2016.3.22
FEATURE
欧州連合(EU)加盟28カ国のうち、19カ国で導入されている単一通貨「ユーロ」。そのコインをよく見てみると、片面は額面ごとに共通の図柄、もう片面は「肖像画」、「建造物」、「動・植物」など各国ごとに異なる図柄が用いられている。「各国面」のデザインは違っても、ユーロ圏であればどこでも使えるユーロコイン。欧州旅行から持ち帰ったコインを眺め、どこの国のデザインかチェックしてみるのもおもしろいだろう。
EUの最大の成果の一つといえば人・物・サービス・資本が自由に移動できる「単一市場」の創設。この単一市場に不可欠なのが単一通貨ユーロだ。1999年に帳簿上の通貨として現金を伴わない取引に使われ始め、2002年1月1日には、ユーロの現金が流通開始。2カ月のうちに各国の通貨とユーロの切り替えが行われ、以降、ユーロ導入国(ユーロ圏)では唯一の法定通貨として全ての支払いに使われるようになった。
1999年時点は15か国中12カ国が、そして現在では、28の加盟国のうち19カ国がユーロを導入しており(以下の地図参照)、日々34億人が利用し、19カ国以外でも1億7,500万人が使っている。
ユーロ紙幣は、5、10、20、50、100、200、500ユーロの7種類があり、金種により色と大きさが異なっているものの、そのデザインはユーロ圏内で統一されている。一方、1、2、5、10、20、50ユーロセント、1、2ユーロの計8つの金種があるユーロ硬貨は、欧州中央銀行の枚数・額の管理の下に各国政府の造幣局が発行しており、片面はユーロ圏共通のデザインが施され、もう片面は各国が独自にデザインできるのが特徴。これは、各国の主権を維持・尊重しつつ欧州の統合を進める、というEUの理念を体現している。まさにEUのモットー「多様性の中の統合(United in diversity)」そのものだ。その上、ユーロはユーロ圏はもとより世界中を旅することもあるため、比較的知られていない国、例えば最も最近ユーロを導入した小国リトアニアなどは、ユーロコインが自国の広報宣伝の役目を果たすことにもなる。
EU以外では、ユーロを自国の法定通貨としているモナコ、サンマリノ、バチカン、アンドラもそれぞれが独自のデザインでユーロコインを発行している。
各国共通面のデザインは、造幣局の専門デザイナーによるコンテストで、ベルギー造幣局のリュック・ラークス氏のデザインが採用された(1997年6月に正式に承認)。受賞したデザインは、大きく描かれた額面金額の数字、EU旗の12個の星をあしらった横断線を背景に、金種により異なる3 種類の欧州地図が描かれているのが特徴。共通面は2004年のEU拡大を反映して、2007年に地図部分のデザインを刷新。流通しているユーロコインには、2004年の拡大以前のEU の地図(旧デザイン)、もしくは、欧州大陸全体の地図(新デザイン。除く1~5ユーロセント)が描かれている(下の表参照)。
各国が独自にデザインできる面は、全てのコインの図柄が異なるイタリアのような国もあれば、同じモチーフを複数のコインに使っている国もある。ただし、コインの縁は必ずEUのシンボルである12個の星で囲うことになっている。モチーフは国によってさまざまで、各国がそれぞれの文化や歴史などから自国を象徴するものを選んでいるので、じっくり見比べてみると非常に興味深い。
1ユーロを例にとってみると、オーストリアは音楽家のモーツアルトを、ギリシャは紀元前5世紀に使われていた4ドラクマ(旧通貨単位)コインにデザインされていたフクロウを、アイルランドは楽器のアイリッシュ・ハープ、ベルギー、ルクセンブルク、オランダは君主(元首)を、イタリアはレオナルド・ダ・ヴィンチの人体理想図を描いている。各国面のデザインは、元首を図柄に用いている国のみ、その交替の場合に限って、変更することができる。下記表は、各国別の2ユーロのデザイン一覧。
全ての国・金種の各国面のデザインはこちら。
また、それぞれの国は、年2回まで2ユーロの記念硬貨を発行できるようになっており、毎年、いくつかの国が製造している(2011年までは年1回にのみ)。作家や歴史的建造物をはじめ、サッカーワールドカップなど、イベントをモチーフにしたものもあり、その国で起こった歴史的な出来事や節目などを記念して発行されるケースが多い。
2004年に可能になって以来、最も多く記念硬貨を製造したのが、イタリア、ルクセンブルク、サンマリノで各16個。フィンランドの15個がそれに続き、ユーロ導入国全体では173個に上る(2016年3月時点)。
さらに、ユーロ圏共通の記念硬貨が、2007年(ローマ条約調印50周年)、2009年(経済通貨同盟10周年)、2012年(ユーロ現金流通10周年)、2015年(欧州旗制定30周年)に発行されている。各国面のデザインが共通なため1回につき1種類かと思いきや、実は刻印されている文と国名は各国ごとのため、発行国の数だけ違う種類がある。
これまで発行された全ての記念硬貨はこちら。
さらに、ユーロ導入国は、額面やサイズが通常のユーロコインとは異なり、支払い通貨以外の目的で使われる「コレクターコイン」を、一定の条件の下で発行することができる。
ユーロコインは図柄の多様性で群を抜いており、世界でも類を見ない。金種が8種類と多く、また発行国が23カ国(ユーロ導入EU加盟国19+小国4)にわたり、そのうち何カ国かはシリーズを変えて発行していることから、その種類は通常硬貨で272、記念硬貨を入れると510を数える(2016年3月現在。欧州委員会経済・金融総局情報)。そのためいろいろな種類を集めているという人が少なくない。例えば人口約8,100万人のドイツでは200万人がユーロを収集していると言われている。10ユーロ銀貨や25ユーロ金貨など高額のコレクターコインも発行されており、プレゼントとして贈る人もいる。国や民間企業が発売している専用アルバムもあり人気を博している。
中でも人気なのはモナコ、サンマリノ、バチカン、アンドラの極小国が発行しているコインだ。2005年に発売されたバチカンの記念硬貨(教皇ベネディクト16世の最初の外国訪問先のケルン大聖堂が描かれている)は、ネットのコインショップで259ユーロにもなっている。またサンマリノの1セントコインに至っては、3ユーロと、実際の価値の300倍に高騰している。ユーロコインはさまざまなデザインがあり、ユーロへのEU市民をはじめ世界中の人の関心を高めるきっかけにもなっている。
「歴史に思いを馳せて」――コイン収集家からのひと言 |
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1859年に設立され、ドイツで最も古い貨幣協会に属する「ハノーバー貨幣協会」。古銭から現代のコインやメダルに至るまで、お金の歴史について知識を深めることを目的に活動している同協会のロバート・レーマン会長にユーロコインへの思いを語ってもらった。 コレクションは、癒しである。昨今世界は目まぐるしく変化しているが、コインは歴史を背負っている。集めたコインを眺めていると、心が静かになり、時間が止まっている気がする。歴史に思いをはせたり、手にしたコインがたどってきた道のりを想像するだけで、リラックスする。日常では得られない瞑想にも似た至福の時である。 ユーロコインはさまざまな図柄があり、こんなに種類があるコインは例を見ない。それだけに集めるのは楽しい。通常のユーロコインのうち約100種を持っているが、インターネットはほとんど使わず、コインメッセなどに出かけていって実際に見てから買い集めている。2007年のモナコのグレース公妃没後25周年に発行された2ユーロ記念硬貨は1,100ユーロの値がついているなど、全てのユーロコインを収集しようとすれば、5万ユーロ(約640万円)は下らないだろう。個人的にはフクロウを描いたギリシャの1ユーロコインが気に入っている。2,500年前の欧州で流通していた銀貨に使われていた模様で、欧州の歴史を感じさせる。 |
次の欧州方面への旅行の際には、異なるデザインのユーロコインを集めてみてはどうだろうか。ちょっとした買い物でお釣りをもらうのが楽しくなること請け合いだ。
ユーロコインについてもっと知りたい方は欧州委員会経済・金融総局の ウェブサイトをご覧ください。
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