欧州文化首都2018 ~レーワルデンとヴァレッタ~

© Wietze Landman © Michele Agius

毎年違った都市で通年繰り広げられるEUの「欧州文化首都」プロジェクト。今年はレーワルデン(オランダ)とヴァレッタ(マルタ)が独自のアプローチで豊かな文化を発信。日本人アーティストたちが関わる作品や公演もあり、見どころが満載だ。現地から届いたEU MAG読者へのメッセージもお届けする。

地域が活気づくユニークな文化の祭典

欧州文化首都は、1985年にギリシャのメリナ・メルクーリ文化大臣(当時)の呼び掛けで始まった欧州連合(EU)の文化プロジェクト。各都市の魅力を存分に発信するかたわら、欧州市民としての一体感を生み出し、地域の活性化を目指す。現在は、EU加盟・候補国および欧州経済領域(EEA)の国々から2カ国・2都市が選ばれ、毎年開かれている。開催国やEU域内の人々はもちろん、世界各地からも観光客を引きつける。以下、2018年の開催都市レーワルデン(Leeuwarden)とヴァレッタ(Valletta)、それぞれの「欧州文化首都」の取り組みの一部を紹介しよう。

「世界に開かれたコミュニティー」を目指すレーワルデン

オランダの首都アムステルダムから北東へ約140kmにあるレーワルデンは、北海に面し独自の文化と言語(フリジア語)を持つフリースラント州の州都。土地ゆかりの歴史や文化を記念する600以上のモニュメントがあちこちに立つ、中世の名残を伝える美しい街だ。街中を縦横無尽に走る運河を遊覧船でクルージングするのもよいし、冬のフリースラントでは、レーワルデンが始・終点となり州内の11都市を通る全長200キロのスケートコースで競われる「11都市スケートマラソン」が人気となっている。また、古今東西の陶磁器を集めた膨大なコレクションを誇るプリンセスホフ陶器博物館は、数ある名所の一つ。そしてレーワルデンは、第一次世界大戦中の「伝説の女スパイ」とされるマタ・ハリの出身地としても知られている。

中世の面影を色濃く残すレーワルデンの街を、運河クルーズで巡りながら楽しめる
© オランダ政府観光局 www.holland.com

レーワルデン2018のテーマ「大きな夢を抱こう。思い切って行動しよう。違うことを恐れずに(Dare to dream. Dare to act. Dare to be different.)」は、あらゆるものを迎え入れ、新しい選択肢を探り、未知の世界とつながろう、という思いを表している。音楽や演劇、ランドアート(自然の素材を用いて屋外で制作された美術作品)、オペラ、スポーツなどの多彩なジャンルで、メインプログラム60件を含め全部で1,100件以上の催しが行われる。

「エッシャーの旅」展 Escher’s Journey

開催日:4月28日~10月28日/開催場所:フリース博物館

“だまし絵”や、同じモチーフを繰り返しながら変容させて描く作品群で、独自の世界を創り出した版画家のマウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898〜1972)は、レーワルデン生まれ。今回の特別展では、80点以上のオリジナル版画とスケッチ画約20点を、彼にゆかりのある写真や品々と共に展示し、イタリアやスイスにも住んでいた“エッシャーの旅”の足跡を辿る。

幾何学的な模様を下地にした『循環』(左、1938年)と、永遠に水が落ち続けるように見える『滝』(1961年)は、エッシャーの代表作
© The M.C. Escher Company, B.V. All rights reserved. www.mcescher.com

イレブン・ファウンテン(11の噴水) 11 Fountains

開催日:5月18日~12月31日/開催場所:フリースラント州各地

世界で活躍する11カ国のアーティストがデザインした噴水が、州内11都市でそれぞれ披露される。エイルスト市では、日本を代表する現代美術作家・大巻伸嗣が地元の花をモチーフに、華道の技法「立花」を取り入れてデザインした噴水を見ることができる。このプロジェクトはEU・ジャパンフェスト(後述)の一環で、欧州文化首都の会期終了後も11の噴水がレガシー(遺産)として各市に残される。

日本人美術作家・大巻伸嗣が手掛けたエイルスト市内の噴水。現地で愛されている花をモチーフにし、地元の人々との対話から生まれたデザインは「人間と自然の融合」を象徴している
© Simon Bleeker

ロワイヤル・ド・リュクスの巨人たち The Giants of Royal de Luxe

開催日:8月17日~19日/開催場所:レーワルデン市街地

南フランス発のパフォーマンス集団「ロワイヤル・ド・リュクス」による、初のオランダ公演。15メートルもの巨大な人形が、3日間をかけて、レーワルデンに伝わる民話と歴史をモチーフにした新しい一大スペクタクルを演じる。

フランス国内はもとより、世界各地で好評を博している巨人たちのパフォーマンス「ロワイヤル・ド・リュクス」。巨大な人形の緻密な動きは、コンピューターを一切使わず、全て人力の機械仕掛けとなっている
© Royal de Luxe / Artcompress / Pascal Victor

多種多様な地中海文化を体現するヴァレッタ

“地中海の宝石”と呼ばれるマルタは、イタリア・シチリア島の南、地中海に浮かぶ美しい島国。欧州とアフリカに挟まれ、政治的にも文化的にも周辺諸国から強い影響を受けてきた長い複雑な歴史があった。1565年にオスマン帝国に勝利したマルタ包囲戦、1964年の英国からの独立、1974年の共和制移行、そして2004年のEUへの加盟が、マルタの人々にとって誇らしい歴史として記憶にとどめられているという。

首都ヴァレッタは、オスマン帝国軍との戦いで得た経験から、難攻不落の要塞として設計・建設された都市で、今では街全体がユネスコの世界遺産に登録されている。人口約6,000人の小さな街だが、ローマで活躍した画家カラヴァッジョの作品が見られる聖ヨハネ大聖堂や、紀元前の地下神殿で発掘された女体像「マルタのヴィーナス」が展示されている国立考古学博物館などがあり、マルタの歴史や文化に思いをはせながら散策するのも楽しい。

難攻不落の要塞都市として築かれたヴァレッタ。海に映える美しい街は世界遺産となっている
© Image: www.viewingmalta.com / Philip Mamo

マルタ初の欧州文化首都として、国を挙げて祝うヴァレッタ2018。マルタ島とそのすぐ北西にあるゴゾ島では、「島の物語(Island Stories)」「未来のバロック(Future Baroque)」「航海(Voyages)」の3つをテーマに、140以上のプロジェクトと400以上のイベントが催される。欧州と北アフリカの間にある島国というユニークな地の利を生かして、地中海のさまざまな地域から多様な文化を集結させようという試みでもある。

ノッテビアンカ Notte Bianca

開催日:10月6日/開催場所:ヴァレッタ市内各地

ノッテビアンカとは、イタリア語で「白夜」、転じて「眠らない夜」の意。マルタで毎年開かれている国内最大の芸術文化祭で、今年はヴァレッタ2018のために新しいデジタルメディアや市民参加型のインスタレーションなど、特別な趣向が凝らされる。また例年通り、街中できらびやかなパレードが行われたり、路上で音楽や踊り、演劇が披露されたりするほか、博物館や歴史的建造物などの公共施設も無料開放となる。この日はレストランやカフェも遅くまで営業しているので、お祭り気分でナイトライフが楽しめる。

2006年に始まった「ノッテビアンカ」は、今ではマルタの人々が毎年心待ちにしているお祭りとなった
© Image: www.viewingmalta.com

ストレイトストリート Strait Street

開催日:通年/開催場所:ストレイトストリート

「Strada Stretta(狭い道)」のイタリア語名でも知られるこの通りは、幅約3.5~4メートルの、文字どおりヴァレッタで最も「狭い道」だ。19世紀~20世紀半ばに英・米の兵士が集う飲食街として栄え、戦後しばらく廃れていたが、数年前から歴史的建物の修復作業が進み、クリエイティブな活動の場などとしても再びスポットを浴びている。全長665メートルの道沿いにあるジャズバーやキャバレー、劇場などには世界的なミュージシャンやアーティストが集い、豊かな都市型エンターテインメントを体験できる。ヴァレッタを訪れたら必ず立ち寄りたい。

中世の雰囲気を醸し出す石畳や建物があるストレイトストリート。気鋭のミュージシャンやアーティストが繰り広げるエンターテインメントに観客は陶然となる
© Chris Mangion

Gravity/Distorted Vision

開催日:12月1日または2日(予定)/開催場所:Teatru Rjal

日本人振付家KENTARO!!が、マルタを代表するオルタナティブロックバンド「Plato’s Dream Machine」やマルタ人ダンサーと共同制作するダンスイベント。既存のジャンルを超えた新しい形のヒップホップを披露する。こちらもEU・ジャパンフェストのプログラムの一つ。

KENTARO!!が振付と演出を担当し、出演した「東京るるる」(2013年)公演の1シーン
© 大洞博靖

個々のアーティストの感性が光る日本関連プログラム

1993年以来、欧州文化首都では、EU・ジャパンフェスト日本委員会の支援で、「EU・ジャパンフェスト」と銘打った、日本に関連したさまざまなジャンルのプログラムが行われてきた。第26回となる今年のEU・ジャパンフェストの一例を挙げれば、レーワルデンでは、手塚治虫・浦沢直樹の世界観を表現した話題作『プルートゥ PLUTO』が、2月に行われた欧州公演で好評を博した。また10月~12月には、日本・キプロス・オランダの作家による合同のアートプロジェクト「共通の神話を探して」に、紙川千亜妃と石澤英子が参加する。

ヴァレッタでは、「光と影」をテーマに落語、インタラクティブアート、漫画、アニメ、合気道など古今の日本文化を展開する「日本文化の祭典:島の光」が催される。そして「ヴァレッタ・デザインクラスター:屋上庭園デザイン」を建築家の近藤哲雄が担当し、2019年の完成を予定している。両都市で、気鋭の日本人アーティストによる活躍が目覚ましい。

記録遺産として1999年からシリーズとして続いている写真展「日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイ」もまた、日本・レーワルデン・ヴァレッタの合同プロジェクトとして行われる。第20回の今回は、オランダ出身の写真家アリス・ウェーリンガと、マルタ出身の写真家アレクサンドラ・パーチェが来日し、それぞれが「青森県」をテーマに撮り下ろした作品を発表する。「ねぶた祭り」に魅了されたウェーリンガの作風とは対照的に、パーチェは漁村に生きる人々の日常を切り取る。

欧州文化首都の両都市代表から
日本のみなさんへのメッセージ

© Tjeerd van Bekkum
レーワルデン2018 CEO
チェールド・ヴァン・ベックム

レーワルデンは、オランダの首都アムステルダムと似た都市景観を持っており、運河や邸宅、歴史的な市街地をはじめ、町中の運河を巡る遊覧船も多いことから「リトル・アムステルダム」と称されることがあります。といっても、レーワルデンは単なる“ミニ版”にととまらず、世界的に有名な版画家のエッシャーや、第一次世界大戦中にスパイとしても活躍したダンサー、マタ・ハリの生誕地としても知られています。イベントに参加している国内外のアーティストから地元の住民まで、フリースラント州全体が一体となって皆さんをおもてなしします。ぜひこの地域と人々の魅力を発見し、体験してください。

© Jan Zammit
ヴァレッタ2018代表
ジェイソン・ミカレフ

マルタで初めて欧州文化首都が開かれる2018年は、わが国の人々にとって記念すべき年といえます。首都ヴァレッタが洗練された文化発信の拠点となり、地中海で最も魅力的かつ革新的な国際都市となることが、私たちの願いです。日本を含め、世界各国と協力関係を築いてきたことを誇りに思いますし、今後もインスピレーションを与え合い、一緒に何かを創り上げていければ素晴らしいですね。この機会に、皆さんをヴァレッタへお誘いしたいと思います。日本と同じように、マルタも壮観でユニークな文化遺産に恵まれているので、きっとお楽しみいただけることでしょう。

 

2019年の欧州文化首都は、イタリアのマテーラとブルガリアのプロヴディフでの開催が予定されている。

 

関連情報
レーワルデン2018公式ウェブサイト(英語)
ヴァレッタ2018公式ウェブサイト(英語)
欧州文化首都に関する欧州委員会のウェブサイト(英語)