2017.6.19
FEATURE
各種プロジェクトへの投資を通じて、欧州連合(EU)域内の経済・社会・地域的格差の是正と総体的な成長を目指す結束政策。現行の予算枠組みでは、EU総予算の3分の1にあたる3,518億ユーロが充てられている。EU発展の中核ともいえる結束政策の仕組みと背景、今後を解説する。
EUが達成した重要な成果の一つが、「人・物・資本・サービス」が自由に移動できる「単一市場」である。しかし、EU域内の格差を放置すれば、単一市場は適切に機能できず、全体としての発展もない。
域内の地域間格差については、1957年に調印された欧州経済共同体設立条約(ローマ条約)の中で初めて言及され、その是正のため、翌1958年に欧州社会基金(ESF)が、1975年には欧州地域開発基金(ERDF)が創設された。その後、単一市場完成を目標に定めた1986年の単一欧州議定書によって、地域間格差を是正する政策(地域政策)が法的根拠を持つこととなった。
さらに、加盟国の拡大――ギリシャ(1981年)、スペイン・ポルトガル(1986年)――を受けて、1988年に、経済的・社会的に結束し、欧州全体としてより調和のとれた、持続可能な発展を遂げることを目的とした、包括的な「結束政策(Cohesion Policy)」が生まれた。
EUを創設した1992年のマーストリヒト条約で「結束基金(Cohesion Fund)」が立ち上がり、2009年発効のリスボン条約では、結束政策に、領土的結束(Territorial Cohesion)という側面が加えられた。
EUの拡大と変遷に合わせて、予算額、運営方針、優先項目などを適応させてきた結束政策は、EU全体のための重要な投資政策であり、現在はより広範囲の戦略的発展を目的としたプロジェクトを支援している。その予算は、2014年~2020年の7カ年予算枠組みにおいて全体の3分の1に相当する3,518億ユーロが割り当てられている。
配分は、国民総生産(GDP)がEU平均(クロアチアを除く27カ国)の75%未満である後進地域に1,822億ユーロ、同75%から90%未満の移行地域に354億ユーロ、同90%以上の中進地域に543億ユーロなどとなっている。EUは、地域の発展の度合いによって、対象プロジェクトの費用の50%から85%を負担し、残りは公的(国か地域)もしくは民間の資金で賄う。
結束政策の資金は、主に以下の3つの基金を通して提供される。
1)欧州地域開発基金(European Regional Development Fund=ERDF)
地域間の不均衡の是正によってEUの経済・社会的結束を強化することを目的に、後進地域を対象に支援。
2)欧州社会基金(European Social Fund=ESF)
雇用に関するプロジェクト、人的資源、職業訓練、若者や失業者の就労支援などの、就労・教育機会に焦点を当て、人に投資する。
3)結束基金(Cohesion Fund=CF)
一人当たりの国民総所得(GNI)が、EU平均の90%未満の加盟国における経済的・社会的格差を是正し、持続可能な成長を促進することを目指す。2014年~2020年の予算枠組みではブルガリア、クロアチア、キプロス、エストニア、ギリシャ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、チェコ、ルーマニア、スロヴァキア、スロヴェニアが対象。
現行の予算枠組みにおいては、これら3つの基金と、「欧州農業農村振興基金(European Agricultural Fund for Rural Development=EAFRD)」および「欧州海洋漁業基金(the European Maritime and Fisheries Fund=EMFF)」という他の2つの地域振興のための基金の計5つに共通の規定が設けられ、結束政策と他の地域振興政策との間の調整と一貫性確保が強化された。これら5つの基金は、「欧州構造投資(European Structural and Investment=ESI)基金」と総称され、EUと各国・各地域との間のパートナーシップの下に、共同で管理・運営されている。
結束政策の指針と優先事項は欧州委員会と加盟国が協議の上で決定するが、政策遂行のための計画は、各国が自国の状況に即して策定し、欧州委員会と擦り合わせをする。具体的にどのプロジェクトに資金を出すかは、計画の運営・管理の責任を持つ各国の当局が選定し、欧州委員会は、ごく少数の大規模プロジェクトを除き、選定には関わらない。
適切な資金支援には、実情に応じた地域割が必要だ。このためEUでは統計を比較するなどの目的で、地域統計分類単位である「NUTS(Nomenclature of Units for Territorial Statistics)分類」を考案。NUTSは3つの階層があり、主要な社会経済地域は「NUTS 1」、地域政策適用のための基本地域「NUTS 2」、さらに細分化された領域割りを「NUTS 3」として分類。結束政策はこのうち「NUTS 2」(住民80万人から300万人を対象にした274地域)の地域割りを使っている。
結束政策の下、GDPの最大4%に相当する莫大な額が投入された国もあり、EU全体にも大きな変化がもたらされている。具体的には次のような効果が挙がっている。
2007年から2013年までの結束政策7カ年プログラムによる効果
(2017年4月16日 EU理事会結論より)
企業支援
12万1,400の新興企業と40万の中小企業が財政支援を受け、100万人の雇用を創出 |
研究開発
9万4,955件の研究プロジェクトおよび3万3,556件の中小企業と研究部門の協力プロジェクトが支援を受け、長期的な研究職分野において4万1,600人の雇用を創出 |
インフラ
延べ4,900kmの道路(主に高速道路)の建設と、延べ1,500kmの鉄道の改修。欧州横断輸送網の構築に貢献 |
衛生
600万人に新規あるいは改善された飲料水施設を、また700万人に新規あるいは改修された排水浄化システムを提供 |
人材への投資
人材育成策に参加したのは延べ4,970万人。その内の少なくとも46%が資格取得(13%)、雇用(8%)、技能・能力の向上またはその他の改善(25%)につながった |
企業支援、研究開発、人材開発などを中心に大きな効果を挙げてきた結束政策。現在進行中の7カ年予算枠組み(2014年~2020年)の重点支援分野は下記の11のテーマ。「賢い成長」、「持続的成長」、「包括的成長」を柱とするEUの経済成長戦略「欧州2020」の目標達成にも寄与するものだ。
上記のうち、ERDFは全てのテーマを対象とするが、1~4が優先的な投資対象となる。ESFは8~11が優先テーマで、1~4にも投資する。CFは4~7と11を対象とする。
EU理事会は、今年4月25日の会合で、結束政策は、欧州各地域の開発レベル格差を縮小するための枠組みとして、現在、そして将来的にも重要であることを再認識した上で、政策の成功がより目に見えるようにする必要があることを強調した。会合では、2020年以降の結束政策の実施や監視システムを単純化、管理コストの減少などを盛り込んだ「市民に結束政策をより効果的かつ適切かつ見えるようにするための結論(Making cohesion policy more effective, relevant and visible to the citizens)」が採択され、結束政策効果の可視化に積極的に取り組む方針が確認された。
このように、結束政策の効果を可視化する取り組みの一端を担っているのが、6月26日、27日にブリュッセルで開催される「第7回欧州結束フォーラム」。3年ごとに開催される大規模な政治イベントで、欧州の様々な機構のハイレベル代表者、各国代表、地方代表、経済・社会的パートナー、NPO代表、学者など700人以上が一堂に集まって、欧州の未来とESI基金の見通しについて話し合うものだ。
2020年以降、どのように欧州経済をより包摂的なものにし、かつ競争力を備えたレジリエント(回復力のある)なものにしていくかという重大な課題をテーマにすると同時に、結束政策の付加価値、補足しなければならないこと、また、欧州の目標と成果の間の隔たりについても議論される予定だ。
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