2018.3.16
FEATURE
欧州経済の安定を揺るぎないものとして、2025年までにEMUをさらに強化していくことを目標に、昨年12月に欧州委員会が立案したロードマップと4つの取り組み。中でも本稿では、EMUの深化につながる欧州通貨基金(EMF)の創設と、新設を提案された欧州経済・財務大臣の果たす役割について、主に解説する。
2017年12月、欧州委員会は今後18カ月間にわたって実施する具体的な措置を含む政策文書「EMUの深化のためのロードマップ」を公表した。この文書は、2015年6月発表の報告書『欧州の経済通貨同盟(Economic and Monetary Union=EMU)の完成』(別称『Five Presidents’ Report』)で提示された構想と、2017年春に発表された『EMUの深化』および『EU財政の将来』に関する2本の考察文書とに立脚している。この包括的提案の一環として、数多くの新たな取り組みも提示されている。ロードマップの総合的な目標は、2025年までにEMUの一体性、効率性および民主的説明責任を強化することにある。
低成長およびゼロ成長が何年も続いた後、あらゆるレベルでの断固とした努力が効果を上げ始めた。欧州は今、力強い回復を経験している。全加盟国が経済成長しており、欧州連合(EU)全体の成長率は、過去数年連続で平均約2%前後を維持している。景況感は、EU全体でもユーロ圏においても、2000年以来最高となっている。失業率は2008年後半以来、最低レベルにある。ユーロに対する一般市民の支持は、ユーロ紙幣と硬貨が流通開始した2002年以来、ユーロ圏で最高潮に達している。
このような良好な経済的・政治的状況は、より一体性のある効率的で民主的なEMUを構築するために必要な改革を行うには、絶好のチャンスである。「屋根の修理は、太陽が照っているときに行うに限る」、つまり問題が起きる前に対処せよ、というものだ。結局のところ、EMUを深化させる理由は、今以上に雇用、成長、投資、社会的公正、そしてマクロ経済の安定を創出することにある。
2017年12月の包括的提案は、ロードマップに加え、次の4つの新たな取り組みを含んでいる。
1. 「欧州通貨基金(European Monetary Fund=EMF)」創設に関する提案。EUの法的枠組みに基づき、すでに確立されている「欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism=ESM)」をベースに構築する。
2. 欧州経済・財務大臣(European Minister for Economy and Finance)に関する政策文書。同文書には、欧州経済・財務大臣の予想される役割が詳述される。同職は現行のEU基本条約の規定においても、欧州委員会副委員長とユーログループ(ユーロ圏財務大臣会合)議長を兼務できるとされている。
3. EUの枠組みの中での、安定したユーロ圏のための新たな予算措置に関する政策文書。同文書には、現在と将来のEUの公共財政の枠組みの中で、ユーロ圏とEU全体にとって不可欠な一定の予算機能をいかに発展させるかについての構想を打ち出す。
4. 「安定、協調、統治に関する条約(Treaty on Stability, Coordination and Governance=TSCG)」の内容を、EUの法的枠組みに統合する提案。同提案は「安定・成長協定(Stability and Growth Pact=SGP)」に組み込まれており、2015年1月に欧州委員会が確認した適切な柔軟性を考慮する。
本稿では、上記のうちEMFの創設と、新たな欧州経済・財務大臣職の2点について解説する。
2012年以来、ESM(欧州安定メカニズム)は、加盟国のソブリン債市場へのアクセスの回復、または維持への支援に決定的な役割を果たしてきた。危機的状況の中、切迫した事態に対応するために政府間組織としてのESMが創設されたが、この組織がEU基本条約の枠組みの中でも実現できることは、その時点でもすでに明らかであった。EMF(欧州通貨基金)に確固とした制度上の根拠を持たせることは、とりわけEU財源の透明性、法的検証、効率性といった点で新たな相乗効果を生むのに役立つと考えられる。また、それにより欧州委員会との協力や、欧州議会に対する民主的な説明責任を向上させることができる。
EMFは、ESMの効率性、透明性、民主的説明責任を強化する形で、ESMが現在有している財政・組織構造を本質的にそのまま踏襲する。EMFは引き続き、必要としている加盟国に財政安定化のための支援を提供し、資本市場で商品を発行したり資金を調達したりし、また金融市場で取引を行う。EMFはさらに、単一破綻処理基金(Single Resolution Fund=SRF)にバックストップ(安全装置)を提供する。可能性としては低いが、万が一、SRFが行き詰まった金融機関に向けて秩序ある破綻処理の支援を行うための資金が提供できない場合は、EMFが最後の貸し手として、また究極的には納税者を守るための役割を担う。
危機に対応するためのEMFの財務能力は、ESMと同等の融資可能総額5,000億ユーロである。ESMの場合と同様に、EMFの理事会(Board of Governors)は、目的を遂行するのに妥当と自らが判断した場合には、この融資可能総額を引き上げることができる。
現在のEMUの組織構造は本質的に複雑であり、さまざまな法的枠組みと監督制度の中で、経済・財政・構造・金融政策の権限を異なる組織に与えている。欧州経済・財務大臣職の新設は、EUの経済政策立案における一貫性、効率性、透明性、民主的説明責任を向上させる一助となるはずである。大臣は、EU域内および国際レベルの両方において、EUとユーロ圏経済の一般的利益を推進するために行動できる。また、欧州議会に対する説明責任を負い、加盟各国の議会との定期的な対話を行う。
欧州経済・財務大臣は、欧州議会への説明責任を負う一方で、欧州委員会の副委員長とユーログループの議長を務め、そして新設のEMFの働きを監督することができる。欧州経済・財務大臣が、欧州委員会の委員とユーログループの議長という2つの職を兼任することは政策文書で提案されているが、これは現行EU基本条約の下、すでに実現可能である。欧州委員会は、EU経済政策立案の一貫性と効率性の向上を推進する責任を、同大臣が担うように提案している。これは、各国の権限を侵害したり、国としての機能と重複したりすることなく、EUレベルで加盟国同士がやりとりをするといった面も含め、各国の権限を補完するものとなる。
欧州経済・財務大臣は、各加盟国の改革の調整と実施を推進する。同大臣はまた、ユーロ圏全体にとっての適切な財政政策を特定する責任を持つ。最後に、同大臣はEU政策の優先事項を最も効率的に遂行するため、関連するEUとユーロ圏の予算手段をどのように利用するかを調整できる。
欧州経済・財務大臣の役割
近年、EMUの完成を巡って、多くの見解が表明されている。意見の詳細は異なるが、EMUをさらに進展させる必要性については幅広いコンセンサスがある。一般的な原則から具体的な実施へと歩を進めるためには、明確に方向性を打ち出し、適切に順序立てて行うことが求められる。
欧州委員会は、欧州議会とEU理事会にロードマップで示した提案をじっくり検討するよう求めている。委員会は、2018年6月28日~29日に予定されているEU理事会の会合で「具体的な決定」が下されることを目指している。ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が行った昨年の「一般教書演説」の中で、EMUの完成は、ドナルド・トゥスク欧州理事会常任議長の招集によりルーマニアのシビウで2019年5月9日に開かれるEUの特別首脳会合に向けた「ロードマップの不可欠な部分である」と述べられている。同会合では、欧州の将来を巡って重要な決定が下されることとなっている。
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