2019.1.31
EU-JAPAN
2018年10月、駐日EU代表部政治部の新任外交官として着任した、プティ政治部部長とリーヴィ参事官。2019年2月1日の戦略的パートナーシップ協定(SPA)の暫定適用開始を前に、政治部への注目も高まる中で、職務の内容や日本への思い、今後の抱負などを聞いた。
母国フランスの外交官として国内外で活躍してきたジェレミ・プティ政治部部長は、「実は、私は信念を持ったヨーロッパ人」だと表現する。「価値・文化・歴史を共有する欧州の国々は、協力し合うことでさらに強くなります。フランスは欧州統合を支持してきたという歴史がありますし、欧州連合(EU)の政策はフランスの外交政策の土台ともなっていますから、継続性を持って職務に当たることができます」と、初めてのEUの外交官ポストに期待と自信を抱いている。
駐日EU代表部のポストは、自分の経験や日本に関する専門性も生かせる上に、EUで働くことができるので「これは受けるしかない」と思ったという。
着任して4カ月目に迎えるのが、日・EUの新たな協力枠組みを形作る2019年2月1日の日・EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)の暫定適用開始と日・EU経済連携協定(EPA)の発効だ。「5年前、私が在日フランス大使館にいたころは、まだ民主党政権下で、交渉に向けたプロセスが始まったばかりだったのを思い出します。東京に戻って、この歴史的瞬間に立ち会えることは大変光栄です」と語る。「残念ながら、現在の世界では、これまで大切にされてきた国際的な価値に反する自国第一主義などの動きが目立っています。このような時だからこそ、(協定を通して)日本とEUが協力し、人権の尊重、環境保護、国際法の順守などに対するコミットメントを示す責任があると思います」。
特にSPAは、これまで経済面での協力が中心だった日・EU関係の中で、初めて政治的で戦略的な協力関係を強化するための枠組みとなり、40以上もの共通の関心分野で対話や協調関係を促進する。プティ部長は、「今年はG20の会合がありますし、9月の『持続可能な開発サミット』でも、持続可能な開発、気候変動、海洋プラスチック汚染問題などの分野で、日・EUが共に行動することが期待できます」と話す。
EPAが2019年2月1日に発効するとともに、SPAも同日に暫定適用となるが、この違いについてプティ部長は、「EPAは主に貿易をはじめ、EUの共通政策に関わるものなので欧州委員会が責任を持つ一方、SPAはEUが権限を持つ分野と加盟国の政府間協議で進める分野が幅広く網羅されていて、EUに加えて全EU加盟国も批准しなければなりません。このためSPAは、正式に発効するまでには時間がかかりますが、大方の規定は適用開始となるので、象徴的な意味合いでもこの日から有効だと言って差し支えないでしょう」と説明する。
パリ政治学院とフランス国立東洋言語文化学院で修士号を取得し、後者では日本語を学んだ。上智大学に留学したほか、在日フランス大使館では2009年から4年間、国際情勢担当の書記官、後に参事官を務めた。日本語が堪能で、「パリに住んでいるよりも、東京に住んでいる期間の方が長い」と笑顔を見せる。日本の文化、特に映画への造詣も深く、「黒澤明、大島渚、北野武……。もちろんフランスでも人気のある宮崎駿のアニメ映画も好きです」と好きな監督の名前を挙げてくれた。
それまで長年にわたり日本と関わってきた経験から、今回の日本駐在については「東京に帰ってきた」と言い表すプティ部長。ただ、その生活は前回と大きく異なるようだ。「以前は、博物館や美術館、映画やコンサートなど、東京の豊かな文化的生活を楽しんでいましたが、今は小さい子どもがいるので、なかなかそうもいきません」と苦笑する。「週末も基本的に、子どもが喜ぶ所に行っています。最近では大宮の鉄道博物館、池袋のサンシャイン水族館やナンジャタウンなどに連れていきました」と、父親としての顔も見せた。
エロル・リーヴィ参事官の経歴は多彩でユニークだ。英国のマンチェスター大学で物理学と電子工学を学び、ロンドン大学(UCL)ではリモートセンシング工学の修士号、そして米国のプリンストン大学では国際関係学の修士号を取得。航空宇宙に関わる複数の企業や公的機関で宇宙機エンジニアや計測システムエンジニアとして働いた後、欧州委員会で宇宙政策や科学・研究政策に携わった。宇宙機エンジニアから外交官へと重層的なキャリアを重ね、今回が初めての日本駐在となる。
EU外交官のポストに就いた理由は2つあり、どちらも子どもの時から好きだったことに関わっている。1つは科学。「私は物理と歴史が好きでしたが、進学でどちらかの科目を選ばなくてはならず、科学の道に進んで宇宙機エンジニアとなりました」。若い宇宙機エンジニアとして働いていた際に感銘を受けたのは、宇宙ミッション計画がほぼ欧州レベルで行われていたこと。「そのため、欧州委員会の宇宙政策の役に立とうと思ったのは、私にとって自然な流れだったのです」。
もう1つは、「歴史」への興味だ。「私は歴史の中でも、国と国との関わりについて特に関心を持ってきました。長期的な視点で見ると、人類は家族や民族を超え、さらに国を超えて協力し合うことで、豊かに繁栄してきたと思っています。国が統合し、協力することで市民一人ひとりに恩恵をもたらすEUの取り組みは、世界の他の地域にとってもモデルになるはず。そのような思いを持って、これからのキャリアをEUのために捧げようと決心しました」。
「現在、まさに駐日EU代表部全体が、EPAとSPAの準備に奔走しているところです。特にSPAは幅広い分野を網羅しているので、日・EUの協力関係がより戦略的なレベルにまでステップアップできるようになると思います」。リーヴィ参事官の担当範囲では、開発援助や人権、国連、グローバルコモンズ、海洋、宇宙、サイバーセキュリティなどが関係してくる。
初めて担当する分野もあるので、学ぶことも多い。「例えば、人権はとても興味深いですね。普段の生活では当然のように思えて、気にも留めないかもしれない。しかし知れば知るほど、それがいかに重要で根源的な問題であるかを実感しています」。現にEUと日本は、人権の分野で多くの価値を共有しており、国連総会では何度も共同決議案を提出して採択されているが、これからもますます日・EUで協力できる分野だ。今後について、リーヴィ参事官は「SPAがもたらす全てのチャンスを活用していくのがわれわれの仕事」と意気込みを見せた。
リーヴィ参事官が初めて日本を訪れたのは2004年。その時の印象について、「地下鉄も街もきれいで整然としている東京は、私が抱いていた『21世紀の都市』のイメージそのもの。いつかまた来たいと願っていました」と語る。日本の生活文化にも、大いに興味を寄せる。「日本の人々は、伝統と最新のテクノロジーを日常の中で上手に共存させていると感じます。また、他人と協力しようと努める姿勢や細部へのこだわり、勤勉さなどは、欧州の人々も見習ってよい点だと思いますね」。
2009年以降は、EUの欧州委員会、在外代表部、対外行動庁で米国とカナダを中心に担当してきたが、「そろそろ視野を広げよう」と思いダイナミックな動きのあるアジアを考えていたところ、以前訪れて非常に印象深かった日本のポストの募集があったため、「第一希望だ!」と迷わず応募したという。
夫妻そろって旅行が大好きというリーヴィ参事官。昨年11月には京都を訪れ、「素晴らしい歴史や文化を感じられる所でした。鳥居が見事に立ち並ぶ伏見稲荷や、金閣寺などに行きましたが、ちょうど紅葉の時期だったので非常に美しかったです」と振り返る。
モダンジャズの大ファンでもある。「東京では多くの優れたジャズミュージシャンの音楽を聴けるし、ライブハウスも充実しています」と絶賛する。ただ、ナイトライフを楽しむのは当分の間お預けだ。「私も妻も旅行や外食が好きですが、生後18カ月になる娘がいるので、なかなかそう簡単には出かけられません」。それでも仕事の後、家に帰って「妻と娘の顔を見ることが、1日のうちで一番のハイライト」と笑顔を見せた。
プロフィール
ジェレミ・プティ Jérémie PETIT
駐日EU代表部 政治部部長/一等参事官
フランス生まれ。パリ政治学院、およびフランス国立東洋言語文化学院で修士号を取得。2006年、フランス外務省に入省し、ミャンマー、タイ、ASEAN地域フォーラム(ARF)デスクオフィサーを務める。在日フランス大使館の国際情勢担当書記官、後に参事官、在モルドバ・フランス大使館次席などを経て、2017年からフランス外務省のODAユニット長を務める。2018年10月より現職。
エロル・リーヴィ Errol LEVY
駐日EU代表部 政治部 参事官
英国生まれ。マンチェスター大学卒業後、ロンドン大学(UCL)でリモートセンシング工学、米プリンストン大学で国際関係学の修士号をそれぞれ取得。航空宇宙関連企業での勤務を経て、2001年に英国政府から欧州委員会に出向、宇宙政策や国際地球観測活動に携わる。2005年にEUの正職員となった後、欧州委員会、駐米EU代表部、欧州対外行動庁(EEAS)で米国およびカナダを担当。2018年10月より現職。
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