2013.4.12

FEATURE

日・EU関係の進化を目指す2つの協定

日・EU関係の進化を目指す2つの協定
PART 2

欧州議会議員に聞く2協定の意義

欧州議会対日交流議員団が第34回日本・EU議員会議に参加するために来日した。その機会をとらえ、アロイス・ペテルレ(スロヴェニア出身)とマルコム・ハーバー(英国出身)の2人の欧州議会議員に、日本とEUの「戦略的パートナーシップ協定」および「自由貿易協定(FTA)」の交渉について話を聞いた。

ペテルレ議員:戦略的パートナーシップ協定について

ペテルレ欧州議会議員

スロヴェニア出身のアロイス・ペテルレ議員は、欧州議会では中道右派に属する欧州人民党グループ(キリスト教民主党)のメンバーだ。スロヴェニアの元首相で、同国および欧州の政治の世界で活躍してきた。スロヴェニアが旧ユーゴスラビアから独立するに当たって主導的な役割を果たした政治家のひとりだ。同議員にはパートナーシップ協定の交渉について聞いた。

戦略的パートナーシップとは

ペテルレ議員によると、安全保障や外交政策を含む広範な分野で協働する政治的意思を共有することが、この協定の目標だという。

「協定は将来の日・EU間の協力に対する構造的なアプローチを定義するものだ。どの部門で協働するかを明確にし、目標を定める。FTAの範ちゅうを超えるものであり、FTAよりも重要であると考える向きもある」

欧州議会と日本の国会の間で持たれた日本・EU議員会議で、協定は戦略的、包括的で、法律的に拘束力のあるものと結論づけられている。ペテルレ議員は以下の例を示す。

「カナダやオーストラリアとも同様の協定を締結している。ロシアとも戦略的パートナーシップのルールについての合意に努力しているところだ。もちろんどのケースにも常に特有の要素が存在するが、われわれは政治的対話や部門別協力では政治条項・規定という標準化された仕組みで対応している。だから、日本との交渉で特に新しいことをするというわけではない」

協働の対象とする分野

日本とEUの交渉が進展するに伴い、双方はどの分野をプロジェクトの対象に含めるべきか的確に定義できるようになるだろう。現時点では、領域は非常に広範で、双方が協働で取り組むべき課題は多岐にわたる。安全保障もあれば、持続可能な開発という課題もある。経済、運輸、文化もまた、協議の一部でもある。ペテルレ議員は、健康問題、とりわけガン撲滅問題についても言及し、協力の重要な分野になり得るとの見方を示した。同議員はガン撲滅運動への貢献で、関連の賞も受賞している。

広範にわたる利益

ペテルレ議員は上述のような分野で協力できれば、その恩恵を得るのは、日本とEUにとどまらないはずだと語る。

「これらの分野で双方が緊密に協力して取り組むなら、日本やEUだけでなく、他国にとっても利益となるだろう。われわれが取り組んでいるのは世界や地域レベルが懸念を共有している課題だからだ」

日本とEUは今後、高齢化や経済の構造変化などの共通の課題に直面する。こうした諸問題で協働することの意義は大きい、とペテルレ議員は言う。

「われわれの社会は高齢化しつつある。変化する社会・経済構造に沿った解決策を見つけなければならない。いまだかつてない構造変化が起こっている。だからこそ、われわれは経済モデルだけでなく、社会的・環境的コンセプトについても共に研究して検討すべきだ。これは文明が抱える問題だと思う。われわれの解決策は同じ状況に直面するだろう他の国や地域にとっても興味深いはずだ。例えばロシアだ。一人っ子政策をとっている中国も同様だ。フランス、スウェーデン、アイルランドなどの一部の諸国は高齢化の速度を抑制することに成功している」

問題意識を共有し、こうした構造的問題に対する課題への議論が進展すれば、来たるべき未来のために、日本とEUが真の解決策を提示できる体制づくりへの道が見えてくるはずだ。

ハーバー議員:FTA交渉について

ハーバー欧州議会議員

ハーバー議員は英保守党のメンバーで、欧州議会では欧州保守改革グループに所属する。同氏は英自動車産業で30年間にわたって働いた経験を持ち、交渉が自動車部門にどのような実体的な影響を及ぼすかについて精通している。欧州議会では域内市場・消費者保護委員会の委員長を務め、域内の非関税障壁(Non Tariff Barriers=NTB)問題を扱っている。

非関税障壁

FTA交渉の焦点のひとつは非関税障壁(NTB)だ。NTBは関税とは別に輸入を制限する貿易障壁を指す。割当制、課徴金、禁輸、制裁、その他の抑制措置がそれに含まれる。2011年5月から行われた「スコーピング」作業(Part1 参照)の目的の一部は、双方がNTBの撤廃にどの程度真剣に取り組むかを見極めることだった。

「NTBの撤廃を実現するのは、関税を引き下げるよりもずっとやっかいだ。だからこそ、NTB撤廃に真剣に取り組む方針で一致する必要がある。関税の場合、協定で引き下げに調印すれば済む話だが、例えば、自動車車両の検査基準で相互が合意するのはなかなか難しい」

ハーバー議員はかつてローバー社(自動車)の対日輸出関連会社の責任者だったことから、自動車の認証基準に関するNTBに関しても詳しい。日・EUの事前作業では多くの進展が見られたが、まだ懸念は残ると語る。「私は日本に到着後すぐに1枚の文書を手渡された。それには欧州から輸入される乗用車のエアバッグシステムに関する新しい規制について書かれていた。とても煩雑で、新たな貿易障壁のように思われた」

委員長を務める欧州議会の域内市場・消費者保護委員会は、EU域内のNTBを取り扱っているため、貿易委員会からもFTAでのNTB問題に関する見解を求められている。実際、欧州単一市場を実現する過程で一番の争点が、域内のNTBの撤廃だったという。この問題は一筋縄ではいかず、交渉が停滞することもままあると、同議員は強調する。

「政治家がこうと決めても、実際には幾層にも重なる官僚的な手順が待ち構えている。しかも役人の仕事の進め方は彼ら特有で時間がかかる。この文化を変えることは非常に難しい。日本の場合には特にこの傾向が強いだろう。我々がこの問題で日本側からの極めて明瞭なシグナルを求めているのはこのためだ」

債務危機の影響

欧州の債務危機は日本との交渉にどのような影響を及ぼすだろうか? ハーバー議員は、直接的な影響は全くなく、逆に、FTAが締結されれば、成長促進に寄与するはずであり、日本とEUが今まさに必要としているものこそFTAだという。

「FTAは欧州企業と日本企業に成長の機会を提供するものだ。欧州経済も日本経済も景気浮揚に向けて四苦八苦しており、経済的ダイナミズムやそのための機会は多ければ多いほど良い。日本経済にはかなりの投資機会があり、それは欧州経済にとっても有益だろう。公共調達の分野でも参入の機会はたくさんあるはずだし、同様に日本企業も欧州投資の機会が増えるはずだ」

他地域のFTAとの比較

EUがFTA交渉を行っている相手は日本だけではない。他の地域と比べて日本との交渉は何か違いがあるのだろうか? 実際、EUと米国は2月に、FTA交渉を開始するとの共同声明を発表したばかりだ。

ハーバー議員はEUが現在米国と行っている交渉と多くの点で類似性があるという。複数の国々と同様の交渉を平行して進めることで、一方の経験を他方の交渉に生かすことができる。

「例えば、欧州委員会の共同研究センターは米国政府の研究所と協定を結び、電気自動車、スマートグリッド(次世代送電網)、Eヘルス(インターネット通信による医療情報の交換や遠隔治療)などの標準規格問題に取り組んでいる。日本とEUも同様の取り組みを検討するべきだ」

またEU・米国間では、国会議員や企業家、消費者の間でも対話が行われている。ハーバー議員はこうしたさまざまなレベルの議論を平行して行うことの重要性を説明する。

「もし消費者の信頼を得られなければ、また産業界の信頼を得られなければ、さらに政治家の積極的関与がないと、FTAを進展させるのは難しい。今のところ、日本との間には、まだこうした対話の仕組みが十分に整っていないように思える」

一方で、ハーバー議員は、日本とEUとの交渉はある意味では米国との交渉より容易であるという。日本は既に多くの製品分野で国際規格を採用しているからだ。米国の場合は米国基準認証機関のバイアスがかかっている傾向が顕著だという。

「EU・日本、EU・米国間のFTAはともに先進経済国同士の、製品の安全性に関する複雑に絡み合った規制を対象としているからこそ、多くの情報を共有できる。このことを最大限活用すべきだ。2つのFTAを同時進行的に行うことは、利害の衝突を生じることなく、メリットの方が大きいと思う」

単一市場形成の経験

先述したとおり、欧州単一市場を建設する主な課題のひとつは、NTBなどの貿易制限を削減、撤廃することだったので、その経験をFTA交渉に生かすことができる。ハーバー議員は自動車業界での自身の経験を使って説明する。

「分かりやすい例として、また自動車分野を挙げよう。EUは27カ国が単一の認証制度を採用している。どこか1カ国で検査を受ければ、他のすべての加盟国に適用される。ある加盟国が認可した製品を他の加盟国も信用しているという体制が整ったということだ。EUが日本に求めているのはそういう信頼関係だ。一方で製品を検査すれば、他方の市場に即投入できるような信頼感を双方が共有することだ」

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