国連の次期開発目標策定に果たしたEUの役割

© European Union, 1995-2015

国連の次期開発目標「ポスト2015年開発アジェンダ」の採択が秒読み段階に入った。資金調達に関する行動枠組みも7月に決まり、いよいよ新たな目標が正式決定する。世界最大の政府開発援助(ODA)提供者であるEUが果たした役割と、目標達成と課題克服へのあり方について、欧州の独立系シンクタンクである欧州開発政策管理センター(ECDPM)※1の研究員が解説する。

開発資金国際会議の結果をEUは「成功」と評価

2015年7月に、エチオピア・アディスアベバで約210の国・機関が参加し第3回開発資金国際会議(The Third International Conference on Financing for Development、以下FFD3)が開催され、開発資金に関する政策枠組みなどを定めた「アディスアベバ行動目標(The Addis Ababa Action Agenda)」が採択された。

第3回開発資金国際会議では、ポスト2015年開発アジェンダを実現するための資金に関する枠組み「アディスアベバ行動目標」が採択された (2015年7月16日 エチオピア・アディスアベバ) © 2015, IISD Reporting Services

2015年で期限の切れる国連の「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継目標「ポスト2015年開発アジェンダ」の先行きに関わるものとして、本年、3つの首脳級の国際会議が予定されており、アディスアベバの会議もその一つ。9月25日からは、ポスト2015年開発アジェンダを正式に採択する国連総会がニューヨークで、また11月30日からはパリで2020年以降の新たな気候変動枠組みを決める第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催される。アディスアベバの会議は、最初の首脳級会議として土台作りの役割と同時に、新しく決まる世界規模の持続可能な開発目標を支えるために「どのように資金を投じて改革を実行していくか」を示す試金石となった。

FFD3で野心的なビジョンを訴える欧州委員会のミミツァ国際協力・開発担当委員  © 2015, IISD Reporting Services

FFD3の開催準備と並行して、新たな開発アジェンダの交渉全般でも積極的な役割を演じてきた欧州連合(EU)は、同会議は成功を収めたと評価している。欧州委員会のネベン・ミミツァ国際協力・開発担当委員は「アディスアベバ行動目標は、新たな持続可能な開発目標を実行に移すための手段を提供してくれる。私たち参加者一同は、開発資金に関する政策枠組みなどに関する野心的なビジョンに合意した。<中略> また、この合意は9月下旬の国連総会、11月末からのCOP21に向けた重要な第一歩を構成するものとなる」

 

開発資金国際会議で何が達成され、EUはどのような立場だったのか?

EUは、援助だけではなく、民間投資、国内資源、支援政策にも重点的に取り組む包括的な行動目標を支持。ポスト2015年開発アジェンダの文脈における持続可能な開発資金の枠組みの議論をその方向で進めようとした。

アディスアベバ行動目標では、例えば、①全ての国が設定する、最も貧しい子どもたちに対する社会保護システムである「ソーシャルコンパクト」に関する合意、②行動目標の履行に関するデータ、モニタリング、フォローアップに関する合意、③租税や脱税・課税回避の対策で協力を進め、国内歳入の分野にもある程度の資金提供を拡張して求める「アディス・タックスイニシアティブ」の合意――など、多くの分野で重要な進展があった。行動目標は、全当事者が自らの役割を果たすことを求めているほか、第1回開発資金国際会議で採択された「モンテレー合意」(2002年)には盛り込まれなかった環境問題の側面も含んだ、包括的なものになっている。

EUは、先進国に求められた、2015年までにODAを対国民総所得(GNI)比0.7%まで増加させるという目標の達成を公約した唯一の当事者である。この取り組みは、欧州域内で緊縮予算が敷かれている中で、引き続き途上国との連帯を示す重要なシグナルとなっている。さらにEUは、サハラ砂漠以南(サブ・サハラ)の電力普及を倍にする米国のプログラム「パワー・アフリカ」と連携して、同地域におけるエネルギー貧困を減少させ、電気へのアクセスを増大させる覚書への署名も行っている。

EUは、2015年までにODAを対GNI比0.7%まで増加させることを公約しているほか、サブ・サハラのエネルギー貧困を減少させる政策の推進など、途上国支援を加速させている  © European Union, 1995-2015

さらにEUの主要な目標の一つは、持続可能な開発の3つの側面――社会、経済、環境――を、新開発アジェンダだけではなく、FFD3の成果の中にバランスよく統合することであった。今回、平和、安全、人権、ガバナンス、ジェンダー平等などの分野がアディスアベバ行動目標に盛り込まれたことをEUは歓迎している。しかしながら、現在の文面が持続可能な開発の中心的な問題解決に十分なものとして受け取れるかどうかには、疑問の声もある。また、これらの分野は、資金行動目標よりも、新たな開発アジェンダに含まれた方がより適切だ、という議論もある。

行動目標に対するEUの前向きな評価は、当事者すべてが共有できるのか

アディスアベバ行動目標については、いくつかの前向きな評価はあるものの、協議参加者やステークホルダーの多くはEUほど楽観的な見方をしていない。市民社会は、合意内容は新たな開発アジェンダを実行し易くするには不十分であるという見方を示している。

多様な途上国77カ国で構成される「G77」は、同グループの提案がアディスアベバ行動目標にあまり反映されていないという認識を示し、閉会声明でその懸念を表明したと報告されている。特に、「共通だが差異ある責任(Common But Differentiated Responsibilities=CBDR)」※2の原則や、アディスアベバ行動目標と新たな開発アジェンダの関連性など、いくつかの問題は解決されていないとしている。これらの問題は、9月末の国連総会で再び取り上げられ、その後の実施にも影響してくる可能性がある。

また、物議を醸しているもう一つの問題は、アディス・タックスイニシアティブ(Addis Tax Initiative)である。現行の枠組みを越える新たな多国間税制委員会を国連に設立することについては、EUを含む先進諸国が消極的だ。他方、途上国諸国は国際的な租税問題に関して平等な発言権を求めており、わずか34カ国で構成される経済協力開発機構(OECD)が、これらの問題について決議できる唯一の機関であってはならない、と主張している。タックスイニシアティブは、租税問題を主導するのが国連なのかOECDなのか、具体的な指針を示していない。しかし、より公平に意見を反映するという意味で、現在の国連の税制専門委員会を格上げすることは確かだし、途上国の役割を増大させる第一歩となろう。 

ポスト2015年に関する協議の進展とその内情は?

ポスト2015年開発アジェンダに関する直近の協議は7月後半に開催され、8月2日には各国代表団が17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals=SDGs)を盛り込んだ文書「私たちの世界を転換する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」を採択。各国首脳による正式な採択は9月下旬の国連総会で行われる予定で、新開発アジェンダに関する協議自体は終わりに近づいている。

最も難しいのは、CBDRに関して合意点を見つけ、実施に移していくことだ。アディスアベバでの協議では、参加者の立場に歩み寄りも合意も見られなかった。EUを含むOECD諸国にとってCBDR原則は問題を含んでおり、現在は「国連持続可能な開発会議(リオ+20)宣言」で定義された環境問題の領域にのみ適用されている。EUはCBDRの代わりに「共同責任」の概念を新開発アジェンダの序文に挿入することによって、新興経済国の責任が増大していることを強調するのが、より適切だと考えている。

これに対してG77と中国は、CBDRこそが新開発アジェンダ全体の包括的な大原則であることに交渉の余地はないと主張。新開発アジェンダの最終文書はCBDRについては明確に言及しているが、リオ+20宣言で規定されたとおり、環境問題のみに適用しており、G77諸国の求めより限定的な扱いとなっている。

コップの水が「半分しかない」と見るか、「もう半分入っている」と見るか?

新たに決まるアジェンダの成功は、どれだけの労力を具体的な方策実施に注ぎ込むかということと、フォローアップにかかっている。そのためには、全ての国がアディスアベバの結果と9月の国連総会で合意された約束を実行に移せるような、具体的な計画や政策の策定が必要となる。

新たな開発目標の成否は、具体的な方策実施とフォローアップにどれだけ労力を注ぎ込めるかにかかっている © European Union, 1995-2015

EUとその加盟国にとって、それは、SDGsを地域単位や国単位の開発計画とプログラムや対外的な行動戦略に統合させることを意味し、そのためには計画の進捗状況を報告し諸外国や自国民への説明責任を果たす新しいモニタリングの仕組みが必要となってくるだろう。

全てをうまく遂行するには、全当事者による惜しみない努力が求められる。気候問題から貿易問題まで、残された首脳会議や関連協議の中で、指導者たちの政治的なコミットメントが肝要となる。貿易問題については、12月にナイロビで開催される第10回世界貿易機関(WTO)閣僚会議で議論される。EUは、2015年以降の持続可能な開発への道を開く、大胆な行動の採択に向けて、主導的な役割を担うことができる。しかしながら、新たな協調関係を築き、全ての当事者の努力と取り組みを結集することこそが、誰も取りこぼすことなく新たなアジェンダを成功させるための必須条件となるだろう。

※本稿は筆者の英文での寄稿を翻訳・編集したもので、内容は必ずしもEUや加盟国の立場や見解を代表するものではありません。

 

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“EU welcomes adoption of 2030 Agenda on Sustainable Development by the UN” (2015年9月25日の国連の特別サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されたことを歓迎するEU)(2015年9月29日 追記)

※1 ^ :欧州開発政策管理センター(European Centre for Development Policy Management=ECDPM)は、開発と国際協力の分野において、政策と実践の連携を後押しするため1986年に設立された独立系シンクタンク。EUとアフリカ・カリブ海・太平洋地域(ACP)諸国の間の調整役を務めている。

※2 ^ 先進国と途上国は気候変動問題に対し共通の責任を負うが、その程度には差異があるとする原則論。気候変動枠組み条約の第3条1項が定めている。