2015.2.27
FEATURE
都市では電力需要の増加や、社会の高齢化、気候変動、さらには災害時のコミュニティの対応力などさまざまな課題を抱えている。その解決策として、エネルギー消費を抑制し、インフラやコミュニケーション手段など都市構造を効率化し、人々により良い生活をもたらすのがスマートシティや、スマートコミュニティの目的である。イノベーションをキーワードにスマートシティ作りに多面的に取り組んでいる欧州連合(EU)の例を紹介しよう。また、文末では、日本の取り組みの現状も紹介する。
欧州では人口の68%が都市に住み、EU全体の域内総生産の80%を生み出している。生産活動や社会機能の大半が集っていることから、都市ではEUの全エネルギーの70%が消費され、温暖化ガスの75%が排出されている。2050年までに人口の85%が都市に住むだろうと予測される中、この傾向は強まりつつある。
EUではスマートシティ構想を、低炭素社会を実現するための方策として、2010年開始の経済成長計画「欧州2020(Europe2020)」(※1)に取り入れた。その後2011年に「スマートシティ・スマートコミュニティ産業界イニシアチブ」を発足させ、8,100万ユーロの予算を充てて運輸とエネルギー分野における実証プロジェクトへの助成が始まった。同年7月には同イニシアチブの後継の取り組みとして新たに情報コミュニケーション技術分野を含め、実に3倍もの予算を充てた「スマートシティ・スマートコミュニティのための欧州イノベーションパートナーシップ」が立ち上がった。
欧州イノベーションパートナーシップは、対象3分野の研究資源を共有し、都市的課題についてイノベーションを通じて解決策を探ろうというもの。電力消費や温暖化ガス排出量を削減し、道路の渋滞を減らして空気の質を改善することなどを目指し、自治体や研究機関、産業界、地元住民が協力して活動する。先進的なプロジェクトを通してノウハウを集めることで、産業界と各都市が戦略的なパートナーシップを確立することができるのが特徴である。
さらに2014年1月からは、EUの新しい研究助成計画「ホライズン2020」(※2)の下、欧州イノベーションパートナーシップは実施段階に入った。ホライズン2020は、EU の各都市にスマートシティプロジェクトへの参加を呼びかけ、多くの自治体が名乗りを上げてきた。
欧州イノベーションパートナーシップでは、近代的で総合的な技術サービスやインフラを利用し、経済的・社会的需要に応え、持続可能な社会を目指す。例えばバイオマスや太陽熱、地熱など再生可能エネルギーや蓄電技術を利用しての暖房や冷房をはじめ、ゼロエネルギー建築やプラスエネルギー住宅(※3)の建設を推進する。スマートグリッドやスマートメーター(※4)を使って発電量と電力消費量を調整し、エネルギー効率の向上を図る。水の供給やごみ収集と処理についても、同じくITを駆使して需要と供給のバランスをとる。
モビリティーの分野では、人々に路面電車や地下鉄、バスなど公共交通網の利用を促すとともに、車両がブレーキや加速の際に生むエネルギーを活用する。天候を予測したり、人々の利用交通ルートやイベントなどを把握することで、最適化を図る。スマートで持続可能なデジタルインフラ整備(※5)も課題の一つである。カーボンフットプリントを減らし、通信機器をはじめ、暖房や冷房、照明も含めた効率的なインフラ整備を進める。
現在、公募により選ばれた約50都市が、EUの助成を受け以下の10種類のプロジェクトに参加し地域性を生かした取り組みを展開している。各プロジェクトには、それぞれ2から14都市が参加している。
1. |
ゼン
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2. |
R2シティ
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3. |
ピタゴラス
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4. |
セルシス
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5. |
スマート
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6. |
スティープ
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7. |
EUググル
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8. |
ステップアップ
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9. |
プリーク
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10. |
トランスフォーム
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ドイツの第2の都市ハンブルク(人口約175万人)の市中心部から南に位置するヴィルヘルムスブルク地区が、上記プロジェクトの「プリーク」と「トランスフォーム」に参画。CO2排出がニュートラルとなる試験的構想を実践している。約5万5,000人が住む35キロ平方メートルの外国人が多い地域で、地元の声を拾いながら地域全体を巻き込んだプログラムを作成、2015年までに地域の建物の電力消費の半分を再生可能エネルギーで賄い、2025年までには建物の電力全てを地元産の再生可能エネルギーにするとしている。
同じく、オーストリアの首都ウィーン(人口約180万人)ではペンツィング地区が、「EUググル」と「トランスフォーム」に参加している。約8万5,000人が住む地域で、1952年から1972年に建てられた集合住宅の延べ床面積約6万3,000平方メートルを、エネルギー効率のよい建物に改修することを決めた。熱を逃がさず空気を入れ替える全熱交換器やスマートメーターをはじめ、一部ソーラーパネルやバイオガス装置、太陽光温水器も設置する。改修後はエネルギー消費についてモニタリングをし、予測値と比較する予定である。住民にインタビューして、省エネ行動促進の戦略も練る。
スマートシティ、スマートコミュニティのプロジェクトは、民間の技術力を活用し、地元の住民参加を通して持続可能な社会を作るとともに、地域活性化および地域の価値創造に寄与することができる。EUのプロジェクトは、その都市の新たな可能性を探り、経済的、産業的、社会的にポジティブな変革をもらたすことが可能である。この先駆的な試みは今後、他都市の見本ともなるだろう。
日本のスマートシティへの取り組みの現状
経済産業省の福田正悟新産業・社会システム推進室室長補佐と、東京工業大学の柏木孝夫特命教授(兼東京都市大学教授)からは「この春より個人や自治体による売電が可能になり、金銭のやりとりが発生することにより、プロジェクトの運営が現実的になる。現在政府が関わるものとしては14のスマートシティ化プロジェクトが進行中だが、春以降には進行中のものはもちろん、さらなるプロジェクトが急速に発展していくタイミングにある」という説明があった。
ただし、各プロジェクトとも現状は構想の段階のものが多く、実際に日本の各地で成果を出す形で進行しているスマートシティ化のプロジェクトは、企業がリードしているのが実情。
スマートシティ化を推進するにあたってネックとなるのは「誰が全体をマネジメントするのか」という部分であり、これを企業がビジネスとして展開することで、資金面、地域や自治体との折衝、インフラの整備などが可能となる。国内11社からなるスマートシティプロジェクトの幹事役を務めている清水建設株式会社の那須原知良ecoBCP事業推進室室長は一社ではできないビジネス創出を強みとした「地域の夢をかなえるまちづくり」への取り組みの紹介があった。プロジェクトは「シティ」という大規模なものではないが、現実的な規模で成功事例を積み上げていくことが今後の布石になると期待される。
(※1)^ 欧州2020は、「賢い成長(Smart Growth)」、「持続的成長(Sustainable Growth)」および「包括的成長(Inclusive Growth)」を柱とする、10年計画のEU経済成長戦略。スマートシティは「賢い成長」の中の主要施策「イノベーション」に含まれている。
(※2)^ 「ホライズン2020」については、EU MAG 2014年12月号の特集を参照のこと。
(※3)^ ゼロエネルギー建築とプラスエネルギー住宅: ゼロエネルギー建築とは、太陽光発電や太陽熱温水器、風力発電装置などを使って電力や熱などエネルギーを生み出すことで、消費エネルギーを相殺し、計算上はエネルギー消費が差し引きゼロである建築物。プラスエネルギー住宅とは、さらに進んで、消費よりも生み出すエネルギーが多い住宅を指す。
(※4)^ スマートグリッドやスマートメーター: スマートメーターとは、電力消費を把握し通信する機能を持っており、これにより効率的な電力供給計画が可能となる。スマートグリッドは、スマートメーターなどを活用してコンピュータ制御することで、送電防止や最適な送電調整を実現した電力網。
(※5)^ 主にインターネットを通してコンテンツ、データ、ハードウェアの利用と連結をサポートするもの。
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