2014.9.18

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リトアニアが2015年からユーロを導入

リトアニアが2015年からユーロを導入

一度は挫折したユーロ導入を経済復興で勝ち取ったリトアニア

リトアニア銀行の入口上にある、ユーロ導入までの残り日数、時間、分、秒を刻々と表示する電子時計 © 1990-2014 Lietuvos Bankas

欧州連合(EU)理事会は去る7月23日、リトアニアが自国通貨として欧州単一通貨「ユーロ」を使うことを正式に認めた。同国の現行通貨リタスと、ユーロの恒久的換算レートを「1ユーロ=3.45280リタス」に設定、2015年1月1日から紙幣、硬貨の使用が始まる。バルト海東岸に南北に並ぶバルト三国の一つであるリトアニアは、人口297万2,000人(2013年、リトアニア統計局調べ)。1990年にソビエト連邦から独立した後、欧州への復帰を目指し2004年5月にEUに加盟した。

ユーロ導入の決定を祝う式典に臨むブトケヴィチュース・リトアニア首相(2014年7月23日、ブリュッセル) © European Union, 2014

2007年1月からのユーロ導入を目指したものの、導入条件の一つであるインフレ率が基準を上回り、認められなかった。その後、財政健全化や税制改革を柱とする経済対策に取り組み、2011年に5.9 %、2012年に3.6%の経済成長を達成。今後も同水準で拡大すると予測されており、現在ではEU加盟国の中でも成長率が著しい国の一つになっている。

アルギルダス・ブトケヴィチュース首相は「リトアニアは経済的、政治的に熟慮された国家戦略としてユーロ導入に取り組んできた」と振り返り、「今回のユーロ導入はEUの経済・通貨同盟を強化するだろう」とその意義を強調した。

ユーロ硬貨のデザインは白馬の騎士を描いた国章「ヴィーティス」

ユーロは、紙幣が7種類、硬貨は 8種類(下の写真参照)。紙幣は表裏ともユーロ圏共通のデザインで、欧州の歴史における建築様式の発展を、人と人をつなぐ「窓」と「橋」という図柄によって表現している。硬貨は、EUの掲げるスローガン「多様性の中の統合」を象徴するように、片面は欧州の地図が描かれたユーロ圏共通のデザインで、もう片面は導入国が独自のデザインを施すようになっている。

ユーロ紙幣(左)とユーロ硬貨のデザイン(右:硬貨は共通デザイン面) © 1998-2014 Delegation of the European Union to Japan

独自デザイン面は、8種すべてが同じデザインの国もあれば、異なるデザインを施している国もある。ただし、EUを象徴する12個の星と発行年および発行国名は入れなければならない。

リトアニアは独自デザイン面として、8種すべてに、国章である白馬に乗り剣を振り上げた騎士「ヴィーティス(Vytis)」を採用した。2ユーロ硬貨の外縁にはリトアニア語でLAISVĖ(自由)、VIENYBĖ(統一)、GEROVĖ(幸福) の文字が刻まれている。

リトアニアの2ユーロ硬貨。独自デザイン面には国章のヴィーティス(Vytis)が描かれており(左)、側面にはLAISVĖ(自由)、VIENYBĖ(統一)、GEROVĖ(幸福) の文字(右)が彫られている © 1990-2014 Lietuvos Bankas

ユーロ切り替えで「混乱」や「便乗値上げ」は起きないのか

リトアニア国内でユーロ導入の広報活動を展開 している「ユーロバス」。2カ月以上かけて60市町村を回る 出所: The Baltic Course © 1996 — 2010

2015年1月1日を境に自国通貨が一斉に「ユーロ」に切り替わるリトアニア。気になるのが具体的にどう切り替えるのかだが、金融機関が勧める最も簡単な方法は、「所有する現金をすべてリトアニアの銀行口座に入れておく」ことである。口座にある預金などは、ユーロ導入日に公式切り替えレートで「自動的」かつ「無料」でユーロに切り替わり、1月1日以降、現金自動預払機(ATM)や窓口での引き出しはユーロとなる。また、手持ちの現金については、各銀行の窓口で半年間、郵便局では60日間、無料で両替ができるほか、さらに半年間はリトアニア銀行(リトアニアの中央銀行)が認可した銀行の特定支店でも交換できる。なおリトアニア銀行では無期限で手数料なしに両替が可能。

物品やサービスの代金をリタスで支払い、釣り銭をユーロで受け取るという方法もあるが、この方法は導入後15日間の時限措置で、それ以降は支払い通貨はユーロのみとなる。リトアニア当局は、リタスとユーロの現金の並行流通期間を15日と短く設定することで、通貨の切り替えを効率的かつ確実に行うつもりだ。給料や年金、奨学金、給付金、ペイメントカード(クレジットカードやデビットカードなど支払い機能のあるカード)、ローン、保険契約など、導入前に利用していた金融サービスは自動継続となり、契約内容が引き継がれるため、あらためて手続きをする必要はない。

懸念されるのが、通貨切り替えに伴う便乗値上げだが、導入の正式決定の1カ月後(8月末)から導入後少なくとも6カ月後まで、品物やサービスの価格をリタスとユーロで併記することでこれを回避する。そのため、消費者は公式換算レートを基に価格のチェックが可能。また、便乗値上げは厳しく監視され、違反した場合は公表の上罰金刑が科されることになっている。このように、自国通貨からユーロへの切り替えにあたっては、明確かつ透明性のあるさまざまな仕組みが整えられている。

広がるユーロ圏、高まる信頼

リトアニアの導入で計19 カ国の通貨となる単一通貨ユーロは、1999年1月1日に導入された。

ユーロ導入国と導入日

ユーロ導入日 国名 旧通貨
1999年1月1日
(現金流通は2002年1月1日より)
オーストリア シリング
ベルギー フラン
フィンランド マルッカ
フランス フラン
ドイツ マルク
アイルランド ポンド
イタリア リラ
ルクセンブルク フラン
オランダ ギルダー
ポルトガル エスクード
スペイン ペセタ
2001年1月1日(同上) ギリシャ ドラクマ
2007年1月1日 スロヴェニア トラール
2008年1月1日 キプロス ポンド
マルタ リラ
2009年1月1日 スロヴァキア コルナ
2011年1月1日 エストニア クローン
2014年1月1日 ラトビア ラット
2015年1月1日 リトアニア リタス

導入から15年を経たユーロ。この間、欧州債務危機などに見舞われたものの、引き続きEU域内のみならず、世界の外為取引において33%のシェア(国際決済銀行の2013年調査)を占める、米ドルに次ぐ「第2の基軸通貨」としての地位を保っている。そもそもユーロ導入には、物価上昇率、財政赤字、為替安定、金利に関する厳しい基準(経済収れん基準)を満たす必要がある。例えば、財政赤字に関しては「年間の財政赤字を国内総生産(GDP)比で3%以下、政府債務残高が同60%以下であること」といった厳格な基準が決められており、導入後も財政規律を守らなければならない。

財政規律ルール適用の甘さに端を発した欧州債務危機を経て、EUは財政規律を強化する新しい条約(財政協定〈財政協約とも呼ばれる〉)や、恒久的な安全網(欧州安定メカニズム=ESM)を導入した。また加盟国間の効果的な経済政策調整や、金融制度の統合(銀行同盟)も進めてきた。リトアニアはユーロ導入によって、金融の安定、為替コストの削減や為替リスクの回避、国境を越えた貿易の促進といったメリットを享受する一方、ユーロの信頼性と安定性を守るべくこれらのルールや枠組みを完全に遵守することが求められている。言い換えれば、そういった努力を払ってでも、ユーロ圏に入ることの意義は大きいといえる。

関連情報

EU MAG 2014 年1月号ニュースの背景「ラトビアが18番目のユーロ導入国に」

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