU領土への安全なアクセスと庇護申請手続きの再検討を促し、地中海タスクフォースが設立され、救助活動も行われるようになりました。

しかし、難民の波に対応しなければならない状況は国によって大きく異なり、負担の公平化が求められているのも事実です。資金的には、2014年から庇護・移住・統合基金(Asylum, Migration and Integration Fund = AMIF)を創設、2014~20年予算で31億3,700万ユーロが充てられ、加盟国の関連国家プログラムの支援が行われています。

 

執筆=田中俊郎(慶應義塾大学名誉教授、ジャン・モネ・チェア)

(※1)^ UNHCR, Mid-Year Trends 201, June 2014.
(※2)^ EASO (European Asylum Support Office), The 2013 Annual Report on the Situation of Asylum in the European Union.
(※3)^ ECHO Factsheet-Syria Crisis-December 2014.
(※4)^ EASO, 前掲 Annex C1~C14