2024.10.28
Q & A
米ニューヨークで2024年9月22、23両日、第79回国連総会の一環として、各国首脳らが地球規模の課題などについて議論する「未来サミット(Summit of the Future)」が開催され、国際社会の具体的な行動指針を示した成果文書「未来のための協定(Pact for the Future)」が採択されました。本稿では、「未来サミット」開催の経緯や意義、同協定の成立に向けた欧州連合(EU)の取り組みなどについて説明します。
国連創設75周年を迎えた2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや気候変動など地球規模の課題が山積する中、加盟国はグローバル・ガバナンスの強化を誓い、アントニオ・グテーレス国連事務総長に対して、現在および未来の課題に対処するための提言をまとめるよう求めました。これに対して同事務総長は2021年、「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」と題した報告書を発表。この中で「われわれの未来のあり方と、そのような未来を確保するために今日できることについて新たなグローバル・コンセンサスを築くため、未来に関するサミットの開催を提案する」としました。
そして今回、国連を中心とした多国間協力の再構築を掲げて開催された「未来サミット」には、EUのシャルル・ミシェル欧州理事会議長や日本の岸田文雄首相(当時)ら、各国首脳が出席。成果文書「未来のための協定」が、反発した一部の国による修正案提出という一幕があったものの、議場の総意により採択されました。また、付属文書として、デジタル協力と人工知能(AI)ガバナンスに関する初めての包括的な世界的枠組みである「グローバル・デジタル・コンパクト」、そして未来世代の利益を守るために具体的な国際レベルのガバナンスを提案した「将来世代に関する宣言」が採択されました。
「未来のための協定」は、「持続可能な開発と開発のための資金調達」「国際の平和と安全」「科学・技術・イノベーション(STI)、そしてデジタル協力」「若者および将来世代」「グローバル・ガバナンスの変革」という5つの章で構成され、国連の安全保障理事会の改革など56の具体的行動が示されています。交渉を主導した共同進行役のナミビアとドイツがとりまとめました。2024年1月にゼロドラフト(草案)が公表され、政府間協議やステークホルダーからの意見募集などを基に改訂が重ねられ、第5版が採択されました。
EUは、国連と共に平和で公正かつ持続可能な世界を追求するとともに、国連を中核に据えた、普遍的価値と原則に基づく多国間システムの強化・促進に尽力してきました。EUのリスボン条約(2009年発効)では、「特に国連の枠組みにおいて、共通の問題に対する多国間的解決を促進する 」と規定。その協力分野は、平和・安全保障、気候変動・環境保護、人道支援、人権擁護、グローバルヘルスなど多岐にわたり、個々の国だけでは対処できない地球規模の課題に共に取り組んでいます。また、EUは国連の重要な政治的パートナーであるだけでなく、EUとEU加盟国合わせて、国連システムに対する最大の資金提供者ともなっています。
2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と、その具体的な目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」に関しても、EUはSDGsを政策の優先目標と位置付け、EUの通商政策や開発援助政策といった対外政策のみならず、「欧州グリーン・ディール」をはじめとするEU域内政策にもSDGsを反映させてきました。
しかし、国連が設立された79年前よりも世界情勢が複雑になった今日、国連が政治と経済の現実を反映していない時代遅れの組織のままでは、効果的なグローバル協力の実現は困難です。国連が2024年6月に公表した報告書によれば、SDGsの目標のうち、現在、順調に進んでいるのはわずか17%にすぎません。グテーレス国連事務総長の国連改革案を支持しているEUは、「未来サミット」が多国間システムの再活性化の足掛かりとなり、「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」の実施を加速させると考えていました。EUおよびEU加盟国は「未来のための協定」の採択に向けて、「未来サミット」の開催プロセスを通じて建設的に関与してきました。
EUは、「未来サミット」開催に向け、未来の世代を担う若者を対象に、同サミットに参加する世界の指導者たちにメッセージを伝えるための「私たちの声、私たちの未来(Our Voice Our Future)」キャンペーンをソーシャルメディアで展開しました。このキャンペーンは、ポジティブなストーリーには変革の力があるという信念に基づいており、若者が「未来サミット」の主要項目を巡り自身の未来のビジョンや夢を発信し、その想いを友人らと共有するとともに、「未来のための協定」をまとめる世界の指導者たちに直接メッセージを届けるプラットフォームとなることを目指しました。
また、「未来サミット」に向けた準備プロセスとして、大使級の会合を複数回開催したほか、ステークホルダーや市民社会との会合も行い、合意形成に向けて各方面の人々と建設的に協力。デジタルとフィジカルの両面から「未来サミット」に向けた機運の醸成を図りました。
ミシェル欧州理事会議長は2024年9月22日、「未来サミット」での演説で、「未来のための協定」について以下のように述べています。
今回のサミットは、われわれの野心を後押しするまたとない機会であり、EUは全面的に賛同しています。多国間の信頼を再び活性化し、国連をわれわれの行動の中心に戻す「未来のための協定」は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を加速し、人権、ジェンダー平等、そして地球保護を実現するための強力な触媒となります。(中略)この「未来のための協定」は、われわれの間の相違にもかかわらず、直面している課題にもかかわらず、協力できる、そして協力したいという強い自信のシグナルを送るものです。 EU は、この協定を成功に導く強力かつ信頼のおけるパートナーとして期待してもらえるでしょう。
EUは、気候や環境の緊急事態を含む新たな課題に対応し、SDGsの達成を後押しするため、国際金融システムの改革に向けて取り組んでいます。EUを含む主要20カ国・地域(G20)は、国際通貨基金(IMF)が配分する特別引出権(Special Drawing Rights: SDR)を通じた発展途上国支援に関し、1,000億ドル相当のSDRを再配分することを約束していますが、ミシェル欧州理事会議長は演説で、より多くのSDRを再配分できるように努力すべきだと国際社会に訴えました。
政府開発援助(ODA)についても、EUとEU加盟国によるODAは2023年、1,000億ドル超に上り、例年世界最大の提供者であることを説明した上で、主要7カ国(G7)の国々をはじめとする国際的パートナーに対し更なる拠出を呼び掛けました。
また、「未来サミット」と並行して、ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長をはじめとするEU代表らは9月22日、グテーレス国連事務総長と会談し、サミットのフォローアップについて話し合いました。専門家らは、国際的な資金調達の改革に向けた政策を具体化し、グローバルサウスとの連携を構築することで、フォローアップが実質的なものとなるようにする点で、EUが果たすべき役割は大きいと見ています。
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