2012.8.29

EU-JAPAN

ロンドン五輪―日本の活躍はどう報じられた?

ロンドン五輪―日本の活躍はどう報じられた?

欧州連合(EU)加盟国では8年ぶりの開催となった第30回夏季五輪・ロンドン大会は8月12日、連日の白熱した競技の幕を下ろした。

英国のメディアは日本人選手の健闘振りをいかに報道したのだろうか?

「内村選手の動きはあまりにも完璧……」

現地邦人向け雑誌「英国ニュース・ダイジェスト」(8月9日号)が、英メディアによる、いくつかの面白い表現を拾っている。これによると、カンボジア代表としての男子マラソンの出場が問題視されていた猫ひろし氏を、BBCが「日本の猫芸人」と紹介。BBCはまた、平泳ぎの北島康介選手を「カエルの王様」と表現した。週刊ニュース誌「ウィーク」はレスリング女子の吉田沙保里選手を「世界で最も素晴らしい10人のスポーツ選手」の一人としてあげ、ロイターは「ポケット・ターミネーター」と呼んだ。

日本人選手の活躍で、最も目立ったのは体操競技とサッカーだ。

特に英国人記者を感動させたのは、体操競技・個人総合で優勝した内村航平選手の動きだった。ガーディアン紙は8月1日付記事で、同選手の演技の美しさをこう表現している。「過去3年間、内村の一つひとつの動きはあまりにも完璧で、あらかじめ運命によって定められているかのようだった」、「跳馬からの着地は、モンティ・パイソンのコント『死んだオウム』よりも静かだった」。コメディ・グループ、モンティ・パイソンのこのコントでは、すでに死んでいるオウムを売ったペットショップ店員と客との掛け合いが笑いを誘う。英国では誰でも知っており、読者に鮮明なイメージを残した。

内村選手の金メダル獲得を報じるBBCの記事(http://www.bbc.co.uk/sport/0/olympics/19088867)。

 

開幕前に英中部コベントリー・スタジアムで行われた、日本女子代表とスウェーデン代表の試合にも注目が集まった。ワールドカップで優勝した日本女子代表が金メダル獲得まで到達するとしたら、観衆はその始まりを目撃したことになる。ガーディアン紙(7月26日付)はボールを追う日本とスウェーデンの選手の写真を紙面のほぼ半分を使って掲載した。

金メダル獲得の可能性があったスペインを下した日本の男子代表の活躍もインパクトが強かったようだ。英国ニュース・ダイジェストによると、インディペンデント紙(7月27日付)はFWとして活躍した永井謙佑選手を「日本最強の武器」と書いた。

日本人選手と英国人選手がメダルをめぐって緊迫するドラマを作り出したのが、7月30日に行われた体操・男子団体総合決勝だった。当初、各国の総合得点総数で英国が2位、日本は4位だった。英国が銀メダル獲得となったことで、会場内に大きな歓声が起きた。英国の男子団体がメダルを獲得するのは100年ぶりだ。しかし、日本側が内村選手の低い得点に異議を唱え、同選手の得点は上方修正。日本が総合2位に繰り上がった。

ガーディアン記者によると、繰り上がりが判明すると会場内に「ブーイングの嵐が起きた」(30日付ウェブサイト)という。

大衆紙デイリー・メールは、「奪われた! 悲しみに打ちひしがれた英国体操選手たち。歴史的な銀メダルを与えられた後で、日本の異議申し立てによってワンランク落とされた」という感情的な見出しの記事を掲載した。だが、本文では事の経緯を説明し、選手の言葉を掲載している。「銀だろうが銅だろうが関係ないよ。目標は第5位になって、演技を楽しむことだった。実際に演技を楽しんだし、銅メダルまでもらったんだよ」。会場に来ていた観衆もいかに英国人選手が素晴らしい演技をしたかを誉めそやす。一歩間違えば、他国や他国選手を責める論調になるところをバランスよくまとめ、読後感のよい記事に仕上げていた。英国の、負けを潔く認める精神の表れだろう。

なでしこジャパンの座席事件が男女差別問題に

やや一人歩きした感があるのが、サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」と「男女差別」だった。

7月16日、なでしこと男子サッカー日本代表が羽田空港からパリに向け、同じ飛行機で出発したが、ほどなくして、複数の英メディアが「男子はビジネスクラスで女子はエコノミークラスであった」と報道し始めた。BBCのニュースサイトは18日付記事で、金メダル獲得を期待されている女子代表がプレミアム・エコノミーであったのに、そうではない男子代表がビジネスであったと説明、女子代表の一人、澤穂希選手の「逆でもよかったと思う」というコメントを掲載した。欧州へ飛んだ日本人選手のほとんどがエコノミーで来たこと、日本サッカー協会が1996年から男子代表にはビジネス席を提供してきたこと、女子のチケットがエコノミーからプレミアム・エコノミーにアップグレードされていたことなどの基本情報が続く。さらに、男子代表がビジネスクラスであるのは「プロのサッカー選手であることに敬意を表しているからだ」という、協会側の説明もあった。

座席事件では女子代表が不当に扱われていると英国民に映ったのだ。19日付のデイリー・メールは「これで性の平等があると言えるのか?」とする見出しの記事を出している。ガーディアン紙は8月7日付で、なでしこが帰りの便でビジネスに乗れるよう、日本サッカー協会に1万7,000件もの陳情が送られたことを紹介した。

銀メダルを獲得したなでしこジャパンは、帰路で無事にビジネスクラスの座席を獲得した。これを機に何らかの規則を見直そうという動きは日本ではあるのだろうか? 同時期に、オーストラリアのバスケットボール五輪代表もロンドン行きの飛行機で、男子にビジネスクラスが用意され、金メダル獲得への期待が高い女子がエコノミークラスだったことが判明した。オーストラリアでは閣僚が男女による格差を批判し、バスケットボール協会が規定を見直す動きに発展した。

最後に、公共放送BBCが26のチャンネルを用意してすべての競技を生放送したものの、英メディアの五輪報道の焦点は過度といえるほど英国人選手に置かれていたことを指摘しておきたい。例えば、競技終了直後の選手への生インタビューは、原則英国人選手のみ。たとえ金メダルを取っても英国人でなければインタビューはなしだった。女子サッカーの決勝戦(日本対米国)は五輪専用チャンネル1つのみの放映で、翌日の各紙面でも扱いは大きくなかった。

世界中の人が関心を持つ多数の競技を扱う五輪の放送は、各国情報をどこまで充実させるかの点でさらに工夫が必要なようだ。

(2012年8月24日 記)

※本稿はジャーナリストの見解であり、欧州連合、欧州委員会および加盟国政府の公式の立場を反映するものではありません。

著者プロフィール

小林 恭子 KOBAYASHI Ginko

在英ジャーナリスト&メディア・アナリスト。ブログ「英国メディアウオッチ」。主な著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、「日本人が知らないウィキリークス」(共著、洋泉社)など。
英国 · http://ukmedia.exblog.jp/

 

第30回夏季五輪・ロンドン大会 EU加盟国メダル獲得数

国名 金メダル 銀メダル 銅メダル 合計
英国 29 17 19 65
ドイツ 11 19 14 44
フランス 11 11 12 34
イタリア 8 9 11 28
ハンガリー 8 4 5 17
オランダ 6 6 8 20
チェコ 4 3 3 10
スペイン 3 10 4 17
ルーマニア 2 5 2 9
デンマーク 2 4 3 9
ポーランド 2 2 6 10
リトアニア 2 1 2 5
スウェーデン 1 4 3 8
アイルランド 1 1 3 5
スロヴェニア 1 1 2 4
ラトビア 1 0 1 2
スロヴァキア 0 1 3 4
ベルギー 0 1 2 3
フィンランド 0 1 2 3
ブルガリア 0 1 1 2
エストニア 0 1 1 2
キプロス 0 1 0 1
ポルトガル 0 1 0 1
ギリシャ 0 0 2 2
92 104 109 305

人気記事ランキング

POPULAR TAGS