2016.4.8
FEATURE
グローバルな課題を討議するために毎年開催される主要国首脳会議(G7サミット)。本年は日本が議長国を務め、首脳会合に加え、外務、財務、エネルギー、保健など10の関係閣僚会合が、4月から9月にかけて各地で開かれる。PART 1では欧州連合(EU)がサミットに参加するようになった経緯や、そこで担う役割に焦点を当てて解説する。
5月26、27日に三重県志摩市にある賢島で開催される主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)には、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7カ国首脳に加え、正式なメンバーとしてEUからも2014年に就任したドナルド・トゥスク欧州理事会常任議長とジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が出席する。
サミットは世界経済から貿易、エネルギー、気候変動、持続可能な開発といったさまざまな地球規模の課題について、解決の方向性を探り、首脳たちの決意や結束を確認し、政策を協調するために議論する場である。首脳たちが胸襟を開き率直に議論ができるよう、通常、会合は打ち解けた雰囲気の中で行われる。
5億人を超える人口を擁すEUは、主権の一部を移譲した28の加盟国からなる他に例を見ない統合体であり、国際政治・経済に及ぼす影響の大きさを考えれば、サミットに参加し発言することは当然といえる。EUはサミットの取り組み全体に関与するとともに、世界の安全保障や人道・開発援助においても重要な役割の担い手となっている。サミットに参加する主要国首脳は自由と民主主義、法の支配、人権といった価値を共有しており、その理念はEUが創設時から守り続けている自らの基本的価値とも深く通じている。
第1回の主要国首脳会議は1975年11月、オイルショックに端を発した世界経済問題に対して各国が政策協調する必要性から、ヴァレリー・ジスカール・デスタン仏大統領(当時)の提案によりパリ郊外のランブイエ城で初めて開催された。当初の参加国はフランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の6カ国であったが、1976年のプエルトリコ・サミットからはカナダが加わり、EUは1977年のロンドン・サミットからその前身である欧州共同体(EC)として参加した。
EUがサミットに参加した背景には、貿易、農業などの政策分野について加盟国からECへの権限移譲がある。サミットには仏、独、伊、英と4つのEU加盟国が参加しているが、これらの政策分野においてはECが全加盟国を代表して議論に加わる必要があったためだ。ロンドン・サミットには当時のEC委員会(現欧州委員会)委員長と閣僚理事会(現EU理事会)議長が参加した。その後、EC委員会はサミットの準備会合にも徐々に参加するようになり、1981年のカナダのオタワ・サミットからは、ECは政治討議を含む全てのセッションに参加するようになった。そして域内単一市場の創設、ECからEUへの発展、単一通貨ユーロの導入、共通外交・安全保障政策(CFSP)の進展などを経て、サミット議題への貢献を強めてきた。
特に2009年に発効したリスボン条約(改正EU基本条約)で気候問題対策やテロ問題対策におけるEUの権限が明示されるとともに、外交や安全保障、対外関係を総合的に担当する外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長の役職が新設され、EUが一つの声で発言するような場面がますます増えた。なお、リスボン条約で欧州理事会常任議長職が創設されたことにより、以降のサミットには6カ月の輪番制であった閣僚理事会議長に替わり、常任議長が欧州委員会委員長と並んで参加することとなった。1998年よりロシアも加えG8となっていたが、同国によるクリミアの違法併合など、ウクライナをめぐる情勢を受けて2014年以降、同国を除く現在のG7となっている。
サミット議長国は各国が持ち回りで担当することになっており、来年はイタリア。以降、2018年カナダ、2019年フランス、2020年米国での開催予定となっている。この持ち回りにEUは加わっていないが、2014年にG8議長国となるはずであったロシアに対する非難と、同国を除くG7のフォーマットで会合を持つことなどを盛り込んだ「ハーグ宣言」が同年3月に採択され、併せてEUは同年6月に初めてサミットを主催した。この時の開催地はEUの首都ともいえるブリュッセルだった。
昨年6月にエルマウ城で開催されたG7サミットで、議長国ドイツは、主な議題として世界経済や外交・安全保障、気候変動問題、途上国の開発問題を取り上げた。特に昨年は、パリでの国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会合(COP21)と国連の次期開発目標を採択する国連総会を控えていたこともあり、気候変動問題や持続可能な開発問題の分野においては節目となるサミットだった。
以下にエルマウ・サミットの結果とEUの貢献を紹介する。
気候問題に精力的に取り組んでいるEUは、1990年から2013年にかけて温室効果ガスの排出を19%削減しつつ45%のGDP成長を達成している。「2030年までに温室効果ガスを少なくとも40%減少する」という野心的な目標を率先して掲げたEUのリーダーシップによって、エルマウ・サミットではCOP21での合意に向けた強い決意を取り結び、先進国だけでなく途上国や新興国も加わった昨年12月の歴史的なパリ協定の採択につなげた。
途上国に対する保健・開発支援では、2016年以降も資金的・非資金的両面の援助で支えることや、2030年までに開発途上国の5億人を飢餓と栄養不良から救い出すことを目指すことなどが掲げられた。開発途上国の貧困問題解決のため定められた、国連のミレニアム開発目標(MDG)に対する世界最大の支援者であるEUは、ここでも力強い指導力を発揮。同年9月の国連総会における、MDGの後継目標「持続可能な開発のためのアジェンダ2030」(2030開発アジェンダ)の採択にも大きく貢献した。
世界経済についてはグローバル経済のさらなる成長のための取り組みの必要性と機動的な財政戦略の実施に各参加者が同意するとともに、自由貿易協定の締結に向けた努力などが盛り込まれた。これらはEUが域内で進める成長戦略や雇用対策と認識を共有するものだ。
また、外交・安全保障では国際法および人権尊重を重要視することをあらためて強調し、ウクライナ情勢やシリアやイラクなどでの人道危機に対し協調して取り組む姿勢を示した。
中でもすでに、EUは前年にウクライナに対して総額110億ユーロという前例のない経済支援を行うことを決めており、同国の政治経済の立て直しに向け重要な役割を果たしている。また、シリアに対しても紛争の勃発以来、開発・人道援助に30億ユーロを投入し、他のG7各国と協調しながら危機の収束に取り組んでいる。
テロ問題や環境問題などのグローバルな問題の解決に向けて、今後さらに成果を挙げていくためにはG7が足並みを揃え、協調して課題に取り組んでいく必要がある。EUは日本と自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を共有しており、長きにわたり密接かつ戦略的な関係を築いている。その日本の安倍晋三総理大臣が議長を務める伊勢志摩サミットでは、EUは日本と協力して、成果を挙げていきたいと願っている。
例えば、世界を脅かすテロとの戦いにおいてG7メンバー間の連携を深めることは言うまでもない。また、欧州を悩ます移民・難民問題については、「難民問題は国際社会全体の喫緊の課題である」ことを確認した2015年11月のG20アンタルヤ・サミット(トルコ)を受け、引き続き国際的な対応が求められよう。ウクライナ問題について、ミンスク合意の完全実施に向け国際社会の包括的な支援を続行することや、パリ気候協定と2030開発アジェンダを積極的に実施に移していくことも肝要である。
その他にも国際経済、女性活用、公衆衛生、貿易、外交、エネルギーなど、国際社会が取り組まなければならない多くの課題に対し、主要国とEUのリーダーたちがグローバルな視点で適切な道筋を示すことが期待されている。伊勢志摩サミット関連の閣僚会合については、4月10日の広島外相会合をもってスタートする。本年のサミットを実り多きものにすべく、EU首脳や各分野の担当欧州委員は積極的な提言をしていくつもりだ。
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