2014.8.26
FEATURE
欧州連合(EU)は「男女平等」をEUの基本的価値および目標と捉え、1950年代からその実現に取り組んできた。1957年の欧州経済共同体(EEC)創設条約で、男女同一賃金の原則を規定し、以降、1975年の男女同一賃金指令をはじめ、雇用へのアクセス、母性保護、育児休暇、社会保障など男女平等を実現するための多くの法律を整備。2009年発効のリスボン条約(改正基本条約)は、すべての活動領域で男女平等を推進することを求め、基本条約と同等の法的拘束力を有する「EU基本権憲章」もすべての分野で男女平等を保護することとし、性差別を禁じた。一方、2010年春に発表された新経済成長戦略「欧州2020 (Europe2020)」では、持続的な経済成長のためには女性の社会的な活躍が不可欠とし、女性の雇用率を引き上げるための目標を設定した。
さらに、2010年9月に発表した5カ年戦略「男女平等へ向けての戦略2010~2015」(※1)では、女性の潜在力を活用し、EUの全般的な経済・社会目標の達成を目指すため、以下の5つの優先事項を掲げた。
1)男女双方の経済的自立と女性の労働市場への進出
2)同一労働同一賃金
3)企業幹部への女性の登用
4)女性に対する暴力の排除
5)対外関係や国際機関を通じた男女平等の推進
具体的には、「欧州2020(Europe 2020)」に掲げられている女性雇用率75%という目標に向け雇用を増やすこと、企業の女性役員の登用を促す仕組みを打ち出すこと、男性に比べ賃金が18%少ないという賃金格差の問題意識を高めるイベントを組織すること、などを進めている。以下、進捗状況を概観してみよう。
2014年4月に発表された欧州委員会の「男女平等推進に関する年次報告書」では、積極的な施策により、賃金の透明性や企業の女性役員数増加が確保され、賃金格差の明確な改善が見られた、と報告している。この改善にはEUの資金援助が大きく貢献している。2007年~2013年を融資期間とする概算32億ユーロの基金が、託児施設や労働市場への女性参画推進の取り組みに充てられ、20歳~64歳までの女性の雇用率は2002年の58%から2013年第3四半期には63%に上昇した。このほか、男女の賃金格差解消への意識向上を目的とした「男女同一賃金の日」(European Equal Pay Day)を制定し、男女平等のための法的整備を監視し、2014年3月には、加盟国に対し賃金の透明性確保による賃金格差の解消を推奨している。
このようなさまざまな施策が打ち出されているものの、男女の雇用機会や賃金格差の解消はいまだ道半ば。女性雇用率は63%に改善されたものの、男性の75%に比べると低い数値である。また、大卒の女性比率は60%に達するにもかかわらず、パートタイムで働く女性(20歳~64歳)の割合は32%と、男性の8.2%に比べてはるかに高い。時給についても、女性は男性に比べて16%低くなっている。特に母子家庭は社会的弱者となりやすく、3分の1超が限られた収入しか得られていない。受け取る年金額の男女間格差も依然大きい。さらに、ワークライフバランスについては、家事や育児に従事する時間は男性が週平均で9時間なのに対して、女性は26時間と、育児や介護によりキャリアを断念せざるを得ない女性も多いのが現状だ。
EUは、意思決定の場や幹部ポストへの女性の登用を促進するため、会社役員の女性比率を2015年までに30%、2020年までに40%に引き上げるための自主的な取り組みを企業に求めてきた。ここからは女性の社会進出を、この「ジェンダーバランス」の面から見ていくことにする。大手上場企業の女性取締役比率や改善状況を調べた2014年6月の報告(調査対象は610社)によると、取締役の女性比率は、EU加盟28カ国の平均が17.8%。最高経営責任者(CEO)に至っては、女性比率はわずか2.8%。国別の女性取締役比率では、フィンランド(29.8%)、フランス(29.7%)、ラトビア(28.6%)、スウェーデン(26.5%)、オランダ(25.1%)などはEU平均をはるかに上回るが、ポルトガル(8.8%)、ギリシャ(8.4%)、キプロス(7.3%)、エストニア(7.3%)、マルタ(2.1%)などは一桁台の低い数字だ。
下のグラフは、これまで取締役の女性比率がどのように改善されてきたかを示すものである。2010年10月から2013年10月の3年間で、最も女性比率を高めたのがフランス(+17.4ポイント)で、以下、スロヴェニア(+11.8ポイント)、イタリア(+10.4ポイント)、オランダ(+10.2ポイント)の順。一方で、ルーマニア(-13.5ポイント)、ハンガリー(-2.3ポイント)、チェコ(-1.0ポイント)などは逆に悪化している。いずれにせよ、EU全体の女性役員比率は期待される水準にはほど遠いといえよう。2012年11月に、役員職に就く男女比の格差の解消を義務付ける「上場企業の役員会におけるジェンダーバランス改善のための指令」(以下、女性役員クオータ制指令)法案が提出された背景にはこういった現状がある(女性役員クオータ制指令についてはPart 2で詳述)。
立法や行政の分野における女性の参画では、加盟国における大臣の女性比率は、EU加盟国平均(調査当時の加盟国数は27)が27%。国別では、スウェーデンがトップで54%。以下、フランス(50%)、デンマーク(48%)、フィンランド(47%)オーストリア(43%)の順。これに対してエストニア、キプロス、スロヴァキア、ギリシャは10%に満たない。
加盟国における国会議員の状況を見てみると、女性議員の比率はEU加盟国平均(調査当時の加盟国数は27)が27%。女性比率が高いのは、スウェーデンがトップで44%。以下、フィンランド(43%)、スペイン(40%)、デンマーク(40%)の順。これに対してスロヴァキア、アイルランドなどは10%台だ。
次にEU諸機関に焦点を当ててみる。まず欧州議会については、1979年に行われた最初の直接選挙では加盟9カ国で410議席が争われ、女性議員の比率は16%であった。その後、5年ごとに行われる選挙を経るたびに平均3%の上昇を続け、2014年5月に実施された欧州議会選挙では当選者の37%となった。これは、加盟国の議会議員の女性比率平均である27%よりも格段に高い。
しかし、欧州理事会(EU首脳会議)を構成する加盟国の首脳(首相もしくは大統領)レベルとなると、2014年8月現在、女性はドイツのアンゲラ・メルケル首相、リトアニアのダリャ・グリバウスカイテ大統領、デンマークのヘレ・トーニング=シュミット首相、スロヴェニアのアレンカ・ブラトゥシェク首相の4人のみである。
次にEUの行政執行機関である欧州委員会における管理職、一般職の女性比率を見てみる。 2012年10月1日時点で、総局長、副総局長といった上級管理職層では27.2%、部課長にあたる中間管理職層が28.7%、一般職は42.4%となっている。それぞれ2014年の数値目標を設定していて、上級管理職層、一般職はいずれも2012年時点でこの目標をクリアしている。欧州委員会における女性比率の向上は、他の組織に比べ良好に推移していると言える。
2012年10月1日 | 2012年目標 | 2014年目標 | |
---|---|---|---|
上級管理職層 | 27.2 | 24.8 | 25 |
中間管理職層 | 28.7 | 27.7 | 30 |
一般職 | 42.4 | 42.7 | 43 |
(※1)^ “Strategy for equality between women and men 2010-2015”
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