2013.7.10

FEATURE

再生エネルギーへの切り替えを進めるスペイン

再生エネルギーへの切り替えを進めるスペイン

スペインのアンダルシア地方中心部に、ソーラータワーを取り囲むようにして反射鏡がずらりと並ぶSF映画のような光景が広がる。ここは欧州最大の太陽熱発電施設「ソルカル」だ。太陽を追って向きを変える反射鏡でタワー上部の集熱器に集光する仕組みで、18キロ東にあるセビリア市に電力を供給している。

「ソルカル」には、実用化されているほとんどの太陽熱や太陽光の発電技術が揃っており、300メガワット(MW)の送電を行っている。これは原子力発電所1基分に相当する。

この最先端の太陽エネルギー複合施設はスペインのクリーンエネルギー技術の「白眉」と言えるものだ。スペインでは2012年、国の総発電量の約32%、総エネルギー消費量の18%がクリーンエネルギーであった。この数字は、10年にわたってクリーン技術利用とエネルギー多様化に向け、積極的に再生エネルギー導入を推進する数々の法令の成果だ。

「ソルカル」には何ヘクタールにもわたり反射鏡が並ぶ。反射鏡で太陽光線を集め、570度の高温をつくり出して発電する。だが、有害な排出物は出さない。この施設はセビリア市西方わずか18キロにある(筆者提供)

年に300日以上が晴れで、風の強いスペインは、今後10年間で再生可能エネルギーによる発電量を3倍にする計画だ。それと併せて、運輸部門の最終エネルギー消費における再生エネルギーの割合10%が達成されれば、2020年までに最終的なエネルギー消費の20%を再生可能エネルギーにするという欧州連合(EU)の目標(※1)を上回ることになる。

「再生可能エネルギーがもたらす恩恵は大きく、しかも安定している。割高なコストは限定的であり、傾向として時間の経過とともに下がっていく」と話すのは、エネルギーの再生可能化・効率化・節約を推進する民間団体、再生エネルギー財団(Fundacion Renovables)のハビエル・ガルシア・ブレバ理事長だ。「比較研究でも、総合的には、将来の恩恵は現在のコストをはるかに上回っており、再生エネルギーを後押しする規制枠組みが必要なことは明らかだ」と指摘する。

国内電力の4分の1以上は風力

アストゥリアスの風力発電所(イベルドローラ社提供)

風力は、現在、スペインで最も発電能力の高いシステムである。2012年12月時点で22,784MWの発電能力を持つスペインは、米国、ドイツに次ぐ世界3位の風力発電国だ。送電事業を行うレッド・エレクトリカ・デ・エスパーニャ社の統計によれば、これは原子力と石炭火力による発電量をともに上回り、スペインの総発電量の4分の1以上を占めている。

スペイン風力エネルギー協会の担当者は「スペイン経済は、集合型風力発電所への補助金1ユーロ当たり3ユーロの収益を得ている」とし、同量の電気を化石燃料から作り出していたら4億600万ドルかかっていただろう、と説明した。

それでも、スペインではまだ、洋上の風力発電所の運用は始まっていない。現在、水深50メートル以下の沖合で約30の風力発電プロジェクトが進められている。洋上設置の風力発電能力は2020年までに3,000MWまで徐々に増えていくことが見込まれている。

政府支援で導入した太陽エネルギー分野は世界をけん引

スペインはまた、太陽エネルギー分野において、ドイツに次いで世界2位の地位にあり、2013年1月時点で4,381 MWの発電能力を有している。ソーラー技術は2004年3月施行の勅令第436号により、支援を受けている。同勅令は、太陽発電電力の固定価格での買い取り制度(保証価格)を認めている。同制度によって、太陽光発電施設の建設は経済的に採算がとれるようになった。風力の場合と同様、スペイン政府は新規施設の建設には、初期段階では支援が必要だということを認識していたからだ。

金融危機の影響で、スペイン政府は太陽エネルギー発電への補助金を大幅にカットし、業界に大きな打撃を与えた。それでも、アベンゴア社やイベルドローラ社といったスペイン企業は太陽エネルギーと風力発電の開発で世界をリードしており、近年では、米国をはじめとする外国の関連企業に数十億ユーロ規模の技術輸出や設備投資を行っている。

波力やバイオマスの利用も拡大

バイオディーゼル燃料ステーションを視察するアナ・ボテジャ マドリッド市長(マドリッド市提供)

スペインではまた、海洋エネルギーの利用も拡大しており、世界初の商業用波力発電所が2年前に稼働した。同施設はスペイン北部ムトリクの町に電力を供給、国内の他の沿岸地域のモデルとなっている。

また、最近になって発熱用(たとえば暖房や家庭用温水、工業プロセスなど)と発電用の双方でバイオマスの利用が急速に拡大している。スペインのバイオマスは、多様で豊富な資源(森林廃棄物、オリーブ種子、ナッツの殻など)から入手できることから、化石燃料に取って代わるだけでなく、国内の場所を問わず、十分かつ途切れることのない供給が保証できる。

政府は、再生エネルギー技術導入への新規補助金の支払いを一時的に凍結すると発表しているものの、過去10年間の取り組みのかいあって、スペインはこのペースでいけば2020年には再生エネルギー生産が少なくとも50%拡大する見通しだ。その場合、同年のCO2排出削減量は3,730万トンに達するだろう。

※本稿は執筆者の見解であり、EUおよび加盟国政府の公式の立場や見解を反映するものではありません。

関連記事

EU MAG 2012年5月号特集 「国際競争力のある低炭素社会へーEUの新エネルギー戦略」
『ヨーロッパ』誌 2009年春号 ヨーロッパ通信 「金融危機はスペイン経済の力をつける好機」

(※1)^ 2010年発表の「エネルギー2020」戦略

人気記事ランキング

POPULAR TAGS