2024.11.15

WHAT IS THE EU?

EUの付加価値税

EUの付加価値税

EUの付加価値税(VAT)とは?

欧州連合(EU)は、付加価値税(VAT: Value Added Tax)を加盟国の共通税制と定めており、全ての加盟国に導入を義務付けています。共通税制としている目的は、EUが目ざす「人・モノ・サービス・資本が自由に行き来する単一市場」を機能させるためであり、加盟国内およびEU域内での公正な競争を守るためです。

VATが世界で初めて導入されたのはフランスでした。第2次世界大戦からの復興のため、「関税および貿易に関する一般協定(GATT、現在の世界貿易機関:WTO)」に抵触せずに輸出企業を支援する仕組みとして、同国税務総局高官だったモリス・ロレが1954年に考案し、すぐに導入されました。VATは日本の消費税と同様の間接税で、OECD(経済協力開発機構)などによると、今では世界170以上の国・地域で採用されています。

VAT制度を正しく運用するために、EUは共通規則を定めています。EUにおいて、共通のVAT制度の枠組みが本格導入されたのは、欧州共同体(EC)時代の1977年、第6次VAT指令の公布によってでした。その後、1993年の欧州単一市場始動に合わせて同指令は大幅に改正され、現行のシステムがほぼ整いました。現在のVAT指令は、2006年11月に「EU理事会指令2006/112/EC」として公布されたもので、その後何度も改定が行われています。

加盟国によって異なる税率

EUのVAT制度では、標準税率は15%以上と定められているものの、加盟国によってさまざまな税率が採用されています。2024年6月現在、標準税率が最も高い加盟国はハンガリー(27%)で、次いで高いのはデンマーク、クロアチア、スウェーデンの3カ国(いずれも25%)です。標準税率が最も低いのはルクセンブルク(17%)で、2番目にマルタ(18%)、3番目にドイツ、キプロス、ルーマニア(いずれも19%)が続きます。

加盟国標準税率(%)軽減税率(%)超軽減税率(%)経過措置適用中の軽減税率(%)
ベルギー216 / 1212
ブルガリア209
チェコ2112 / 15
デンマーク250
ドイツ197
エストニア225 / 9
アイルランド239 / 13.5
ギリシャ246 / 13
スペイン2110
フランス205.5 / 102.1
クロアチア255 / 13
イタリア225 / 104
キプロス195 / 9
ラトビア215 / 12
リトアニア215 / 9
ルクセンブルク178314
ハンガリー275 / 18
マルタ185 / 712
オランダ219
オーストリア2010 / 1313
ポーランド235 / 8
ポルトガル236 / 1313
ルーマニア195 / 9
スロヴェニア225 / 9.5
スロヴァキア2010
フィンランド2410 / 14
スウェーデン256 / 12
出典:VAT rates applied in EU member countries20241115日現在 ※自国語の国名のアルファベット順

軽減税率が認められている食料品に対する適用税率は、例えば、ドイツでは価格の7%、ギリシャでは13%、デンマークでは25%です。一般消費者向けの価格は内税で表示されるため、買い物の際には税率の違いが分かりにくいかもしれません。しかし、同じ菓子メーカーのビスケットや、同じファーストフードチェーンの食べ物をいくつかの国で買ってみると、価格の違いがよく分かるでしょう。VATに酒税やエネルギー税などが組み合わされると、さらに大きな価格差が生じる場合もあります。

加盟国間で税率の違いがある理由は、VATがあくまで「EUによる課税」でなく、加盟国それぞれの「国内税」であり、租税の組み合わせや税率は、各国の財政事情や総合的な税と社会保障システム構想の中で、独自の考えに基づいて設計されているからです。また、異なる税率の加盟国間で取引が行われた場合は、サービスや商品が「消費」された国の税率が適用されます。つまり、買い手が商品・サービスを受け取る場所がどこかで税率が決まります。 各国の商品・サービスのVAT税率は、欧州委員会のウェブサイト「VAT Search」(英語)で確認することができます。

一つの国の中に複数の税率

前述の通り、EUのVAT制度では標準税率の下限は15%と定められていますが、上限に関する規定はありません。VATは一般的に逆進性があり、低所得者層により多くの分配負担を強いることになるため、軽減税率の制度が整備されています。加盟国は、食料品、水道水、新聞、医薬品、宿泊施設の利用などに対して、5%以上の軽減税率を2段階まで設定することができます。また、軽減税率は、例えば環境に配慮した商品や地域のサービス産業など、特定の商品・サービスの消費を奨励する機能も果たしています。

1991年以前にVATを導入していた一部の加盟国については、特定の商品・サービスに「超軽減税率」(5%未満)あるいは「ゼロ税率」を適用することが特例措置として認められています。なお、軽減税率の適用を新たな品目・サービスに拡大する場合は、EU理事会での承認が必要となります。

VAT制度改革

EUは、VAT登録・申告の簡素化、制度の効率化、脱税対策などのため、VAT改革を進めてきました。ここ10年では、2016年4月に欧州委員会が採択した、VAT制度の改革案をまとめたコミュニケーション(政策文書)「VAT行動計画」をはじめ、2021年7月以降適用されている電子商取引(EC)に関するVAT規則改正や、VAT制度をデジタル時代に対応させるための改革パッケージ「デジタル時代のVAT(VAT in the Digital Age : ViDA)」などに取り組んでいます。

「デジタル時代のVAT」をめぐっては、2022年12月に欧州委員会が提案、EU理事会が2024年11月5日、合意に達しました。同改革パッケージは、以下の3つの柱で構成されています。

  • デジタル報告と電子請求: 国境を越えた企業間取引に関するVAT申告を完全電子化し、ほぼリアルタイムのデジタル報告を導入。EU加盟国に国境を越えた取引の迅速かつ完全な情報を提供し、VATの不正行為を阻止する。
  • プラットフォーム事業者への義務付け:民泊サービスや配車サービスなどの提供者が顧客からVAT徴収を行わない場合、これらサービスを仲介するオンライン・プラットフォーム事業者に対してVATの支払いを義務付ける。
  • 単一VAT登録:VAT登録と会計処理を一元化する「ワンストップショップ(OSS)」をさらに改善・拡大し、複数のEU加盟国で取引を行う事業者はオンラインで一元化されたVAT登録が可能となる。

訪問者・非現地法人は免税

VATは消費税と同様に「消費されるところ」で発生する税なので、EU域外からの訪問者が加盟国で商品を買って持ち帰ったり、日本企業がEU加盟国から商品を輸入したりする場合は、原則としてVATは免税されます。

免税の対象となる訪問者とは、EU域外に居住する人で、パスポートやその他の身分証明書に記載された現住所でそれを証明できる人のことです。EU加盟国に国籍がある場合でも、域外の国に居住していればVAT還付の対象となります。

EU域外からの訪問者は、EU滞在中に購入した商品について、購入後3カ月以内に出国する際に、VAT還付に必要な書類とともに税関当局に提示、認証を受けられれば、VATが払い戻しされます。免税の対象となるのは原則として個人が手荷物として持ち運べる商品であり、自動車やヨットなど貨物扱いになるものは除外されるなど、免税されない商品もあります。

VAT還付の手続きは、EUレベルで統一されていません。商品の販売者・店舗が免税対象なのか、免税代行業者を利用するかなどによって、手続き方法が異なります。国によっては、払い戻しを受けるための最低購入額やその他の基準を設けている場合がありますので、ご注意ください。

一方、企業については、現地で売り上げのない非現地法人の場合、EU域内で商品を購入したり、サービスの提供を受けたりすると、VATの還付を求めることができます。

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