2014.9.18
FEATURE
2007年1月からのユーロ導入を目指したものの、導入条件の一つであるインフレ率が基準を上回り、認められなかった。その後、財政健全化や税制改革を柱とする経済対策に取り組み、2011年に5.9 %、2012年に3.6%の経済成長を達成。今後も同水準で拡大すると予測されており、現在ではEU加盟国の中でも成長率が著しい国の一つになっている。
ユーロは、紙幣が7種類、硬貨は 8種類(下の写真参照)。紙幣は表裏ともユーロ圏共通のデザインで、欧州の歴史における建築様式の発展を、人と人をつなぐ「窓」と「橋」という図柄によって表現している。硬貨は、EUの掲げるスローガン「多様性の中の統合」を象徴するように、片面は欧州の地図が描かれたユーロ圏共通のデザインで、もう片面は導入国が独自のデザインを施すようになっている。
独自デザイン面は、8種すべてが同じデザインの国もあれば、異なるデザインを施している国もある。ただし、EUを象徴する12個の星と発行年および発行国名は入れなければならない。
リトアニアは独自デザイン面として、8種すべてに、国章である白馬に乗り剣を振り上げた騎士「ヴィーティス(Vytis)」を採用した。2ユーロ硬貨の外縁にはリトアニア語でLAISVĖ(自由)、VIENYBĖ(統一)、GEROVĖ(幸福) の文字が刻まれている。
リトアニア国内でユーロ導入の広報活動を展開 している「ユーロバス」。2カ月以上かけて60市町村を回る 出所: The Baltic Course © 1996 — 2010
2015年1月1日を境に自国通貨が一斉に「ユーロ」に切り替わるリトアニア。気になるのが具体的にどう切り替えるのかだが、金融機関が勧める最も簡単な方法は、「所有する現金をすべてリトアニアの銀行口座に入れておく」ことである。口座にある預金などは、ユーロ導入日に公式切り替えレートで「自動的」かつ「無料」でユーロに切り替わり、1月1日以降、現金自動預払機(ATM)や窓口での引き出しはユーロとなる。また、手持ちの現金については、各銀行の窓口で半年間、郵便局では60日間、無料で両替ができるほか、さらに半年間はリトアニア銀行(リトアニアの中央銀行)が認可した銀行の特定支店でも交換できる。なおリトアニア銀行では無期限で手数料なしに両替が可能。
物品やサービスの代金をリタスで支払い、釣り銭をユーロで受け取るという方法もあるが、この方法は導入後15日間の時限措置で、それ以降は支払い通貨はユーロのみとなる。リトアニア当局は、リタスとユーロの現金の並行流通期間を15日と短く設定することで、通貨の切り替えを効率的かつ確実に行うつもりだ。給料や年金、奨学金、給付金、ペイメントカード(クレジットカードやデビットカードなど支払い機能のあるカード)、ローン、保険契約など、導入前に利用していた金融サービスは自動継続となり、契約内容が引き継がれるため、あらためて手続きをする必要はない。
懸念されるのが、通貨切り替えに伴う便乗値上げだが、導入の正式決定の1カ月後(8月末)から導入後少なくとも6カ月後まで、品物やサービスの価格をリタスとユーロで併記することでこれを回避する。そのため、消費者は公式換算レートを基に価格のチェックが可能。また、便乗値上げは厳しく監視され、違反した場合は公表の上罰金刑が科されることになっている。このように、自国通貨からユーロへの切り替えにあたっては、明確かつ透明性のあるさまざまな仕組みが整えられている。
リトアニアの導入で計19 カ国の通貨となる単一通貨ユーロは、1999年1月1日に導入された。
ユーロ導入国と導入日
ユーロ導入日 | 国名 | 旧通貨 |
---|---|---|
1999年1月1日 (現金流通は2002年1月1日より) |
オーストリア | シリング |
ベルギー | フラン | |
フィンランド | マルッカ | |
フランス | フラン | |
ドイツ | マルク | |
アイルランド | ポンド | |
イタリア | リラ | |
ルクセンブルク | フラン | |
オランダ | ギルダー | |
ポルトガル | エスクード | |
スペイン | ペセタ | |
2001年1月1日(同上) | ギリシャ | ドラクマ |
2007年1月1日 | スロヴェニア | トラール |
2008年1月1日 | キプロス | ポンド |
マルタ | リラ | |
2009年1月1日 | スロヴァキア | コルナ |
2011年1月1日 | エストニア | クローン |
2014年1月1日 | ラトビア | ラット |
2015年1月1日 | リトアニア | リタス |
導入から15年を経たユーロ。この間、欧州債務危機などに見舞われたものの、引き続きEU域内のみならず、世界の外為取引において33%のシェア(国際決済銀行の2013年調査)を占める、米ドルに次ぐ「第2の基軸通貨」としての地位を保っている。そもそもユーロ導入には、物価上昇率、財政赤字、為替安定、金利に関する厳しい基準(経済収れん基準)を満たす必要がある。例えば、財政赤字に関しては「年間の財政赤字を国内総生産(GDP)比で3%以下、政府債務残高が同60%以下であること」といった厳格な基準が決められており、導入後も財政規律を守らなければならない。
財政規律ルール適用の甘さに端を発した欧州債務危機を経て、EUは財政規律を強化する新しい条約(財政協定〈財政協約とも呼ばれる〉)や、恒久的な安全網(欧州安定メカニズム=ESM)を導入した。また加盟国間の効果的な経済政策調整や、金融制度の統合(銀行同盟)も進めてきた。リトアニアはユーロ導入によって、金融の安定、為替コストの削減や為替リスクの回避、国境を越えた貿易の促進といったメリットを享受する一方、ユーロの信頼性と安定性を守るべくこれらのルールや枠組みを完全に遵守することが求められている。言い換えれば、そういった努力を払ってでも、ユーロ圏に入ることの意義は大きいといえる。
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