2015.7.31

FEATURE

ミラノ万博が取り組む「食」という課題

ミラノ万博が取り組む「食」という課題
PART 1

持続可能な食糧生産は地球規模の問題

国際博覧会(万博)は、18世紀の欧州にその起源を遡る。イタリアのミラノで開催中の2015年の万博は、「食」という身近なテーマで世界の人口急増や気候変動を背景に、食糧※1需給不均衡や飢餓・飽食といった高まる課題への関心を喚起している。EUからは、加盟28カ国中19カ国とならんでEU自身もパビリオンを出展し、問題解決のヒントを探る。

ミラノで開かれる2度目の国際博覧会

赤、青、黄の三原色を使い、「EXPO」の4文字と「2015」の4つの数字を重ね合わせてデザインした万博のロゴ

2015年5月1日から10月31日まで開催されるミラノ万博。実は、ミラノで国際博覧会が開催されるのは、1906年に続いて2度目。最初の万博会場である「センピオーネ公園」は、今も当時の万博の面影を残すシンボルタワーや水族館が残り、市民の憩いの場となっている。今回のミラノ万博の会場は、ミラノ市の中心部分から地下鉄で30分ほどの場所にあり、広さは110ヘクタールで東京ドームに換算すると約23個分となる。145カ国(主催者発表。以下、同)の参加国のうち19カ国がEU加盟国で、EUは、国際連合や欧州原子核研究機構(CERN)とともに、参加する3つの国際機関の一つとして、会場内に独自のパビリオンを出展している。

今回の万博が掲げるテーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを(Feeding the Planet, Energy for Life)」。現在、73億人あまりの人々が地球上に住んでいるが、皆が健全な食生活を送っているとは言い難い。一方には飢餓や栄養不足を招く深刻な食糧難、他方では飽食と肥満、大量の食料廃棄、健康を損なう食習慣といった両極端な問題を抱えている。また、増え続ける人口を将来どう養っていくかについては、持続可能な食糧生産をはじめとする長期的な計画と国際協力が必須だ。

5つあるテーマ館の一つ、人類と食糧生産の歴史を展示するテーマ館「パビリオン・ゼロ」。食品のテレビCMをたくさんの画面で流し、現代社会が抱えるさまざまな食糧問題がなぜ生じたのか時間軸をたどりながら提示する © Nao Fukuoka

この壮大で多角的なテーマの下、万博では、地球に住む全ての人々が安全で質の良い食生活を享受するには、何をどうしていくべきなのか、に示唆を与える目的で、以下のような7つのサブテーマを設定している。

<ミラノ万博の7つのサブテーマ>

  1. 「食料の安全、保全、品質のための科学技術」
  2. 「農業と生物多様性のための科学技術」
  3. 「農業食物サプライチェーンの革新」
  4. 「食育」
  5. 「より良い生活様式のための食」
  6. 「食と文化」
  7. 「食の協力と開発」

5月1日の開会式では、開催国イタリアが起草した「ミラノ憲章(Carta di Milano)」の原案が発表され、マッテオ・レンツィ首相がこれに署名。「食料、水、エネルギー」を入手できることは基本的人権である、と位置づけるこの憲章は、10月16日に会場を訪れる予定の国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長に、国連憲章への取り入れ要望とともに手渡されることになっている。

今回ようなテーマを選んだ背景には、世界が求める万博の役割の変化がある。19世紀以来、産業や科学技術の進歩および国威発揚の場として累々と続けられてきた国際博覧会だが、21世紀に入ってからは「地球的課題解決の場」であることが国際博覧会条約上、求められるようになった。2005年に日本の愛知県で開催された愛知万博(21世紀初の万博)のテーマは「自然の叡智」、2010年の中国・上海万博のテーマは「より良い都市、より良い暮らし」。続くミラノ万博のテーマが「地球に食料を、生命にエネルギーを」。このように21世紀の万博は、まさに早急な対処が必要な地球的課題について、万博を訪れる人々にその重要性を訴求する場となっているのだ。 

欧州生まれ、欧州育ちの国際博覧会

「国際博覧会」(通称「万国博覧会」、略称「万博」)とは、世界の国々がその文化、産業、技術などをさまざまな形で展示し、よりよい未来社会への協調を図る大規模なイベントだ。この手の博覧会は、18世紀にフランスで最初に開催されたが、その後、ベルギーやオランダなどでも行われていた「物品博覧会」や「工業博覧会」を統合して、世界規模の「国際博覧会」を最初に提唱したのはフランスだった。その第1回目は1851年、「グレート・エキシビション(大博覧会)」と銘打ち、25カ国参加の下、英国・ロンドンで開催された。

以来、19世紀だけでも、欧州ではロンドンで2回、パリで5回、ポルト、ウィーン、バルセロナ、アントワープ、ブリュッセルで各1回の、合計12回もの国際博覧会が開催されている。1928年にはパリで国際博覧会条約が成立し、今も博覧会事務局はパリにある。万博は欧州生まれ、欧州育ちだ。

条約の定義によると、万博には、規模が大きく開催期間の長い「登録博」と、海洋博や園芸博などテーマが専門的で期間の短い「認定博」の2種類がある。登録博は、5年に一度の開催で会期は最長半年となっている。日本では1940年に初の開催を予定していたが、第二次世界大戦勃発のために中止になり、1970年の大阪万博がアジア初の国際博覧会となった。その後、沖縄国際海洋博(1975年)、つくば科学万博(1985年)、大阪花博(1990年)を経て(以上3つは認定博クラス)、2005年に愛知県で開催された「愛と地球博(愛知万博)」が、2,200万人以上を集め成功裏に終わったことはまだ記憶に新しい。

世界最大の食物輸出元であるEUからの提示

広さ1,900㎡のEU館。1階での短編アニメ映画の上映と立体展示、2階でのワークショップや講演会の開催を通し、EUの食問題への取り組みを見せる © European Union, 1995-2015

EU加盟国の一つであるイタリアはまた、「食」というテーマで万博を開催するのに欧州で最もふさわしい国の一つでもある。イタリア料理は世界中で親しまれているばかりでなく、北部パルマには、欧州委員会の専門機関の一つで、EU域内の食品の質や安全性のリスク評価を行う「欧州食品安全機関(European Food Safety Authority=EFSA)」が置かれている。

EUは世界最大の食物輸出量と世界第2位の輸入量を誇る。食料や栄養が大きく関わる、開発援助や人道支援にも大きく貢献している。欧州諸機関の食や栄養に関連した政策と活動は、ミラノ万博が掲げるサブテーマ全般に関わっているのだ。

折りしも2015年はEUが定めた「欧州開発年(European Year for Development)」であるほか、国連の「ミレニアム開発目標」の達成期限に当たり、国際社会は現在2015年以降の開発目標に合意しようとしている最中でもある。このようなタイミングで開催されるミラノ万博で、EUが地球規模の食糧問題への積極的な取り組みを世界にアピールすることには、大きな意義があるといえる。

2010年の上海万博では、同年下半期のEU理事会議長国ベルギーと共同で出展したEUだが、今回は独自にパビリオンを構えた。展示テーマは「より良い世界のために、欧州の未来を共に育てよう(Growing Europe’s Future Together for a Better World)」。プログラムの焦点は「食のための、科学とイノベーションの役割」だ。万博のサブテーマが提示するさまざまな課題に、異なる背景を持つ人々が科学やイノベーションを通して力を合わせ、あらゆる角度から未来の食糧と栄養の安全保障という問題に取り組むべきだというEUの姿勢を強調している。

EU館では、「食糧と栄養の安全保障」という複雑な問題へのEUのさまざまな取り組みを、誰にもわかりやすい、楽しい展示プログラムを通して提供している。インタラクティブ(双方向対話型的)な体験を通じ、訪れる人々に問題意識を共有してもらうことが狙いだ。

万博マスコット「Foody(フーディ)」は、11種の野菜や果物が合体したキャラクター(中央)。食糧問題だけでなく、バランスのとれた食生活の促進も今回の万博のテーマの一つだ © Expo 2015 / Daniele Mascolo

比べて見るミラノ万博と愛知万博「愛・地球博

愛・地球博(2005年) ミラノ万博(2015 年)
テーマ 自然の叡智 地球に食料を、生命にエネルギーを
開催地 日本、愛知県名古屋東部丘陵の2会場、
緑地地帯
イタリア、ミラノ市中心から地下鉄で30分ほど西方の郊外
会場面積 175ヘクタール 110ヘクタール
参加国数 121カ国、国際機関4、
県や企業など民間出展18
145カ国、国際機関3(EUを含む)、
市民組織17、企業パビリオン6
入場者数 2,205万人(予想1,500万人) 2,000万人
入場料 4,600円 入場料: 39ユーロ(約5,300円)

Part 2では、ミラノ万博現地取材を通し、EU館や加盟国館を紹介する。

※1^ 「食料」と「食糧」の定義はさまざまだが、本稿では、「人が食する物」という狭義では「食料」、飼料向けや原料用を含めた食用とする物質全般という広義で用いる場合には「食糧」との表記を用いている。また、ミラノ国際博覧会のテーマは、主催者の日本語表記を踏襲し「食料」を用いた。

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