2024.5.28
EU-JAPAN
現在の欧州連合(EU)が日本に在外公館を開設して今年で50周年。この節目に合わせ、EUとのゆかりが深い河野太郎デジタル大臣とジャン=エリック・パケ駐日EU大使が4月、都内で対談した。その時の動画および日本語に翻訳した対談内容の全文を掲載する。
パケ大使:河野大臣、ありがとうございます。日本に欧州連合(EU)の正式な代表部が開設されて50年を経た今、大臣と日本と欧州の関係についてお話する機会を持つことができ、光栄であると同時に本当に嬉しく思います。
河野大臣:ありがとうございます。この場に参加できて私も光栄です。
パケ大使: 大臣はEUと緊密な関係をお持ちです。キャリアの大半でEUと関わる仕事をしてこられました。これまでの日・EU関係の重要な要素をどのように見ていらっしゃいますか?
河野大臣: 欧州と日本は共通の価値を共有しており、非常に良い協力関係にあります。私たちの関係は将来まだまだ進展の余地があります。
振り返ってみると、私の家族、私の祖父は1950年代の終わりか1960年代の初めに欧州を訪れました。彼は帰国後、私の父に「欧州をもっと注意深く見る必要がある」と言ったそうです。当時の欧州経済共同体(EEC)について述べたものだと思います。
実際、父は、欧州を大変重視していましたし、EU本部にも招かれました。外務大臣時代には、日本とEUの次の10年に関する演説(※2001年から10年間を「日欧協力の10年」とすることを提唱)を行いましたが、欧州でとても好評だったと聞いています。 父は私に欧州は重要な地域だと言っていました。
私も「EU短期招聘訪問プログラム」でEUに招待され、EU本部で多くの国の人々が一緒に働いている現場を直接体験しました。とても興味深い経験でした。
日・EU関係には浮き沈み、つまり良い時もあれば悪い時もありました。でも今は、私たちの関係はより一層緊密になり、日本はもっと欧州に注目しています。欧州の国々やEUも、ここインド太平洋にもっと注目していると思います。
私たちは多くの共通点があり、運命を共有しています。だから将来的には、政治や経済のレベルだけでなく、民間人同士の関係もより重要になってくると思います。
パケ大使:ご家族がEUをどのように見ていたのか、またお祖父様がすでに1957年のローマ条約によって設立され、その後今日のEUへと発展するEECに可能性を見い出していたことを教えて下さりありがとうございます。
大臣がEUの短期招聘訪問プログラムに参加されたのは90年代後半でしょうか?
河野大臣:恐らく1997年です。国会に初当選した直後でした。
パケ大使:当時EUにはたしか15カ国が加盟しており、すでにかなり大きな政治プロジェクトでした。EU短期招聘訪問プログラムは、私たちのパートナーにEUを訪問してもらい、EU諸機関について理解を深めてもらうためのプラットフォームであると同時に、世界中のパートナーとの架け橋をつくることをまさに目的としています。
ですから、大臣のお父様や大臣がこのプログラムを活用して下さったことをとてもうれしく思います。この訪問は、大臣のその後のキャリアに役立ちましたか?その経験を活かすことはできたでしょうか?
河野大臣:はい。私の訪問の主要テーマは、市場に出回りつつあった遺伝子組み換え食品についてでした。日本では、遺伝子組み換え作物をどう表示するか、あるいは表示すべきかどうかについて議論されていたのですが、EUでも同じような議論がありました。
私はこの問題の関係者に大勢会うことができましたし、大勢の人に会う中でEUがどのように機能しているのかを理解しました。そこで、日本とEUの間で情報交換のためのパイプを作りました。それが欧州の制度に触れた初めての経験でした。
その後、外務大臣や防衛大臣、新型コロナワクチン接種推進担当大臣として何をするにしても、EUや各加盟国の誰とどのように付き合えばいいのかが分かっていました。とても良い導入でしたし、とても感謝しています。
パケ大使:大臣は、EUはどう考え、どう行動するのかについて確かな見識をお持ちです。実際、外務大臣として「戦略的パートナーシップ協定(SPA)」で非常に重要な役割を果たされました。SPAは日・EU間のあらゆる公共政策分野を網羅する枠組みで、2018年に合意されました。
今おっしゃったように、大臣はまた、日本側のワクチン接種推進担当大臣として大きな役割を果たされました。
私たちは今は前に進もうとしていますが、この2つの重要な機会から学ぶべき教訓はあると思われますか?
河野大臣:幸運にも、私は安倍(晋三)首相によるSPAの調印に立ち会うことができました。これは、日本と欧州の将来にわたる関係を定める大きな枠組みです。私はそれに関われたことを非常に誇りに思っています。
また、大使がおっしゃったように、私はワクチン接種推進担当大臣でした。すべてのワクチンが欧州から日本に入ってくるようになったので、私はワクチンメーカーと交渉し、それからEU本部と協議して、欧州から日本にワクチンを輸入する許可を得なければなりませんでした。
有難いことに、EUは日本へのすべての出荷を認めてくれました。少し違っていたのは、欧州では多くの国でロックダウンができた一方、日本政府にはその権限がありませんでした。 日本の患者数は欧州より一桁か二桁少なかったので、私はなぜワクチンを予定通り輸入する必要があるかを説明しなければなりませんでした。
欧州の人たちからは「あなたたちの(患者数の)レベルは欧州よりはるかに低いのになぜそんなに急ぐのか」と聞かれました。 だから私は、「私たちの政府にはロックダウンする権限はないし、医師たちにワクチン接種を手伝いに来いと言うこともできない。医師の善意に頼っている。だから、現在の予定は変えられない。ワクチンを予定通り日本に輸送してもらう必要がある」と伝えなくてはいけませんでした。
最後には、EU本部は日本の状況を理解してくれたと思います。COVIDと闘うためのEUの支援に非常に感謝していますし、具体的な問題に関して協力関係を築くことができたと思います。
そして今、デジタル担当大臣として、私たちは国境を越えたデータの流通に関して協議しています。相違点はありますが、きっと解決できます。EUの協力を得て、経済協力開発機構(OECD)の下に新しい国際的な枠組みを作ることにも合意しました。
意見に相違があっても、目標やビジョンを共有することができれば、協力することができます。私には何度か成功体験があるので、今なら胸を張って「欧州は素晴らしいパートナーであり、非常に信頼できるパートナーだ」と人々に伝えることができます。共通の目標を達成するために、私たちは多くのことで協力できると思います。
パケ大使:大臣、ありがとうございます。遺伝子組み換え作物、データ・プライバシー、日本で議論が進んでいるAI分野の規制などで、EUほど志を同じくするパートナーはいないということを今まさに説明して下さいました。ワクチン接種もそうです。
私たちの社会が期待する公共政策は、もちろん異なる面もありますが、共通点も多くあります。これは、政治的パートナーシップを前進させるための非常に強力な基盤だと思います。
河野大臣: 欧州には非常に長い歴史があり、日本にも長い歴史があります。そのため、欧州と日本には確立された伝統と文化がありますし、相手が伝統を享受し、歴史を築いてきたことも理解しています。 私たちはそれを尊重する必要がありますが、相手が自分たちの文化や伝統を尊重してくれることも知っています。
長い歴史と確立された伝統があることで、相互理解が容易なのかもしれません。 私たちには相互理解の基盤があるので、あとは交流を増やし、物事を前に進める必要があるだけだと思います。
欧州は多くの課題で非常に良いパートナーになるでしょう。 だからこそ、学生レベルやビジネスレベルでの人的交流を増やす必要がありますし、政治的な交流ももっと増やすべきではないかと思います。
パケ大使:今日のお話は50年以上にわたる日・EU関係を見事に捉えたものだったと思います。日本の体制の中で、EUとの関係を促進するパートナーとしていて下さり、感謝申し上げます。ありがとうございました。
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