2014.3.28

FEATURE

一つの声で世界に発信するEU

一つの声で世界に発信するEU
PART 1

EUの外交政策遂行の仕組み――進化と発展

加盟国の共通利益とより良き世界のため

ここ数年、メディアで「欧州連合(EU)」としての発言や行動を報じるニュースが格段に増えている。ドイツでもない、フランスでもない、英国でもない、「EU」の動向が、国際情勢において大きな影響力を持つようになった。これはEUが長い時間をかけて、一つの声として発言できるような仕組みづくりをしてきた結果である。

現在28カ国からなるEUでは、各国それぞれに外交を行っているが、EUが権限を持つ分野や加盟国間で合意・協調がなされた案件についてはEUとして発言している。国際社会で重要な意思決定をする際に、EUとして発言した方が、より大きな影響力があるのは明らかだ。グローバル化が進む今日、安全保障、人道危機など、あらゆる場面において決断が迫られる。このためEUでは、「共通外交・安全保障政策(CFSP= Common Foreign and Security Policy)」をはじめとして、欧州の外交・安全保障面の共通利益のためのルールを策定している。CFSPは国連憲章に基づく平和維持と国際安全保障強化、および国際協力・民主主義・人権尊重・基本的自由・法秩序推進のためにEUが進める政策である。

欧州には半世紀以上前から、「共同体」として加盟国間の経済統合を図る仕組みがあった。1967年に、EUの前身となる欧州石炭鉄鋼共同体、欧州経済共同体、欧州原子力共同体の3つの共同体からなる「欧州共同体」(EC=European Communities)が設置された。ECの経済統合が進む中、東西冷戦が終結した90年代以降、欧州の安全保障秩序が再編され、緊迫した国際情勢に対し迅速な対応がとれるよう、政治統合の必要性も重視されるようになる。1993年にマーストリヒト条約が発効、EUの発足とともにCFSPの概念が導入された。しかしこの時点のCFSPは、政府間協力制度の枠を出ないものであった。1999年に発効したアムステルダム条約で、CFSP上級代表職が設けられ、より高い次元の外交的役割を担うための仕組みが整えられた。アムステルダム条約以降、CFSPは安全保障に加え人道支援と平和維持活動をEUの外交政策として行うようになる。

リスボン条約発効と新たな機構制度

ベルギー、ブリュッセルにある欧州対外行動庁(EEAS) © European External Action Service

EUの外交政策に大きな変革をもたらしたのが、2009年12月発効のリスボン条約だ。この条約でEUに国際法人格が付与され国家のような立場で条約に調印できるなど、実質的にEUの存在を国際的に高めたとともに、それまでCFSP上級代表、輪番制議長国および欧州委員会対外関係担当委員の3名それぞれが遂行していた関連職務を一手に担う新たなポスト「EU外務・安全保障政策上級代表」(以下「上級代表」)が創設された。初代上級代表には英国出身のキャサリン・アシュトンが任命され、同上級代表をトップに、EUの外交政策を担う組織「欧州対外行動庁」(EEAS=European External Action Service)が設立された。EEASは2011年1月、正式に活動を開始した。

EEASは上級代表を補佐し、EUの対外活動の一貫性を図りながら調整し、遂行する組織である。関連政策の提案を準備し、EU理事会の承認後、その政策を実施する。また、欧州理事会議長、欧州委員会委員長・委員の対外関係職務を補佐することや、加盟国間の緊密な協力が確実に進むようにすることもその業務である。上級代表はEUの他の政策との整合性を図るため、欧州委員会副委員長を兼任しており、また、EU理事会の外務理事会(各加盟国の外務大臣で構成される)の議長も務める。日本におけるEUの代表である駐日EU代表部をはじめ、世界各国にあるEUの在外代表部は、EEASの管轄下に置かれている。そのネットワークを統括するのも大切な仕事だ。

EUの対外的な取り組みの例

平和構築・維持活動/危機対応・人道支援
ユーゴスラビア紛争以来、「対バルカン支援」として西バルカン諸国の平和のため、政治的、実務的、経済的支援を継続的に行っている。最近の事例では、EUの仲介によりセルビアとコソボの関係正常化が実現した。また、EUは加盟国と合わせ世界最大の援助を提供しており、飢きんにあえぐ「アフリカの角」や、甚大な津波被害に襲われた日本など、世界中で起こる危機に迅速に対応しEUとして協調した支援を欧州委員会主導で実施するシステムも擁している。

欧州近隣政策
2004年のEUの大規模な拡大に伴い、域内と域外の間に新たな断絶が生まれないよう近隣諸国とのより安定的な関係強化を進めるため、EUはこれら近隣諸国との外交政策の枠組みとして「欧州近隣政策(ENP=European Neighborhood Policy)」をスタートさせた。ENPは北アフリカ、中東、東欧、コーカサスという地中海沿岸諸国および旧ソビエト連邦諸国を合わせた16カ国、2億6,000万人を対象としている。なお、ウクライナはENPの中の東方パートナーシップという取り組みの対象であり、EUは同国を含む近隣諸国の民主化の推進、社会改革、経済改革を目指している。これは、EUの進める、国境を越えた平和と安定の実現に欠かせないものである。

共通安全保障・防衛政策(CSDP)
共通安全保障・防衛政策(CSDP= Common Security and Defence Policy)は、安全保障にかかわる活動を行うための政策であり、加盟国が合意した場合に限り、可能な範囲で協力を行う。CSDPには、軍事的安全保障政策と非軍事的安全保障政策(文民的安全保障政策)の2種類がある。軍事的部門では、常設の「EU軍」は存在せず、加盟各国が合意したとき、各国軍が人員や装備を拠出する「EU部隊」が編成される。非軍事的部門でも、各加盟国の合意の下、各加盟国から拠出される人員や装備によりチームが編成され、EUとしての活動を行う。主に警察、法の支配の強化、文民行政の強化や市民の保護といった分野で、多くの場合、紛争後の地域で現地の制度の構築や人材育成にあたる。CSDP下での国際協力の一例として、本年1月には、ソマリア沖で日本の海上自衛隊とEUの海軍部隊が連携して海賊行為を働いた犯人を拘束している。   

中東和平カルテット
国連、米国、ロシアとならびEUは4者協議(カルテット)の一員として、中東和平に取り組んでいる。EUはパレスチナが平和かつ安全に独立を遂げることを望み、優先事項として取り組んでいる。(PART 2で詳述)

人権問題
人権問題はEUの対外政策の中核をなすものである。人権尊重の概念が世界中に普及するよう、政治的対話や開発支援、多国間フォーラムを実施している。また、EUは、人間の尊厳に関わる問題として死刑制度廃止に向けた活動を世界中で積極的に展開している。(PART 2で詳述)

二者間関係
EUは世界のほぼすべての国と外交関係を保っている。例えば、日本とはその二者間関係を一段高めるため、戦略的パートナーシップ協定締結に向けた交渉を、自由貿易協定交渉と並行して行っているところである。また国連での協力の事例では、日本とEUが「北朝鮮人権調査委員会」の設置を共同提案し、設置が実現。2014年3月20日には、北朝鮮の外国人拉致を含む人権侵害について、適切な国際刑事司法メカニズムへの付託を検討するよう、国連安全保障理事会に勧告する共同決議案を国連人権理事会に提出した。 

(左) 2011年3月26日、東日本大震災の被災地である茨城県の避難所を訪問した国際協力・人道援助・危機対応担当のクリスタナ・ギオルギエヴァ欧州委員 © European Union, 2014(右) 2014年1月18日、EUの海軍部隊と日本の海上自衛隊が連携し、アフリカ東部のソマリア沖で海賊行為を働いたとみられる容疑者の身柄を拘束した © European Union Naval Force Somalia – Operation Atalanta

EUとしての対外行動をとるには

EUは、国際的な課題や海外の憂慮すべき事態に対し、EUが支持する基本的価値(自由、民主主義、平等、法の支配、人権尊重)に基づき、「外交の顔」であるアシュトン上級代表の名前で、さまざまな声明を発表している。EUとしての見解を述べるだけでなく、ときにはその問題の解決に向けての提言も行い、EUの考えや共通の立場を主張している。

アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表は日々さまざまな国際情勢について声明を発表している © European Union, 2014

しかし、何か外交的な案件があるとき、それを一国で対処するのか、あるいはEUとして行うのか――。もちろん複数の国が協力してより大きな影響力を持つ方が有利ではあるが、EUの外交・安全保障政策とするためには手続きが必要となる。

EUの首脳が集まる欧州理事会が、案件についての目標とガイドラインを全会一致で決定する。そして、EUとして実施するという決定は、加盟国外相と上級代表で構成される外務理事会において、原則として全会一致で行われる。分野によっては多数決で決定されるものもあり、採決時に棄権し、政策に参加しないことも認められている。ただし、軍事・防衛に関する案件については、全会一致とされている。

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