2017.12.1
Q & A
市民が安心・安全に暮らせることを目指して、EUは加盟国と連携しながらテロ対策やサイバーセキュリティ強化、対外国境警備増強などに当たり、EU域内で実効性のある真の「安全同盟」が構築できるように取り組んでいる。
欧州連合(EU)では、マドリッド同時多発テロ(2004年3月11日)とロンドン同時多発テロ(2005年7月7日)の発生後にテロ対策を強化しましたが、さらに仏『シャルリー・エブド』紙襲撃事件(2015年1月7日)とコペンハーゲン連続銃撃テロ(2015年2月14日、15日)が起こりました。これを受けて、2015年4月28日、EU域内におけるテロと安全保障上の脅威に対する解決策を示した「欧州安全保障アジェンダ(European Agenda on Security)」が採択されました。しかしその後も、パリ同時多発テロ(2015年11月13日)とブリュッセル連続爆破テロ(2016年3月22日)が相次ぎ、テロ行為や憎悪、過激主義の広がりを抑えるために、より効果的な予防策を講じる必要性が再度明らかになりました。
ブリュッセル連続爆破テロの翌日、欧州委員会のジャン=クロード・ユンカー委員長は、(1)テロ手段を根絶するための措置、(2)EU加盟国内での情報共有、(3)欧州市民をサイバー攻撃やネット上での過激化から保護する対策、(4)対外国境警備のために効果的かつ組織的な対策を取ることを目的とし、「『安全同盟(Security Union)』が必要である」と述べました。2016年9月には、欧州委員会委員が分担する政策課題として新たに「安全同盟」を加え、英国のジュリアン・キング委員を専任としました。
2015年11月のパリ同時多発テロ事件の後、EUでは即座に「対テロ法案」が提出され、2017年3月に採択されました。この新しい法(EU指令)により、テロ行為だけでなく、それを目的に外国へ行くこと、またその後EU域内に戻ったり域内で移動したりすること、テロ行為のための訓練を行うこと、あるいは資金提供することが違法となりました。
他方、テロ組織への資金の流れを断つことも、テロ行為を根絶するための手段の一つです。欧州委員会は、マネーロンダリングを違法とし、多額の資金がテロ行為のために動いていないかどうかを監視し、またテロ資金源を凍結したり、資産を没収したりするための厳格な法案を提示しました。この法案は現在、欧州議会とEU理事会で審議されています。
EUの28加盟国のうち、22カ国(ブルガリア、クロアチア、キプロス、アイルランド、ルーマニア、英国を除く)と非EUの4カ国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)から成る域内国境がない領域「シェンゲン圏」では、「シェンゲン情報システム(Schengen Information System=SIS)」を立ち上げ、各国の国境管理・税関・警察各当局の間で、失踪者や捜査の対象者に関する情報を交換しています。約7,500万件ものデータが登録され(2017年8月30日時点)、2016年には閲覧回数が40億回にも上り、2年前と比べて倍増しました。
また、テロ行為や重大な犯罪を予防、探知、捜査および告訴することを目的として、EU域外国と少なくとも1カ国のEU加盟国間で運行する航空会社各社に、「乗客予約記録(Passenger Name Record=PNR)」データをEU加盟国に提示するように求める、新しい指令が2016年4月に採択されました。この指令は、2018年5月までに全てのEU加盟国で適用される予定です。
2013年にユーロポール(欧州警察機関)が立ち上げた「欧州サイバー犯罪センター(European Cybercrime Centre)」は、これまでに数十万の疑わしいデータファイルを分析し、その多くが悪質なものであることを突き止めたほか、数百人を逮捕に追い込みました。
また、過激化に対応するため、2015年12月に欧州委員会は、加盟各国の政府やユーロポール、さらにはソーシャルネットワーキングサービス(SNS)や情報システム(IT)の関連企業と協力して、テロリストのプロパガンダを含む非合法コンテンツをできるだけ迅速に削除することを目的とした「EUインターネットフォーラム(EU Internet Forum)」を発足させました。この枠組みの下、ユーロポールのインターネット照会部署がこれまでに通報したテロ関係サイトのうち、8割から9割が削除されました。
また、過激化防止のために活動する警察官や刑務官に加えて、教師や警察官、ソーシャルワーカーなどの人々で構成される「過激化認知ネットワーク(Radicalisation Awareness Network=RAN)」を立ち上げました。戦闘地帯から帰還するイスラム過激派戦闘員らにどう対処するかをテーマにして意見交換やベストプラクティスの共有を行い、過激化に取り組むためのノウハウや自信を持つことができるように、各国当局を対象にしたワークショップを開催しています。
人々がEU域内を自由に移動できるようにするためには、対外国境の防護を確かなものにしていく必要があります。
入域審査をこれまで以上に厳格化するため、2016年4月に欧州委員会はシェンゲン圏内へ渡航する第三国出身者を対象とした、「出入域システム(Entry-Exit System=EES)」を提案しました。このシステムはシェンゲン圏内に渡航する短期間滞在者(180日のうちに最高90日)の出入域や入域拒否の記録を保存するもので、出入域審査の時間を短縮したり、機械的に不法滞在者を発見したりできるようになります。法案は本年11月20日に採択され、2020年から導入されることになっています。
また、「欧州渡航情報認証制度(European Travel Information and Authorisation System=ETIAS)」により、ビザを免除された第三国出身の全ての渡航者が、シェンゲン圏内に入域する72時間前までにインターネット上の「電子旅券認証システム」を通して申請を行い、審査を受けることが義務付けられる予定です。
また2016年10月には、難民への対応を効果的にし、治安の強化を目的とした「欧州国境沿岸警備機関(European Border and Coast Guard)」が発足しました。
バルセロナ(スペイン)、ロンドン、マンチェスター(英国)、ストックホルム(スウェーデン)などで起こった昨今のテロ事件では、特に公共の場が狙われました。これを受けて、公共の場を守るために加盟各国が行う取り組みに対し、EUが支援することを発表しました。
欧州委員会はこれまでと同様、より機能的で効果的な安全同盟の成果を月ごとに報告していきますが、今後は主に「テロ行為と組織的な犯罪、およびそれらを助長する手段」、そして「EUの防護力と耐性の強化」の2つの柱を中心に取り組んでいく予定です。
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