2016.3.7

FEATURE

男女平等社会を目指すEU

男女平等社会を目指すEU
PART 1

男女平等へ向けた戦略的取り組み

欧州連合(EU)は2015年12月、2020年 までに女性の雇用率を上げて男女差をなくし、男女ともに75%の雇用率を達成することなどを目指すための文書「男女平等へ向けた戦略的取り組み2016-2019(Strategic engagement for gender equality 2016-2019)」(以下、「戦略的取り組み」)を発表した。PART1では、この取り組みの内容を中心に紹介する。

男女平等を基本的価値かつ目標と捉えるEU

EUは創設時から男女平等を基本原則と据え、その実現に取り組んできた。1957年に調印された 「欧州経済共同体設立条約 」(ローマ条約) の第 119条では、男女同一賃金の原則が盛り込まれ、最近では2009年発効のリスボン条約(改正EU基本条約)において、男女平等を基本的価値として捉える、また、男女平等を促進する、と規定されている。また、リスボン条約によって基本条約と同等の法的拘束力を付与されたEU基本権憲章でも全ての分野での男女平等を保障し、性差別を禁止している。

2010年3月に欧州委員会は男女平等を全政策分野に反映するため「女性憲章(Women’s Charter)」を採択し、1)雇用機会の均等、2)同一労働同一賃金、3)意思決定において男性と同等のレベルの力を持つ、4)女性に対する暴力の排除、5)対外関係や国際機関を通じて男女平等を推進する――の5項目を優先分野として進める意志を示した。この女性憲章で掲げた優先目標を実現するため、2010年9月に5カ年戦略「男女平等のための戦略2010-2015(Strategy for equality between women and men)」を発表。「戦略的取り組み」は、5カ年戦略の取り組みを継続するための指針である。

5つの優先事項で男女平等を推進
「戦略的取り組み」では、5カ年戦略と同様の、次の5点を優先事項として挙げている。

  1. 女性の労働市場参加の拡大と男女双方の経済的自立
  2. 男女間の賃金、収入、年金差の縮小
  3. 意思決定の場における男女平等
  4. 女性に対する暴力の排除
  5. 世界で男女平等を推進

2016年以降の取り組みがそれ以前と違うのは、経済危機、IT技術の発展、移民の増加など、男女平等に影響を与える社会・経済的変化を考慮したものであることに加え、ひとり親ならびに、移民・ロマ人・障害者の女性への配慮がなされていることだ。EU加盟28カ国は、それぞれ社会、経済、文化的背景が異なり、全ての国に同じ施策を当てはめることはできないため、各国は今回の戦略に沿った独自の行動計画を定め、男女平等を推進する。そのための予算としてEUは61億7,000万ユーロを拠出する。

ここからは「戦略的取り組み」の5つの優先事項を概観する。

【女性の労働市場参加の拡大と男女双方の経済的自立】

EUが2010年に策定した経済成長戦略「欧州2020(Europe 2020)」では、2020年までに20歳から64歳までの男女共に75%の雇用率を目指すという数値目標が示された。この目標を達成するために「戦略的取り組み」では、女性の雇用率を上げ男女差を埋めることが必要で、そのためには、家事、育児、介護といった、これまで女性が主に従事してきた無償労働に費やす時間を男女間でより均等に近づけることが必要だとしている。また①研究の場における男女平等に努めること、②女性の企業家精神を高めること、③移民女性を雇用市場に統合すること――などに重点を置いている。

男女の雇用率の差を埋めるには、家事、育児、介護などの女性が主に従事している無償労働に費やす時間を男女間で均等に近づけることが必要  © European Union, 1995-2016

女性の労働市場への参加を促す具体的な改善方法としては、育児や介護を行っている人がワークライフバランスを図れるよう、労働形態を柔軟にすることを掲げ、出産・育児休暇を男女間で分け合うことができる制度を促進し、家庭と仕事の両立に関するEUの法的枠組みを改革し「休暇とフレキシブルな労働」に関する法律導入を目指す。また子育てをしながらの社会参加を促進するために、2002年のバルセロナ欧州理事会で決まった「3 歳までの乳幼児の 3分の1と、3 歳から学齢期前の幼児の90%に、手頃で質の高い保育サービスを提供する」という数値目標の達成に向けて各国の一層の努力を求めた。EUは託児システムの充実のために12億5,000万ユーロの拠出を予定。さらに、加盟各国が雇用市場における女性の参画状況を定期的に欧州委員会に報告し、その結果に応じて勧告を受けることなどを盛り込んでいる。

【男女間の賃金、収入、年金差の縮小】

収入、年金における男女間の差を減少させるためには、賃金の透明性の確保と男女間の同一労働同一賃金に関する法律を効果的に実施することが必要。

戦略では、男女間の賃金、収入、年金差を縮小するために、職種に関する先入観の排除や、性差を理由に賃金差別を受けた場合に裁判できるシステムを強化することなどを盛り込んだ  © European Union, 1995-2016

賃金の男女間格差に関しては、「欧州男女同一賃金の日(European Equal Pay Day)」をEU加盟各国で引き続き実施、賃金格差に関する市民の意識向上を図る。また性差を理由にした賃金格差による損害を受けた場合には、裁判を求めることができるシテムを強化する。情報通信技術(ICT)部門での女性の雇用を促進するために、「教育と訓練における欧州の協力のための戦略的枠組み2020」に沿って教育を推進する方針も盛り込んでいる。

【意思決定の場における男女平等】

大手上場企業の取締役の女性比率を2020年までに少なくとも40%にすることをはじめとし、政治の場、研究機関、またスポーツを含む生活の場での意思決定の立場にいる男女比のバランスを取ることを推進する。EUの行政執行機関である欧州委員会は、自身の女性上級・中間管理職の割合を2019年までに40%に引き上げる。

EUは自ら率先して欧州委員会の女性上級・中間管理職の割合を2019年までに40%に引き上げる  © European Union, 1995-2016

また、欧州ジェンダー平等研究所(European Institute for Gender Equality、EIGA)と協力して、意思決定の場での男女比率についてのデータの収集を続行、出版するほか、加盟各国は、政府の要職、研究機関の意思決定の場における男女比を近づける措置を取ることにする。

【女性に対する暴力の排除】

女性への暴力問題と闘い、被害者を支援するのが、引き続きの優先事項。被害者が司法機関に訴えることを支援するシステムの制度化のほか、統計の質の向上、市民の意識変革を目的とした活動、および予防のためのキャンペーンの実施などに取り組む。

EUは、全ての女性と女児に対するあらゆる形の暴力を根絶するための法整備も進めている  © European Union, 1995-2016

具体的にはEU加盟各国に、「女性に対する暴力や家庭内暴力の防止と撲滅に関する欧州評議会条約」(イスタンブール条約)の批准を推奨。女性に対する暴力についての意識向上キャンペーンを、2月6日の「世界女性性器切除(Female Genital Mutilation/cutting、FGM)根絶の日」、11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」などを通じて行うほか、反人身売買に関する指令が遵守されているかどうかを調査し、その報告書を作成することなどを盛り込んでいる。

【世界で男女平等を推進】

EUは、女性と女児の権利推進と男女平等は、持続可能、公正、包摂的な社会を作るために不可欠であるだけではなく、世界の平和と治安、とくに、女性の権利と尊厳を否定する過激思想に対する解決策として位置付けており、対外政策においても、男女平等を推進している。

女性と女児の権利推進と男女平等は、持続可能、公正、包摂的な社会を作るために不可欠。EUは対外政策においても、男女平等を推進している  © European Union, 1995-2016

具体的な方法としては、開発協力や近隣国との協力および人道援助において、男女平等の推進活動を監視。EUが資金援助する活動については、年齢と性別の指標に準じているかどうかを確認する。また、EUへの加盟候補国や潜在的加盟候補国に対しては、EUの加盟基準(コペンハーゲン基準)の中の、男女平等をはじめとする人権尊重規程に従うよう注視し支援する。

さらに、国連の開発目標である「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDG)」、1995年に男女平等、開発、平和を目標に掲げ、女性のエンパワーメントに向けた課題を定めた「北京宣言および行動要領」などに基づき、第三国に男女平等を求める。

欧州委員会は、2017年に「欧州委員会におけるジェンダーの主流化」という報告書を出す予定で、同報告書では、運輸、エネルギー、教育、健康、税制、農業、商業、地方政治、海運、環境など各部門における男女平等についての状況が一覧できることになっている。PART2では、加盟国における男女平等やワークライフバランスの現状を紹介する。

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