2015.11.27
Q & A
1997年の京都議定書は地球温暖化防止への記念すべき第一歩であり、これまで温室効果ガス削減に関する世界で唯一の法的拘束力を持つものでした。これをきっかけに、排出削減コストを低減させる国際間での排出量取引制度および他の市場メカニズムが生み出されました。しかし、京都議定書に組み込まれた39の先進国だけの枠組みでは問題解決には限界がありました。さらに、米国は議定書を批准せず、カナダは2012年に枠組みを離脱しました。
2009年12月にコペンハーゲンで開催されたCOP15での合意の後、2014年までの間に、先進国と発展途上国を含む90カ国が自発的に2020年へ向けて排出量を減らす約束をしました。しかし、これらはあくまで任意の約束のため、産業革命以前と比較して気温上昇を2℃未満に抑えるという国際的に合意された目標達成には十分ではありません。
さらに、京都議定書の採択時から、世界の状況は変わってきました。発展途上国の排出量は先進国のそれを上回り増え続けています。2020年までには、おおよそ地球規模での排出量の3分の2が発展途上国から排出されることになります。気候変動に対処するためには、世界各国の結束が必要です。このような理由から、気温上昇を2℃未満に抑えるという目標達成を掲げる全ての国を含めた、確固たる新しい法的枠組みへ向けた交渉が2011年にスタートしました。この枠組みは2015年12月のパリ会議で合意され、2020年から実施される予定になっています。
これまでと違い、先進国、発展途上国にかかわらず、全ての締約国がパリ会議でのより良い枠組み合意へ向けて排出量削減目標を掲げる姿勢を見せています。具体的には、世界の排出量の90%を占める約150の国々が、パリ合意の枠組みの中で、既に自主的な削減約束をしているのです。これは、多くの国が消極的であった以前の状況と比べると大きな進歩であり、全ての国による意欲的な行動が不可欠な多国間気候変動枠組みへの深い関与の表れでもあります。EUは各国と協調し効果的な取り決めをパリで行うための政治的条件を醸成したいと考えています。
EUは、危険な気候変動を回避すべく、世界全体の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることができ、全ての国に適用される法的拘束力を持つ意欲的で公平な枠組みの採択実現に全力で取り組んでいます。
EUは次の4点が成功への鍵を握ると考えています。1つ目は、意欲的な排出量削減の約束が気候変動枠組みの策定に必要不可欠だということです。今のところ150の国がこれに貢献する姿勢を見せています。これらは、世界で最も排出量の多い中国、米国、EUを含む主要排出国のみならず、アフリカ、カリブ海、太平洋地域のぜい弱な国々も含みます。EUは排出量削減への貢献姿勢を見せていない全ての国々に対し、できるだけ早い貢献の表明を期待しています。なぜなら事前に各国の正確な貢献度合いを知っておくことは、気温上昇を2℃未満に抑えるという目標を掲げるパリ会議で、適切な対応をするためにも必要だと考えているからです。危険な気候変動を防ぐには、意欲的な排出量削減目標が理想的であるものの、全ての国の目標の合計は、気温上昇を2℃未満に抑えるには足りないことも理解しています。
それゆえに2つ目の鍵は、パリ合意にはこれらを見据えた長期目標が必要だということです。それは、今後の方向性への共通のビジョンの基礎と温暖化緩和への取り組みを徐々に強化するためのプロセスへの指針を提供するものでなければなりません。EUはパリ合意は、地球規模での気温上昇を2℃未満に抑え、また、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに2010年比で最低でも60パーセント減らし、2100年までには排出を限りなくゼロに近づけるもしくはマイナスにするという目的を明言するものにしたいのです。
3つ目は、パリ合意には、各国の削減目標を強化するためのプロセス、および長期的目標の達成状況を5年ごとに確認するメカニズムを含む必要があります。具体的には、この野心的なメカニズムは、最新の科学および、各国の削減目標に対する実績を考慮に入れなければなりません。このメカニズムは、長期目標に向けて予定通り進むに必要な野心のレベルを将来を見越して包括的に評価する手段と、各国が追加の批准なしに、削減目標の上方修正または新目標の提示ができるような仕組みを含まなければなりません。各国の温暖化緩和への将来の取り組みは、現在の約束表明を上回る形で累進的に高まっていくべきです。
4つ目に、パリ合意が信頼に足るものとなるため、排出量削減の約束は、多国間で合意された透明性と説明責任のルールに裏付けられるべきです。ルールは、環境の一体性を確実にし、各国に温室効果ガス削減の約束を果たす責任を負わせる上で必要不可欠です。パリでの合意と決定は、共通の計算手法に則って、各国の削減約束に比した実績を定期的に計測、報告、検証する強力なルールと統一手順を示すべきです。この手順に関わるいくつかの細かい技術面は、パリ会議後、2017年までに合意しなければなりません。最後に、この新しい合意は、温室効果ガス削減と同様、気候変動の影響への適応と気候変動対策の資金調達にも対処する必要があります。
EUは長年にわたり、気候変動に関して国際交渉の先導的な役割を果たしてきており、これは2020年以降の新しい枠組みでも変わることはありません。EUは、新合意に向けた自主的約束草案――温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で少なくとも40%削減という内容――を提示した最初の主要経済圏です。この約束は、EUの現行の気候行動目標と政策枠組みを基礎としており、EU内のみの取り組みにより、達成されるでしょう。さらに この野心的な目標に並び、EUには2030年までに。EU全体の再生可能エネルギー比を少なくとも27%に高めるという法的拘束力のある目標と、エネルギー効率を少なくとも27%に高めるという強制力を持たない目標があります。
EUは、2020年までに関しては、同年までに排出を20%削減するという目標を達成もしくはそれを上回ることになりそうです。1990年から2030年までに、EU内の温室効果ガスの排出量は19%まで減りましたが、同じ期間、国際総生産(GDP)は45%上昇しました。それゆえ、環境配慮型経済に変えていくことは、EUの環境関連部門の経済発展と雇用に非常に有益なのです。同部門には不況の時ですら成長が見られました。
EUの経験からすれば、人為的に引き起こされた気候変動に対処することは、地球の未来のために必要なだけではなく、経済に大きな影響をもたらすことを示しています。野心的な気候変動政策は、革新的な企業のために新しいビジネス機会を切り開き、低炭素技術のための確固たる知識と産業基盤の構築に貢献します。それゆえパリ合意は、投資者に対し、意欲を刺激し革新目覚ましい分野に投資を促すような強いメッセージを発出すべきなのです。
気候変動とそれと戦うための行動は、世界中のパートナーとEUとの協力における不可欠な部分です。EUは気候変動ファイナンス※1におけるリーダーであり、2013年だけでも、EUとその加盟国は、気候ファイナンスの95億ユーロ(約120億米ドル)を途上国に援助しました。これはEU加盟国の公的開発銀行や金融機関からの資金供与や融資を含みます。
EUと加盟国は、先進国が2020年までに途上国向けに官民のあらゆる資金源から年1,000億ドルを調達するという目標に貢献するために、資金動員の拡大に取り組んでいます。したがって、2020年までの気候変動プロジェクトに、EU予算(EU加盟国の表明分も含む)からかなりの額が割り当てられることになります。EUの開発援助予算の20%が、気候ファイナンス関連資金に充てられ、2014年から2020年までの合計は90億ユーロを超えるでしょう。この予算は、2007年から2013年までに使われた額の2倍以上になります。
日本は、アジアで唯一の主要7カ国首脳会議(G7)のメンバーであり、世界で3番目の経済大国です。日本は気候変動交渉を主導する多大な政治的影響力もあり、他の国の見本でもあります。また最初の国際的な気候変動枠組みである京都議定書のホスト国として、先駆的な役割を担った国でもあります。さらに、経済を支える知識と技術の面からも、低炭素経済への移行で経済的にも十分に恩恵を受けられる立場にあります。この唯一無二のチャンスを逃すべきではありません。環境重視型経済は、アベノミクスの第4の矢となる可能性もあります。
一方で、EUは日本の2030年目標の提出を歓迎してはいるものの、日本は以前に比べると気候変動に対する確固たる姿勢が弱まっていることも見受けられます。2020年の新しい国際枠組みへの目標は、著しく低い数値に書き換えられ、排出量も増え続けています。2013年度は、2012年比で排出量が上昇し、2005年のピーク時と比べ過去2番目の排出量でした。それに対し、EU全体の排出量は1979年がピークでした。EUは、近年の福島第一原子力発電所事故後のひときわ厳しい日本のエネルギー事情も理解していますが、国際的な気候変動交渉において、日本が再び強いリーダーシップを発揮することはとても重要なのです。EUは、これからの世代の生活を決めるパリ会議を成功させるため、最も近い同盟国の一つである日本に期待しています。
国際気候変動枠組条約第21回締約国会合(COP21)公式サウェブサイト
※1 ^ 気候変動ファイナンスとは、代替の資金源を含め、公的な及び民間の並びに二国間及び多国間の幅広い資金源から調達されるもので、特に大量に温室効果ガスを排出するセクターにおいて重要な役割を果たす。(気候変動枠組条約事務局の定義より)
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