2021.2.17

EU-JAPAN

日・EU双方の利益のために全力を尽くす〜通商部の新任外交官に聞く〜

日・EU双方の利益のために全力を尽くす〜通商部の新任外交官に聞く〜

駐日EU代表部で働く外交官を紹介するシリーズの2021年第1弾は、通商部に新たに参画した4人を取り上げる。2020年に着任し、新型コロナウイルス感染症拡大でさまざまな活動が制限されながらも、意欲を持って仕事に向かい、新天地での生活を充実させようとしている姿を紹介する。

イルッカ・サーリネン参事官:貿易の専門家として相互に有益な解決策を導く手助けを

国際貿易や国際関係・国際法を専門とするサーリネン氏は、1994年に母国フィンランドの貿易産業省に入り、非農産品市場アクセス(NAMA)や貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)、自由貿易協定(FTA)、対ロシア貿易などに携わった貿易のエキスパートだ。その専門性を買われて、1998~2001年には、欧州委員会の通商総局に出向。2003年に母国に戻り、外務省で貿易や対外経済部門を経験した後、2019年に駐日フィンランド大使館の商務参事官として来日し、2020年から駐日欧州連合(EU)代表部に出向となった。市場アクセス関連、規制協力、日本と第三国との貿易協定などを担当している。

平和・安全・繁栄の源泉であるEUを、世界中の国々にとって影響力の大きい信頼に足るパートナーにしたいと考えているサーリネン氏は、「かつてEUで働いたことはとても貴重な経験でした。グローバルな経済と貿易システムの発展において、アジア太平洋地域が果たす役割は大きい。中でも中心的な存在となっている日本のEU代表部で働けることに興奮しています」と期待感を口にする。「日・EU経済連携協定(EPA)は、EU企業の日本市場へのアクセスを改善するだけではなく、日本の利益にもなります。例えば、日本のエネルギーミックスにおいて再生エネルギーの割合を高めることに貢献するなど、相互に有益な解決策を見つけるために役立つと思います」と、貿易交渉や規制協力などについて培ってきた自身の専門知識を生かして、その目的のために力を尽くしていくつもりだ。

「実は、小さい頃、日本に行ってみたいと思っていました。今はオフィスの隣に住み、子どもの学校も近く、ワークライフバランスも取れて、われわれ家族にはぴったりの環境です」と喜んでいるサーリネン氏だが、多くの湖と豊かな森に囲まれた自然溢れる母国とは異なる日本での生活をどのように感じているのだろう。「母国を離れて暮らすのは大変なことですが、日本とフィンランドの距離は飛行機で9時間ですから。それに、白馬や志賀高原のようなスキーリゾートが近くにあるのは素晴らしいです。そしてスキーをした後の温泉とおいしい焼肉に勝るものはありません」と称える一方で、「ただ一つ、日本でヨットのセーリングが簡単に楽しめるといいのですが。もしお薦めの場所を知っていたら、ぜひ教えてください」と茶目っ気たっぷりに話してくれた。

ヤツェク・コザーク参事官:同様の課題に取り組む日本との理解とつながりを深めたい

コザーク氏は日本とのEPAの円滑な実施をはじめ、貿易・経済関係全般をカバーする。日本の通商産業政策、サービスと工業製品の市場アクセス、知的財産権(IPRs)、WTO、ICT/テレコムとeコマース、自動車と航空、宇宙と防衛、ヘルスケア(化粧品、医薬品、医療機器)、林業など担当分野は多岐にわたっている。

いくつかの法律事務所で勤務後、EUに入ってからは欧州委員会の通商総局で貿易防衛措置や貿易交渉などを担当してきた。11年以上にわたる通商総局で豊富な経験と多角的な視野を生かして、「日本側のパートナーと長期的な関係を築き、日本とEUの相互理解を深めていきたい」と意気込む。

「例えば、『欧州グリーンディール』と日本の『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』は、2050年に向けて社会と経済をどのように発展させるかという点において共通のビジョンを有しており、双方が協力する余地は大いにあります。先行きが不透明な時代ですが、日本のステークホルダーの皆さんと連帯していきたい」と未来を見据える。

「日本には若い頃からその文化に魅了されてきた」とコザーク氏。母国であるポーランドでは多くの人が西洋と東洋の双方の文化の影響を受けていると感じている。日本に興味を持つ人も少なくない。彼にとって日本はオリエンタリズムを具体化した中でも最高峰に位置する存在だ。

ポーランドがEUに加盟したことで人々の生活が大きく変わったことは忘れられないそうだ。経済的にも政治的にも「EUはヨーロッパ人が成し得た最高のプロジェクトだ」と胸を張る。日本とEUに強い想いを抱くコザーク参事官は、日・EUの連携に貢献できることに喜びを感じている。

「私の知っていた日本は、さまざまな要素が一つに織り混ざった集合体。日本に住んで、働き、日本語を学ぶことで、そこを深く掘り下げ、すべての要素をつなぐことができる素晴らしい機会になるのではないかと思っています」と、日本での新生活に期待を寄せる。「4歳と1歳の子どもがいるので、仕事と家族、趣味やスポーツにうまく時間を割くのは難しいですが、新型コロナウイルスの状況が落ち着いたら、家族で庭園や公園、山々に出かけて日本の素晴らしいところを発見するのを楽しみにしています」と笑う。

コレット・オドゥリスコル アタッシェ:プログラムマネージャーとしての豊富な勤務体験を生かしてEPAの遂行に尽力

母国アイルランドで開発学の修士号を取得したオドゥリスコル氏は、海外開発研究所(英)の研究員としてパプアニューギニアでそのキャリアをスタートした。「世界に変化をもたらすための援助プログラムに参加したい」と、世界最大の開発援助ドナーであるEUに入ってからは、さまざまな途上国・中所得国のEU代表部で勤務した。駐ガンビア代表部では、教育部門や地方開発支援のためのプログラムなどを担当。また駐バルバドス・東カリブ海諸国代表部では、小島嶼開発途上国の公共財政管理改革や民間部門発展のための予算支援計画の実施に携わった。さらにベトナムでは、EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)の交渉および実施支援や、経済ガバナンス分野の協力におけるEU加盟国および多国間金融機関との調整を担うなど、その業務は非常に幅広かった。「文化的に多様な環境でおもしろい仕事ができるEUで働くのは楽しい。全てが刺激的で豊かな経験でした」と目を輝かせる。

そんな経歴を持つ彼女がなぜ、先進国である日本への赴任を希望したのだろうか。オドゥリスコル氏が日本で携わるのは、EUの外交政策を海外で遂行するための外交政策手段局(Foreign Policy Instrument=FPI)のプロジェクトの実施だ。設計から入札や契約業務まで全体的な管理をする。「これまでのパートナー国の開発援助関連とは異なりますが、FPIの仕事を通して日本でEUの利益増進に携われることにすごく興味がありました。貿易関連の支援プロジェクトの実施経験を生かして、EPAが効果的に実施できるよう日本でFPIを拡充します」と話す。

初めて日本を訪れたのは2018年、観光目的だった。食べ物や庭園、スタジオジブリの映画、沖縄の音楽など、五感に触れるさまざまなものに魅了された。また小さな子どもが駅に一人でいるところを見て、日本がとても安全な国であることに驚いたという。13歳を筆頭に3人の子どもがいるワーキングマザーにとって、安心して暮らせるのはとても大事だ。

ただ、コロナ禍で子どもたちは数カ月学校に通えなかった、「それでも、寿司を食べたり、都内の公園や美術館を訪れたり……最近では日本風のカレーに出会いました。家族で日本での暮らしを楽しんでいます」と明るく話す。

セサル・モレノ アタッシェ: SPAを具体的な行動につなげることにやりがいを感じて

スペイン出身のモレノ氏は、国際関係と開発協力の分野で25年の経歴を持つスペシャリストである。スペイン国際開発協力庁でキャリアをスタートさせ、2005年に開発援助に関するプログラムマネージャーとしてEUに入り、域外でも勤務した。2018年にFPI(前述)に移り、2020年に駐日代表部へ。日本でのFPIプロジェクトは、主に日・EU EPAとSPAに網羅されている分野のものであり、モレノ氏はSPA関連のプロジェクトを担当している。SPAに含まれている重点課題は、安全保障・防衛、コネクティビティ(連結性)、エネルギー、環境、デジタル、ジェンダーバランスなど、非常に幅広い。「日・EU関係の多面性のおかげで、私が任されているプロジェクトのテーマも多岐にわたります。それこそがこの仕事にやりがいと大いなる興味を抱く理由です」と意気込みを語る。

「EUは欧州諸国が共有すべき基本的価値と利益を見出し、それを守る方法を導き出した点が素晴らしい。何十もの異なる文化的特徴と言語があるのに、どこか似ていて、みなヨーロッパ人であるというところが好き」と言う。セサル氏にとって、そんなEUで働くのは、気候変動や人権、デジタル、安全保障など日々の報道の見出しを飾るような主要な問題について学ぶことを意味するそうだ。「特にEUの対外活動に関わるのは、多様で多文化的な環境で興味深くやりがいのある仕事ができ、同僚から学び、言語やスキルを最大限に活用する機会も得られます」と自身のキャリア選択には満足げだ。

これまで、ペルー、ホンジュラス、ボリビア、中国、モンゴルなどに赴任し、日本は、EU以外では初の先進国の勤務地となる。日本勤務を希望したのは「日本での仕事はこれまでの経験を生かせるものだし、日本で学ぶことはたくさんある」と感じたからだ。「コロナ禍という困難な状況下にありますが、利用可能なリソースと管理ツールを最大限に活用し、SPAの戦略的コミットメントを具体的な行動に結びつけたい」と意欲を見せる。

来日して、「ネオンサインが煌めく都市が点在する一方で、緑豊かな田園地帯と山々が広がっているコントラストに驚かされます」と話す。週末は、家族と家で過ごすことが多いが、おいしい料理があれば、友人とも分かち合いたいと言う。「東京での生活は文化的にも生活スタイルにしても自分に合っていると思いますし、とても楽しい経験だと思います」と笑顔を見せた。

プロフィール

イルッカ・サーリネン Ilkka SAARINEN
駐日EU代表部 通商部 参事官

フィンランド・ヘルシンキ大学で政治学修士号を取得。1994〜98年、2001〜03年にフィンランド貿易産業省においてNAMA(非農産品市場アクセス)、TBT、FTAなど、さまざまな規制政策に携わる。1998~2001年にはナショナルエキスパートとして欧州委員会通商総局に出向。2019年にフィンランド外務省に移り、駐日フィンランド大使館商務参事官として赴任。2020年4月から駐日EU代表部に出向して現職。

ヤツェク・コザーク Jacek KOZAK
駐日EU代表部 通商部 参事官

ポーランドのヴロツワフ大学で法学修士号を取得、ベルギーのゲント大学、スイスのベルン大学世界貿易研究所でも学ぶ。いくつかの法律事務所に勤務した後、2009年に欧州委員会通商総局に入る。政策担当官、交渉担当官などを歴任し、韓国やオーストラリアとの自由貿易協定(FTA)なども担当。2020年9月から現職。

コレット・オドゥリスコル Colette O’DRISCOLL
駐日EU代表部 通商部 アタッシェ

アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで開発学修士課程を修了。2000〜03年にパプアニューギニアの内国歳入庁で経済アドバイザーとしてキャリアをスタートさせ、2004年EUに入る。以降、ガンビア、東カリブのバルバドス、ベトナムに赴任し、各国の代表部で開発協力のプログラムマネージャーとして勤務。2020年8月から現職。

セサル・モレノ Cesar MORENO
駐日EU代表部 通商部 アタッシェ

スペインのカディス大学で環境経営・計画学の修士号を取得。スペイン外務省の国際開発協力機構で専門的なキャリアを開始し、2005年から欧州委員会の開発協力総局(DG DEVCO)に入りプログラムマネージャーとして勤務。2018年に外交政策手段局(FPI)に移る。これまでの赴任先は、ペルー、ホンジュラス、ボリビア、中国など。2020年8月から現職。

※本記事内の掲載写真:© European Union, 2021

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