2016.11.28
FEATURE
紛争や内戦で生命の危険に晒される多くの人々が、庇護を求めてEU域内に入ってくる。庇護とは、十分な根拠に基づく迫害の恐れがあるために帰国できない人々に差し伸べられる国際的保護の形態であり、EUは、このような人々を保護する法的かつ倫理的な責務を負っている。EU加盟国は庇護申請書を審査し、申請者が保護を受ける資格があるかどうかを決定する責任がある。
しかし、欧州に来る全ての人々が庇護を必要としているわけではない。より豊かな生活を求めて自国を発つ人々も多く、これらの人々は大抵「経済移民」と呼ばれており、庇護申請が通らなければ、申請を受けた政府は彼らを自国へ送り返すか、あるいは通過してきた他の安全な国へ引き渡す義務がある。
国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR)によると、「難民」とは1951年の「難民の地位に関する条約」において「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるか、あるいは迫害を受ける恐れがあるために他国・他地域に逃れた人々」と定義されている。さらに今日では戦争や紛争による被害や人権侵害などから逃れるため、他国に庇護を求める人々も指している。2015年の世界の難民総数は約6,530万人(UNHCR調べ)で、前年から580万人増加。同年新たに難民となった人は1,240万人で、長引く内戦の影響でシリア人が最も多かった。
また、EUの統計局である「ユーロスタット(Eurostat)」がまとめたEUの難民受け入れ状況によると、1992年にEU加盟全15カ国(当時)で、主に旧ユーゴスラビア諸国から約67万人の庇護申請を受け付けたのをピークに、2006年にはEU27カ国(同)で20万人程度に落ち着いていた。しかし2014年にはEU28カ国で約63万人、2015年には130万人 と大幅に増加し、1992年の倍となった。2015年は主にシリア、アフガニスタン、イラクからの難民が大半を占め、特にシリアは37万人と全体の29%に達している。2016年は6月までの半年で、庇護申請は毎月10万人前後で推移した。2015年の9、10月のピーク時に比べると4割ほど減少している。
このようなEUを目指す大量の難民を巡っては、不幸な事象が発生している。EUを目指して海を渡る途中で、何千もの人が海上で命を落としているのだ。さらに難民のほぼ9割が、国境を越えるために密航あっせん業者や組織犯罪グループに金を払っている。結果として、これらの人々は、いわゆる「非正規移民」として扱われる――つまり、合法的な手段でEUに入国したことにはならないのだ。
難民問題は、受け入れ側であるEUにさまざまな課題を突き付けている。例えば、人々に食料・水・避難所を提供することは、EU内でも国によっては多大な負担となっている。これは特に、EUを目指す大多数の難民が最初に到着する国であるギリシャやイタリアにあてはまる。移民や難民の多くが、最終的に目指すのは、ドイツやスウェーデンなど、到着国とは別の国であるため、最終目的地にたどり着くまでに通過する国々、例えばクロアチア、ハンガリー、オーストリア、スロヴェニアなどにも影響を及ぼしている。
また、EU加盟国の多くが参加している「シェンゲン協定」により、人々は域内の国境検問なしに自由に行き来することができるが、難民の大量流入により、域内国境での検問を一時的に復活させる加盟国が出ている。加盟国の中でも、ある国では他国よりも到着する移民・難民による影響が大きいのと同じように、庇護申請数も各国一様ではない。2015年には、EU加盟国内で登録された庇護申請の75%が、ドイツ、ハンガリー、スウェーデン、オーストリア、イタリアの5カ国に集中しているのだ。
最近では、主要ルートの一つであるトルコからエーゲ海を通ってくる難民の抑制不能な流入を食い止めるため、2016年3月にEUはトルコと「EU・トルコ声明」に合意している。この合意は、欧州に渡る難民に合法的な手段を提供するものでもあり、結果的に、トルコから入域する移民・難民の数は著しく減少。2015年10月のピーク時には1日あたり平均約7,000人がエーゲ海を渡ってギリシャに到着していたが、2016年5月には1日あたり47人にまで激減している。
PART 2では、このような未曽有の難民危機に対するEUの取り組みを紹介する。
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