2020.11.18
FEATURE
気候変動対策や省エネルギー対策の観点からも電気自動車(EV)の普及がグローバルで急務となっている中、世界各地で起きているEVシフトを牽引するのがEUだ。新型コロナウイルスの影響で自動車販売が落ち込む中、EU域内のEV市場は成長を続けている。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、世界の自動車販売は大きな打撃を受けた。欧州連合(EU)域内も例外ではない。欧州自動車工業会(ACEA)によると、EU域内における2020年第2四半期(4月~6月)の新規登録台数でガソリン車は55.0%減、ディーゼル車が53.4%減と大きく落ち込む中、電動化車両※1 は前年同期比53.3%増の12万9,344台と健闘、全体の7.2%を占めた。EU市場ではガソリンと電気の両方を使うハイブリッド電気自動車(HEV)も引き続き人気が高く、新規登録台数が17万2,149台と市場全体の9.6%を占めた。
2020年9月26日、世界最大の自動車市場となった中国で「北京モーターショー」が開幕。未来のモビリティ社会を予感させるさまざまな新型車が展示される中、注目を集めたのが欧州メーカーの電気自動車(EV)だ。中国市場で売り上げ1位を誇るドイツのフォルクスワーゲンのほか、ドイツのダイムラー、フランスのルノーといった欧州メーカーがEVの新型車両を発表した。
こうしたEU域内におけるEVシフトの加速を後押ししているのがEUの戦略だ。気候変動対策や省エネルギー対策を重視するEUは2020年に発表した新たな成長戦略「欧州グリーンディール」において、「2050年に温室効果ガス排出が実質ゼロとなる『気候中立』を達成する」という目標を掲げているが、EUの温室効果ガス排出量のうち、22.3%を占めるのが運輸部門。中でも乗用車からの排出が12.8%、商用車が2.5%、重量車やバスが5.6%と路上を走る車両からの排出ガスが総排出量の21.1%を占める。運輸部門におけるエネルギー改革が「気候中立」達成へのカギを握っている。
EUは持続可能な輸送システムの構築という大きな視点から、数々のEV普及策を推進してきた。まず、2016年に「輸送システムの効率向上」「運輸部門向けの低排出代替エネルギー開発促進」「ゼロエミッションカーへの移行」の3本柱を中心とする「低排出モビリティに向けたEU戦略」を発表。2017年には、クリーンで競争力のあるコネクティッドモビリティの推進に向けた長期戦略「Europe on the Move」を発表し、クリーンモビリティの普及を推進するために、投資計画やエネルギー同盟、デジタル単一市場を組み合わせていくという具体的な方策を明らかにした。
この方策は3段階に分かれ、2017年5月の第1次モビリティパッケージ(1st Mobility Package)に続く2017年11月の第2次パッケージでは、クリーンモビリティにおけるEUのグローバルリーダーシップを強化することが強調された。2018年に発表された第3次パッケージは、1)車両やインフラを含む道路交通の安全を高める総合的な政策、2)大型車両を対象にした初のCO2排出量基準、3)欧州内での電動車用電池の開発・製造に向けた戦略的行動計画、4)ネットワーク接続や自動運転に関する将来を見据えた戦略――などで構成されており、EVが新しい時代におけるEUの成長戦略の一つであることが明確に示された。
こうした政策を踏まえ、EUはCO2排出量に関する規制を強化。それまで130gCO2/km以下とされてきた新車(乗用車)の企業別平均CO2排出量を、2021年までに95gCO2/km以下とする新たな目標を設定。段階的に開始され、いよいよ2021年1月から全ての新車乗用車が対象となる。他国との単純比較は難しいが、これは日本の掲げる排ガス122gCO2/km(2020)を大きく上回る厳しい制限であり、達成できなければ1g超過するごとに1台当たり95ユーロという罰金が科せられる。
また、2019年4月、EU理事会は2030年以降の新車に対するCO2排出基準規則をさらに厳格化する改正案を採択。2030年以降の新車について、EUのCO2総排出量の12.8%を占める乗用車は2021年比で平均37.5%削減、2.5%を占める小型商用車を平均31%削減とする。同年6月には、EU理事会が欧州初となるトラックなど大型車に対するCO2排出基準を採択。新基準の下、2025年からは2019年比で平均15%減、2030年から30%減とすることが求められる。こうした厳しい目標を達成するため、各自動車メーカーは販売台数におけるEVの割合を大きく引き上げる必要に迫られることになった。
EVの普及に欠かせないのが急速充電器などのインフラの整備だ。2020年7月、欧州委員会は「欧州グリーンディール」の一環として、分散したエネルギー供給網を見直し、エネルギー効率性の向上を実現する政策をまとめた「エネルギーシステム統合戦略」を発表。EVを普及させるためには、2025年までにEU域内の充電スタンドを100万カ所以上に拡充する必要性があり、そのための資金調達の呼びかけを早期に行うこととした。
また、充電設備を中心とするインフラを国境を越えて整備し、鉄道・船舶・トラックなどを組み合わせた効率的なモーダルシフトを実現していくには、充電時間をさらに短縮した超高速充電器や、急速充電可能で航続距離の長い固体電池といった新たなイノベーションが欠かせない。だが、その開発には膨大な投資が必要であり、一企業の開発費で補えるものではない。EUは「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)」や「欧州構造投資基金」(European Structural and Investment Funds:ESIF)などの基金を通して、超高速充電設備の開発や電動バスの購入などに対する補助金を提供したほか、研究・イノベーション資金助成プログラム「ホライズン2020」などによる研究開発支援も行っている。
また、EV用バッテリーの生産は中国などのアジアや米国のメーカーが独占しており、EUの競争力を強化するにはEV用バッテリーの内製化が求められている。欧州委員会は2017年にEV向けバッテリーの開発・生産に関わる欧州の関連企業を結集する「バッテリー同盟」(Battery Alliance)を立ち上げた。2018年には「European on the Move」の一環として、「欧州におけるバッテリーの開発および製造のための戦略的な行動計画」を発表。域内での原材料調達と同時に、域外での責任ある原料採掘や、使用済みバッテリーの回収・再生、製造時の再生可能エネルギーの利用なども盛り込まれている。
2020年9月には、需要の大幅増が見込まれるリチウムなどのレアメタル(希少金属)やレアアース(希土類)を中心とした重要資源の供給元の多角化や、域外依存度の低下を急ぐための行動計画を発表。重要資源の戦略的な確保を目指す「欧州原材料アライアンス」(European Raw Materials Alliance:ERMA)を発足させた。今後、資源の探査、採掘、製品化からリサイクルまでを効率的に行う仕組みの構築を目指していくが、すでに100を超える産業界のパートナーや約40の産業団体、欧州地質学者連盟、労働組合、環境NGOなどが参加を表明している。
現在、EU域内の自動車メーカーはEVの分野で世界的な競争力を誇っている。また、加盟諸国ではそれぞれ市・地域・国レベルで新車EV購入時の補助金施策や税の優遇制度、専用の無料駐車場の提供など、EVの普及を後押ししている。2030年~40年にかけてガソリンエンジンやディーゼルエンジンで駆動する自動車の販売禁止を宣言している国も多い。
EVの普及を妨げている要因の一つとして車両価格の高さが指摘されるが、EVの生産台数が増えればスケールメリットが生まれ、価格の低下が期待できる。特に価格の中でも大きなウェイトを占めるバッテリーについては、イノベーションによる生産の効率化やレアメタルなどの原材料の価格低下も期待できる。こうした好循環によって、EUのクリーンな自動車に関するグローバルリーダーシップはさらに強化されるだろう。
EUの究極の目標は、最もクリーンで最も競争力のある自動車が欧州で生産され、そうした自動車が最高かつ最新のインフラを使用し、温室効果ガス排出と大気汚染を減らすこと。環境に負荷をかけないクリーンなモビリティ社会の実現を推進することは、電動化技術はもちろん、バッテリーや充電器などの関連技術への投資を推進することにもつながる。
※1 欧州自動車工業会(ACEA)は、燃料電池自動車(FCEV)も含むバッテリー交換型の電気自動車(BEV)とエクステンデッド・レンジ電気自動車(EREV:航続距離延長機能が付いた電気自動車)を含むプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV:バッテリーへの外部充電機能を持たせた電気自動車)の2種を「Electrically-Chargeable Vehicles (ECV)」、すなわち「電気自動車(Electric car)」と定義
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