2013.6.26
FEATURE
2010年に始まった「欧州グリーン首都賞(European Green Capital Award)」は、都市部の環境改善と経済成長を両立させるとともに、人々の生活の質を向上させる地域の取り組みをたたえ、後押しをするために欧州委員会が設けた賞だ。毎年、応募都市の中から1都市が選ばれ、受賞都市は翌々年の1年間「グリーン首都」を名乗る。
6月14日、本年のグリーン首都フランス西部のナントで、2015年のグリーン首都賞が英国南西部のブリストルに贈られると発表された。
ブリストルのエネルギー効率の向上や交通・移動手段の改善に向けた投資計画、さらには環境重視型経済発展のモデルになろうとする同市の取り組みが評価されての受賞だった。
人口44万、英国第8の都市ブリストルは2005年以降、二酸化炭素の排出量を削減し続けており、今後同年比で2020年までに40パーセント、2050年までに80パーセント削減する目標を掲げている。また欧州におけるグリーン産業の中心地となるべく、二酸化炭素の排出が少ない産業をはじめ、環境への負荷が低い産業分野で、2030年までに1万7千の市民が働くことを目指している。
本年の審査には、ブリストルに加え英グラスゴー、ベルギーの首都ブリュッセル、スロヴェニアの首都リュブリャナ(以上4都市は予備審査を通過)、ポーランドのビドゴシュチ、アイルランドのダブリン、リトアニアのカウナスが応募していた。ブリストルは3度目の挑戦でようやくグリーン首都の称号を得た。
欧州グリーン首都賞にはEU加盟国と加盟候補国、さらに欧州経済領域(European Economic Area)の一定規模以上の都市が応募できる。この表彰制度のねらいは以下のとおりである。
また、この賞はEUが環境行動計画(EAP)などの環境政策を推進させる手段ともなっている。
応募に際し、各都市は以下の12の分野における業績や計画をアピールする。
(1) 気候変動への対応
(2) 地域の交通・移動手段
(3) 持続可能な土地利用を取り入れた都市の緑地
(4) 自然と生物多様性
(5) 大気の質
(6) 音環境
(7) 廃棄物の発生・処理
(8) 水の消費
(9) 廃水処理
(10) 環境関連のイノベーションと雇用創出
(11) 自治体の環境管理
(12) エネルギーの使用効率
一方、「グリーン首都」の称号が、選ばれた都市にもたらすのは――
――などがある。
賞の創設のきっかけは、2006年5月にさかのぼる。エストニアの首都タリンの市長が提唱し、欧州15都市とエストニア都市協会の代表が、都市環境の改善に払われた努力を報奨する制度を構築するよう、欧州委員会に呼び掛ける書面に署名したのが発端。これを受け、欧州委員会が2008年に正式に欧州グリーン首都賞を創設した。
欧州委員会のヤネス・ポトチェニック環境担当委員は同賞について「この賞は単なる表彰ではなく、さらなる努力への決意とその実行を後押しするものだ」と述べている。
グリーン首都賞は、自治体や市民、経済界の協力により生活環境を向上させた都市や、環境に配慮した交通・移動手段、公園やレクリエーション地域の拡大、最新の廃棄物処理、騒音問題の独創的な解決などを実現した都市が受賞してきた。
スウェーデン・ストックホルム(2010年) 初代グリーン首都であるストックホルムは、市民一人当たりの二酸化炭素の排出量を、1990年の5.4トンから2005年には4トンに削減。2015年には3トンにまで減らす計画を立てている。さらにストックホルムには2050年までに化石燃料を使わない都市となる目標がある。
ドイツ・ハンブルク(2011年) ハンブルクでは、ほぼ全市民の自宅から300メートル以内に公共交通がある。また再生エネルギー分野での雇用を2008年から2012年までの間に57パーセント増やした。また二酸化炭素の排出量を1990年比で2006年は18パーセント削減し、2020年には40パーセント、2050年には80パーセント削減する目標を掲げている。
スペイン・ビトリア=ガステイス(2012年) スペイン北部のビトリア=ガステイスでは全市民が緑地帯から300メートル以内に住む。公園や荒地を整備した緑地から成る「緑化地帯」は延べ613ヘクタールに及び、総延長30キロの歩道と90キロの自転車道を擁す。また同市の水の消費量の半分以上を占める家庭用水の使用を減らす努力を続け、2001年に市民一人当たり130.84リットルだった使用量を2009年には117.29リットルに削減している。
フランス・ナント(2013年) 本年のグリーン首都であるフランス第6の都市ナントは、1958年にいったん廃止した路面電車を1985年に再導入し、現在では年6,500万人の利用がある。総延長42キロの路面電車に加え、7キロのバス専用レーンも設置され、毎日延べ200万回ともなる市民の総移動数の15パーセントが公共交通網を利用しており、パリ、リヨンに次ぎフランスで3番目に一市民当たりの公共交通の利用回数が多い都市となっている。また緑地が市民一人当たり57平方メートルあり、排出されるゴミの35パーセントがリサイクルに利用され、埋め立てられるのは総排出量の11パーセントのみとなっている。
デンマーク・コペンハーゲン(2014年) コペンハーゲンは、二酸化炭素の排出量と吸収量を、再生可能エネルギーなどの利用で、2025年までに差し引きゼロ(カーボン・ニュートラル)にする野心的な目標を掲げている。目標達成に向けた努力の一環として、同市では通勤・通学に自転車を利用する市民の割合を、2010年の35パーセントから2015年までに50パーセントに引き上げる計画を立てている。コペンハーゲンは2010年10月の時点ですでに延べ400キロ以上の自転車用レーンや専用道を備え、世界一自転車に乗りやすい都市も目指している。
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現在EUでは2016年の欧州グリーン首都賞への応募を受け付けている(応募締め切りは10月17日)。これまでは人口20万人以上の欧州の都市(人口20万人以上の都市が無い国は、その国の最大の都市)に応募資格があったが、2016年の賞からは「人口10万人超(あるいはその国最大の都市)」に規定が変更され、欧州400以上の都市がグリーン首都賞に応募できることとなる。
欧州グリーン首都賞についての詳細は欧州委員会の同賞サイトまで。
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