2015.7.27

EU-JAPAN

静かに進展する日欧安全保障・防衛協力

静かに進展する日欧安全保障・防衛協力

過去10年余り、そして特にここ数年の日本と欧州の間の安全保障・防衛協力の進展は目覚ましい。しかし、その実態はなかなか知られていないようにみえる。日欧安保・防衛協力は、いわば静かに進展しているのである。そこで以下では、進む実態を紹介しつつ、この分野における日欧協力の可能性と課題を考えてみたい。

あまり知られていない自衛隊と欧州諸国部隊との協力

欧州各国の軍隊と自衛隊との作戦上の接点が深まるきっかけは、2001年の9.11テロを受けてのインド洋での海上自衛隊による補給活動だった。同活動で日本は、主に米国やパキスタンの艦艇に燃料や水を補給したが、それらにとどまらず、フランス、英国、ドイツ、デンマーク、イタリア、ギリシャ、オランダ、スペインといった欧州諸国の艦艇も対象となった。

時期的にこれと並行して実施されたのは、2003年からの自衛隊によるイラクでの人道・復興支援活動である。同国南部のサマワに自衛隊を派遣する際、当時の小泉政権が強調したのは日米協力の側面だった。しかし、実際に現地で日々共に活動したのは、派遣先地域の治安維持を担当していた英国軍であり、この任務は後にオランダ軍に引き継がれた。イラクの中では比較的安全とされた地域ではあったものの、安全情報の共有や各種調整など、活動にあたってはそれら諸国との恒常的な作戦上の協力が不可欠だった。そして、この経験を通じて、関係国間の相互理解と相互運用性(インターオペラビリティ)も深まる結果になった。

現在も続くものとしては、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動がある。EUは、共通安全保障・防衛政策(CSDP)として初の海軍作戦となったEU海上部隊(EU NAVFOR)の「アタランタ作戦」※1を実施し、日本は護衛艦と哨戒機(P-3C)により、船舶や海域の護衛と空からの哨戒活動を行っている。哨戒機はジブチの空港に設置した独自の施設を拠点に運用されており、同地域で行われている航空機による哨戒活動の約6割を担っている。残りはEU部隊などによる活動であり、飛行区域や時間に関して役割分担がなされ、得られた情報は関係国部隊、および民間船舶との間で共有されている。作戦としては必ずしも高度なものではないが、共同作戦とも呼び得るほどの連携が実現している。

ソマリア沖・アデン湾における海賊対処に関して、日本の哨戒活動拠点を訪問したEU海上部隊司令官ら(2012年8月24日) © EUNAVFOR 2015

こうした経験から浮かび上がるのは、自衛隊が海外に派遣されれば、派遣先で協力する、あるいは少なくとも同じ地域で活動するのは、多くの場合欧州諸国の部隊だという現実である。これは決して偶然ではない。なぜなら、国際的な作戦への参加を念頭においた場合、米軍と自衛隊の任務には大きな相違があるからである。それに比べると、戦闘任務よりは平和維持に近い、いわゆる低烈度の活動を行う可能性の高い欧州諸国の部隊の方が、現地で出会い、協力が求められる確率が高い。これは今後も大きく変化することはなさそうである。だからこそ、(日米間に加え)日欧間での日頃からの相互運用性の向上が求められるのである。

拡大する安保協力の枠組み

こうした現場での自衛隊と欧州各国軍隊による協力に加えて、外交・安保協力として象徴的な外務防衛閣僚協議、いわゆる「2+2」も、フランスと英国との間ですでに実施されている。日本が閣僚級の「2+2」を行っているのは、英仏以外には米国と豪州※2である。

5月29日に東京で開催された日・EUサミットでは、FTA/EPA(自由貿易協定/経済連携協定)交渉とともに、安保協力についても話し合われた(総理官邸) © European Union, 2004-2015

また、防衛装備品協力のパートナーとしての欧州の比重も高まっている。米国については、武器輸出三原則の変更以前から、必要に応じて例外措置として行われてきたため、日本の政策変更による新たな協力相手としては、豪州以外では欧州が真っ先に浮上することになった。装備品協力としては、共同研究・開発にはじまり、将来的な共同生産、さらには輸出が想定される。英国との間では2013年7月、フランスとの間では2015年3月にそれぞれ、装備品協力に関する協定が締結され、すでに具体的案件の議論が進んでいる。加えて、装備品協力や機密情報の交換(インテリジェンス協力)の基盤となる情報保護協定についても日本は、北大西洋条約機構(NATO)、フランス、英国との間で締結済であり、ドイツやイタリアが続く見通しである。さらに英国との間では、平和維持活動や訓練における物品・役務の相互提供に関する協定(Acquisition and Cross-Servicing Agreement=ACSA)が交渉中である。日本がこれまでACSAを締結しているのは米国と豪州のみである。

EUとの間では、政治・安全保障分野を含む包括的な協力の枠組みとして、「戦略的パートナーシップ協定(Strategic Partnership Agreement=SPA)」が、2013年から、FTA/EPA(自由貿易協定/経済連携協定)と並行して交渉中である。加えて、EU側は、CSDPミッションへの参加に関する「参加枠組み協定(Framework Participation Agreement=FPA)」の締結を提案している。

日本が諸外国と有する主な安保協力枠組み

枠組み名 欧州 欧州以外
外務防衛閣僚協議(2+2) フランス、英国 米国、豪州
装備品協力に関する枠組み 英国、フランス 米国、豪州
情報保護協定 NATO、フランス、英国
イタリア(交渉中)
米国、豪州
物品役務相互提供協定(ACSA) 英国(交渉中) 米国、豪州
その他協定(条約) EU(SPA交渉中)

日欧安保・防衛協力には何が期待されているのか

それでは、さまざまに進む日欧安保・防衛協力には何が期待されているのか。この議論をする際に常に呈されるのは、「アジアの安全保障において、軍事的な意思も能力もない欧州には、結局何もできないだろう」との懐疑的な見方である。こうした考えは、日本やアジアの側のみならず、欧州側にも存在する。しかし、それは一面的な議論である。というのも、アジアの安全保障において、欧州が直接の主要な軍事的役割を果たすことは、日本や他のアジア諸国によっても、実際のところは要請されていないからである。また、アジアにおいて、欧州の援軍を要するような実際の武力紛争が現に発生しているわけでもない。

それでは互いに何を期待するのか。日本にとっては、航行の自由や紛争の平和的解決、法の支配等の、リベラルな国際秩序の原理原則に関する部分で、欧州が一貫した姿勢を維持できるかが重要である。いわば政治・外交上のパートナーとしての欧州が求められているわけだが、例えば防衛外交(defense diplomacy)と呼ばれる、軍によるさまざまな対話や関与がセットで行われれば、欧州のメッセージもより強まるだろう。これは、各国レベルに加え、EU軍事委員会(EUMC)※3やEU軍事幕僚部(EUMS)※4を有するEUレベルでも強化する余地がある。

欧州の側としては、経済成長著しいアジアにおいて紛争が発生した場合に自らも大きな影響を受けざるを得ない、そしてその度合いは今後さらに高まるであろう現実が存在する。それゆえ、武力紛争の発生を阻止するための努力と、実際に紛争が発生した際の対策の強化が求められており、そのなかで、価値や利益を多く共有する信頼に足るパートナーとしての日本の存在は、いままで以上の意味合いを有するようになっている。

日欧の相互運用性はハード面のみならずソフト面の努力も必要

加えて、日欧協力の舞台としては、アジア以外にも目を向けることが必要である。より協力が求められる地域としては、中東やアフリカがすぐに挙げられる。実際、海賊対処以外でも、アフリカ各地で日EU、日英、日仏等の協力が進展しつつある。この背景には、アフリカへの日本の関与の拡大がある。機能的な分類では、サイバー防衛や宇宙、海上安全保障等において、特に国際的な規範形成(および維持)のプロセスにおいて、日欧の主導的役割が求められている。防衛装備品協力も新たなフロンティアである。

相互運用性は、概念や用語の相違、戦略、計画などソフト面の努力がより重要になってくる。写真は、アデン湾で戦術訓練をする海上自衛隊護衛艦「はるさめ」(手前)、奥がドイツ海軍のフリーゲート艦「バイエルン」 © EUNAVFOR 2015

オペレーションの観点では、すでに触れた相互運用性が鍵となる。今後もさまざまな場面で日本と欧州諸国の部隊が現場において協力することが見込まれるからこそ、相互運用性向上のための努力が、日頃から求められるのである。また、相互運用性とは多面的であり、装備の規格といったハード面で完結するわけではない。概念や用語の相違、さらには戦略や計画、そしてそれらの決定方法の相違をいかに理解し調整できるかといったソフト面、つまり「仕事のやり方」全体が、いままで以上に問われている。すでに行われはじめている共同訓練は、そうした方向への第一歩である。

そうした努力に見合うだけの利益と必要性があればこそ、日本と欧州の安保・防衛協力は進展するのである。そのような存在の欧州を一言で表せば、価値を共有する規模の似たパートナーということになろう。米国は桁違いだが、例えば日本と英国、フランス、ドイツの防衛予算はおおむね似たような規模であり、「できること」と「できないこと」の相場感のようなものも、おのずと近くなる。日本と欧州が安保・防衛面で双方に学ぶ余地が大きいことには、そうした背景もある。

(2015年7月13日 記)

※本稿は執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびEUや加盟国の見解を代表するものではありません。

著者プロフィール

鶴岡路人 TSURUOKA Michito

防衛研究所地域研究部主任研究官。1998年慶應義塾大学法学部卒業。同大学大学院、米ジョージタウン大学大学院を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジにて博士号取得。外務省在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、ジャーマン ・ マーシャル基金(GMF)研究員(東京財団 ・ GMFフェローシップ)を経て2009年4月より防衛省防衛研究所教官。2013年から2014年まで、英王立統合防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員。専門分野は、欧州政治、国際安全保障、NATO、EU。主な著書として『EUの国際政治』共編著(慶應義塾大学出版会、2007年)、『冷戦後のNATO』共著(ミネルヴァ書房、2012年)などがある。

※1^ EU海上部隊「アタランタ作戦」(European Union Naval Force ATALANTA)は、ソマリア沖・アデン湾での海賊対策のために実施されているEUの軍事作戦で、2008年12月から行われている。主たる任務は、同海域での海賊行為の抑止、阻止および鎮圧、世界食糧計画(WFP)やアフリカ連合ソマリア・ミッション(AMISOM)関連船舶の護衛など。

※2^ 2013年11月にはロシアとも開催しているが、ウクライナ危機を受けた制裁措置もあり、継続されるかは不明。また、同盟国である米国や、欧州や豪州といった価値を共有するパートナー諸国とは異なり、ロシアとの間では、例えば装備品協力は想定されず、日露「2+2」は若干特殊な扱いになっている。

※3^ EU軍事委員会(EUMC)は、EU理事会が設置している最高軍事機関。加盟各国の軍参謀長により構成され、その常任軍事代表が定期的に会合を行う。EU内のあらゆる軍事問題に関する助言や勧告を行う。

※4^ EU軍事幕僚部(EUMS)は、EUの欧州対外行動庁(EEAS)内に置かれた常設の軍事機関で2001年創立。EU軍事委員会(EUMC)の指揮の下、EEASのトップである外務・安全保障政策上級代表の配下で活動するが、EU主導作戦の直接の指揮は行わない。

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